さようならスパプラザ
2019年3月31日に、1つのサウナの歴史に幕が下ろされた。
「スパプラザが閉店するらしいぞ」速報がSNS上に流れてきたのは2018年11月のことだった。様々な憶測が飛び交い、サウナ愛好家たちは混乱していた。
半ば興奮状態で喧々諤々している人々を煙たがり、揶揄する者もいた。
私がサウナに入り始めるようになったのは、地元に「よみうりランド 丘の湯」がオープンしたことをきっかけに温浴施設に通うようになってからだった。
当初の10年くらいは銭湯、スーパー銭湯にしか足を運んでいなかったこともあり、所謂「推し」の施設が閉店するという場面に遭遇するといった経験をしたことがなかったので、縁のなかった施設の閉店情報をどこか他人事のように受け流していた。
第一報から数日後、どうやら噂は真実だということが確定した。その時はじめて「推し」を失うことの辛さを痛いほど実感した。
遅ればせながら2017年の夏に神戸から京都までのサウナ旅をした際にはじめて訪れ、とてつもないカルチャーショックを受けた。
おじさん達の楽園。働く男たちの社交場。いや、そんな簡単なものじゃない。形容すると陳腐な言葉になるのがもどかしい。
あまりにもスパプラザが恋しくて、「ちょっと地元(川崎)に帰省がてら、友人と飲んでくる。泊まりになるかも」と家族に言い残してはるか西の神戸サウナと併せて新年早々行ったこともあった。
これはのちのちバレることとなり、未曾有の家庭内危機を迎えることになったが、今となってはいい思い出だ。
スパプラザとの思い出を風化させないためにも、サウナ愛好家達の記憶の画像フォルダから削除されないためにも、しかと記録を残したいと思う。ぜひ、最後までお付き合いいただきたい。
他の温浴施設とは一線を画すレセプション
エレベーターで6階にあがるとSPA PLAZAの力強いロゴ。一気に汗腺が開く。
レセプションは一見モダンでクラシックなホテルのよう。ここがなんばの飲み屋街であることを忘れさせてくれる。
シューズボックスのキーも可愛い。
スパプラザは原則、アカスリとマッサージ付きがデフォルト。マッサージの種類と長さでコースが分かれる。マッサージ抜きでアカスリのみ、さらに裏技でサウナのみというコースに変更することも出来た。
ロイヤル、いやまてよ久しぶりなのだからと熟考の末にキングコースを選び、気分が高揚しきっているおじさん達をしばし童心に返らせてしまうほどの魅力があった。
写真では判別し難いが、ロッカーキーは手首などに巻きつけるタイプではなく首から下げるタイプだった。
天国への階段は下りだった
大げさかもしれないが、この階段を下りるとき、大観衆が待つリングへ向かう格闘家になったような、大舞台の主演になったような気分になった。
はやる気持ちを抑えながら、シェービングルームへと向かう。
階段を降りるとまず、足シャワーが出迎えてくれた。神戸サウナもだけど、この気遣いにいっそ恐縮する。
「ひげを剃る」ためだけの極上空間
他所の施設では見たことがないのだが、スパプラザにはシェービングルームなるものがあった。シャワーブースと洗い場という構成なのだけれど、カランにはシャワーが付いていない。出るのはお湯のみ。文字通りただ髭を剃るのみの場所なのだ。
さらに、このシェービングルームはスチームサウナ仕様で、絶えず湯気でもくもくしていた。温度は40~50℃くらいで絶妙な温かさだった。
一般的な洗い場は無くここで全て済ませてからサウナを楽しむ。この贅沢な動線が堪らなく好きだった。
最後に訪問したときは、平日会社だったにも関わらず、髭を剃らずにためにためて一気に剃るという行為に及んだ。カミソリが良いから、とかそんな理由じゃない。そのくらい、ここのシェービングルームが好きだった。
キンシャリの冷タオルを惜しげもなく使う
スパプラザと言えば名物冷タオルとデトックスウォーターも忘れてはならない。半分凍りついたタオルで顔をゴシゴシ。特に夏場はシェービングルームで少し火照った顔をひやすのにも良く、これがまた格別に気持ちよいものだった。
さらに今となっては、スパプラザのレイアウト図も非常に貴重なもの。れっきとした歴史史料だ。本稿の写真の大半はゆーじんさんにお借りした。尊敬すべきサウナー、いやスパプラザーである。(写真撮影は許可済みです)
ヴィヒタを吊るしてあり、サウナハットのレンタルもあった。しかし、利用者は殆どおらず大半の人が冷やしタオル2枚使いの忍者スタイルでアウフグースに臨んでいた。ピンクのタオルが懐かしい。冷やしタオルの精神は熊本湯らっくすに受け継がれている。
身を清めて向かうはストーンサウナ。
ドライサウナも照明が落とされてていい雰囲気なんだけど、ストーンサウナとの差別化があまり無かったので全然入らなかった…ごめん、ドライサウナ…
30分に一度のアウフグースに集う忍びたち
メインサウナへ到着。名物のikiストーブが鎮座している。全てのサウナ室がこの照度をスタンダードにして欲しい。サウナ室の空間づくりってまだまだ改善の余地があると思う。
テレビはあるけど、ロウリュ時は消音してくれていた。温度も80℃を指しているくらいだけど、最上段で受けるロウリュはかなりの熱さだった。人数が多いと、スタッフも2名体制でアウフグースしてくれた。ワッフル型の一人用マットを2枚使いするのが基本だったね。
ちなみにスパプラザのサウナパンツ着用率はほぼ100%。フルチンだとみっともない気品が浴室に溢れていた。
ロウリュを受けきったあとに目指すはオクタゴン型の水風呂。ゆるいバイブラがあり、閉店前は14℃前後でキンキンだった。水風呂は22℃前後のものと2種類。デッキにも22℃くらいの水風呂があった。
なんばの天空にこそオリエンタルなサウナリゾートがあった
水風呂を出てデッキへ。「俺は今、どこかのリゾート地へバカンスに来てたんだったけか?」と思わず錯覚してしまうムーディーな雰囲気の中で、外気浴をしながら幾度となく宇宙の彼方へ飛んでいった。
タナカカツキ先生が「ととのい椅子NO.1を決めよう」と仰っていたけど、このスパプラザのベッドもぜひ候補に入れて欲しい。
こういう色んな要素をごちゃまぜしている箱庭的な場所がとても好きだ。タイルや柱の青いモザイクは中央アジア~トルコのオリエンタルな要素を醸している一方、赤道直下のビーチリゾートのようであり、この統一感の無さがむしろ非日常に浸らせてくれる。なんばまで来てよかった~と焦点の定まらない目で空を見上げながら毎回思ったものだった。
こだわりが凝縮しているスローサウナでやすらぐ
ロウリュを2回くらい受けたのち、スローサウナで緩急をつける。
日本のサウナ室の形状で最も美しい部屋の1つだったのではないだろうか。円形の部屋の中央に細いikiストーブが構えており、適時アロマ水のオートロウリュが注がれる。温度は60℃くらいで座面も1段なのでとてもマイルド。しかし、無音で静かな部屋はメディテーションにピッタリだった。居心地が良すぎて、アカスリ前にここでなんどか寝かけてしまった。
円形の椅子って高度な技術で難しいんだよね。モンゴルのゲル(パオ)のようなユニークなサウナ室、ここと星のや軽井沢でしか見たことない。ストーンサウナもスローサウナも、梅田で面影が残っているとのこと。しかと、この目と身体で確かめにいきたい。
アカスリを受ける
スローサウナとシェービングルームの間にある扉を開けると、アカスリ場になっている。写真はないのが残念だが、縦長に連なる洗い場と大きな浴槽があるホテルの大浴場を思い浮かべて欲しい。
スパプラザのシステムは、一般のサウナ施設とは異なり、一方通行の片道切符になっている。(アカスリの後はそのまま自動的にマッサージになるため)
サウナを適度に楽しんだ頃合に館内放送でロッカー番号が読み上げられるようになっていて、それがアカスリの合図だった。なので、アカスリの前にゆっくりサウナを楽しみたい人は事前に受付で申し出るか、アカスリ場でその旨を伝える必要があるのだけど、初見では当然難しい。しかし、そういった戸惑いすらワクワクして楽しめるような良さがあった。
洗い場に腰掛け、妙齢の女性に文字通り身体を洗ってもらう。東京だとこういったアカスリは受けられないだろうなあとふと考える。申し訳なさでいっぱいなんだけど、大阪の文化を濃密に感じる瞬間でもあり、東京から遠いところへ来ていることを実感できた。時間は15分程度だろうか。すっかりアカを落としてもらい、マッサージへと送り出してもらう。
アカスリを受けた勇者がたどり着くオアシス
アカスリを終えると、この休憩所に通される。時間としては場合によっては数分なのだけど、ゆったり確保されたスペースに再度びっくりする。ここでは、飲み物やアイスキャンディーを注文できるし、雑誌を読んで寛ぐこともできる。また、タバコが吸い放題で、テーブルの中央にライターと共に置かれている。
もうとっくの昔に禁煙したくせに、吸いたいわけでもないのに、毎回つい一服してしまった。
スパプラザが誇るchillスペース、その名もおでんコーナー
マッサージ待機の休憩スペースの奥に、飲食スペースとリクライニングスペースがある。その名もおでんコーナー。バーカウンターでポンチョとサウナパンツに身を包んでおでんをつまむ。なんともシュールな光景だが、このおでんコーナー、意外と人気で常連さんらしき人達がたくさんいた。
このおでんコーナー、実は浴室からもダイレクトに入って来れるようになっている。
サウナを楽しみつつ、おでんを食ったりアイスを食べたり…。欲望の赴くまま過ごせる『ピノキオ』に出てくる遊びの島のような場所だ。しかし、リゾート地のような雰囲気でおでんをつまむのもシュールすぎるし、つくづく魅力に溢れる施設だなあと思い返した。
圧巻のマッサージスペース
休憩スペースにマッサージ担当の方が迎えに来てくれたら、階段を昇ってマッサージスペースへ。マッサージスペースって浴室の隅っこに頑張って確保しているイメージが強いけど、スパプラザは1フロア全てがマッサージ専用だった。
この施術台の数、圧巻である。
普段サウナ施設ではマッサージを受けないの(自覚症状がないから)だけど、スパプラザで受けるたびに「凝ってますね〜」と言われるのが、「サラリーマンしちゃってる」みたいでなんだかいつもむずかゆかった。
ほとんど会話は交わさなかったけど、今年の2月と3月に訪れた時は意識して会話するようにした。「私らも突然でねえ〜」、「東京から?あらまあ〜」と遠方からの訪問を喜んでくれる一方で、どこか言葉に力がないようにも聞こえて切なかった。
最後の晩餐はスパプラザで迎えたかった
たっぷり身体をほぐしてもらったあと、最後に案内されるのはレストルーム兼御食事処。このフロアもスペースがゆったりとられていて、独特のオリエンタルな内装が施されていた。
トルコとかモロッコあたりの石窟のようでもあるし、スターウォーズのタトゥイーンにありそうな雰囲気と和風の寿司カウンターとのミスマッチな感じがたまらなく好きだった。
日本のサウナ施設の休憩スペースで一番好きだった。ここまでの一連の流れこそがスパプラザであり、唯一無二の存在だったと思う。
ご多分に漏れず何を食べても美味しかったけど、ガウンを着ながらカレーうどんをワシワシ食べるの、全く格好良くなくて最高だったな。レンゲが炉端鍋のおたまみたいなとこも好き。
みんな大好きうずしお巻きとうなぎの棒寿司も忘れちゃいけないね。個人的にはうなぎの方が好き。せっかく大阪に来たのに、ここではち切れそうになるまで食べるから全く大阪のうまいもん食ったこと無かったな。
大阪なのに伯楽星っていうのがチグハグで面白かった。このガラスケース、IKEAのそれよりも部屋のインテリアにできたら最高にオシャレだな、と最後に訪問した時に思わずパチリ。
もう、悔いは無い。5感全てに記憶を叩き込んだ。
スパプラザの閉店をきっかけにサウナの未来を考える
もう少しだけ、独りよがりな仮説にお付き合い願いたい。
私にとってサウナは、入浴という極めて日常的な行為の中に見いだす非日常性を楽しむものだと思っている。
日常の生活から離れて気持ちをニュートラルにするために、近所の銭湯に行く時でも、自分の気分と体調にベストマッチしている場所をしっかり考える。
例えば、仕事を優先するあまり、食べたくもないパンやおにぎりを無理矢理胃につめこむような「取りあえず満たす」行為は苦手だ。そこには何の感情も感動も物語もない。その点は、サウナに対してもスタンスは一緒で、気分が乗らずに迷うくらいならさっさと寝床につく。常に全力で対峙していたい。
そんな自分にとってスパプラザは、社会の中の摩擦によって歪んだ心の隙間をピッタリ埋めてくれる圧倒的な非日常空間だった。そして、とても残念だけれど、この素晴らしい非日常空間が2度と戻ってくることはない。
もうこんな悲しい想いはしたくない。せめて、雀の涙程度だとしても、考えたい。書きたい。サウナに寄与したい。
ビルの老朽化や様々な社会的要因、政治、経済的要因が複雑に絡んでいるとはいえ、「もういちどサウナの施設を建て直す」という決断を後押しできない程度のサウナブームってなんなんだろう。
それは果たして本当に、「空前の」波と呼べるものなのか。そもそも、日本全国で等しく盛り上がっているのか。少なくとも自分には、情報の偏向が極度に進んでいること、そしてそのことによって引き起こされる弊害というデメリットでしかブームを実感できていない。
テントサウナが爆発的に認知されだした要因の一つに、残念ながら既存の施設では、現在起きているブームの渦中にあるサウナ愛好家たちのエネルギーや欲求を受け止めきれていないことが挙げられると思う。
潜在的にアウトドアが好きで、かつサウナも好きな人がたまたま多かった、という訳ではなく、より自由で、より本格的で、より充実した気持ちになるためのサウナ環境を求めた結果、今の日本にはテントサウナが最も身近だった、という結果なのではないかと考えている。
テントサウナによってサウナが盛り上がってより多くの人々に認知されることはとても素晴らしいことで、いちオーナーとしても喜ばしいし、もっともっと洗練されたイベントが各地で開催されたら素敵だと思う。しかし、喜ぶとともに、その裏で起きているサウナを取り巻く環境についてもしっかり注視していたい。
SNSを介して海外のサウナ文化がたくさん共有され、どんどん愛好家が増えているということは、多種多様な潜在的ニーズも比例して生まれているということでもあるが、それに呼応できている施設が少ないという現状をしっかり見つめる必要があるのではないか。
正確には呼応できていないのではなく、「情報の偏向」によって、光が当たるべき施設にスポットが当たっていないということでもあると思う。個性的で魅力に溢れる施設はまだまだ身近にあるのに、同じ町内にもまだまだあるのに。もしかするとスパプラザもそういう意味では、光があたらなかったということも要因としてはあったかもしれない。
しかし、情報の偏向を悪として原因として追求し、糾弾するのではなく、サウナが抱えている課題の一つと捉えて、少しでも是正に寄与できるよう努めていこうというのが今現在私の考えだ。
ジリ貧で貧困化が進んでいると言われる日本において、一日も長く楽しくて快適なサウナライフを皆が送ることができるよう、課題をみつめ、情報を共有し続けていきたい。
スパプラザの閉店をきっかけにたくさんのことを考えさせてもらった。スパプラザの面影が残るニュージャパン梅田にも、早く足を運びたい。もしかしたら、スパプラザもその役目を終えて、新しい時代の波にバトンを渡してくれたのかもしれない。いたずらに過去を美化せず、前に進もう。
願わくば、2020年も波が引くことなく、情報が均一化され、サウナが益々盛り上がることを祈念して。
さようなら、スパプラザ。
とても良い記事でした。思い出が蘇ります。 もう一度、いやもっともっと行きたかったスパプラザ!ありがとう!!スパプラザ!!
自分がサウナに目覚めた聖地を余す所なく書いてくれて嬉しいです
スパプラザの記憶が甦りました。 ここにいく時は、わざわざきて数千円ケチる意味もないしな。。 と、迷わずキングになります。 懐かしさと寂しさが込み上げてきました。
スパプラザが今でも私の中の聖地です。 最近サウナにハマった方にもしってほしい施設ですよね!
感動しました!
貴重な情報をありがとうございました。グッときました。
近いのでいつでも行けると思ってたら閉店してました。貴重な写真ありがとうございます。
サウナ愛溢れる名文でした。日本のサウナの未来、考えていきたいですね
老舗が閉店されるのは本当に残念ですね。
日本にあった古き良きサウナ文化のアーカイブだけでなく、いまのサウナブームから未来における良き入浴までを見据えた舌鋒するどい記事でした。 ぷいぞうさんはホテル併設サウナの記事といい、ブームを突き放すんじゃなくてこの先もサウナがいかに楽しめるのか思考するのをやめないので、ほんとうにサウナを愛しているんだなと信頼を抱いてしまいます。 スパプラザめちゃ入ってみたかった……