サウナの今までとこれから
サウナイキタイアドベントカレンダー、クリスマスイブを担当しますSaunologyと申します。サウナについて、調べ、考え、まとめるブログをやっています。名前のリンク先に自己紹介がてらブログをやっている理由など書いておりますので、気になってくれた方は読んでもらえたら嬉しいです。
アドベントカレンダーで記事を書かせていただくにあたり、日本のサウナの今までとこれからについて考えてみました。
日本のサウナの今まで
日本のサウナの始まりは東京オリンピックからだと言われたり、サウナ好きの中で古参だ新規だという話が出たりすることがあります。調べてみると、日本にはもっとずっと長い蒸し風呂の歴史がありました。日本の沐浴の歴史を大まかにまとめると、このようになります。
各時代の詳細な内容については、ブログの記事で細かく書いてますので是非そちらもご覧ください。
ストーブで部屋を暖めるいわゆる「サウナ」が日本に定着するのは東京オリンピック後の1965年頃と言われていますが、日本のお風呂は古代からずっと蒸し風呂が主流で、「ふろ」という言葉はもともと「蒸し風呂」のことを指す言葉でした。「室」(ムロ)から「風呂」になった、とか、諸説あります。お湯に浸かる「湯風呂」が主流になるのは、江戸時代も後半になってようやくなのです。
洞窟などを使った自然の蒸し風呂から始まり古代から近世まで、文字の記録だけでなく絵巻物や草紙類にも蒸し風呂の記録がたくさん残っています。
サウナと言うと海外からの輸入品のように思ってしまいますが、日本の沐浴の歴史は大半が蒸し風呂の歴史で、お湯に浸かる入浴の歴史は浅く、日本人にはサウナ好きのDNAが受け継がれていると考えられます。
日本のサウナの今
今は空前のサウナブーム!と言われますが、日本では過去にもサウナブームと言われた時代が、一度ではなく複数回あったようです。過去の新聞からいくつか紹介します。
過去の新聞記事を見てみると、サウナの人気やサウナ好きの増加について1960年代から取り上げられています。「ブーム」という言葉も記事の中で使われています。サウナが今ブームだ、という文脈でサウナが語られることが、1960年代から今に至るまで繰り返されているのです。最近メディアでは「おじさんのものだったサウナが女性にも!」というような切り口でサウナが取り上げられたりもしますが、それも1980年代には既に新聞で取り上げられている話題なのです。
1960年代以降、繰り返しサウナ人気が新聞で取り上げられる背景として、オリンピックを機にフィンランド式のサウナが入ってきたということも大きいと思いますが、戦後の健康ブームも関係があるようです。また、80年代に女性にもサウナが流行した背景には、1986年に男女雇用機会均等法が施行されたことなども関係があるとも言われています。
サウナ人気、女性もサウナに行くようになった、という話題もですが、もっと言うと、早朝サウナ、いわゆる「朝ウナ」やサウナで会議、という話も、1970年代や1980年代にはもう新聞で取り上げられていました。
もちろん、今のサウナブームにはこれまでとは違う特徴もあります。以下のようなものがこれまでとは違う、今のブームの特徴と言えそうです。
書籍や漫画は過去にもあるようですが、ここ数年は出版されたものが多い印象です。インターネットを介したつながりや発展の仕方は今のブームの特徴と言えそうです。施設のサウナが中心だった過去のブームに対して、アウトドアのサウナやそれに伴うサウナハット、ヴィヒタやウィスキングなど、海外のサウナ文化が入ってきているのも過去のブームとは違うところです。これらに伴って、それぞれがグッズを出したり、それを集めたりという動きもあります。
繰り返されてきたサウナブームの中で、今には今の新しい要素があって、盛り上がりを形作っていると考えられます。ではこのサウナブーム、これからどうなっていくのでしょうか。
サウナブームのこれから
このブームを日常に!サウナ人口を増やそう!そしたら良いサウナ施設が増えていく!という声も聞きます。本当にそうでしょうか。そんな単純な話ではないはずです。
実際に今は空前のサウナブームと言われながらもサウナ好きに人気の老舗の廃業・閉店の話題も後を絶ちません。まずはサウナを取り巻く様々な状況から、日本のサウナのこれからについて考えてみました。
複数の視点から見てみると、そもそも温浴事業に限らない日本全体の課題も多く、ネガティブな結果になってしまいました。それでも過去とは違う今のこのブームがあればサウナがみんなの日常になっていくのでは!という声もありそうです。
「ブーム」と言われ、盛り上がりを見せているサウナですが、サウナに頻繁に行き、SNSでサウナの話をしている人たちは、全体からしたら一部です。今サウナのアカウントを持っていて、サウナの話ばかりしている人たちも、自分の家族や友人、仕事仲間などSNSから離れた人間関係の中ではそれほどサウナ仲間は多くないのではないでしょうか。
そして、全体の中で一部であるサウナ好きも、全員が今後もずっと毎日のようにサウナに行くわけではないでしょう。サウナにハマりたての時には、毎日のように、あちこち新しいサウナを探して巡っていたのが数年経つと落ち着いてペースが落ちたり、行くこと自体しなくなる人もいます。
そもそも「ブーム」という言葉は、一過性で去ってしまうもの、という意味を含んでいます。実際の事例をもとにブームという現象を分析して、どういう流れをたどるのか、そのメカニズムに迫ってモデルを提示した研究があります。それによると、事例によって多少の差はあっても、ブームはどんなものでも同じような盛り上がりと衰退の流れをたどると言います。
結局どんなブームであれ、これを巻き起こしているものは人々の心の移り変わりに他ならない。如何なる話題に関しても、基本的には同じようなリズムで盛り上がって群がり、そして飽きて去っていく、という人間の性・宿命を垣間見ることができるのである(中桐・栗田、p.99)。
いかに盛り上がっても、ブームというのは去ってしまうものということです。こんな指摘もあります。
ブームは、いつもブームが去った後の荒涼とした淋しさや空しさとともに語らえる必要がある。けれど実体はブームについての議論が賑やかである反面、ブームが去った後は誰も見向きもしないものである。もっともらしく言うなら、ブームとは所詮、そういうものなのだ(芹沢、p.i)。
「ブーム」をきっかけにでも、それ以外のきっかけでも、一度サウナを好きになっても飽きる人はいますし、長年サウナに行くとサウナが珍しい体験ではなくそれこそ日常の体験になるがゆえに、毎日行かなくても満足できて頻度が減る人もいるでしょう。生活スタイルの変化で時間の使い方などが変わってサウナの優先順位が変わってくる人もいるでしょう。
ブームのさなかにいて、サウナが好きな人が自分たちのように行っていない人に対してサウナを日常にしていこう!みんなもサウナなしでは生きられない人になろう!と言っても、必ずしも同じテンションでサウナを好きになるとは限りません。サウナ好きといっても度合いの違いもありますし、サウナ好きの母数を増やすには、みんなにとってサウナが日常に溶け込むということを期待するのは有効ではなさそうです。
「ブーム」は日常に定着していくものではなく、一度好きになった人も必ずしも毎日サウナに行き続けるわけではない、つまり毎日のようにサウナに行き続ける人は一部のサウナ好きの中の更に一部で、多くの人にとっての「日常」になるのは難しいといえそうです。
暮らしに定着するには、日本人の生活に合っていないといけないわけで、過去に「サウナが人気」と言われてきた時に定着しなかったのは、やっぱり、日常の中に組み込まれるものではないということなのかもしれません。定着するチャンスは、今までもいっぱいあったわけですから。
日本のサウナのこれから
サウナのこれからはどうなっていくのか。日常として定着するのではなく、その未来は「非日常として定着」なのではないでしょうか。サウナに行かなくても死なないし、毎日行くにはお金もかかります。衛生を保つ入浴として、毎日必ず入るというものにはなっていかないでしょう。それより、日常から離れて気持ちを切り替える「非日常」に特化したものとして発展していくのではないでしょうか。一部のサウナ好きにとっては、日常のもの、毎日のように行くものかもしれませんが、サウナが日常にならないその他の大勢にとっては、非日常の楽しみ、レジャーの一つとして発展していくのではないでしょうか。例えばテントサウナは、入浴方法の一つというサウナの側面から、より非日常のレジャー寄りのサウナの楽しみ方に発展している例だと思います。
サウナを日常に!と言うよりも、非日常に特化した趣味として発展していくのがサウナのこれからの姿なのではないでしょうか。サウナが好きで、自分の生活に合わせて高い頻度で通う一部の人は何をしなくてもこのまま自分なりのペースでサウナに行くわけですが、サウナ好きの母数を増やす、温浴施設の減少に歯止めをかける、ということを考えるのであれば、非日常の楽しみをいかに充実したものにできるか、そこが鍵かもしれません。サウナを提供する施設側も、いかに充実した非日常の時間を提供できるか、そんな視点でアピールをしていくと、今のブームに乗っかって、サウナを日常としてではなく、非日常の趣味として発展させていけるのではないでしょうか。
最後に
何もブームに水を差すようなネガティブなことをわざわざ言わなくても、と感じる方もいるかもしれません。でも、サウナが好きで一生サウナに入り続けたいからこそ、少し真面目に考えてみました。過去にもブームはあり、去っていったわけですが、今のブームには今のブームなりの特徴があって、これまでとは違う価値があると思います。課題を明確にし、具体性のある施策を考え、それを効果的に実行し続けていけば明るい未来も見えてくるのではないかなと考えます。いちサウナユーザーが偉そうにと思われるかもしれませんが、これも好きの形の一つと思っていただければ幸いです。
最後に少し宣伝させてください。この記事のようにサウナにまつわるいろんなことを調べ、考え、まとめるブログをやっています。マニアックに色々な記事を書いていますので読んでいただけたら嬉しいです。
https://saunology.hatenablog.com/
それでは皆さま、お気に入りのサウナで良いクリスマスをお過ごしください!
参考文献・資料
- 芹沢俊介(1990)『ブームの社会現象学』、筑摩書房
- 中桐裕子・栗田治(2004)「社会的なブームの微分方程式モデル」、公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会『日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌』47巻、 pp.83-105
- 『朝日新聞』
- 『読売新聞』
私もこれからずっとサウナを好きでい続けたいと改めて認識することが出来ました😊
お見事!面白かったです👍