アドベントカレンダー2023 SAUNA IKITAI ADVENT CALENDAR 2023

2023.12.19

メキシコ・テマスカル体験記〜妻とのフレンチKISS〜

柳橋弘紀

サウナイキタイアドベントカレンダー 19日目の記事です。

「あなたたち、今からここでキスをしなさい」

スチームで充満した茶褐色のタイル張りの部屋で、表情をハッキリと確認できなかったが、セレモニーを取り仕切る女性マスターから確かにそういう指示がでた。

メキシコまで来て、急に王様ゲームのような展開。

おかっぱ頭の妻とは、一瞬目が合った。あきらかに戸惑った表情。NHKで昔やっていた「おーい！はに丸」に出てくる、はに丸王子のように、瞳のほぼ100%が黒目になっていた。

次の瞬間なかば強制的に、はに丸妻とフレンチなキスを交わした。

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今年も一年お疲れ様でした。

2023年に体験した皆さんの思い出深いサウナはなんでしょうか？

「面白い施設を見つけたよ！」「あのサウナイベント楽しかった！」「サウナ室で泣いちゃいました・・・」。それぞれあると思います。

私は、6月下旬にメキシコで巡った「テマスカル」でした。

テマス＝蒸気、カル＝家。
蒸気の家。

俗にメキシコ版サウナと評されますが、温冷交互浴というよりは儀式のために蒸気と空間が存在しているという印象でした。

熱源は石を直火でギンギンに熱し、それを部屋の中に入れて室内をあたため、焼いた石に水をかけて蒸気を発生させるといういたって原始的なもの。

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今回の旅で、5カ所ほど伺いましたが、事細かく書くと長くなるのでそれはまたどこかの機会で。早くキスの話がしたいので駆け足で紹介していきます。

1軒目：生まれ変わりを表現

ドーム型の部屋が「大地」や「女性器」、熱した石が「星」や「精子」を意味し、ストーンを内部へと運び込み受精、母なる大地で生命が再生するという文脈。男性（私）が13個×4回＝計52個の石をクワで運び込む作業を担う。

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80分間ドーム内で蒸され、正直、肉体的にかなりしんどかったが、最後、川に身を委ねて流されながら文字通り生き返った。

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2軒目：メキシコにもウィスキング！？

こちらはツォツィル部族の伝統的な儀式を継承し31年前に完成。

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神聖な植物にお祈りすることから始まる。蒸気で温めた薬草で体を叩き不要なものを流し、冷たい薬草（アロエ）を体に塗り、最後はゴザに寝転んで休憩。

ウィスキングはもちろん、田辺温熱保養所などをぼんやり思い出した。

3軒目：クラシックテマスカル

近くに火山があり、火山の石で造られたテマスカル。

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東＝火、西＝風、南＝水、北＝大地など方角を重んじ、トラスカルテカ族で1876年に始まった儀式を踏襲。

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祭事の女性は4代目、その人間力に引き込まれた。目的は山からエネルギーをもらい、次の時代の太陽を讃えるというもの。

4軒目：田舎町のテマスカル

首都から車で6時間、オアハカ地域。テマスカルに入るまでに歌や祈りを捧げる時間が30分。

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室内に入ると植物を使って邪気払いし、両手で顔を掴まれ首をボキっと鳴らされたり、水着を脱がされ尻丸出し状態でアツアツのストーンに近づける時間を過ごす。

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セレモニー2時間。後半、酸素を吸わせて欲しいと懇願するほど苦しかったが崇高な体験ができた。ピン芸人・BKB似の男性が歌いながらタバコ吸ってるのがモヤっとした。

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5軒目：フレンチキス

冒頭で述べたように、テマスカルの中でキス体験をさせていただきました。2023年一番の思い出に残ってます。

どんな施設だったかというと・・・

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いきなり大量のお面でのお出迎え・・・既視感あるなと思ったら・・・

福島県南相馬市にあるサウナ発達のような風情。

冷静と情熱のあいだにいるのが辻仁成だとしたら、夢と現のあいだに存在しているのがサウナ発達、でお馴染みのあの施設だ。

さらに白昼夢の世界に入るように、ゆっくり歩を進めると・・・

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クロックスの発達。

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メガネの発達。

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親子関係の発達。

施設のあちこちに発達した形跡が。

私はなんだか恥ずかしくなりました。

常識とはなんなのか？普通とはなんなのか？を突きつけられ、自分が思考停止していたことに気づかされたからです。

サウナを捉える視点を発達させる

そもそも、文化的・医学的・歴史的といったオーソドックスなことから、アプローチ自体を発達させる必要があるのではないでしょうか。

そこで今回、せっかくなので「キス的」な視点でサウナを見つめ直してみようと思います。

そもそも、キスと日本人の関わりはいつ始まったのでしょうか？

日本で最初にキスという行為が描かれたのは平安時代末期。今昔物語に「口を吸う」という表現で、キスは描かれており、江戸時代までは「口吸い（くちすい）」という言い方が主流だったようです。

ちなみに、キスの擬態語「チュウ」は江戸末期の浮世絵師・歌川国芳が「口吸」と書いて「チュウ」と読ませており、すでに存在していました。

また当時、遊郭・吉原ではキスのことを鮮度のいいお刺身に例え、「おさしみ」とも呼ばれていました。

ところが明治に入ると、口や鼻周辺を表す部分＝「吻（ふん）」を「接触させる」という意味から、「接吻」と呼ばれるようになり、翻訳家・上田敏の手により「接吻」のルビに「クチヅケ」と記したのがきっかけとなり、以後、「クチヅケ」が広く定着したと言われています。

キスから得られるもの

続いて、キスの効能について調べてみました。

愛する人とキスをすると、幸せホルモンと呼ばれるエンドルフィンやセロトニンが分泌されやすくなり、強い「幸福感」を味わうことができ、「自己肯定感」を引き上げてくれる効果があるそうです。

また、快楽物質でもあるドーパミンを分泌され、相手とのスキンシップによるリラックス効果も相まって「癒し」も得られます。

さらに、キスをすると、唾液に含まれるさまざまな体内の細菌を相手と交換するので、自分が持っていない細菌を取り入れることで「免疫力がアップ」するそうです。

幸福感・・・自己肯定感・・・癒し・・・免疫力UP・・・

驚きました。

キスという行為からもたらされるものはサウナと似ているのです。

そしてキスの平均時間のデータを見てみると

コミュニケーションのライトキスは1秒
おうちでまったりプレッシャーキスは5秒前後
じゃれ合うようなバードキスは30秒前後

がちょうど良いとされています。

短くて1秒、長くてもたった30秒で、サウナ的な効果が得られるのです。

つまり「キス」＝「クイックサウナ」と呼べるのではないでしょうか。

我々人間は、唇にサウナを宿して生きているとも言えます。視点を発達させることで見えてきた、「唇サウナ」の可能性。かなり盲点でした。

毎日何かに追われている現代社会。

サウナに行く時間がなかったら、パートナーとのキスに身を委ねるのも、人生を豊かにする一つの方法なのかもしれません。

そして件のキス in テマスカル。

ダブルの効果で、確かに体感として通常よりドーパミンが出ていたと思います。

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（続き）

フレンチキスを交わした後、私は妻に、妻は私にと、互いの体にカカオチョコレートをベチャベチャと塗りあうセレモニーが行われた。

はに丸妻の肌の色が、奇しくも、はに丸王子へとだんだん近づいていくではないか。

そして最後にセレモニーの女性マスターはこう言い残した。

「今から私はこの部屋から出ていく。絶対扉は開けないし覗いたりしないから安心して」

「・・・・・・・・・・はにゃ？」

呆気にとられた妻が、完全に、はに丸王子になった瞬間だった。