2019.09.13 登録

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  • 好きなサウナ ミヤネ屋と玄孫が映らないサウナ。
  • プロフィール 札幌の人です。チャリで巡っています。サウナというか、おふろが好きです。サウナも好きです。
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おふろニスタ

2021.04.20

5回目の訪問

月見湯

[ 北海道 ]

雨が上がった。

22時前に仕事が終わり、見上げた夜空にしばらくぶりの晴れ間が広がっている。

思えば、雨を避け、ここ2日間ばかり銭湯に行っていなかった。

とはいえ、この時間だ。今から満足いくまで味わえる銭湯は限られている。22時閉店では間に合わない。22時半閉店でも短すぎる。

仕事の疲れは体中に張り付いている。今、どこかに行こうというのも億劫だ。

『正論と常識は楽しい?』

誰かの声が聞こえる。

『賢明を気取れば、心は安らぎそう?』

わかった。

これは手稲から「喜楽湯」「月見湯」「望月湯」を自転車ではしごした狂人からのメッセージだ。しかも、たった1日で、だというのだから、まともな神経ではない。耳を貸す必要はない。そんなのふつうじゃない。

『そうね。まともやふつうを盾にして、その場でずっと足踏みしているあなたの姿ってすごく素敵よ?とっても楽しそうだもの!』

……うるせえッ!!

24時閉店の月見湯、俺も行っちゃるわい!!月寒の坂、22時からチャリで駆け上がっちゃるわい!!

ーーーーーー

ちくしょおおおおおおおおお

ーーーーーー

うおおおおおおおおおおおおお

ーーーーーー

ぴえええええええん

ーーーーーー

ちかれたああああああああ

ーーーーーー

おれとてもちかれたああああああ

ーーーーーー

疲れた体に月見湯のサウナが染みる。水風呂は冷たすぎることなく、サウナは熱すぎることなく。

夜風がほほを撫で、ラドン風呂では近頃私たちがどれだけいい感じなのかがさわやかに歌い上げられている。それを聞いている私もいい感じだ。悪いわね。ありがとね。これからもよろしくね。

来てよかった。

ありがとう、狂気の女神。一歩踏み出す勇気さえあれば、俺でも空だって飛べる。

そんな気持ちに月曜日からなれた。

ーーーーーー

「ありがとうございました!おやすみなさい!」

気持ちのいい店員さんの挨拶を背に、帰りの自転車にまたがる。すると体から疲れが抜けていることに気がつく。

ほんと、来てよかった。改めてそう思った。

また空を見上げる。

すると月見湯の向こうにジンライムのようなお月様が輝いている。

「『YEAH』って言えー!」

また誰かの声が聞こえた。いい月曜日だった。

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77

おふろニスタ

2021.02.09

7回目の訪問

森のゆ

[ 北海道 ]

片道10㎞の雪道を自転車で走る。

これは旅だ。古人も多く旅に死せるあり。

そんな思いにかられる。それでも今日は森のゆに来たかった。今月最後のお休みだから。

ーーーーーー

久しぶりの森のゆ。

モール温泉が肌をぬるぬるととかす。前よりもぬるぬるが強くなっている気がする。「これじゃあ、妖怪あんかけおじさんだな」と思う。

「おもしろいことを考えておるがいささかマンガの読みすぎかもしれんな」

ふいに私の大塩平八郎が声をかけてきた。森のゆで声をかけられるのはこれで2回目。もう慣れたものである。

「茶色いからちょっと思っただけです」
「別に非難はしておらんよ、それよりもさうなというものを体験してみたいものだな」

平八郎さんに言われ、早速サウナに向かう。木が新調されていたり、メトスの砂時計やデジタル時計が追加されていたり、と前に来たときからの変化がおもしろい。

でも、テレビにはミヤネ屋が流れていた。「ああ、今はそんな時間か……」と辟易する。

すると「見たくなければ目をつぶればよい。聞きたくなければ耳をふさげばよい。それくらい自分で工夫するくらいしてみたらどうだ」と平八郎さんが言う。

言われた通りにしてみると、案外いい。ふさいだ耳の中にはテレビの音声のほかに「ごごごごご」という音がした。

「これ、なんの音ですか?」と私が聞くと平八郎さんは「そちの中の風の音じゃよ」と訳のわからないことを言う。そりゃあ、乱もすぐに鎮圧されるはずだ、と妙に納得できた。

火照った体を冷ましに外気浴へと向かう。-6℃の外気にさらされ体から湯気が立つ。

「これ!なぜわしの前にタオルをかける?森が見えんではないか!」
「だって、平八郎さん寒くて縮こまってるじゃないですか」
「そんなことはない!」

しぶしぶタオルをはずすと平八郎さんは「絶景かな!!」と大喜びしていた。

しかし、よく見るとやっぱり平八郎さんは縮こまっていた。

「ほらー」と私が言うと「だってー」と今までとはうってかわった口調でおどけるので、2人で笑いあった。

ーーーーーー

これをいつものようにハンモックで書いています。

みなさんの大塩平八郎はお元気ですか?乱を起こしていませんか?

寒い日が続きますが、私の大塩平八郎は元気です。乱は半日で鎮圧されました。

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78

おふろニスタ

2021.01.02

3回目の訪問

共栄湯

[ 北海道 ]

たとえば、1人きりで生きていけるのなら、それはそれで誇らしいな、と思う。

でも、そんなことはできないので、あらゆる関わりの中で生きていくことになる。上手い下手に関わらず。

親だから、とか、恋人だから、とか、家族だから、とか、肩書きで表せる関係性はわかりやすく自分を支えてくれる存在と言えるかもしれない。まあ、そう一筋縄でいかないのが人生の難しさなのだが。

関わりの糸はあまりに細くて、複雑に編み込まれ過ぎている。だから、目立つところばかりに気をとられてしまう。

もしかしたら、上司に、部下に、医者に、姑に、近所のコンビニの店員さんに支えられている人もいるのだろうか。よくわからない。

人生の彩りの繊細さ。考えれば考えるほど頭が痛む。

『だから、人生はすべてに感謝して生きるべき』

そんな言葉が説得力を持つのもわかる。しかし、それが自然にできるほど、私は器用ではない。できるわけがない。

それでも、三が日に銭湯に入れる幸せには素直に『ありがとう』が言えた。

不器用なりにできることは少しくらいあることにほっとする。

今まで気がつかなかったが、私のある部分を共栄湯は支えてくれていたのかもしれない。

そんな存在にたくさん気がつけたら、わりとましな人間になれるかもしれない。

そんな2021のはじまり。

年の始めから言うことが小難しくていけないね。

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64

おふろニスタ

2020.12.27

4回目の訪問

月見湯

[ 北海道 ]

いい銭湯の条件がある。

御託はいらない。

ただ1つ。

『近いこと』

これ以外にない。

銭湯は日常の延長線上にある。歩いて行ける距離の銭湯に、疲れた体でちょっと寄って、仕事のあれやこれや、人間関係のあれやこれやなんかを「あーあー」なんて思い出しながら、頭を洗ったり体を洗ったり、でっかい風呂入って、水風呂入って、サウナ入ってたら、なんだかどうでもよくなって、帰りしなビール飲んで「明日はもっといい日になったらいいな」と、少しでも『今日よりも明日』に思いを馳せることができるようになるための場所だ。

だから、自分の日常に近ければ近いほど銭湯はその力を発揮してくれる。銭湯はエンタメやラグジュアリーを求める場所じゃない。

とはいえ、だ。

しかし、だ。

「おすすめの銭湯」を聞かれたときの難しさは痛烈だ。

「おすすめを聞かれる」=「銭湯に行き慣れていない」ということだ。そんな人に「近いところにいくのがいいよ」という回答で納得なんて得られやしない。私だって、自分の思想を乱暴に押し付けるほど鬼じゃない。

それに難しいのは、何を「おすすめ」するのかという問題だ。

銭湯にどんな体験を求めているのか。もし、銭湯に『非日常』を求めていたとしたら、なんて答えたらいいのか。

わざわざ車を使ってでも、公共交通機関を使ってでも、雪道を自転車でぶっ飛ばしても、行く価値のある場所。

日常の延長にある銭湯という存在に、エンタメ感も、ラグジュアリー感も、お得感も、居心地も、回復も、明日への活力も、加味される場所。

どこだろう?

みなさんは、どこだと思います?

私は月見湯だと思います。

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79

おふろニスタ

2020.12.01

3回目の訪問

鷹の湯

[ 北海道 ]

偏愛とは何か。

偏った愛はすべて『偏愛』と呼ぶのだろうか。

「私は女が好きだ」

これは博愛?

「私はあなたが好きだ」

これは偏愛?

偏った愛のほうがまともに見えるのだが、それは私の右目が内斜視だからだろうか。私には偏った愛こそが、本当の愛し方に思えてならない。

だから、恥ずかしげもなく言おう。

「銭湯が好きだ。中でも鷹の湯が好きだ。それも、かなり」

ーーーーーーー

「おすすめの銭湯はどこですか?」

そう尋ねられて、「鷹の湯ですね」と答えたことは今まで1度もない。これからも答えることはない。

熱い湯はあまりに熱すぎるし、ぬるい湯も熱い。中間というものがない。

音楽も一切流れず、設備は古い。全カランに設置されているホースシャワーをほめても、結局はどこの家にもあるアイテムでしかない。鷹の湯にはもろ手を挙げてすすめられるような要素があまりにも少ない。

「わかるやつにだけわかればいい」

そんな傲慢さを鷹の湯から感じる人がいてもおかしくない。そう思う。

かつて、サウナ室で一緒になった大学生らしき若者が同じ値段の立派なスーパー銭湯と比べていかに鷹の湯がみすぼらしい施設なのかを一緒に来ていた友人に熱弁していた。その気持ちはわかる。

でも、たぶんそれは間違っている。

鷹の湯は、鷹の湯なりのあゆみで前に進み続けているのだから。

たとえば、今年の春。札幌の銭湯で一斉にサウナ室が使用停止となった時期、鷹の湯はサウナ室の木を新調した。さらに、サウナ室の照明を暗いLEDに変え、温度設定をかつてよりずいぶん熱くした。

サウナ需要を敏感に感じ取り、ニーズに応えようとしていた。

それでも、音楽もテレビもない鷹の湯の狭いサウナ室は武骨で、誰もが気に入るようにはできていない。熱すぎるお風呂の温度設定と同じ。

おもてなしの心はそこに確かにあるのに、それがわかりやすく表現できない不器用さ。

それが「鷹の湯」だ。

だから、誰かにおすすめしたとしても、鷹の湯の魅力がわかってもらえるとは到底思えない。もっと言うならば、銭湯の魅力を最初に伝えるにしては鷹の湯のそれはハードルが高すぎる。

そこがいとおしい。

『俺だけがわかる。俺だけがわかっていればいい』

私にとって鷹の湯はそう思わせてくれる場所なのだ。

だから、無理をしてまで行かなくてもいいと思う。

いいかい、行くなよ?

絶対に行くなよ?

絶対だぞ?

絶対行くなよ?

絶対だぞ?

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78

おふろニスタ

2020.10.26

2回目の訪問

鷹の湯

[ 北海道 ]

冬とともに、ひどく苦しいゆううつが訪れた。

『男の子の日』の到来である。

体を動かそうとするだけで、通常以上のエネルギーが必要で、そのくせ頭だけはゴールのない思考によって同じ場所をぐるぐると回り続ける。

むなしい。そして、苦しい。

しかし、世界には情報が溢れすぎている。考えたくもないのに、材料だけは浴びるほど供給されてくる。

知りたくない。もう悲しむための情報なんかいらない。それなのに、わざわざ数値化して、まるで正確な『データ』のようなふりをして、正しさを振り回しながら俺に近づいてくるのだ。

あ、回数券で。はい、すいません。

そもそも『銭金』だって、ただの『数』のやりとりではないか。紙や金属に付加価値がついているように思わされているだけだ。そのただの『数』に人格の定規の役割が務まるというのだろうか。その『数』は原器すらないうつろいやすい相対的な

あっちーーーーーーーって

やっぱり鷹の湯、あっちいいいいいいいいいって

ふいいいいいいいい

水風呂

ふいいいいいいいいいいいいい

んで、なんだっけ。そう原器ね。メートル原器の話だ。そもそもメートル原器だって、変わらないはずがそうじゃなかったっていうじゃない。変わらないものなんてないんだよ。燃えないゴミだって、燃やそうと思えば燃えるゴミだし、そもそもゴミだって、リデュース、リユース、リサイクルの3Rによって

っちいいいいいいいいいいいい

くうううううううううううううう

きてゆうううううううううううう

みずぶろぉおおおおおお

ふへあああああああああああああ

そう130Rだ。ほんこんさんもあれだが、板尾さんこそあれだ。個人的には板尾の嫁によってマテリアルガールがコミックソングにしか聞こえなくなったのはかなりギルティ。ギルティすぎて、ギルガメッシュなんだけど。

くああああああああ

むああああああああ

あちいいいいいいい

で、さうなあああああああ

あせでるううううううう

でてゆうううううううう

みずぶろひえてるうううううう

ぎるがーーーーめっしゅ

あー、きもちえええええええええ

……

…………ん?

………………あれ?

ところで、俺はなにを悩んでたんだっけ?

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74

おふろニスタ

2020.09.08

1回目の訪問

大正湯

[ 北海道 ]

かつて自分の思いをそのまま伝えることをよしとしない時代があった。

うつむきながら、「月が綺麗ですね」とつぶやくのが精一杯な。

ブレーキランプを5回点滅させるのが精一杯な。

そんな時代。

しかし、時は令和へとうつり、「相手に伝わりやすいやり方で思いを表現する」ことをよしとする時代になった。

人の流れは数値化され、コミュニケーションはより直接的になった。

それでもなお、大正湯は未だ伝えてくれない。あの頃がそのままそこにあるように。

------

のれんをくぐってから誰の声も聞こえない。

店主も何もしゃべらない。

浴場にいる常連も会話していない。

沈黙という贅沢。まるで「ここは風呂に入る場所で、それ以上でも以下でもない」と戒める空間が広がっているようだ。

あつ湯、薬湯、サウナ、キンキンの水風呂。

他に何が必要だい?

そんな問いかけすらしてくれそうもない。

すすきのの銭湯・大正湯。

かつてあった喧騒をしのばせるヒビの入ったサウナの窓ガラス。中央の大きな鏡を重ね合わせた洗い場。

静寂。

時折聞こえる女湯のおしゃべり。

ハードボイルドを絵に描いたような場所。

「これでいいです」

聞かれてもいない問いかけに心の中で答えてしまう。

------

サウナと水風呂のはてどもない繰り返しを終え、薬湯からぼんやりと天井を見上げる。

明り窓が少し開いている。

ぶっきらぼうな店主の時代に沿った心遣い。

だが、それをあからさまに伝えようとはしてくれない。それが大正湯なのだろう。

------

月が綺麗だと伝えることが精一杯な時代。それはたぶん時代ではなく、今なお残る人のあり方の話なのかもしれない。

それでも私は時代にそったわかりやすい伝え方をしたい。

「みんな、銭湯に行こう!きもちいいよ!」

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68

おふろニスタ

2020.08.15

1回目の訪問

天然温泉あしべ屯田

[ 北海道 ]

札幌は広い。

札幌生まれ、札幌育ちの私にも馴染みのない土地がたくさんある。

「屯田」もまたそのひとつだ。

私には、屯田よりは屯田兵のほうが馴染み深く、屯田兵よりは和食レストランとんでんのほうが馴染み深く、和食レストランとんでんよりは市議会議員の林家とんでん平のほうが馴染み深い。

とりわけ私に馴染み深かった屯田は今はなき「山鼻温泉 屯田湯」だった。(今は宿泊施設になっている)

------

こんなにも充実した温浴施設が市内にあったのか。設備のひとつひとつが驚きの連続だ。

レンガ造りの熱いサウナは3段目ともなると数分も持たない。そして、キンキンの水風呂。

たまらない。

水風呂からあがって、目に入るのは「ぬる湯実施中9/15まで」という浴槽だ。

外気浴前のぬる湯は最高だ。迷わず足を踏み入れる。

……ッ!!

……これはッ!!

ぬる湯というには冷たすぎるッ!!水風呂と呼ぶには人口の辻褄が合わないッ!!

ぴゃー!

こりゃあ、山鼻温泉屯田湯の超ぬる水風呂の温度ぢゃねえかッ!!

------

熱いサウナ。キンキンの水風呂。そして。

ぬる湯というには冷たすぎるッ!!水風呂と呼ぶには辻褄が合わないッ!!

ピャー!

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熱いサウナ。キンキンの水風呂。そして。

ぬる湯というには冷たすぎるッ!!水風呂と呼ぶには辻褄がッ!!

合ってきたッ!!

辻褄合ってきたッ!!

むしろ見えてきたッ!!

世の理が見えてきたッ!!

ここが涅槃(ニルヴァーナ)かッ!!これがニルヴァーナだったのかーーッ!!

------

山鼻温泉屯田湯。

あのとき、水風呂のぬるさに、少しの物足りなさを感じていたことを告白しよう。

だが、わかった。これが答えだ。これが答えだったのだ。

答えは札幌市北区屯田にある。9/15まで。お急ぎください。

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83

おふろニスタ

2020.06.14

6回目の訪問

森のゆ

[ 北海道 ]

私たちのささやかなラプンツェルはいつまで我慢しなければならないのか。

ここ数ヵ月の話ではない。何十年、何百年の話だ。

なぜ壁に囲まれた空間でしか顕にできないのか。

目的を持たない私たちのラプンツェルはとても愛らしい姿をしているというのに。

それが歯がゆい。

だから、私たちは森のゆに行くのだ。

ーーー

久しぶりの森のゆ。自然との境界がない露天風呂は圧巻だ。

ラプンツェルは言う。

「こんなに萌える緑を見たのは初めて!」

突然話しかけられて、私は驚いてラプンツェルを見る。

ラプンツェルは気にせずに続ける。

「あの音は何?」

落ち着きを取り戻した私はクールに答える。

「あれは近くを走る汽車の音だよ」

「あの花は何?」

「あれは池に浮かぶ蓮の花だよ」

「どうしてここのお湯は茶色くてぬるぬるするの?」

「モール系温泉と言って、古い植物のエキスが温泉に染み出ているんだ。ここはアルカリ性だからぬるぬるするし、お肌もすべすべになるんだよ」

今まで狭い空間に閉じ込められていたラプンツェルには何もかもが新鮮みたいだ。

サウナへとむかう。でも、まだ利用はできないようで、少し悲しくなってしまう。そんな私にラプンツェルは言う。

「でも、私、ここのシャワー好きよ。だって、とっても細くて、気持ちいいんだもの」

「水風呂も深くて冷たくて気持ちいいから大好き!」

ふふ。閉じ込められた生活をしていたのに前向きなんだな。なんだか自然と笑みがこぼれてしまう。

「それにドライヤーもとってもいいものに変わったのに無料で使えるみたい。お得ね」

ふいに見せるラプンツェルのめざとさに笑顔をひきしめる。

……ラプンツェル、かわいいふりしてこの子やるもんだね、と。

ーーー

お風呂からあがり、いつものようにハンモックへ。だが、撤去されている。

また落ち込む私にラプンツェルは言う。

「ハンモックがなければブランコがあるじゃない」

というわけで、今、私はテラスのブランコの上です。現場からこんにちは。

さて、みなさん。

心の中の(あるいは体のどこかの)ラプンツェルは元気ですか?

私のは元気です。

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89

おふろニスタ

2020.03.15

1回目の訪問

大豊湯

[ 北海道 ]

出会いと別れの季節と言えば聞こえがいいが、このところ別ればかりだ。

神様はいつだって平等に不平等だ。

そんな心を凍えさせた中年男性を大豊湯は芯から温めてくれそうだ。

なんせ、今日は「あひるちゃんの日」なのだ。

――――――

浴室には湯屋の華々が咲き乱れていた。

白と水色の中に緑や赤の彩りが映える。

主浴にはフラフープの中で大小さまざまなあひるちゃんが浮かんでいる。その横では湯屋の華を背負う男性がうっとりとおふろを楽しんでいる。

それを見て、込み上げてくるものがある。これほどエモーショナルな風景を大豊湯以外で見ることができるのだろうか。

――――――

サウナはレンガ造りの2段構え。12分計が設置されており、テレビも音楽もない。聞こえるのは話し声だけだ。

サウナ室を出ると激烈ぬるめの打たせ湯に、チンチン水風呂、2つの選択に迫られる。どちらもサウナ後のごちそうだ。今回は水風呂からの打たせ湯の贅沢コースを堪能させてもらった。

――――――

ひとしきり、大豊湯を楽しんだ最後に主浴のあひるちゃんに近寄ってみる。

あひるちゃんたちの多くはひっくり返っていた。かわいそうだ。思わず、あひるちゃんを元に戻す作業を始める。これがなかなかおもしろく、時間を忘れて、1人でキャッキャウフフしてしまう。

「あ、またひっくり返った」
「ぜんぜんできないなぁ」
「むずかしいなぁ」

思わず独り言をつぶやく。すると、その向こうにこちらを見ている若者と目が合った。若者は私から見えない位置に場所を移し、間を置かずにそそくさと主浴から上がっていく。

たしかに、あひるちゃんをいじっている人は私以外誰もいなかった。冷静に考えると、私はあひるちゃんとキャッキャするうらぶれた中年男性以外の何者でもない……もしかしたら、社会から一番外れているのは私なのかもしれない。

それに気がついた瞬間、心身ともに温冷交互浴が完成した。

みなさん、札幌に、春がやってきました。

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78

おふろニスタ

2020.03.08

1回目の訪問

菊水湯

[ 北海道 ]

多くの大切な「さようなら」をし忘れたり、あるいは逃げたりをしながら生きてきたのに、

未だに失ってから気がつく取り返しのつかない別れが多いのは、私が成長できていないからなのかもしれないし、

「まだ大丈夫だろう」だとか、「まあいいか」だとか、「今日はちょっと」とか、他愛のない些末な日常のわずらわしさを理由にして済ませられるリーズナブルな別れが多いからかもしれなくて、情けなくもなるが、

「さようなら」に含まれるわずかな「死」の匂いを嗅ぎたくないと、無意識に、本能的に避けていることに気づきつつあって、

「さようなら」によるしっかりした区切りから逃げ続ける人生を送りそうな自分を感じているから、

菊水湯の、広いサウナと、4つ連結した珍しい浴槽のあつ湯と北国の冷え切った水風呂で、肉体の収縮と拡張によって、小さな「死」を何度も何度も味わって、

「さようなら」という句点をつける準備をしたつもりだけれど、

どうしても、「。」をつける勇気はまだもてなくって、

でも、いつかは終わらせなければいけないことはわかっているから、

いつ終わるか不安になる句点のない文章を書き続けてみたけれど、どうして「さようなら」をしなくちゃいけいないのかがまだ飲み込めないから

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83

おふろニスタ

2020.03.01

2回目の訪問

共栄湯

[ 北海道 ]

シャンプーとトリートメント、合わせて14300円する世界線がある。

その名も『オージュア』。

我々、中年男性にはまったく縁のない世界、そう思っていた。

でも、おじさんだって、ファビュラスできちゃう。それが共栄湯だ。しかも、100円で。

――――――

レンタルシャンプーの存在は知っていた。存在を知りながらも、一歩が踏み出せなかった。

そんなためらいを今日は振り切ってもいい気がする。コロパニは、そんな意味のない勇気を私たちに与えてくれる。

――――――

人はけっこういる。どんなときも、おふろとサウナ、入りたいもんね。

じゃあ、まずは頭を洗うか。

よし!さっそく「おーじゅあ」つかっちゃおう!!

――――――

驚きだ。

鏡に映っているのは私だ。だが、『オージュア』を使った瞬間、見違えてしまった。

気が!

する!

けど、言い過ぎかもしれない!

でも、確かに綺麗になっちゃってる!

気が!

する!

けど、どうなんだろう?

――――――

え?「そもそも、なんで、そんなシャンプーを使うんだ」って?「どうせ、女性の目を気にしているからだろう」ですって?

はんッ!これだから、男子は!

これはね、女子のネイルと一緒なの!ネイルは男性のためにしてるんじゃないって知らないの?女子は自分のためにするの。かわいくなることとか、綺麗になるのは誰かのためじゃないの!わかる?全部が全部、異性の目を気にしてるってすぐ考えるからよくないのよ!

だから、男子って嫌い!

……でも、これがきっかけでモテ始めても私はぜんぜんよくってよ?ぜんぜんかまわなくってよ?

――――――

共栄湯からの帰り道、いつも以上に満足感にあふれている。

立ち寄ったスーパーでも、なんだか私をちらちら見ている人がいる。気がする。これがファビュラスの世界……ッ!!

〈ようこそ、日本へー〉心の中でスマップの名曲を歌いだしてしまう。

レジの店員さんが私の魅力に思わず話しかけてくる。

「大丈夫ですか?マスクに血がついてますよ」

……

さっき鼻毛を指で引き抜いたときにちょっと血が出たんだ……

あー、だからかー。

エコバッグにしまうため手に取ったサッポロソフトが、今日はなんだかにじんで見える。

そんな気がした3月1日。北海道は緊急事態宣言実施中です。

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60

おふろニスタ

2020.02.02

1回目の訪問

千成湯

[ 北海道 ]

オリビアは歌う。
≪Let's get into physical.Let me hear your body talk,body talk≫
(身体感覚に入っていきましょう。あなたの肉体の声を聞かせて、体で話をしましょう)
これは中年男性が千成湯で送る日常の記録である。

まずは主浴で冷えた体を一気に温める。今日は晩白柚の湯。主浴のあつ湯に世界一大きい柑橘が3つ浮かんでいる。とてもいい匂いだ。体が起き始める。
すぐさま、ちんちんに冷えたバイブラ水風呂に入る。
ギュンッと全身が縮こまる。ここで軽い絶頂を迎える。が、無論これは始まりに過ぎない。

熱々のサウナに入る。
古い木の匂いが鼻をくすぐる。晩白柚のような万人が好む匂いではないかもしれない。ただ、単純な「いい匂い」よりも、俺だけがわかるという愉悦を感じ、少しだけにやつく。
水風呂で冷やされた体に熱が入り込んでくる。穴という穴が無理やり拡張されていくのがわかる。熱は強引に体に入ってくる。
肌の感度がどんどんあがっていく。毛穴に熱がねじ込まれていくのがわかる。無理やりだ。でも、嫌じゃない。ぜんぜん嫌になれない。抵抗できない。ねじ込まれる。拡張されていく。

大粒の汗がすぐにあふれ出す。サウナ室は男も濡らす。ひじの裏に浮かぶ太い血管が脈打ち始める。腕にびくびく動く青い筋が浮かんでくる。自分の意志とは関係なくビクンビクンしている。制御が効かない。少し恥ずかしい。もう出たほうがいいかな。
「だめ。我慢。もうちょっと我慢して。まだいっちゃダメ」
サウナはうるんだ瞳で言う。

限界まで我慢し水風呂へ。
ちんちんの冷水が温め切った体をギュッと締めつける。暴力的に穴という穴が閉じさせられる。その勢いで心臓が高鳴る。耳の奥でどくどくと血の流れる音が聞こえる。体の表面がどくんどくんと抵抗し始める。
「痛いでしょ?つらいでしょ?でも、我慢してね。気持ちよくしてあげるから」
水風呂はいたずらっぽい笑顔で言う。

脱衣所の扇風機の前で涼む。やわらかい空気の流れが縮こまる穴をじょじょに開けていく。風が肌を触れるか触れないかのところをやさしくなでる。ぞくぞくとした感触が全身を覆う。毛が逆立つ。唇が濡れる。フェザータッチが続く。そして、私の理性は失われる。

休憩から戻って晩白柚の湯へと戻る。もう1度世界一大きい柑橘の匂いを嗅ぐ。脳天を貫くほどの恍惚。鋭敏になっているのは肌だけではない。これだから銭湯通いをやめられないのだ。

私は銭湯でこのようなボディトークを1人でしている。あなたもお近くの銭湯に行ってみてはどうだろう?少しのやましさを抱えて。

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82

おふろニスタ

2020.01.27

1回目の訪問

鷹の湯

[ 北海道 ]

トスはあがった。

スパイクを打ち込むなら今だ。

そんな思いで仕事終わりに鷹の湯へと馳せ参じた。私は令和から「すぐやるマン」、略して「やりマン」として生きていくと決めたのだ。

――――――

私は銭湯は日常を少し彩るものだと思っている。スーパー銭湯だと華やかすぎるし、サウナ施設だと、もうそれは祭りだ。

これ、これこういうのでいいんだよ。

そんな感想が銭湯にはちょうどいい。ささやかな喜びでいい。

――――――

先客が1人。ちょうどその方と入れ替わりになるところだったが、明らかに様子がおかしい。

色白の男性の肌は、胸のあたりから足先までがぴっちりとピンクに染まっている。浴場で何かが起こっているらしい。

「こいつは事件の匂いがするな」

ピンときた。

これは覚悟を決めてのぞまねば殺られる。

――――――

『待ってくれよッ!!!!』

主浴に足をちょこんと入れたら、思わず叫んでいた。

覚悟を決めていたにも関わらず、その上をいく激熱ぶりだ。下手したら、低温調理用の温度だ。でも、これが鷹の湯なのだ。俺はここで退くわけにはいかない。なんせ、上がったトスを打ち込まねばならぬのだ。

せいやぁッ!!

……

…………

ギギギギギギギギ

はだしのゲンのムスビのような声が出る。出ちゃう。声が出ちゃうの。出したくないのに、出ちゃってるの。

数十秒入っているのがやっとだった。しかし、そのあとの水風呂のうまいことうまいこと。

そうやって、アイドリングした後のサウナ。暗くて、高くて、あたたかいサウナ。出ちゃってる。今度は汗が出ちゃってる。

もうね、いろんなところからいろんなものがいっぱい出ちゃった。

――――――

脱衣所で自分の体を見てみる。色黒の肌がどどめ色に染まっている。たぶんあまみとは違う。ただただ赤と黒が混じっただけのおじさんの色だ。

肌がピンクに染まるというのはそれだけで勲章だ。実にうらやましい。

鷹の湯からの帰り道、真冬の札幌の風がほほをなでる。こんな残念お肌だというのに心地よい。今日も1日ごくろうさまでした。じんわりとねぎらいの言葉が込み上げてきた。

これこれ、こういうのでいいんだよ。

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68

おふろニスタ

2020.01.21

1回目の訪問

東豊湯

[ 北海道 ]

生まれて初めて私が男湯に入ったのは、ここ東豊湯だった。

いくつのときだったかはもう覚えていないが、「やっと解放された」という思いが強かった。その喜びは今日の訪問でも自然と湧き上がった。

女湯に入る少年を快く思わない女性も多いと思う。

その半面、その少年も、えてして快く思っていないことも多いと思う。

私がそうだった。

子どものころ、家には風呂がなかった。だから、銭湯には行かなくてはならなかった。入るのはいつも女湯だった。

自分とも、そして母とも違う姿かたち。見てはいけないとはわかりつつ、興味がないというのも嘘だ。思わず目がいってしまった後に、「ああ、してはいけないのに」と落ち込む。

そして、女湯にいる自分が「一人前ではない」という自覚。ひとりでは何もできないという事実がつきつけられているようなものだ。いくら振り払おうとしても、羞恥心はあとからあとから込み上げてくる。「今、クラスメイトに会ったら、俺は終わる」という恐怖もある。

だから、初めて男湯に入ったときの喜びはひとしおだった。この解放感を経験していなかったら、もう銭湯に行こうとは思わなかったかもしれない。

それほど、女湯に入れなければならないという状況は苦しかった。

大人になった今、東豊湯をよく見てみると、子どものころにはわからなかった仕事が見てとれる。

天井がさびているから気がつきにくいが、浴槽のふちから、カラン周りがピカピカに磨かれている。サウナの中には、なにかのアロマの香りが立ち上っている。水風呂は飲めるほどの水質を保ち続けている。

地域に密着した銭湯。

そこに漂う思い出や歴史に思いを馳せ、銭湯サウナを巡るのはいかがだろうか。サウナに求めるものはもちろん人それぞれだが、これもまたサウナの魅力の楽しみ方の1つだ。

1枚、許可をもらって写真を撮った。

地域の子どもたちの感謝の掲示物。

この写真のように、東豊湯は今も地域の中で機能している。

※ちなみに掲示物はロビーにありました。いくら人がいなくても脱衣所で写真を撮るのは「メッ」!

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おふろニスタ

2020.01.19

3回目の訪問

月見湯

[ 北海道 ]

冬は目が覚めてすぐに心の中の学級委員長(女子)が騒ぎ出すことがある。

「先生、おふろニスタ君がまた自律神経壊しましたー」

それを合図に心の中のクラスメイトたちが責め立て始める。

「先生に自分の自律神経を大事にできない奴は他人の自律神経も大切にできないって言われたばかりです」
「昨日は、先生から止めろって言われてたのに、寝る前にスマホをいじってました」
「おふろニスタ君はいつもだらしないです」
「最近、暴飲暴食ばっかりしてます」
「おふろニスタくんが自律神経をまた壊したのは自業自得だと思います」
「きっとまた壊します。もうおふろニスタ君に自律神経を触らせるのはやめたほうがいいと思います」

このクラスは私を責めるときだけ一致団結しやがる。それを「絆」とか言い始めたらぶっ飛ばすからな。

「おふろニスタ、みんなお前を思って言っているんだぞ?だから、言ってくれるだけありがたいんだ。それに言われる原因を作っているのはお前なんだから」

やさしいふりをして、心の中の担任が一番えげつない。お前か。お前がこのクラスを作ったんだな?

今日の朝も、この学級会が行われた。もうやだ。動きたくない。そう思って、昼まで布団の中でうだうだしていた。

そんな体を引きずって月見湯に行った。

月見湯に着いた途端、である。頭の中で音楽が流れ始めた。

≪奇跡のセッション感じな
 奇跡のセッション感じな
 奇跡のセッション感じな≫

もうわかる。来て正解だ。

――――――

未だかつてないほどの混みようだ。サウナは1人出れば1人入れるようになるくらいのすし詰め状態だ。それでも私はかまわない。

頭の中の音楽は流れ続けている。

≪また時代が
 俺を呼んでる
 気がするのさベイビー
 嘘なんかじゃないぜ≫

≪待ってろ今から本気出す
 待ってろ今から本気出す
 本、本本本気出す(woh)≫

外気浴で青空を仰ぎながら、踊りだしそうな気持ちをおさえるので必死だった。人がいなければ踊っていた。

――――――

月見湯をあとにする。

帰るとき、来るときよりも心持ちはいつも軽い。口笛を吹きだしそうな私に、心の中の学級委員長(女子・長身・メガネ)が言う。

「不器用だけど、自分にできることをしようとする感じ、あたし嫌いじゃないよ」

い、委員長……

≪ティティティ
 ティ―ネイジャーフォーエヴァー≫

帰り道、まだまだ頭の中では音楽が流れていた。

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