
山とサウナと時々晴れvol.4「山を歩けば、鰻にくすぐられ、サウナで笑う。 ~低山と銭湯サウナ、京都くるり旅~」
好きなものと組み合わせたら、サウナがもっと楽しくなるはず!この連載では、2021年アドベントカレンダーにて「サウナ箱根駅伝」を執筆した、大のアウトドア派のロベルト本郷三丁目さんに、「山×サウナ」の楽しみ方を伝授してもらいます。さあ、週末は山に出かけてみませんか?
これまで、何百キロと歩いてきた。 高い山も、低い丘も、いくつもの季節とともに越えてきた。それでも、なお――山はいつだって新しく、自分を惹きつけてやまない。
今回は、そんな山のなかでも、日常のすぐそばにある 「京都の低山」を歩いて走ってきた。静けさ、寄り道、出会い、汗、笑い。 すべてが、ゆるやかなカーブを描く「京都くるり旅」です。
京都は、山と銭湯の街
京都といえば、仏閣や古い街並み、にぎわう観光地を 思い浮かべる人が多いだろう。
でも実は、京都はぐるりと山に囲まれた「山の街」でもある。 しかもアクセスがいい。
地下鉄を降りたらすぐ近くに登山口があるコースもある。
山を歩き、仏閣に立ち寄り、 下山後に銭湯サウナで熱に包まれる——。
そんな一筆書きの旅が、京都では日常にある。
醍醐寺から大文字山へ、京都の東山を歩く
今回歩いたのは、桜の名所・醍醐寺を起点に、 東山稜線をたどり、大文字山へ至るコース。
稜線からは、京都の街並みが見渡せる。 春の風に吹かれながらの縦走は、何度目でも気持ちいい。
鼻腔をくすぐる、幻の鰻の香り
山あいの街に下りたとき、 ふいに鼻腔をくすぐる香ばしい匂いが漂ってくる。 下調べした時には現れなかった情報だった。 あたり一帯に広がる、鰻の煙。
その正体は、老舗「かねよ」の名物―― 鰻と、きんしたまごの丼だ。
できれば、ここでランチにしたい。 でも、日没までの時間とコースタイムをはじき出し、 後ろ髪を引かれながら、泣く泣く断念。
これは次の京都での「宿題」に、 そっと取っておくことにした。
逢坂山で、おにぎりと百人一首
再び山道に入って、やがて逢坂山へ。 名前を聞いて思い出したのは、百人一首の一首。
「名にしおはば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな」(蝉丸)
出会っては別れ、別れてはまた出会う。 知っている人も、知らない人も、同じ場所を越えていく――逢坂山に至るまでの道のりと重なる。
山頂で腰を下ろし、琵琶湖を眼下に見眺めながら、 おにぎりを頬張る。街で食べるより数倍おいしくて、 ほっぺが上がる。 口角も、自然とふわっと持ち上がる。
鰻は幻に終わった。
でも、おにぎりが目の前にあった。
山の上で足るを知る。
景色と空腹が、最高のスパイス。 それがあれば、山ごはんはたいてい最高だ。
歴史を歩く、雲母坂の道
今回のルート以外にも、お薦めの山道がある。 京都の山道には、ただの登山道以上の時間が流れている。
たとえば、修学院から比叡山へと続く雲母坂(きららざか)。
かつて僧兵たちが武具を携え、 この道を駆け抜け、戦ったとされる道だ。
苔むす石畳を踏みしめながら、 そんな古の気配に、そっと思いを馳せる。
やがてたどり着くのが、比叡山の延暦寺・根本中堂。 1200年以上、灯し続けられている「不滅の法灯」が、 今も静かに燃えている。
比叡山を越えて、琵琶湖側へ下ると、そこは滋賀県・雄琴温泉。 広々とした湯船、サウナ、水風呂、琵琶湖の借景と外気浴が揃う 「あがりゃんせ」が待っている。 ラーメンの天下一品が経営する温浴施設のため、 食事にも手抜きがなく、美味しい。
山に表情があるように、サウナにも顔がある
京都には、登山のあとの“ごほうび”がたくさんある。 東山エリアの平安湯や銀座湯は、地元に根づいた銭湯サウナ。 しかも、京都はサウナ料金込みで510円(2025年3月現在)。
それぞれ派手さはないけれど、 肩の力が抜けて、疲労も抜けて、自然と笑顔になれる銭湯サウナだ。
銀座湯では、偶然、おじいちゃんが倒れてる場面に 出くわした(本人曰わく、倒れるのは通算2回目とのこと)。
番台さんがてきぱき事後対応にあたる。幸い大事には至らず、 日常の銀座湯がすぐに戻ってきた。 どちらの銭湯も水風呂がライオンの口からかけ流しで、 電気風呂で筋肉を揉みほぐすこともできる。
もちろん、祇園のど真ん中に構える京都サウナの最後の砦、 ルーマプラザも控えている。
こちらはリニューアルして、施設が進化している。
愛宕山を登った帰りに立ち寄れる、 嵐山界隈のスーパー銭湯もいい。
それぞれの山に表情があるように、 それぞれのサウナにも、「顔」がある。
京都の水が育てる名湯は、名パン、名ピザ
京都のサウナが気持ちいい理由のひとつ。 それは、水のよさにある。
やわらかくて、まろやかで、身体にすっと馴染む水。 京都を囲む山々からの伏流水が京都盆地の地下に流れ込み、 水脈となる。
銭湯の水風呂も、美味しいパンも、カリカリなピザも、 その水が育てている。
ちなみに、鴨川沿いを走るなら、 知る人ぞ知る給水ポイントがある。
二条橋と丸太町通の間にある、地元の人に愛されている 湧き水「銅駝水(どうだすい)」。 その場で喉を潤すもよし、 ペットボトルに汲んで持ち帰るもよし。
今や観光都市の京都では、有名な神社仏閣や公園は、 どこも混雑している。 でも、ひとたび山に入れば、そこには驚くほど静かな 世界が広がっている。
すれ違う人も少なく、出会うのは、ほんの数人のハイカーだけ。 一言、二言。 言葉を交わし、また歩き出す。――そんな一期一会の風景が、心に残る。
京都は「観光する」だけの町じゃない。 自分にとって京都は、 登って、下りて、銭湯サウナで汗腺と心身をひらく街。
春の京都。 もしよかったら、「山とサウナと仏閣」のくるり旅を、 どうぞ楽しんでみてください。
そして、もし。
月日が過ぎ去り、いつか自分が息絶えたとき、 この文章が誰かの手に届いて、 「歩いてみようか」と登山靴の靴ひもを結び、 「入ってみようか」とサウナの扉を開けたとしたら。
その人が、自分の足で山を歩き、 水風呂のなかで、ふっと微笑んだのなら――
僕がこのサウナイキタイのWebマガジンで伝えたかったことは、 もう、すべてそこにある。
心にある希望が、これからのルートを照らしている。 灯火のように。小さく澄んだ水たまりのように ――希望を映し出しながら。
■初級コース
銀閣寺から大文字山(往復 約5km のぼり 約430m)
醍醐寺から醍醐山(往復 約5km のぼり 約430m)
■中級コース
雲母坂から比叡山からあがりゃんせ(約12km のぼり 約700m) のぼり、または、くだりをロープウェイ利用でショートカット可
愛宕神社表登山道入口から愛宕神社(往復8km のぼり 約880m)
醍醐寺から逢坂山&大文字山経由で銀閣寺(約23km のぼり2000m)
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