樹上アスレチック施設オーナーが建てた手作りサウナ小屋 Sauna kota LEPO(神奈川県厚木市)サウナ誕蒸#1
サウナ大好きクリエイティブディレクターの相沢あいさんによるインタビュー連載。サウナを作った方の想いやこだわりなどを深掘りしていきます。
今回から、サウナ施設を立ち上げた方へのインタビュー連載「サウナ誕蒸(たんじょう)」を始めます、サウナ大好きクリエイティブディレクターの相沢あいです。サウナイキタイでは、アドベントカレンダーやマガジンの編集をお手伝いしています。
この連載では、スペックだけでは計れない、サウナを作った方の想いやこだわりなどを伺うことで、サウナの愉しみを拡げていけたらと思っています!
初回は、神奈川県厚木市 七沢温泉郷の旅館「福元館」の片隅に建てられた、手作りのサウナ小屋「Sauna kota LEPO」。アスレチック施設建設のノウハウを活かしたサウナ小屋と、とろりとしたアルカリ性の源泉掛け流しプールが水風呂という、東京から車で1時間のロケーションとは思えないサウナ施設です。
ダブルオーナーのおひとり、三好洋一さんにお話を伺いました。
三好洋一
東京都出身。大学卒業後、自動車会社に入社し10年間機械設計に携わった後、半導体製造装置メーカーに転職。15年間ナノメートルという気の遠くなるほど微細な世界で、生産技術と一貫してモノづくりに従事。サラリーマン生活開始当初から抱いていた「最後は起業、それもアウトドアアクティビティーで」との思いを断ち切れず、3年かけて妻を説得し脱サラ。2017年にツリークロスアドベンチャーを起業。2022年にハンガリー出身のフェケテ ジョゼフと共にSauna kota LEPOを6ヶ月かけて一から手作りで建設。
人生を変えた薪ストーブ
── サウナを作ろうと思ったきっかけは?
正直、サウナは苦手だったんです。息苦しいのを我慢できなくて。そんな私がサウナにハマったきっかけは、激安の薪ストーブをツリークロスアドベンチャーの採暖用に導入したこと。
薪の位置を少し変えるだけで燃え方が変わったり、空気の量をいじることで揺らぎ方が変わるので飽きないんです。暇さえあれば火をつけたり、仕事が終わっても帰らず泊まって、炎の揺らぎを眺めていました。
そのうち薪ストーブサウナなるものがあることを知り、体験する前から「最高に気持ち良いんじゃないか?」とワクワクして。入ってみると、息苦しさが全くなく、長居できてリラックスできる。サウナのイメージがガラッと変わりました。
── そこから薪ストーブサウナにのめりこまれたのですね。
はい、地方のサウナを巡るほどに(笑)。私の住む神奈川県には薪ストーブを使った常設サウナがないことに気づいて、「無いなら自分で作っちゃおう!」って。
これまでのモノづくりの知識、技術、手作りでアスレチック施設を運営してきた経験があったこと、ヨーロッパのサウナをよく知るジョゼフがいてくれたことも大きな要因でした。
ハンガリー人と二人三脚で理想のサウナを作り上げる
── もうひとりのオーナー、ジョゼフさんとの出会いは?
ジョゼフは温泉大国ハンガリー出身で、ヨーロッパを移り住んだ後、2010年に来日。ドローンオペレータなどの仕事に就いていたのですが、2018年「ツリークロスアドベンチャーで働きたい」とやってきたんです。履歴書なども持ってなかったんですが、直感で信頼できそうだと思い、その場でOKしました。
一緒に働いてみると、手先が器用でセンスも良く、正直で真面目。アウトドアインストラクターを辞めた後は、林業でアーボリスト(樹護師)を目指して働いていたのですが、Sauna kota LEPOを立ち上げるときに「もう一度一緒に働きたい」と思い、声を掛けました。
温泉旅館の施設サウナではなく、間借りサウナに
── LEPOは温泉旅館の敷地内に間借りという、ちょっと変わった立地ですが、なぜそこを選ばれたのでしょう?
ツリークロスアドベンチャーの隣にあり、駐車場を借りるなどお世話になってきた老舗旅館の福元館さんが、コロナ禍で苦戦されていたので、少しでも恩返しをしたくて。
都心から1時間なのに山に囲まれ、自然に恵まれていることや、観光客が皆無で静かなこと(笑)、アルカリ性の湧水が豊富なことなど、条件が揃っていたんです。
── 「サウナを作りたい」と聞いた福元館さんは、びっくりされたのでは?
当時、日本ではまだまだサウナ小屋が珍しかったこともあり、「アウトドアサウナ」から伝わらなくて(笑)。
でも「絶対いける!」という自信があったので、何度でも丁寧に説明するつもりで臨んだ初回プレゼン。「ツリークロスアドベンチャーを成功させた三好さんが、そこまで言うなら!」と、いきなり了承いただいたんです。
ありがたかったのですが、「絶対成功させなきゃ」というプレッシャーも背負うことになりました。
フィンランドサウナを程よくジャパナイズする難しさ
── LEPOを建設するにあたり、参考にしたサウナなどはありますか?
The Saunaさんですね。日本のアウトドアサウナのパイオニア的な存在でリスペクトしています。
空気の流れやドアの小ささなど、参考になることが多かったのですが、当時のThe Saunaは良い意味で荒削りな部分もあり、作りこまれ過ぎていなかったので、「そんなに気張らなくてもいいんだよ!」と言ってくれたような気がしました。
LEPOでは環境を制御できないアウトドアサウナを通じて、「目を閉じると自分の体が外界に溶けていってしまうようなリセット感」を感じていただきたくて、あえてシンプルなサウナを目指しています。
ジョゼフの知る、湖畔にサウナ小屋だけがポツンと建つようなフィンランドサウナを再現したかったのですが、快適性なども少しは考慮しないとお客様に選ばれないことから、程よい”ジャパナイズ”に悩みました。
たとえば、プレオープン時に準備したリクライニングチェアは4脚でしたが、場所取りされると座れない人が出てくる。海外だと荷物をどかして座ったりするのですが、日本人はしないですよね。狭くなっても人数分の椅子があったほうが良いと判断しました。
また、熱効率を考えたらサウナストーブを囲いたくなかったのですが、安全面を指摘する人も出てきたので、ガードを作ったり、受付に注意書きを準備したり。日本人が好む丁寧さは、やり過ぎると興ざめにもつながるので、どこまでそぎ落としてシンプルにするかのせめぎ合いでした。
運が味方している⁉
── サウナを作る過程で思い出深かったことは?
LEPOの水風呂として使っている子ども用プールの発掘です。20年ほど放置されていたので、完全に草に埋もれ、旅館の方からも忘れ去られていました。
最初は何だかわからなかったんですが、草刈りしてプールだとわかり、掘り出してみると床が抜けてなくて、そばにあった朽ちた蛇口から出てきた水が源泉だったときはガッツポーズでした。
── LEPOのサウナ小屋は、思わず撮りたくなるデザインですよね。
完全オリジナル設計、地元の原木を利用してDIYで作り上げたサウナ小屋は、無骨さの中にかわいさも感じられる外観デザインだと思います。
内部は薪ストーブの揺らめく炎が主役となるようなレイアウト&最低限の照明にしています。ストーブは、当時サウナストーブの販売を始めたばかりだったモキ製作所の茂暖。国産ストーブを探していたら、炎が眺められる丸い窓に一目惚れして、写真を見ただけで買いました(笑)。
ストーブに火をいれては、トライアンドエラーで吸気口と排気口の穴の位置や大きさを微調整。空気の流れを理想の状態までコントロールすることで、常にフレッシュな外気で蒸されるフィンランド式サウナが完成しました。
要望を聞きながら都度改善を重ねて
── オープン当初はどうでしたか?
旅館のお風呂をサウナの前後に使わせていただいてたので、お風呂が大混雑したり、トイレまでの廊下が水滴でビショビショになってしまったりと、旅館にご迷惑をおかけすることも多く、とにかくバタバタで。
お風呂を効率よく共有できるように時間割を工夫したり、館内でのポンチョ着用などの様々なルールを運用したりと、旅館にサウナをなじませていくのに苦労しましたね。
プレオープン期間中にいただいた改善要望は、ほぼ全てグランドオープンまでの1か月の間に、死にもの狂いで反映しました。サウナ室前にサウナハットなどの小物を置く棚を作ったり、水着の脱水機を買ったり、外にシャワーを作ったり。実はこのシャワーも七沢温泉の湧水なんです。
── 訪問されたお客様からは、どういった感想をいただきますか?
薪ストーブの優しい熱とまろやかな湧水、きめ細やかな温度管理をお褒めいただくことが多いですね。アルカリ性の湧水で満たされた広大な水風呂、さらに春には花見ができちゃうアウトドアサウナは希少だと思います。
サ室の温度は80~90℃でコントロールするよう努めていますが、「オーバー100℃じゃないと!」という方には、数値的に物足りないかもしれません。ただ実際は長時間サ室に留まることができるので、遠赤外線効果で体の芯から温められ、大量に汗をかきます。なので「この温度で?」と不思議に思われる方が多いようです。
うちでは1日に50kgもの薪を使うのですが、オープンから3ヶ月くらいは、乾燥した良質な薪が間に合わず、二人で山を奔走しました。夢に出てくるほど追い詰められて、オープンから2〜3日は裏でひたすら薪割り(笑)。
当時は手作業で割っていて、8ヶ月くらい頑張ってみたのですが、腰は痛いわ、腕がパンパンになるわで、2022年の12月に薪割り機を導入しました。
── オープンからわずか2年で、専用シャワー室や待合室など、福元館内にLEPOのエリアが増えましたよね。
オープン当初、薄暗い裏口に通されて不安そうにしているお客様の顔を見て、施設をととのえていこうと決意したんです。旅館のリフォームに併せ、2023年の春にシャワー室を新設。デッキを連結して壁を抜き、旅館側から出られるようにしました。
待合室は2023年の10月に完成。業者を入れたらすぐ終わるんでしょうけど、ジョゼフと私の2人で進めていきたいから、じっくりゆっくり作っています。
サウナイキタイのサ活には全部目を通していて、次に何を作るかの参考にしています。まだまだやりたいことが沢山ありますね。
── 今後どういったサウナにしていきたいですか。
都心から近いという点を活かして、「疲れたからちょっとLEPOで癒そう」なんて、気軽に通っていただける存在になりたいと思っています。
開業当初は資金がなく、頭と体を駆使して作った施設なので、都会のサウナのような快適性、おしゃれ感は皆無ですし、アウフグースなどのイベントも全くありません。
でも最高のサウナと、最高の水風呂と、最高の外気浴エリア以外、何もないのがLEPOらしさとなりはじめています。
こんなことを公言するサウナも珍しいかもしれませんが、「何もないことで見つけられる・気づける“何か”」があると僕たちは信じています。これからも100%の手作り感、どこの真似もしないオリジナル感を大事にして、限りなくLEPO(フィンランド語でリラクゼーション)を極めていきたいと思います。
脱サラしてサウナアクティビティ施設を起業なんて夢がありますね!いつか訪問してみたいです!🙌
2回ほど伺っておりますが、記事を拝見すると良さとありがたみを深く感じます。
自分がサウナ小屋にハマるきっかけになったサウナコタレポさん。あの感動は忘れられない!
LEPO2度ほど茨城から行きました♪ よいサウナでした👏
行ってみたいー!必ず行く!!!!
めちゃ良さそう!! 行くっきゃない!!
記事を読んで、是非行ってみたくなりました。