サウナの貸しロッカーに魂は入りますか?
サウナ玉泉(東京都豊島区南大塚)
ホームサウナとは何か。
40歳と3ヶ月、とうとう不惑のハードルを越えてしまった俺のホームサウナはサウナ玉泉である。
全身むらなく熱してくれるサウナ、季節なりの水風呂、落ち着かないが落ち着く休憩室。
サ活風にいえば、言葉を濁しつつも「もう来なくてもいいかな……」くらいの感想が正解なのだろう。
だがこれまで正解を求めながら生きてきた自分に、一体何が残っているというのか。
老朽化した建物、炭酸の気が抜けたサービスドリンク。
般若の面の常連たちは、言葉を交わしたことがなくとも見知った顔ばかり。
彼らが消えれば店は消え、店が消えれば彼らが消える。
サウナブームもどうやってもここまでは届かなかった。
ここは彼らにとっても俺にとっても魂が落ち着く場所であり、魂の置き場なのだ。
ホームサウナとは魂の置き場。
面倒くさいので、俺の魂はサウナ玉泉の漫画本が山積みになっている横に、いつも置きっぱなしにしてある。
200円くらいの価値はあると思うから、よかったら誰か持っていってくれ。
改札でピッとやれば、新宿までは帰れるはずだ。
カプセル&サウナロスコ(東京都北区中里)
30歳を過ぎた頃、前の職場に嫌気がさして無為な時間を過ごしていたのがロスコだ。
ロスコを選んだ理由は、もちろんカラカラ寄りのアツアツサウナと吹き上げるような掛け流し水風呂、というわけではなかった。
当時の自分はそこまでサウナにこだわりなんぞなかったし、水風呂もよく分かっていなかった。
あえて言えば長時間滞在しても安めの料金あたりに答えがありそうだが、振り返っても後付けでしかない。
しかし今になると、無為な時間をロスコで過ごしていた理由が分かる。
変わりたくないのに変わることで生活を繋いできた俺には、いつも変わらないロスコが羨ましかったのだ。
嫉妬じゃない、ロスコを憎んだことはないから。
変わらないロスコに引き寄せられていたのだ。
もちろんロスコなりの営業努力はあるのだろうが、特に派手な宣伝をするわけでもなく、改装するわけでもなく、他のサウナ施設に比べて断然変わらないんだよね、ロスコは。
どっしり構えて、不義理なく生きてりゃなんとかなる。
宮の湯(東京都調布市上石原)
22歳、社会人としてのスタートは調布だった。
『墓場の鬼太郎』が文字通り墓場から這い出して誕生した(妖怪に誕生の概念はおかしいかもしれないが)のが、この調布市上石原という設定になっている。
宮の湯は当時住んでいたアパートの近くにあった銭湯で、いつの間にか顔なじみになった番頭のおばちゃんが「あんたまだ開いてるから入ってきなよ」と、いつも残業帰りの俺に声を掛けてくれた思い出がある。
「誕生日なんだけどひとりなんです」と言ったら、寿司を取って常連さんたちとビールで乾杯してくれたこともあった。
今思えば、あのおばちゃんは東京の母だったな。
末期は銭湯料金だけでサウナにも入れた宮の湯(おそらくもう金を取れる状態ではなかったのでは)、跡地はマンションと駐車場になっている。
おばちゃんには妖怪のごときしぶとさで、今もどこかで豪快に笑っていてほしい。
泰安温泉(山梨県都留市上谷)
こんな俺でも毎日を楽しく生きていた時代があった。
泰安温泉は、学生時代を過ごした山梨県都留市にある、当時も今も変わらずに朝から営業している有能な銭湯サウナだ。
富士山の雪解け水が豊富なこの土地では、夏でもキンキンの水風呂に入ることができる。
細々としたことは下の記事を見てもらえれば……
↓『小遣い制サラリーマンが「サウナ」で”ととのう”とき』
https://hikakujoho.com/life/81689600004647
もちろん書き手のプロではなく、実名を言っても誰もわからない。
そんな中途半端な立場で「記事で写真を使わせていただきたいのですが……」と恐る恐る電話を入れたら、気持ちよくOKしてくれた。
俺が通っていた頃の先代の話もしてくれた。
サウナは3人入れば目一杯、水風呂は1人しか入れない超ミニマムサイズだ。
泰安温泉の入浴料(サウナ追加料金なし!)は当時380円、20年の時を経て今は400円になっている。
足利健康ランド(栃木県足利市朝倉町)
北関東に住む小学生だった当時、友だちから「足利健康ランドに行ってきた」という話を聞くことがあった。
なにやら風呂がたくさんあるらしく、くつろぎながら食事もできるらしい。
ダサさと魅力が共存した「健康ランド」のネーミングに興味を持ちながら、とうとう家族で足を運ぶことはなく、不肖の息子は30年後にひとりで行ったのだった。
仲の悪い家族ではなかったが、何かが足りない家族ではあった。
あの頃、すでに母親には鬱の兆候があった。
簡単に「サウナが○○に効く!」と言い切る風潮にはどうかと思っているが、あの時無理にでも「足利健康ランドに行こう」と我を張って、家族の思い出を増やしておけばよかったとは今でも思っている。
大塚や都留や足利へ、イキタくなりました。
玉泉、いつか絶対にイキタイ
楽しみにしてました!
最高です
ふちうさんの文章が好きです
ふとした瞬間読みたくなって読んでます、今月送れるトントゥを全部…電車の一駅分もないですが