
混まないサウナとコインランドリーの親和性 neverending(大阪府西区)サウナ誕蒸#10
サウナ大好きクリエイティブディレクターの相沢あいさんによるインタビュー連載。サウナを作った方の想いやこだわりなどを深掘りしていきます。
サウナ施設を立ち上げた方へのインタビュー連載「サウナ誕蒸」。今回は大阪府西区の阿波座駅から徒歩7分の立地にあるneverending。
1Fに現代的なコインランドリーとクリーニング店、2Fに独自の予約システムにより少人数制で混まないサウナを実現した複合施設で、クリーニング店経営ならではのフワフワなタオルも話題です。
なぜコインランドリー・クリーニング店・サウナの3業態を掛け合わせた施設を作ろうと思ったのか。オーナーの安田 和哲さんにお話を伺いました。
安田 和哲
株式会社トラヤクリーニング 代表取締役社長
26歳の時に創業71年になるクリーニングトラヤを父より受け継ぎ、3代目としてクリーニング店を5店舗経営。2023年の10月17日にサウナが好きが高じて大阪の阿波座にneverendingを開業。
清潔なサウナを自らの手で
── サウナを作ろうと思ったきっかけは?
僕がサウナにのめり込んだのはコロナになる少し前。いろいろな施設に行ってみたものの、排水口に絡む髪の毛や黒ずんだ足拭きマットが視界に入るたびに気が散り、心からリラックスできない…。
そんな体験を重ねるうち「クリーニング屋の僕が本気を出せば、“世界一清潔なサウナ”が作れるのでは」と考えるようになりました。
無機質なコインランドリーの中心には、ロゴマークをイメージした大型テーブル。奥にはクリーニング店のカウンターが。
── サウナとクリーニングを組み合わせるアイデアはいつ生まれたのですか。
もともとクリーニングとコインランドリーの店を西区あたりでやりたいと思っていたんです。スタッフ常駐で安心して利用できるコインランドリーだと従業員は0.5人でいいから、サウナと一緒に経営することで1人で回せるのでは…と気付いて。
さらにクリーニング屋の多くは、ボイラーを錆びさせないために軟水器を入れています。ポットに白くこびりつくようなカルキなども抜くことができて、不純物を除去するために泡立ちがよく、浸透力が良くなるので汚れ落ちもいいんです。コインランドリーで使う水、シャワー、水風呂、全ての水に軟水器を通しています。
当たり前のように仕事で軟水を使っていたわけですが、軟水を売りにする銭湯があったりしますし、お風呂にはタオルが必要で、洗うのは得意分野。これは組み合わせたらすごく良いぞ!って気付いたんですね。
コインランドリーの窓を思わせるサウナドアの丸い窓。ノイズとなる文字情報を減らすため、シンプルなピクトグラムで案内。黙浴も徹底している。
── なぜ西区エリアだったのでしょう。
大阪の西区はおしゃれなお店が沢山あり、近くには靱公園もあったりと環境も良く共働き世帯が多いので、需要がありそうだと踏んだんです。
これまで「コインランドリーの洗濯乾燥に1時間20分を費やすのがつらい」という声をよく耳にしていました。もしその待ち時間を「サウナでメンテナンスの時間」に変えられたら、忙しい人ほど価値を感じるはず。
来店時に持ち込んだ洗濯物はサウナに入っている間に洗濯乾燥が完了し、スタッフが大型ロッカーに移動。「家事をしながらサウナ」という大義名分で高頻度に通ってくれると予想しました。何より自分が一番「そんな施設あったらいいな」と望んでいたので。
機械の清掃や除菌などしっかりとメンテナンスされていて、洗い方が相談ができるプロ常駐コインランドリーは想像以上に需要があり、セルフで落ちない汚れはクリーニングへ提案できるため、サウナ・コインランドリー・クリーニングの三業態が自然に底上げし合う仕組みになりました。
店舗の一角ではグッズのほかに神奈川県大磯町のTE HANDELから仕入れたお茶も販売。サウナ上がりに飲んでいく人も多く、少しずつファンを増やし、お茶だけ購入しに来る人も。
ダブルストーブでアツアツかつ呼吸がしやすいサウナに
── サウナ作りで難しかった点はどういったところですか。
温浴施設を作ったことがなかったので、何から取りかかったら良いのかすらわかりませんでした。そこでアンジュ・ミケーレ作品のような空間を作りたいという構想のもと、マニアッカーズデザインさんに依頼するために、群馬まで出向いてイメージを伝え、ロゴデザインを作るところから始めました。
靴箱やロッカーの持ち手もロゴのように変形した円をモチーフにしたデザインになっている。
しかし資金調達に苦戦して工期が遅れてしまい、払ったカラ家賃は1年半分。もっと安く作ることもできたのですが、チープなものを作っては再訪されない。圧倒的なものを作るために、頭を抱える毎日でした。
たとえば2階に水風呂を作るためには基礎を強くする必要があり、当初の見積りよりかさんでしまうなど、「サウナづくりってこんなにお金が掛かるんだ!」と銭湯経営をされている方を改めて尊敬しましたね。
建築中の水風呂エリア。排水させるため、かなり床のレベルを上げていることがわかる。
── サウナ室のこだわりを教えてください。
設計は個室サウナの先駆者ソロサウナtuneを手掛けた浜田晶則さんです。うちの特徴的な八角形のサウナ室は浜田さんの案。八角形にすると狭くはなるのですが、真ん中にストーブがあったほうが熱や香りのまわりが良く、何よりかっこいい!
ストーブはHARVIA。10分ごとにセルフロウリュが可能。
セルフロウリュができるHARVIAのストーブの上には、湿度を保つために水を蓄える石の器を載せているのですが、実は石焼きビビンバ用。色々試したのですが、これが一番安くて頑丈でサイズ感も良いので愛用しています(笑)。
熱が逃げないよう、1席削ってドアの前に小さなストーブを入れたのは僕のアイデア。狭いサウナにありがちなドアの開閉で温度が下がるのを防いでくれます。自分たちで定期的にサウナストーンを積み替えているので、だいぶ作業にも慣れてきました。
入口近くの壁に設置されたHARVIAのDELTA。小型ストーブながら熱のカーテンとなって、ドアの開閉で室内の温度が急激に下がるのを防ぐ。
座面下のサーキュレーターで空気を攪拌し、新鮮な空気が循環するようにしているので、熱くても息苦しくないサウナになったと思います。
── 香りが良いサウナ室ですよね。
セルフロウリュのアロマ水は季節と時間帯で配合を変え、朝はシャキッと目覚める柑橘系、夜はよく眠れるラベンダーや薔薇などが中心。このためにアロマコーディネーターの資格も取得しました。
「サウナが臭い」と言わせないために、サウナマットとして厚手の今治タオルを貸し出し、敷いているワッフル状サウナマットを頻繁に交換することで、清潔かつ贅沢に感じるようにしています。更にはサウナ室内に排水口を取り付け、頻繁にホースで丸洗い。僕自身が匂いに敏感なほうなので、徹底しています。
座面を取り外すことができるので、サウナ室内だけなく床まで洗い流すことができて、イヤなニオイが留まらない。
照明は間接光のみ。アンビエントミュージックを微音で流しているので、五感で“静かな熱”を楽しんでください。
リラックスのための細やかな心配り
── 水風呂の設計で大切にされたポイントを教えてください。
軟水を使った水風呂は、深さ90センチ。人が入るとオーバーフローして水を入れ替えていきます。最初に入ったときは「いつも仕事で使っている軟水が、水風呂になるとこんなに気持ち良いんだ!」と、びっくりしました。
基本は15.5℃で、冬はあえての14.5℃に設定。短時間でサクッと入ったほうがポカポカするので、湯船がないなかで気持ち良く過ごしていただくための工夫です。
水風呂の天井にはゆらゆらと移ろう水面が照らし出されているのですが、循環の真上にライトを設置し、反射して水面が映るようになっています。さすが浜田さんの設計だと思いました。
天井に映る水面の揺らめきは、どれだけ観ていても飽きがこない。
── 休憩エリアでは、内気浴なのにそよ風を感じました。
クリーニングではスチームで仕上げるなど熱い空気をはらむので、いかに風の流れをコントロールするか考えなくてはいけません。その知識を活かし、換気扇を入口側に排気、奥に吸気を置くことで、ととのい椅子に沿ったそよ風をつくっています。季節にあわせて窓の開け閉めとサーキュレーターの向きを変えているので、心地良い内外気浴を楽しんでいただけるはずです。
足元の寒さ対策として、足置きの上には湯たんぽ。好評なので冬だけでなく夏も2席に設置しています。座布団用の大きなサイズが足置きにシンデレラフィットだったのですが、4リットルの熱湯を小まめに入れ替えなくてはならないため、他施設では真似しづらいサービスだと思います。
ととのい椅子は4脚だが、最大6名なので満席になることはほぼないという。
壁面には吸音材を仕込み、照度は月光レベルの間接光だけにし、聴覚も視覚も落ち着く空間を目指しました。さらにリラックスしていただきたいので、時期によって提供するものは変わりますが、今はサービスでハーブティーと水羊羹を準備しています。
温かいハーブティーと水羊羹のサービスは、らかんの湯オマージュ。ホッとする時間が流れる。
ひんやりした風と、足元のポヨポヨと温かい湯たんぽの休憩は、うちでしか味わえないと思いますので、是非体験しに来ていただきたいですね。
混まないサウナを実現する独自の予約システム
── 予約方法も練られていますよね。
疲れた時にお金を払ってでもゆっくりしたいお一人様をメインターゲットにしたかったので、サウナ待ち、水風呂待ち、ととのい待ちが起こらない、少人数制の予約システムを考える必要がありました。
一気に複数人いらっしゃると混雑してしまうので、ずらすことで混雑を解消しています。15分ごとに1名入場、2時間だと最大8名になるので、予約状況を見ながら1時間あたりの人数が最大6名になるよう、手動で予約サイトの空き枠を調整するアナログな方法です(笑)。
サウナの受付。洗濯やクリーニングの相談にも乗ってくれるコンシェルジュが常駐している。
最初の1年くらいは男性90分制、女性120分制でしたが、「楽しみにして来たから、ゆっくり入りたい」という男性のご要望に応える形で、男女共に2時間制に変更しました。また、リピーターを増やすためにも土日祝日も一律料金にしたので、通いやすくなったとご好評いただいています。
── オープン当初の思い出を教えてください。
ビジュアルを重視するため外観に貼り紙をしない方針なのですが、毎日のように「なんのお店?」と聞かれていましたね。質問いただいた方にはできるだけ口頭でご説明し、スタッフ総出でチラシを配り続けました。
最近ではサウナがあることがかなり認知されたように思うのですが、未だに「クリーニングもやってるの?」と聞かれることもあるので、認知を広げていきたいです。
文字情報を極限まで削ったスタイリッシュな外観。ピクトグラムもノイズにならない程度のものを使っている。
── お客様からの反応はいかがですか。
「サウナ愛があるね」と言っていただくことが多くて、嬉しく思います。クリーニング店だからこそ提供できるふわふわタオルや湯たんぽも好評です。僕やスタッフが「自分が客だったら嬉しい」と考え抜いた細部なので、その一言で全てが報われます。
施設利用料のなかにハンドタオル、バスタオル、サウナ用タオルが含まれる。そのどれもが家庭では難しい極上のフワフワ感を楽しめるので、タオルのファンも多いという。
“終わりたくない時間”を未来へ
── 施設名neverendingにはどんな想いを込めていますか。
洗濯機がぐるぐる回り、サウナと水風呂と休憩を往復し、清潔なタオルが循環し続ける…。その「終わりのない流れ」を一言で表しました。さらに「ここで過ごす心地よい時間が終わってほしくない」「日常の一部としていつまでも続いてほしい」という願いも重ねています。
── これからの目標をお聞かせください。
サウナに向かう階段からラウンジは、ギャラリーとして活用していきたいと思っています。もっと身近にアートを感じていただきつつ、気に入った作品はお買い求めいただける仕組みです。
ギャラリーとしてエリア活用がスタートしたら、サウナの前後にアートに触れられる機会となっていく。
目指すのは「neverendingがないと生活リズムが狂う」と言われるようなサードプレイス。足拭きマットがビチャビチャじゃない、髪の毛1本見当たらない…そんな基本を徹底し続けてこそ得られる価値があると信じています。
ランドリーもクリーニングもサウナも「あそこへ行けば何とかしてくれる」と思われる存在でありたい。「終わりなき」を掲げたからにはアップデートを止めず、清潔と心地よさの最高峰を目指して走り続けます。