循環を生み出すスモークサウナ JUURI SAUNA(宮城県牡鹿郡女川町)サウナ誕蒸#9

循環を生み出すスモークサウナ JUURI SAUNA(宮城県牡鹿郡女川町)サウナ誕蒸#9

サウナ大好きクリエイティブディレクターの相沢あいさんによるインタビュー連載。サウナを作った方の想いやこだわりなどを深掘りしていきます。

サウナ施設を立ち上げた方へのインタビュー連載「サウナ誕蒸」。今回は宮城県の女川町駅から車で15分の離島にあるJUURI SAUNA(ユーリサウナ)。

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60年越しだったという本土からの橋が開通した離島に、開通同日である2024年12月19日に開業。フィンランドの伝統的な蓄熱式ストーブを有するアウトドアサウナで、海と森を堪能できます。

なぜ橋が架かるまでは1日3便の定期便しかなかった離島にサウナを作ろうと思ったのか。そして海にかける想いとは。JUURI SAUNA代表の鹿又 陸さんにお話を伺いました。

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鹿又 陸
株式会社JUURI 代表取締役

宮城県塩竈市出身。大学入学と同時に上京し2023年の7月に宮城県にUターン、女川町の離島出島(いずしま)に移住。2023年8月より女川町の地域おこし協力隊として活動。前職は横浜市役所の港湾局に勤務。東京湾の海洋環境の調査などを行っていた。

海への想いから始まったサウナづくり

── サウナを作ろうと思ったきっかけは?

僕は宮城県塩竈市の出身で海と共に育ってきたのですが、高校時代に東日本大震災で自宅が津波によって流されてしまいました。それもあって大学では土木を学び、できるだけ規模の大きな海の土木の仕事をしたいと横浜市役所に入庁。港湾局で東京湾の海洋環境の調査などを行っていました。

上京して10年。都会の生活も十分だと思っていたタイミングで、自分で何かやりたい気持ちが湧いてきました。趣味のキャンプと共にテントサウナを楽しむなかでアウトドアサウナに魅力を感じ、小学校からの幼馴染で大工の大山海渡と参加したサウナイベントの帰り道、「サウナを作りたい」と話したら大山も「自分もやりたい」と言ってくれて、ふたりでサウナを作ることになったんです。

── 場所選びはどのように進めたのですか。

宮城県の自然豊かな場所でやりたかったので、月1で宮城に戻っては土地探しをしました。1年くらい経ったとき、2024年冬に橋が架かるという女川町の出島(いずしま)という人口約90人の離島を紹介してもらったんです。女川町は震災後「還暦以上は口を出さず」という方針で復興し、同じ被災者として惹かれてはいましたが、サウナの開業地としてピンとはきていませんでした。

船で出島に行ってみると、店らしい店もなく自販機が一台あるだけ。でも杉林があり、沢が少し流れていて、海が広がるその景色を「何もない贅沢」だと思い、その日のうちに大山と「ここでやろう」と話したんです。

202503265JUURI SAUNAは橋の開通と共にオープン。女川駅から車で15分になり、アクセスしやすい島となった。

島内に唯一あった「民宿いずしま」のオーナーさんが「橋が開通したら釣り人は泊まらず本土に帰るようになる。それなら新しく事業を始める若い人に託したい」と言ってくださり、開業場所も決まりました。

本場北欧のスモークサウナをお手本に

── サウナを作るうえで、どういったものを参考にされましたか。

日本全国のサウナを巡ったり、北海道でログハウスづくりを学んだり、東京・自由大学の「サウナ創造学」という講義でノウハウを得たりもしました。

目指すべき理想の形が見えたのは、サウナを作るために視察したフィンランドとエストニアで体験したスモークサウナですね。スモークサウナの香りや柔らかな蒸気浴はもちろんのこと、サウナを神聖なものとして捉えつつ、社交の場として会話をするところにも魅力を感じました。話しながらゆったりと汗を流すことが、すごく豊かな時間だと思ったんです。

── 日本には数えるほどしかスモークサウナはありませんよね。

はい。日本の法規制上、煙突がないサウナだと許可が下りづらいんですよ。そこで、スモークサウナに近い体験ができる蓄熱式ストーブを探していたら、フィンランドのNarvi社製「Aitokiuas-95(アイトキウアス)」にたどり着きました。火を入れるのは最初の3時間程度。鎮火後はサウナストーンの余熱だけで12〜16時間楽しむことができます。

一般的な連続加熱式の薪ストーブだと、露出したサウナストーンが輻射熱を放っていますが、蓄熱式は断熱材が詰まったストーブに石を内包しているので、ほとんど輻射熱を放ちません。入った瞬間の「熱っ」という感覚がないですし、使用時には火を止めてあるので、酸欠による息苦しい感じもありません。これまでの薪ストーブとは全く違う感覚に驚くはずです。

202503269Aitokiuas-95内部。サウナストーンのまわりを断熱材が囲っていることがわかる。

50~60度ほどのぬるめのサウナ室は蒸気だけでアツアツになるので、通常のドライサウナと比較すると肌や髪が乾燥しづらく、美容を気にする方にもおすすめ。何よりロウリュした時のスモークの香りが格別なので、あえてアロマを使わず真水で行っています。

このAitokiuas-95を使った“半スモーク”の感じは、日本では現状JUURI SAUNAでしか体験できないと思うので、柔らかな蒸気浴を楽しんでいただきたいですね。

サウナ室の構造もフィンランドスタイルで、ストーブよりも高い位置にベンチを配置。高さを確保するため、より多くの丸太が必要になってしまったのですが、高さは譲れませんでした。またサウナ内で語らってほしいので、ベンチはL字で話しやすい設計です。

2025032613基礎の上にどのように作っていくかイメージ共有のための手描き図面。

── 木材の調達も大変だったのではないでしょうか。

まずは森の間伐作業からスタートしたのですが、大山も僕も林業初心者。チェーンソーで切り倒すときに狙いの方向とずれて隣の木に引っかかるなど、最初は思うように間伐を進めることができませんでした。

森には重機が立ち入れないので丸太を海上輸送する案もありましたが、潮で流されてしまうリスクなどを考え陸上輸送に。60本以上切り倒しては皮を剥ぎ、建設予定地まで人力で運ぶだけでも半年以上かかりましたね。

本土から運び込む資材はトラックから1日3便しかない船に載せ替え、載りきらない大きなものは漁師さんに船を出してもらって運んだり。地元の方や知人のサポートがなかったら完成までたどり着けなかったかもしれません。

202503263建材の確保から設計、施工まで自分たちで行ったセルフビルドサウナ。建設地には重機が立ち入れないので、クレーンの土台を自作して丸太を積み上げた。

サウナが生む循環

── 水風呂は2種類ありますよね。

不要になったものを別の形でよみがえらせたいという想いがあったので、宮城県で使われなくなった醤油樽と、出島の漁師さんから譲り受けた水産物の運搬に使うスカイタンクを再利用しています。

202503267今後は地下水を汲み上げて、さらに気持ちの良い水風呂になる予定とのこと。

── 外気浴スペースでは、森と海が楽しめると伺いました。

女川湾を一望できるウッドデッキは海に向かって少しせり出しているので、足を出して風に当たるのが心地良いです。森のなかに設置した最大6人乗れる大型のハンモックは、木漏れ日を浴びながら味わう浮遊感が最高。お子さまはずっとハンモックで飛び跳ねていたりするので微笑ましいです。

2025032626人乗りハンモックは、ラトビアの施設の外気浴を参考に設置。

離島ならではの自然のなかに入っていくような外気浴を楽しんでいただきたいので、JUURI SAUNAにはプラスチックのととのい椅子はありません。「海も森も一度に味わえるなんて初めて」と喜んでくださる方が多いですね。

202503264ウッドデッキも手作り。コンディションによっては板の隙間から海風が吹き上がる、海のそばならではの外気浴ができることもあるという。

── サウナ室正面に、水着のまま入れる休憩室があるのが良いですね。

サウナに入ると、みんなそれぞれのペースで入ることが多いじゃないですか。でも休憩室で待ち合わせてお喋りしながら、次のセットも一緒に入ってサウナ内でも語らってほしいんです。僕らがフィンランドやエストニアに行って感じた、カフェのような社交場になっているサウナにしたくて。

202503268外気浴後に待ち合わせたり飲食したりする休憩室。

日本だとらかんの湯の浴場内にある休憩室が印象的で、それも参考にしました。飲食もこのスペースでお楽しみいただけます。

── サウナ飯としてタコスが人気だと伺いましたが、なぜタコスなのでしょうか。

3年ほど前から趣味でメキシカンタコスを作っていて(笑)。きっかけはNetflixのドキュメンタリー番組『タコスのすべて』を観たこと。手軽に食べられるし塩気もあるので、サウナあがりの身体にぴったりだと思ってメニューに加えました。

2025032610メキシカンタコスの再現にこだわり、カルニータスという豚肉料理のタコスを提供している。

お客様からは「サウナ飯オブザイヤー!」なんて好評をいただいています。

── 島民の皆さんからの反響はいかがでしたか。

若い世代が出島で始める新しい事業を応援してくださる方がほとんどでした。

オープン後、島民の皆さん向けに体験会を開いたのですが、90人程度の離島ですからサウナーなんてほとんどいません。「サウナ=熱くて息苦しい」という認識の方ばかりでしたが、体験していただくと「苦しくないね。これなら入れそう」「こういうサウナもあるんだね」と認識を改める方も多くて嬉しかったです。

循環、そして還元するサウナを目指して

── 施設名の「JUURI SAUNA」にはどのような思いがあるのですか。

「JUURI」はフィンランド語で“根っこ”や“根源”を意味する言葉です。このサウナが島の森や海、人々の暮らしをつなぐ「根っこ」のような存在になってほしいという願いを込めました。音の響きもかわいらしくて気に入っています。

また、JUURI SAUNAのコンセプトは “循環” です。間伐材を活用したサウナで薪を燃やし、灰を森に撒くことで土壌の改善を促し、森づくりによって沢に水が戻る。森の栄養が海に運ばれると、豊かな海をつくることにも繋がります。

202503266出島の美しい自然を守るために、循環させていく。

薪に火をつけるのは人。人が循環の一部となり、出島の豊かな自然を育て守り続けたいですね。

── 今後どのようなサウナを目指していきたいか教えてください。

放置された杉林を間伐して太陽光が地表に届くようになった場所には、下層の植生が育ち、鳥も増え、森が生き返ってきています。そこで育まれた水や養分が海へ流れ込み、漁業を営む島民の方々にも還元できたら良いですよね。

僕は震災で家が流された被災者ですが、それでも海に育ててもらったという想いが強いです。だからこそ、サウナを通じて恩返しをしたい。

訪れた方々には、自然とつながるサウナの気持ちよさを存分に味わってもらいながら、自然が循環していく様子も体感してほしいと思っています。多くの方に楽しんでもらうことで、森の再生、豊かな海へとつながるのですから。

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2025.04.02 20:09
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