昭和スナックの奥に広がる異世界 サウナスナック「かなこ」(東京都品川区)サウナ誕蒸#8

昭和スナックの奥に広がる異世界 サウナスナック「かなこ」(東京都品川区)サウナ誕蒸#8

サウナ大好きクリエイティブディレクターの相沢あいさんによるインタビュー連載。サウナを作った方の想いやこだわりなどを深掘りしていきます。

サウナ施設を立ち上げた方へのインタビュー連載「サウナ誕蒸」。今回は品川区にある青物横丁駅から徒歩約1分。男女利用可能なプライベートサウナ、サウナスナック「かなこ」。

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昭和の空気が漂うスナックの奥の扉を開けると、洞窟の中に迷い込んだかのような空間が広がり、デュアルストーブのサウナ、地下水の水風呂、洞穴のような内気浴スペースを有する一風変わったプライベートサウナです。

ありそうでなかったサウナとスナックを掛け合わせた施設はなぜ生まれたのか?その掛け合わせから、どんなドラマが生まれたのか。株式会社その壱 代表取締役の毛利 征之さんにお話を伺いました。

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毛利 征之
株式会社その壱 代表取締役

1991年東京都八王子市生まれ。中学校時代にプロ野球選手を志し、実業団で野球をプレー。建築業界に就職後、一般塗装から特殊塗装まで幅広く技術を磨く傍ら、専門学校の建築デザイン学部(夜間部)へ入学し卒業。1級建築塗装技能士を取得。2015年独立、2019年に株式会社ミライルを設立、2024年その壱に社名変更。塗装を生かしたデザイン設計からリフォーム・リノベーション・店舗といった幅広い創作活動を行う。

サウナとスナックに共通する「フラット」さに魅力を感じた

── サウナを作ろうと思ったきっかけは?

2年ほど前に不動産業者の知り合いに勧められ、会社で古民家を購入したんです。長らく人が住んでおらず、手を入れなければ使いようがない建物でしたが、「アトリエやショールームのように使って、空き家利用のモデルケースになるのではないか」という漠然としたアイデアはありました。

浅草で同様に古民家を改装して民泊施設を運営しているのですが「物件と土地があるなら、何を作れるか考えよう」という発想で進めたように、かなこも最初にサウナありきではなく、「面白い空間を作りたい」というところが出発点だったんです。

何を作ろうか考えている頃、サウナ関連の仕事で出会い、後に弊社のサウナ事業部部長でかなこの現場責任者となる西山にサウナの魅力を熱弁されました。「将来的に自分でもサウナ事業を手がけたい」という思いが少なからずあったので、「古民家×サウナ」は面白いかもしれない!と思ったんですね。

20250304680平米という空間でどうサウナとスナックを同居させ、訪れた人がワクワクしつつも落ち着く空間にするか検討を重ねた。

── サウナとスナックを掛け合わせようと思ったのはなぜですか。

ただサウナがあるだけでは面白くない。もっと意外性があって、人が集まる空間にしたいと考えるなかで思いついたのが、僕が大好きなスナックとの掛け合わせです。おしゃれやラグジュアリーとは対極にあって、雑多な雰囲気がむしろ落ち着く。そういう場こそ、今の時代には必要ではないでしょうか。

サウナもまた入ってしまえば誰でも平等に汗をかき、リラックスして解放される。共通する「フラットさ」があるなら、サウナとスナックをひとつの空間で楽しめたら最高じゃないか…と発想したのです。

2025030415スナックの奥のどこでもドアを開けると、異国情緒あふれるネイティブアメリカンフルートが流れる洞窟空間が広がるので、雑多なスナックからワープしたかのような気分になる。

アイデアを即興で形にしていく

── 古民家改装ならではの苦労はありましたか

大変だったのは建物自体の補強ですね。50年以上前の建物なので、壁や床のいたるところが痛んでいました。現在の建築基準を満たすために鉄骨で補強したり、内装をしっかり支えるべく新しい壁を作ったり。配管がどこで切れているかスコープで調べてもはっきり見えなかったりと、問題は山ほどありました。

ほぼスケルトンからの造形という難易度もコストも非常に高い建築デザインとなった結果、当初予定していた予算の倍ほどかかりましたが、そこで妥協したら面白いものができないし、そもそも建築基準法をクリアしなければならないので、思いきってやるしかなかったんです。

202503049在来工法だけでなく鉄骨を入れたラーメン構造など、建築基準法をクリアするため複数の技法で古民家を補強。普通の家よりも強度が上がった。

一番力を入れたのは内装の仕上げ。スタッフとお酒を飲みながらアイデアを出すと、盛り上がってどんどんプランが変わっていく。だから最初に描いた図面の原型はほとんど残っていません(笑)。「もう少し凹凸を増やしてみよう」「ここにエイジング塗装を重ねてみよう」と現場で話し合いながら、その場で手を動かして作り込んでいきました。

── かなこのサウナ室は座面がなく、フルフラットですよね。

サウナで大切にしたかったのは、誰でも同じようにリラックスできること。上下関係のようなものを感じてほしくないという思いから段差をなくしました。混雑したサウナで「おじさんのお雛様みたい」と思ったことがあって、それを避けたかったのもあるのですが…(笑)。

202503042フルフラットなので、大の字になっての寝サウナもできる。

床からしっかりと温まるよう吸気・排気システムにもこだわり、フィンランドでも最近増えてきてきるという下部から空気を抜く方式を取り入れ、息苦しさを感じにくい空気の循環を作っています。

タバコの煙で空気の流れを視覚的にチェックしたり、ファンの回し方で温度や湿度がどう変わるか検証しながら調整するなど、受託案件ではやらないような実験的なことも自分たちの施設だからこそできましたね。

2025030417床のレベルを上げてあるので、縦長いストーブの上部だけが見える。意外と珍しい、オートロウリュとセルフロウリュどちらも可能。ストーブのまわりには最近追加された大谷石のガードが。

2つあるサウナストーブはオートロウリュ機能のオン・オフも対応できますし、ヴィヒタ水などでセルフロウリュもできるので、お好みのセッティングに近づけることができるはずです。

先日、大谷石の一枚岩から円形に切り出した特注のガードでストーブを囲ったのですが、熱を蓄えやすくなったので、ストーブの温度を下げても温まり、省エネと美しさを実現しました。

地下水の水風呂と入らないと見られないプロジェクションマッピング

── かなこの水風呂は地下水ですが、もともと水が使えると知って購入されたのですか。

井戸があると知ったのは改装を始めてからです。「物件の一角に井戸があるぞ」と水質検査をしたところ、pH7.7の弱アルカリ性。検査に付随して大昔は印刷工場だったこともわかりました。言われてみれば確かに壁や柱にインク染みが残っていたんですよね。

井戸水を使えるなら、掛け流すことで循環装置が不要になるし、水道代も抑えられる。ただ実際に浸かってみるまでどんな印象の水風呂になるかはわからなかったので、少しミネラル分を感じる肌当たりまろやかな水風呂になってラッキーでした。

2025030412ミネラル分でうっすら色付く水風呂からオーバーフローする地下水が照らされ、幻想的な光景となっている。

地下水は偶然の産物でしたが、もし井戸が枯れてしまっても「自分たちの施設だし、もう一回掘るか!」くらい気楽に構えています。

── 水風呂の奥に、ジオラマに照射されたプロジェクションマッピングがあるのはなぜですか。

せっかく地下水を使った掛け流しの水風呂ができたわけですから、沢山の方に水風呂に入ってほしい。「プロジェクションマッピング見たさに水風呂に入る人が増えたら面白いね」と、仲の良いプロジェクションマッピング企業「MIRASISONE(ミラシスワン)」の店舗特化型チーム「Magic the Light」に、ポートフォリオ的に作ってみませんかと持ちかけました。

サウナの妖精トントゥが暮らすジオラマに立体映像ならではの演出が施され、水風呂に入った人だけが見られる特別な世界が広がります。トントゥがいるのはわずかな時間。出会えた人はラッキーですね。

202503045トントゥの住む村から水風呂へと水が流れ落ちる。ジオラマは岩屋の奥にあるため、水風呂に浸からないと見ることができない。

新しいのに古く感じる、どこか落ち着く空間を目指して

── 内気浴スペースはまるで洞窟のようです。

内装の作り込みを考えるとき、「自然物のように曲線的で規則性がない形状のほうが落ち着く」という話になりました。そこからヒントを得て、多摩にある日原鍾乳洞を見に行くなどしてイメージをふくらませました。ドラえもんの押入れのように、狭くて薄暗い空間にはどこか安心感があるので、あえて天井を低めにし、床を少し上げています。

同時に外気浴のような爽快感を室内で再現するために、風の流れや湿度管理にも気を配りました。エアカーテンを使って湿気を遮るようにしたり、複数のファンを使い分けてランダムに風が循環するように調整したりしているんです。

2025030410狭いのに不思議と閉塞感の薄い、洞窟のような内気浴スペース。寝そべった時に眩しくないよう、天井に光源がない。

かつて人類が洞穴で暮らしていた頃のDNAで、狭いはずなのに息苦しくない、むしろ包み込まれて落ち着く…そんな感覚を呼び覚ますようなスペースに仕上がったと思います。

── サウナもスナックも新しいのに、どこか積み重なった時間を感じました。

弊社にはディズニーシーの施工チームに属していた僕の師匠や、特殊塗装を得意とする先輩がいます。特殊塗装の技術でスナックの壁にエイジング加工を施したり、岩肌に何度も塗料を重ねてライトを当てる位置まで計算し、本物の鍾乳洞かのような質感を生み出しているので、積み重ねられた時間を感じていただけるのかもしれません。

何気ない場所でもかなり細かく描き込んであるので、「ここまで作り込んでるとは!」と驚かれることも多いです。

202503043夢の国も手掛けたアートデザイナーが中心となって作り込んだ内装を「テーマパークのよう」と表現するサ活投稿も多い。

── 昭和スナックの雰囲気漂う「かなこ」という店名の由来は?

かっこつけてない店名にしたかったので深いコンセプトはなく、単純に僕の母の名前です。よくある話なんですが、団地暮らしで父が蒸発してしまったあと母はスナックで働きながら僕を育ててくれました。そういう背景もあって、スナック文化に対して特別な思い入れがあるのかもしれません。

当初、母は「お店に立つのはちょっと…」と乗り気ではありませんでした。でも、昔からおしゃべりが好きな人で、スナックで働いてこそ魅力が活きると思ったので、ママに就かせると決めていました。かなこは顔出しを嫌がるので、気になる方は是非会いに来てください(笑)。

2025030411近所にある「大阪餃子専門店よしこ」の出前も可能。「よしこ」「かなこ」という母親の名前を冠した店名同士、仲良くなり出前が実現。地域と連携することで、街全体を盛り上げていきたいという想いもあるという。

スナックだからこそ生まれるコミュニケーション

── お客様からのどんな反響が印象に残っていますか。

一般的な温浴施設では、運営サイドとお客様が近い距離で交流することはありません。でもうちはサウナあがりにお酒を飲む方が多いので、「ここはこうしたほうがいい」「こんなメニューが欲しい」といった率直な意見がどんどん出てくるんです。

僕たちもフィードバックを直に受け止めて、可能なものはすぐ試すようにしています。手作り感がある空間だからこそ、その柔軟さを大事にしたいですね。

202503047更衣室は大小2室。時間貸しかつ男女利用ができる施設において、更衣室が分けられるのは意外と大事なポイント。

あとはサウナあがりのサウナーの方と、スナック利用のサウナに興味がない方が意気投合して一緒にサウナに行ったという話を聞いて、うちならではの掛け合わせだと思い、嬉しくなりました。

── かなこでは受付でもあるスナックの玄関で靴を脱ぎますが、靴を脱ぐスナックって珍しいですよね。

実は靴を脱ぐのも偶然の産物で…(笑)。どこでもドアを模したサウナへのドア前で靴を脱ぐことを想定していたのですが、作りながらどんどんプランが変わっていくから、気づいたら「スナックで飲んでいる人の横でサウナ客が靴を脱ぐのって変だよね」となり…。検討し直したら、施工中に職人が靴を脱ぐ入口しかなかったんです。

珍しい造りにはなったのですが、サウナあがりにすぐ靴を履くのがイヤな方って意外と多いんですよ。結果「むしろ嬉しい」「自宅みたいにくつろぎながらお酒が飲める」と好評です。

2025030413建具や壁紙はレトロなものをセレクト。新しいはずなのにどこか懐かしい雰囲気を醸し出す。

ずっと未完成であり続ける空間

── 今後、かなこはどうなっていくのでしょうか。

「かなこ」は、まだ完成形とは言えません。気づいたらサウナの設備がバージョンアップしていたり、洞窟の内装に職人が何かを描き足していたり、スナックに民芸品が増えて昭和感が増しているかもしれない。そんな「未完成だから面白い」空気感を大切にして、来るたびに発見がある、ちょっと変わった秘密基地のような場所でありたいですね。

2025030416めっきり見かけなくなったガラスケースの置き時計や、ポーセリンドールなど、「実家にあった!」と言う人が多いという懐かしい小物の数々。若乃花貴乃花のソフビ人形はネットで探して購入。

「サウナとスナックを同時に楽しめる体験」は、ほかではなかなか味わえないと思いますので、まずは一度来てみてほしいです。スナックの重いドアを開け、異世界のようなサウナに入り、ととのったまま昭和感漂うスナックでまったりお酒を飲んだり出前をつまんだりして更にととのう。そこで生まれる会話やつながりこそが、本当の贅沢なのではないでしょうか。

202503044路地裏のちょっと敷居の高さを感じてしまうドアを開いた者だけが得られる贅沢がある。

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