ファンとともに改善を重ねた、街に愛される銭湯
サウナイキタイアドベントカレンダー 4日目の記事です。
「北区湯めぐりスタンプラリー2023」での快挙
東京都北区滝野川の閑静な住宅街にある銭湯「鶴の湯」。
地下水かけ流しの水風呂、男湯のみだが露天の外気浴スペースがあるなど、知る人ぞ知る銭湯だ。ただ、サ活数は705件(2024/11/26現在)と北区内の銭湯で15軒中8位で、どちらかと言うと地味な銭湯である。
しかし、昨年11月の「北区湯めぐりスタンプラリー2023」で鶴の湯が快挙を成し遂げた。
北区内の銭湯に均等に配分されたスタンプラリーの景品が真っ先になくなったのは、廃業銭湯を蘇らせたサ活数1万を超える銭湯でもなく…BS朝日「サウナを愛でたい」で紹介された銭湯でもなく…
実はこの鶴の湯でした。
この快挙の背景には、昨年8月に「露天のイスがアディロンダックチェアに変わった」ことから始まった約1年半における、4代目若旦那と鶴の湯を愛するファンがともに作り上げた数々の改善の成果があったのです。
それを今からお話ししたいと思います。しばらくの間、私にお付き合いください。
鶴の湯ってどんな銭湯?
申し遅れました。私Specialweek 左京と申します。5年前にドラマ「サ道」をきっかけにサウナーになったアラフィフ男性です。
まずは鶴の湯の概要を紹介します。
都内に「鶴の湯」という名の銭湯は台東区や江戸川区などに6軒あるそうですが、今回紹介するのは北区の鶴の湯です。都電荒川線の滝野川一丁目駅から徒歩2分。路地裏にひっそりと佇んでいるため、初めて訪れる方は道に迷うことが多いそうです。
サウナは遠赤外線ストーブ。サウナ料金はタオル・バスタオル付きで150円という破格のお値段(今年9月までは100円でした)。さらに冷水機があり、ドライヤーは無料、新聞・マンガコーナーもある至れり尽くせりの銭湯です。
とはいえ、それだけの理由でスタンプラリーの景品が真っ先になくなったわけではありません。その秘密を探るべく、いよいよ本題に入ります。
全ての始まりは「露天のイスがアディロンダックチェアに変わった」こと
全ての始まりは昨年8月。露天のイスがアディロンダックチェアに変わったことです。
しかもこのイスは「鶴の湯の常連であるファンが寄贈したイス」だったのです。まさに「サ道」の偶然さんがリアルにいたわけです。
ここから登場するのが2人。
1人目は鶴の湯の4代目若旦那。元バンドマンでデザイナーという経歴の持ち主。若旦那はサウナ自体は嫌いではないそうですが、鶴の湯以外のサウナにはほとんど入ったことがなく、他の施設のことはそこまで詳しくありません。
そして2人目が、鶴の湯の常連でアディロンダックチェアを寄贈した方。ここでは、アディロンダックに親しみを込めて“アディーさん”と呼びます。王子でカフェを経営しており、それが鶴の湯のさらなる進化につながるのですが…それはまた後ほど。
まずは、イスを寄贈した時のことを2人に聞いてみました。
Specialweek「アディーさんからイスを寄贈したいと言われた時はどう思いましたか?」
若旦那「急にイスを寄贈しますと言われて、なんでそんなことをしてくれるんだろうと思って、一度は断ったんです。でも、どうしてもというので、じゃあお願いしますと言ったら、すぐに注文してくれて。嬉しいというより、なんでそこまでしてくれるんだろうという気持ちでした。でも、おかげさまでお客さんが増えましたね。」
なんと若旦那は、最初イスの寄贈を断ったそうです。確かに、急にイスを寄贈したいと言われてもビックリしますよね。一方、アディーさんに聞いてみると、
Specialweek「どうして鶴の湯にイスを寄贈しようと思ったんですか?」
アディーさん「鶴の湯の魅力は天井の高さ。ビル型の銭湯が多い中、これだけ天井が高くて開放感がある銭湯は少ないです。さらに露天がすごく良くて、ポテンシャルがあるなと思って交渉したんです。限られたスペースの中でちゃんとととのえるのは、あのイスじゃないかと。鶴の湯のためではもちろんあるけれど、せっかくこんなに良い場所があるし、何より自分がこのイスでととのいたかったんです。」
鶴の湯の露天は道路に面していて、車が通る音や外を歩く人の話し声が聞こえてくるなど、独特の生活感があります。さらに秋には虫の声が聞こえてきますし、時折吹いてくる心地良い風はたまりません。
ちなみに、アディーさんは当初男湯にイスを2脚寄贈したのですが、会社の女性スタッフから「なんで男湯だけで、女湯にはアディロンダックを置いてくれないんですか!」とクレームがあったそうで、結局女湯にもイスを2脚寄贈したそうです(女湯は露天がないため、脱衣所に置かれています)。
鶴の湯がどんどん改善されていく
アディロンダックチェアの寄贈をきっかけに、鶴の湯がどんどん改善されていきます。それを後押ししたのは、アディーさんを始めとした鶴の湯を愛するファンでした。
イスに水を流すための手桶
各イスに足置き
サウナ室の温度設定を90度→100度に
ストーブの上に香太くん入りの鍋
月1イベント「サウナdeアロマ」
お風呂セットなどを置ける収納ラック
タオルのリニューアル
サウナマット(お尻用、足用)
最後のタオルのリニューアルとサウナマットの追加は、今年10月にサウナ料金が100円から150円に値上げすることにともない、値上げ分をお客さんに還元したいと若旦那自身が発案してくれたものです。それ以外は全て鶴の湯のファンからの提案を若旦那がすぐに実現してくれたからなのです。
《改善例①》
ストーブの上にのヒノキ芳香剤の香太くん入りの鍋を置く
遠赤外線ストーブはどうしても湿度が低くカラカラになりがちです。そこで、香太くん入りの鍋を置くことで湿度を増すことに成功。最初は薄い鍋で試したそうですが、熱ですぐに曲がってしまったため、今の頑丈な鍋に落ち着いたそうです。
《改善例②》
お風呂セットなどを置ける収納ラック
これは私が提案しました。ずっと収納ラックが欲しいと思っていましたが、浴室の環境に耐えうるラックがあるかどうか分からなかったのです。
そんな時に他の銭湯のXで収納ラックが紹介されていたのを見つけ、これなら大丈夫だろうと思って提案しました。しかも、土曜の午後に若旦那に伝えたところ、なんと2日後の月曜には新品の収納ラックが設置されていました。この迅速な対応、ハンパないです。
若旦那にどうしてそんなにすぐに対応してくれるのかを聞いてみると、笑顔でこう答えてくれました。
「それは、提案を聞いたときに“いいな”と思ったからです。皆さんからいろいろなアイデアをもらって助かっていますよ。」
若旦那はさらっと話してくれますが、これって簡単なようでなかなかできることではありません。こうした改善を受けて、ファンはさらに鶴の湯のことが好きになっていくのです。
鶴の湯×アロマ=♾️
そして「サウナdeアロマ」。
番台でもらえるアロマのミニボトルをサウナ室のトレイに注ぐことで、アロマの香りをサウナ室内で楽しめるイベントです。これはアディーさんが経営しているカフェでアロマを扱っていることから始まりました。提案を受けた若旦那も「面白いですね。やってみましょう。」と快諾。
とはいえ、イベントは試行錯誤の連続だったそうで…。
トレイにアロマを注ぐだけだと、一瞬で香りが飛んでしまったとのこと。そこで、若旦那がトレイにメラミンスポンジを置いてくれて、香りが長持ちするように工夫してくれたそうです。
また、サウナ室で使うアロマを選ぶのも難しいそうです。柑橘系の香りは熱ですぐ消えてしまうため、長く香りを楽しめるペパーミントやユーカリ、レモングラスなどをベースにしながら、うまくミックスしてアロマを選んでいるそうです。
「サウナdeアロマ」は若旦那×アディーさんのタッグで月1の定期イベントとして開催していくそうですので、ぜひお楽しみに。詳しい情報は鶴の湯の公式Xでご確認ください。
若旦那が一番大切にしていること
いかがでしたでしょうか。ここまで鶴の湯で約1年半に起きた改善の成果をご紹介しました。スタンプラリーの景品が真っ先になくなった理由も、少しだけご理解いただけたと思います。
でも、若旦那に鶴の湯の一番の魅力を聞くとこう答えます。
「きれいさ、清潔さかな。それしかないですよ。」
とかく私たちはサウナ室の改善ばかりが目に付きますが、原点は“清潔さ”と答える若旦那。鶴の湯に何度も通っていると当たり前に感じてしまうのですが、鶴の湯はいつ行ってもピカピカに輝いています。
さらに、若旦那はこう話します。
「うちはサウナがメインじゃないからね。お風呂でもサウナでも、お客さんが喜ぶことはどんどんやっていきたいですね。」
そのホスピタリティーに惹かれて、鶴の湯には毎日たくさんの人が訪れます。鶴の湯は“街に愛されている銭湯”なのです。ぜひあなたも鶴の湯に来て、鶴の湯の良さを見つけてみてください。
ということで、ラストは私が大好きな講談師・神田伯山さんのラジオのオマージュで、皆さんで一緒に唱えてほしい言葉で締めたいと思います。
それは…
“サウナの友は真の友!”
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
記事を書いた人
好きなサウナ: 良く行くサウナはスパ銭→草加健康センター(草加市)、ロスコ(北区)、ヒルトップ(板橋区)、スパイアス(横浜市)。銭湯→湯どんぶり栄湯(台東区)、萩の湯(台東区)、巣鴨湯(豊島区)。でも、家(ホーム)は滝野川の鶴の湯。
プロフィール: ハットはふわっとPro(ベイスターズ×満天の湯コラボかスペシャルウィークの勝負服柄)。mibandに黒メガネ。合言葉は「サウナの友は真の友」(講談師・神田伯山さんのラジオより)。サ活は基本長文で、趣味でお絵描きもやっています(少しお休み中)。サウナ・スパ健康アドバイザー。ホエールズ時代からのベイスターズファン。プロレスと格闘技が好き。漫才、落語、講談、浪曲、文楽が好き。足つぼマッサージと電力整体が好き。コーヒーとカレーうどんが好き。ジャワティーが好き。最近は人生最大の読書ブームの真っ最中📖
若旦那さんとお客様方の「鶴の湯愛」が凄い‼️ より良くしていくための提案と受け入れが、その地に不可欠で居心地の良い施設を育てていくんだなぁと感動しました。 常連だからと驕って好き放題やってる客と、それによって民度が下がっていく施設を多々見ています。皆この記事よく読んで一旦考えてみてくれー‼️と言いたいです。 ちなみに私、半分は北区の血が流れておりますので、タイトル見た時点からとても楽しみでした。 読んでて心地よかったです。ありがとうございました。執筆お疲れ様でした。
楽しんで読ませていただきました。家からもそう遠くないので、一度訪問したいと思います!ありがとうございました😊
今度行ってみまーす!
鶴の湯、素晴らしいです👏熱いエピソードを有難うございました😁
お客さんに愛されている銭湯って、いいですよね。みんなで銭湯を良いものにしたいという思いが広がって、それを銭湯側が受け取って行動してくれる。鶴の湯…行ってみたいです!
Specialさん!とても素敵な施設ですね、機会があったら訪問したいと思います。
素晴らしい
素晴らしエピソードの連続で目から汗が🥹若旦那さんと「アディーさん」はじめ利用者さん達との「思いやりの回転」が出来ていて、どんどん良き銭湯になって行くのでしょうね。新店舗やリニューアルなど大きい話題に目が行きがちですが、小さくてもアップデートを続けてくれる施設は応援したくなります👍
めっちゃ良いですね!みんなで良くする感じ!是非行ってみたいです
リアル偶然さんが存在していたとは! 温かい連鎖のエピソードありがとうございます。 休憩中にホッコリしました!
1年前、鶴の湯の魅力とアディロンダックチェアの魅力に気付かせていただきありがとうございました。今後もよろしくお願いします😃 投稿内容は100点です😃✨これを読んでからのお客さんも増えると思いました。
これは行かなければ!
昨年の夏頃?Specialさんに情報提供して頂いて以来、すっかり鶴の湯のファンになりました(月イチ行くかどうかですが😅)。 昨年のスタンプラリーでは、私も鶴の湯で景品交換させて頂いたのですが、この色のmokuが欲しいというより、『鶴の湯で貰いたい!』との想いでしたね🤣 私なりの鶴の湯の魅力は、『ばあちゃん家みたいなどこか懐かしい雰囲気』と『水質のいいお風呂と水風呂』『事前に発表しない変わり湯(行ってみてのお楽しみ)』ですね!勿論、サウナも外気浴も大好きです。 今後も宜しくお願い致します🙇♂️
最後まで一気に読んでしまいました。愛されている施設なのですね🥺
長文でありながら、読みやすかったです‼️ 読み物としても若旦那さん、アディーさんへの取材も興味深かったです‼️
このくらい好きになれるサウナがあるのは幸せですね。
凄い!銭湯愛がガンガン伝わってきます! 取材までされてからの投稿なんて素晴らしいですね。これだけ愛される銭湯に行ってみたくなりました。
素敵なアドベントエッセイありがとうございました🙇♂️ 是非、鶴の湯さんにチェックインさせていただきたいと思います♨️ 利用者の皆さんで作りあげた銭湯、最高ですね👍
銭湯にせよサウナにせよ清潔なほうが使う私たちも「きれいに使わせてもらわないと」と思うことでしょう。 いい銭湯ですね!
行ってみたくなりました!
サウナの友は真の友!specialweekさんのこの〆の言葉がアドベントカレンダーでも拝見出来て感無量です。投稿めちゃくちゃ感動致しました。鶴の湯さん私も是非行ってみたい。素敵なアップデートをこれからも期待しております。グラスワンダー!!
アップデートされていく様子を読んでいて、私の脳内では情熱大陸のテーマ曲が盛大に再生されていました。好きなサウナ、好きな銭湯がよりよくなるために、お客さんと若旦那が力を合わせて頑張る姿は感動的ですね!都電の駅を降りてすぐなら、私も今度行ってみようかな。素敵なアドベントカレンダー、ありがとうございました!
いつも左京さんの鶴の湯のサ活投稿で変化を知って 実際行ってその変化を1年半体感させていただきました!この場を借りて若旦那やアディーさんにも感謝の気持ちを込めてコメントさせていただきます🙇♂️ こんなに鶴の湯の素晴らしさを伝える愛のある文章に涙が出そうになりました(いつもアディロンダックチェアで心地よいととのい時間を過ごさせていただいている通りすがりの者より😁)
みんなで試行錯誤して良くしていく偶然さんスタイルのサウナ体験をされたこと、とても羨ましいですし尊敬します! きっと若旦那さんが真摯にお客さんと向き合っているからこそ、一緒に作り上げる空間になっていったのでしょうね。 映画化して欲しいくらいドラマチックで胸が熱くなりました!
常連さんたちと協力して素晴らしい取り組みをされていて地域のコミュニティスペースとなっているようですね😊東京銭湯の紹介記事も読みましたが🤔若旦那の大事にしている清潔感はやっぱり女将さん(お母様)から受け継がれたもののようですね🤗家族揃って営む路地裏銭湯はいつまでも地域の皆さんに愛される場所であり続けることでしょうね。
読み応えのあるインタビュー記事ありがとうございました!