老舗ホテルの開かずの間が瞑想系セルフロウリュサウナに大変身!サウナMIYAZAKI(宮崎県宮崎市)サウナ誕蒸#7
サウナ大好きクリエイティブディレクターの相沢あいさんによるインタビュー連載。サウナを作った方の想いやこだわりなどを深掘りしていきます。
サウナ施設を立ち上げた方へのインタビュー連載「サウナ誕蒸」。今回は宮崎駅から徒歩約10分。宮崎第一ホテル内にある男性専用施設、サウナMIYAZAKI。
2024年に誕蒸した宮崎ではまだまだ珍しいセルフロウリュができる「マグマサウナ」や、サ飯やドリンクなど多数のサービスが無料で楽しめることで話題の施設です。
古き良き昭和のサウナを有するサウナMIYAZAKIに、なぜ日本初のエストニア製ストーブを導入した「マグマサウナ」を新設したのか?さらに気前が良すぎる無料サービスの数々はなぜ生まれたのか?エストレジャー有限会社 事業戦略部責任者の堤瑠美さんにお話を伺いました。
堤 瑠美
エストレジャー有限会社 事業戦略部責任者新卒で旅行会社に入社。ツアーコンダクターとして国内外を飛び回る生活から、2015年に宮崎第一ホテルに転職しフロント業務一筋。2024年から事業戦略部に異動後は、男性専用の「サウナMIYAZAKI」女性専用の「SAKURA SPA&」のプロデュース、青井岳温泉のリニューアル計画などに携わっている。
忘れ去れた小部屋をサウナとして生まれ変わらせる
── 既にサウナがある宮崎第一ホテルに、新たにサウナを作ることになったきっかけは?
私が入社した当時から、サウナMIYAZAKIには後から塞いだような違和感のある壁がありました。図面を見ると、謎の小部屋。調べていくなかで、かつてはミストサウナだったことがわかったのですが、弊社が運営を始める前に閉じたようで、中がどうなっているかもわからなくて…(笑)。壁を壊した先にある空間を見て、再びサウナとして生まれ変わらせようと決意しました。
サウナブームで全国的にセルフロウリュができる施設が増えていますが、当時宮崎にはそういったサウナはほぼありませんでした。だったら自分たちで作って、サウナイキタイの「イキタイ」数で宮崎No.1を目指そう!サウナMIYAZAKIを有名にしよう!と意気込んで、プロジェクトがスタートしたんです。
── 高い熱量で取り組まれたプロジェクトのようですが、もともとサウナがお好きだったのですか?
いえ、実は以前はサウナが苦手でした。コロナ禍でのホテル休業期間に、ホテルの本棚に置いてあった加藤容崇先生の『医者が教えるサウナの教科書』を読んで実践してみたら、サウナに開眼。全国どころか海外までサ旅するほどハマってしまって…(笑)。そうするうちに、だんだん自分でも「サウナを作ってみたい!」と思うようになったんです。
その頃、エストニアで泊まったホテルのサウナ室でSaunum(サウナム)社のストーブを見かけ、その格好良さに一目惚れ。「絶対にこのストーブを入れたい!」と、帰国後まずはストーブの循環システムなどの魅力を弊社代表にプレゼンし、OKをもらいました。
Saunumを取り扱う輸入代理店は当時、国内に2社しかなく、その1社に即相談。輸入実績のなかった最新モデル「Saunum Luxury」を知り、取り寄せるために数ヶ月待ちました。またその機構に特長があるストーブでサウナ室を作ることができる設計士さんは少し遠方の福岡の方で、輸入代理店の方にご紹介いただきました。
日本初導入のエストニア製のサウナストーブと和のテイストを融合させたサウナ室
── 設計では、どんな部分にこだわりましたか。
もともとあるサウナが古き良き昭和のサウナなので、新しく作るサウナは全く逆のテレビも音楽もない、どこにも似たものがない静かな瞑想系サウナを構想しました。ストーブを主役とした茶室のような静かな空間のなかで、侘び寂びを通じた心の移ろいを体験できるセルフロウリュサウナです。
とはいえ、サウナ室は熱く過酷な環境なので、照明や素材、換気など考えなくてはならないことが多々あります。設計士さんは熱心なサウナーではありませんでしたが、研究熱心な方で「実際にどう使われるか」「不快感をどのように取り除くか」まで考えて、真摯に向き合ってくださいました。
たとえば主役となるサウナストーブを照らしたかったのですが、日本ではサウナ用として認可された照明などありません。そこでサウナ内での長時間使用に耐えうる性能を備えたオリジナルの照明を作成。非磁性体で手術室やMRI室で使用される照明をベースに改良を加え、サウナ環境に適した仕様へと最適化しました。またオーブン用の耐熱ランプを採用することで、極端な温度変化にも対応。過酷な条件下でも安定した光を提供し、サウナ空間を快適かつおしゃれに演出しました。
さらに「注意書きを貼らずに、過剰な量のロウリュをさせないためにはどうすれば良いか?」という課題があれば、掛け流されて常にラドル2杯分くらいしか水が溜まらない手水鉢をストーブの側に置くことで解決。水がちょろちょろ流れ落ちる音すらも侘び寂びあって、偶然の産物ながらより理想に近づけたと思います。
まるで魔法使いのようにアイデアを形にしてくださるので、「生まれ変わったら設計士になりたい!」と思うほどに感激しましたね。
── 新設サウナは「マグマサウナ」という愛称ですが、どんな想いが込められていますか。
設計士さんが朱色の壁やライティングの説明をしながら「まるで地球の真ん中。地殻を作り変え、新たな地形を生み出すダイナミックな力を持つマグマみたいな“マグマサウナ”」と仰っていて、それがそのまま名前になりました。実際に照明を落とすと、まさに地底にいるかのような不思議な感覚になります。
「どこにもない」ゆえに苦労も多かったオープン当初
── 大々的なお披露目イベントも開催されてましたね。
オープン直前の2023年末、約1ヵ月後の2024年1月27日にマグ万平さんをゲストに迎えたイベントを開催することに決めたのですが、高温多湿なサウナ室は普通の建築とは違うハードルが沢山あって、当日の朝まで作業する事態となってしまいました。
塗り壁の工程で想定以上に手間取ったり、塗って乾かしたらヒビが入ってしまったり、水はけがうまくいかなくて勾配を調整したりと、微修正を重ねながら、「本当にイベントができるのだろうか…」と内心ドキドキしていました。無事に開催できて本当に良かったです。
── 日本初のストーブを導入されましたが、オープン当時からスムーズに運用できましたか。
実はしょっちゅうブレーカーが落ちていました。ストーブの電圧の問題ももちろんありますが、中にはわざわざ浴室から洗面器で水を汲んできてザバーッとかける人もいて。宮崎にはセルフロウリュを楽しめる施設がほとんどなかったから、ルールやマナーが浸透していなかったんでしょうね。
スタッフからは「注意書きを貼りたい」と相談されましたが、「ほかのお客様の様子を見て学んでいくはずだから耐えてほしい」と断りました。ヨーロッパのサウナには注意書きなんてほとんどありませんし、私たちもそんなスタイルを目指したかったんです。今ではそういった行動は見られなくなりましたが、最初は大変でしたね。
── お客様からはどんな反応が多かったですか?
最初は「サウナ室にドアがない!」「蒸気が逃げる!」「時計がない!」「床が熱い!」「温度が低い!」といった、ネガティブな声も届きました。それぞれに「サウナとはこうだ」という固定観念があるので、ギャップが大きかったんだと思います。
唯一無二を目指しているので仕方ないと思い、コンセプトを浴室内に掲げると、段々とそういったお声は届かなくなりました。
参道部分にもサウナの熱気が循環する設計になってるので、入ってみると「意外と熱い」とか「不思議な広がり方をしてる」という声もあります。サウナストーブにファンが付いていて、ぐるぐる熱を回しているので、苦しさよりも心地よさを感じる人が多いみたいです。
レトロサウナの良いところは残しつつ、新しいことにも挑戦していく
── 以前からある昭和ストロングな「レトロサウナ」について教えてください。
できたのは弊社が運営を始めるずっと前、昭和40年代だと聞いています。サウナ室がV字のレイアウトになっていて、両端それぞれに大きなテレビがあるので、同じ空間にいながら宮崎に2局しかない民放をどちらも観られる珍しいサウナだと思います。
改装も話に上がったのですが、この古き良きサウナを愛してくださるお客様も多いので、現状はそのまま。でもアウフグースを始めるなど、改善している点もあります。レトロサウナは遠赤ストーブですから、アウフグースを行う際は熱岩石というスチームジェネレーターを持ち込んで行っています。
── サウナMIYAZAKIでは、アウフグースにも力を入れていますよね。
はい。弊社代表と視察先のドイツでアウフグースを受けて、「うちにも取り入れよう!」という話になったんです。マグ万平さんに「これからアウフグースもやっていきたい」と相談をしたら、お披露目イベント中に「アウフグースマスターになりたい人〜?」と募ってくださり、有志のお客様方と一緒に宮崎初のアウフグースチームを結成しました。永井テツヤさん、箸休めサトシさん、五塔熱子さんなどトップアウフグースマスターをゲストとしてお迎えして講習を受けるなど、日々研鑽を積んでいます。
最近ではマグマサウナで行うハーバルリチュアルの講習もスタートし、ゆくゆくはリチュアルも始める予定です。まずは宮崎のトップランナーを目指し、壁は厚いですが九州で有数のサウナと呼ばれるようになりたいですね。
── 露天エリアもリニューアルされたのですね
サウナ室の増築に伴い、ホテルの2階なのに植物園のように草木が生い茂っていた露天風呂エリアも「どうせなら綺麗にしよう」という流れになりました。岩風呂をすっきりしたお風呂に変え、ととのいエリアを拡大し、天幕を張ることで上からの視線を遮れるようにしたんです。
おかげで安心して月に1回レディースデーを開催できるようになりました。女性専用のSAKURA SPA&にあるサウナは低温なので、アツアツサウナが好きな女性の皆さまからご好評いただいてます。
それと設計士さんが作ってくれたオリジナルのととのい椅子が素晴らしいんですよ!人間工学を取り入れてあって座り心地が抜群。商品化も検討しているそうなので、今後色々な施設で見かけるようになるかもしれませんね。
“ウチならでは”の無料サービス
── サ活の投稿では、気前が良すぎる各種無料サービスに触れたものを多数見かけました。
弊社代表の「お客様に喜んでもらいたい気持ち」で、どんどん増えていって…(笑)。一人3杯までOKのアルコール飲料や、煮卵、味噌汁、お茶漬けなど「サ飯」が無料なんですよ。ポップコーンや柿ピー、焼き芋、自分で豆を挽いて淹れていただくコーヒーも無料、マッサージチェアも無料で使えますし、入館後は時間制限もありません。
以前ガリガリ君がギュウギュウに詰まった冷凍庫がSNSでバズりましたが、実は毎日のようにスタッフが近所のスーパーに買いに行っては補充していて…(笑)。あまりに大変なのでチューブ型アイスに切り替えましたが、こちらも「懐かしい」と喜ばれています。
フロントにはうまい棒がテイクフリーですし、有料の自販機横に無料ドリンクバーがありますから、初めて来られた方は驚きますよね。そういう「ここにしかないサービス」が印象に残ってリピーターになってくれるケースも多いと感じています。
サ旅の目的地を目指して
── 今後サウナMIYAZAKIをどのようにしていきたいですか。
サウナ旅の目的地として宮崎に来てもらえるような存在になりたいですね。宮崎空港は街中に近くてアクセスが良いですし、少し足を伸ばせば大分、鹿児島、熊本といった有名なサウナや温泉を巡ることもできます。
宮崎第一ホテルに手頃な価格で宿泊をするなら、狙い目は6月〜9月。宮崎は1月にサッカー、2月からは野球のキャンプ地として盛り上がり、11月にはゴルフの大会があるため、それらに被らない時期の日曜は意外と穴場なんです。
うちは朝食にも力を入れていて、宿泊していただくと手作りの宮崎名物も味わっていただけます。近隣には宮崎名物の地鶏や宮崎牛を出す飲食店や、芸能人や野球選手が通う店もあるので、サウナとグルメを存分に楽しんでもらいながら、サウナをきっかけに宮崎の魅力を知ってもらえたら嬉しいです。
撮影:中山雄太(ひなた写真館)、宮崎第一ホテルスタッフ