逃亡者はサウナを目指す
サウナイキタイ アドベントカレンダー 20日目の記事です。
今、ここから逃げ出したいあなたへ
仕事から逃げたい、家庭から逃げたい、日常から逃げたい、自分自身から逃げ出したい。
逃げることもまた、欲求の一要素であることは間違いない。
物事をわかった顔をしている人たちは、よく「そんなに嫌ならやめちゃったら」と言う。
ブックオフに著書が平積みされている人生の達人たちは、だいたい「嫌なら逃げてもいいんだ」と言う。
しかしどちらもやめた先、逃げた先になにがあるかは語ろうとしない。
もちろん、責任なんかとってくれるわけがない。
今ここにある生活から逃げてしまえば、今ここにある生活を失ってしまう。
失うために逃げるのだと言われたらその通りだが、そこまでの踏ん切りをつけて行動を起こすには、相当なエネルギーが必要だ。
そもそもエネルギーを失ってしまったから逃げのメンタルになっているわけで、逃げ出す前から矛盾が生じているのである。
少々強引だがここはひとつ、まずは「予行演習としての逃げ」を推奨したい。
朝起きて家を出て、昼間はひとり見知らぬ地で過ごし、夕方にはいつもの一日を過ごしたかのように何くわぬ顔で帰宅する。
できるだけエネルギーを使わず、これならば誰も傷つけず、なにも失わず、昨日までの生活に復帰できる。
この記事は本格的な失踪を勧めるためのものではない。
ちょっと日常から外れて気分転換しようという、コンセプトだけ見ればよくあるやつだ。
しかしここは『サウナイキタイ』なので、もちろん気分転換の手段としてサウナを選ぶことになる。
以下は一日逃亡者用のプランニングである(今回は筆者が東京在住のため首都圏内の設定だが、来春に転勤があればまた新バージョンも提案したい)。
なんなら出勤途中、思い立っての逃亡にも対応するために、公共交通機関によるルートも記した。
逃げることは悪いことではない。
一日逃亡者に罪悪感は不要である。
小山思川温泉(栃木県小山市)
◇往路
新宿 8:39(JR湘南新宿ライン)9:59 小山 10:10(小山コミュニティバス ハーヴェストウォーク線)10:23 小山思川温泉
◆復路
小山思川温泉 15:23(小山コミュニティバス ハーヴェストウォーク線)15:40 小山 16:03(JR湘南新宿ライン)17:13 新宿
水がなみなみと注がれ続ける露天の水風呂、白いマットが輝くサウナ室、北関東価格のレストラン、耳に入るのは「……だんべ?」の会話。
朝8時からの営業も心強い。「あれ、パパ、今日は仕事じゃないの?」なんて言わせないために、家族が起き出す前にパーカーとジーンズとスニーカーで家を出たい、家庭と私の事情にも対応してくれているありがたさがある。
私は群馬出身なので、一般的には木曽路のごとく「北関東はすべて山の中」のイメージを持たれているのを知っている。が、実際の関東平野はどうしてここまでと思うくらいだだっ広く、のびのびとした場所でもある。
ここに来れば、都会の人は「なにもない」と言う。それでいいじゃないか、今あるものが嫌になってここまでやってきたんだろう、お前は。
サウナの後は、地の果てまでも続きそうな田園風景の中を散歩して、トラクターのおっちゃんと目が合ったら、にっこり笑ってすれ違ってほしい。
ここでは東北本線での経路を示したが、もちろん並行して東北新幹線が走っている。どちらかがトラブルで止まっても、もう片方の経路で帰宅できるのは、帰宅が必須の一日逃亡者にとっては心強い。
とうーぼう〔タウバウ〕【逃亡】の解説
1.逃げて身を隠すこと。「犯人が―する」「敵前―」
2.律令制で、本籍地・任地から他郷へかってに離れること。
(『goo辞書』より)
逃亡とはあくまで逃げて身を隠すことであり、逃げた先で亡くなることではない。
家に帰るまでが逃亡です。
小山思川温泉
住所:栃木県 小山市 喜沢1475
潮騒の湯(茨城県大洗町)
◇往路
上野 9:00(JR常磐線 特急ひたち5号)10:14 水戸 10:19(鹿島臨海鉄道大洗鹿島線)10:35 大洗
◆復路
大洗 15:27(鹿島臨海鉄道大洗鹿島線)15:45 水戸 15:53 (JR常磐線 特急ときわ80号)17:07 上野
同じ茨城県には、石岡健康センターという極めてローカル色の強い温浴施設もあるのだが、最寄駅から徒歩50分と腰が抜けそうなアクセスに難がある。
黄昏感と利便性の両立が求められる一日逃亡者には、大洗駅から無理なく徒歩でたどり着けるこちらをお勧めしたい。
イメージは大きな海の家。
もともとなのか、換気換気のご時世の副産物なのか、ときおり浴室を吹き抜ける汐風が心地いい。
そして豊富な海の幸メニューが嬉しい。
基本的にはひとりで思い立っての逃亡を想定して書いているが、来たらおそらく大きな桶の刺身盛り合わせをオーダーしたい衝動に駆られるので、ここは友人知人と誘い合っての逃亡を一考されたし。
それでは観光旅行かもしれないが、それならばそれでよい。
目の前に広がっているのは大海原に違いないが、世界は一周すればいつかここに帰ってくる。立ち止まって、深呼吸をして、ゆっくりと風景を見まわしてみれば、自分は結構な包容力の中を生きていることに気づけるのではないか。
人は思い込んでいるほどには、ひとりではない。
潮騒の湯
住所:茨城県 大洗町 大貫町256-25
サウナきさらづ つぼや(千葉県木更津市)
◇往路
横浜駅東口 10:00(小湊鐡道バス 木更津・かずさアーク~横浜線)10:59 木更津 11:15(日東交通バス イオンモール木更津線)11:25 ソニー入口
◆復路
ソニー入口 15:17(日東交通バス イオンモール木更津線)15:29 木更津 15:46 (JR内房線快速)17:11 東京
『サウナを愛でたい』にも取り上げられた、熱いサウナと脱衣所のカレンダーが印象的な温浴施設だ(今回取り上げた中では唯一の男性専用施設、女性には申し訳ない)。
内房線で来てもいいのだが、ここは変化をつけて横浜からのアクセスをお勧めしたい。前夜から「明日は駄目そうだ」と思ったら、まずはスカイスパに泊まってしまえばいい。すぐそこの横浜駅東口乗り場から、直行のバスで木更津に向かうことができる。スカイスパの現代的なホスピタリティから、つぼやの手作りホスピタリティへの梯子サウナは、自律神経により良い効力があるかもしれない。
やさしさに触れて、今度はあなた自身のやさしさを取り戻してほしい。
木更津の街の酒場の、夕方になるとポツンポツンと明かりが灯ってくる様子もまた、いい。
サウナきさらづ つぼや
住所:千葉県 木更津市 潮見7丁目3-2
健康ランド&ホテルスターらんど(山梨県都留市)
◇往路
新宿 9:30(JR中央本線 特急かいじ1号)10:35 大月 11:01(富士急行線)11:14 赤坂
◆復路
赤坂 16:11(富士急行線)16:26 大月 16:47 (JR中央本線 特急かいじ40号)17:51 新宿
線路一本にホーム一本の無人駅。
名前だけは都会的な、港区赤坂の住民が見たら卒倒しそうな赤坂駅だが、ここからスーパーとホームセンターの前を通って徒歩で15分ほどの距離に、スターらんどはある。当然バスやタクシーがあてになる土地ではない。
店自体には年季が入っているが、サウナ室の板は比較的最近貼り直されていて、水風呂は富士山麓の定石通りに気持ちのいい水が掛け流しになっている。
ストーブ前の特等席にひとり座ると誰もテレビが見えなくなったり、他の浴槽の中を突っ切らないと到達できない変わり湯があったり。そんなちぐはぐな構造も、ここではなんだか愛らしい。
一緒に汗を流していると、いかにも渋柿といった趣の爺様たちまで愛らしい。
「それでもなかなか癒されない……」と思ったら、明らかに元露天風呂だった外気浴スペースから、空を見上げてみてほしい。
健康ランド&ホテルスターらんど
住所:山梨県 都留市 下谷2450-1
スパリゾート オアシス御殿場(静岡県御殿場市)
◇往路
新宿 9:30(小田急小田原線快速急行)10:06 相模大野 10:08(小田急小田原線急行)10:50 新松田(徒歩)松田 10:07(JR御殿場線)11:40 御殿場
◆復路
御殿場 15:45(JR御殿場線)16:22 松田(徒歩)新松田 16:38(小田急小田原線急行)18:04 新宿
静岡といえばまずはサウナしきじが思い浮かぶが、逃亡者にとっての利便性という観点では、こちらの施設も負けていない。
本当は新宿から直通の特急でのルートを示したかったが、現在はコロナ禍の影響で減便中であり、ここは快速急行と急行を乗り継いで、なんとかしていただきたい。
まずは松田駅と新松田駅の乗り継ぎの間に富士山を眺めて、日常からの脱出を実感できるはずである。
浴室に入るとまず富士山ワイドビューの長い浴槽が目に入るが、これは20℃台のいわゆる「冷やし湯」で、プールに近い扱われ方をしている。
最上段が小上がりになっているサウナ室の脇に、見ただけでキンキンの水風呂、そして季節のメニューにも対応する小技のきいた食堂がある。
食事はアウトレット内にも店舗ができたことにより、他の店舗よりは待ち時間が短縮されたという噂もある、さわやか御殿場インター店に寄ってもいい。
どっちで食べてもいいし、両方で食べてもいい。
なにも気にせずおおらかにいこう。体重がなんだ、中性脂肪がなんだ、健康診断がなんだ。
ここは日本一でっかい富士山のふもとなのだから、なにを食ってもカロリーゼロの精神で。
スパリゾート オアシス御殿場
住所:静岡県 御殿場市 新橋420-1
スパ・アルプス(富山県富山市)
◇往路
東京 8:36(JR北陸新幹線 かがやき505号)10:45 富山(徒歩)電鉄富山 11:17(富山地方鉄道本線)11:25 大泉
◆復路
大泉 15:47(富山地方鉄道本線)15:57 電鉄富山(徒歩)富山 16:16(JR北陸新幹線 かがやき505号)18:28 東京
実際に逃亡するにまで至ってしまうのは、とことん自分と向き合い、またある意味で自分を見失った結果だろう。
ここまでに紹介してきた5つのモデルケースは、まあ日帰り逃亡にも納得できる距離感であり、理性は残した上での選択肢だったが、
ここでひとつ「本格的に逃亡したいがギリギリで踏みとどまりたい気持ちも捨てきれない」場合に対応した大物を。
スパ・アルプス。東京から新幹線で391.9キロ、ここまでくればまるっきり空気が違う。
水風呂に入れば、食堂で水分補給すれば、水が違う。
なにより休むことに急いでいない、人々の表情が違う。
明日にはいつもの生活に戻る、一日逃亡者が目指すのは逃亡と日常の融合でもある。
私はスパ・アルプスからの帰路、大泉駅までの途中にあるグリーンモール山室で夕飯の買い物をして、東京の府中まで帰ったことがある。
日常と非日常の心理を都合よく往復しながら、少しでも長く、少しでも楽に生きていければと、自分に対してもそう思っている。
スパ・アルプス
住所:富山県 富山市 山室292-1
※示している経路と時刻は各種検索エンジンと『全国版コンパス時刻表2021年12月号』(交通新聞社)で得た2021年12月20日現在のものである。ダイヤ改正、休日ダイヤ、年末年始ダイヤ等への対応は各自されたし。
鋭い視点とおおらかな文章で、スゴく面白かったです🙏ありがとうございました。
ナイスチョイスです!
非常に参考になりました。 ありがとうございます。
1日逃亡者と言う考え方、目からウロコでした😅参考にさせていただきます!
脳髄に突き刺さりました!Viva逃亡!!
お言葉一つ一つ、選ばれた施設一つ一つが、逃げ出したくなるぎゅうっと苦しくなったモノクロの心に色と一歩の希望を与えてくださる、そんな内容に思い、何度も読みたいと、必然的に読むことになるだろうとも思いました。素敵な内容を、ありがとうございました。
逃亡したい!
かんにしてぺきな逃亡全コース制覇したいとう エネルギーに満ち溢れました!! 帰って来れるか不安ですが。笑
10日連続逃亡中の自分に深く刺さる内容でした。 明日からはまた日常に戻れたらいいな。
最高の逃亡案です。すぐ採用したいですね😄
物凄く刺さりまくりな内容でした。「逃亡」することでこれからの道が拓けることもあるだけに。
励まされました。 ありがとうございます。