日曜夕方の美春湯。混んでいた。
私は待つことが大嫌いだ。なので区役所も銀行も病院も嫌いだ。
いずれも生きていくうえで大切な場所だが、それでも嫌いになるくらい待ちたくないのだ。待つくらいなら死んだ方がマシだ。でも閻魔様の前で待たされるかと思うと、死ぬのも嫌だ。
薬湯をあがって向かった美春湯のサウナ室。フルハウスだった。
待つのは嫌だが、さすがに帰るわけにはいかない。待つことにした。
スマホもなければ文庫本もない。仕方がないのでガラス越しに脱衣場のテレビを眺めた。
相撲中継が流れていた。興味はない。興味はないが見るよりない。
「もう裸の男は飽きた!」と叫びかけたところでサウナが空いた。
サウナ室に集う裸の男は好きだ。
子供の頃、年末年始は必ずしも楽しい時間ではなかった。理由はいくつかあるが、大きかったのは食事だ。
そば、おせち、お雑煮。好みはあろうが、これらを喜ぶ子どもは多くないだろう。しまいにはお屠蘇などと称し超法規的に酒まで飲まされるのだ。
しかし、お年玉という破格のギャランティーを前に「このお雑煮、世界一おいしい!」などと大嘘をかまし、ばあちゃんを騙したりしていた。内心は「カレー食いてぇ〜!」「ハンバーグ食いてぇ〜!」「チートス食いてぇ〜!」だ。
お年玉がもらえなくなったのにも関わらず、大人となった今は年末年始が大好きだ。味覚も成長するのだろう。
今回も実家で「そば、うめー!」「おせち、うめー!」「餅、うめー!」「酒、うめー!」「チートス、うめー!」と暴力的な食生活を送った。
正月休み最終日の本日、美春湯で私は震えた。
「ウソ…だろ…」
立派なデジタル体重計が衝撃的すぎる数字を示した。「これ壊れてますよ!」と言いかけたが、どう考えても壊れているのは私の身体だ。
サウナで痩せることはできない。周知の事実である。わかってはいたが、藁にもすがる思いでいつもより長く入った。
結果、400gほど減っていた。もちろん水分が抜けただけである。
「やった!痩せた!もはやガリガリ!」
ばあちゃんを騙していた子どもは、大きくなって自分を騙すようになってしまった。賀正。
札幌市は10区からなるが、私の住む白石区はあまり人気がない。品がないとか、小汚いとか、そんなイメージを持たれているようなのだ。
私は10年以上住んでいるので、住めば都じゃないが、そこそこよいところだと思っている。街を歩けば歯がないオジさんによくすれ違ったりするが、それが何だというのだ。むしろエンターテイメントである。
なにより白石には美春湯をはじめとした素敵な銭湯がいくつもある。それをもって、白石 アズ ナンバ ーワンと自信をもって宣言したい。
本日の美春湯、冬至ということで生ゆず湯を実施していた。その芳香たるや、白石区中に満ちるワンカップ大関臭を一網打尽にせん勢いだった。サウナ室にもほんのりとではあるが、さわやかな香りが漂っていた。
「さっきのゆず、絞って焼酎に入れたらうまいだろうな」
そんなことを考えた私はやはり白石区民である。
そういえば、この白石で、この美春湯からそう遠くない場所で育った歯のないオジさんが先日日本一になった。やはり白石 アズ ナンバーワンなのだ。キャラメルは銀歯泥棒なのだ。
徐々にだが確実に日常が戻ってきている。
まだ油断はならないが、離れざるを得なかった人や場所が少しずつ元通りになってきている。
何が言いたいのかというと、「昨夜ススキノでバカみたいに飲んだので今日は死に体だった」ということだ。
二日酔いほど虚しいことはない。「なんであんなに飲んだんだろう」「しばらく酒はやめよう」という後悔と誓いの中で嘔気や頭痛が過ぎ去るのを待ち続ける時間に、生産性はゼロだ。
「二日酔いにはサウナがよい」という話を聞いたことがある。多分これは間違っている。間違っているどころか却って身体に悪いのではないかと思う。
なので、身体を第一に考えれば今日はサウナに行くべきでなかった。
だが、私は身体を第一に考えていない。そもそも身体を第一に考えていればあんなに飲みはしない。
後悔と誓いを昇華するため、美春湯に向かった。
サウナの前のウォーミングアップ。いつものように薬湯へ。
日替わりの薬湯は本日「ワイン」だった。
オーマイガッ、と本当に声が出た。
酒の匂いすら勘弁してほしい。ワインとはあんまりだ。
いや、入ったけどね。入るよ、そりゃ。よかったよ、ワイン。よい匂いだったさ。色も綺麗でね、うん。
ワインを纏ってのサウナ室。汗とともにアルコールも流れ出ているような気がしないでもない。それでも二日酔いがサウナで治るとは思えないが、少なくとも後悔と誓いを繰り返していた心は軽くなった。
初め「汗とともにアセトアルデヒドが〜」と書いて「うわっ、ダジャレになっちゃってんじゃん!」と書き直したのは内緒です。
女
-
55℃
-
15℃
「風が吹くと桶屋が儲かる」という諺がある。一見つながりのなさそうなことでも実は関係がある、といった意味合いだろうか。
「風が吹く→埃が目に入って盲目の人が増える→盲目の人は三味線を始める→三味線は猫の皮を使う→猫が減ってネズミが増える→桶が齧られまくる→桶屋が儲かる」ということだ。現代の感覚だとツッコミどころが多すぎるものの、スーパーコンボの完成である。ぷよぷよなら「ばよえ~ん」だ。
「俺が風呂道具を携えて出勤すると怒られる」という諺は私がいま作った。これまでは偶々だと思っていたのだが、どうも関係がありそうなのだ。
「風呂道具を携えて出勤→風呂やサウナのことしか考えられなくなる→Googleマップを開く→『本気出したら美香保湯まで歩けちゃうんじゃね?いやいや、無理だっつーのwww』→上司に会議資料を催促される→『できてねーしwwwそれも無理だっつーのwww』→怒られる」
以上である。
皮肉なことに怒られるとサウナ欲は加速するので、結果オーライだ。むしろ自ら怒られに行っているきらいすらある。会議のひとつやふたつが吹き飛んだところで何だというのだ。
今日の美春湯はサウナがいつもより少し熱かった。
帰り道はあえて南郷通を避けた。本日、札幌は今季一番の寒さだったらしい。火照った体をびゅうと寒風が襲った。桶屋が儲かるだろうな。
寒い。寒過ぎる。
つい先日まで扇風機を抱えていたというのに、冬の気配がビンビンに迫ってきている。
「北海道の人は冬が大好きで寒さに強い」
たぶん大きく間違ってはいない。この前、職場の人たちがスノーボードを新調したとか何とかで盛り上がっていた。
私はマイノリティだ。ゴーヤが食えない沖縄の人、サッカーが下手なブラジルの人、私は彼らに同情を禁じ得ない。
今シーズン初の手袋をし、チャリで美春湯へ。
寒さに耐えたのちの湯やサウナは何ものにも代え難い。その点だけにおいて、寒さを甘受している。
我慢の果てに待つのはいつだって至上の快感だ。ここから下ネタを展開するのは容易だが、美春湯に免じてやめておく。
間もなく雪という名の殺人兵器が降ってくる。チャリにも乗れなくなるが、幸い美春湯は我が家から徒歩圏内である。
美しい春をこじんまりとしたサウナで待つのも悪くないだろう。
(お詫び:最後に下ネタを放り込んで『結局下ネタ言うのかよ!』みたいな感じにしたかったんですが、できませんでした)
久しぶりの銭湯サ活。地下鉄駅からすぐ、駐車場も充実。全体的にコンパクトな作りで正面奥に右が水風呂、中央にジェット、左にバイブラ(今日はラベンダー)。壁には壮大な銭湯絵が。湯船の中に座れる石?あり。サウナは一段4名、奥に椅子一つ。備え付けサウナマットがある。マイルド設定でゆっくり入れる温度。水風呂が手前と奥に段差ありで1人でのびのび入れるサイズ。水温も16℃ほどの好きな冷たさ。脱衣場には無料ドライヤーと最新の体重計。大型業務用の扇風機が良い!ロッカーは無料だが鉄の四角いやつなのでサウナで熱くなるので注意。カラフルな人もいたが全体的にマナーが良く地元に愛され銭湯。
風呂上がりはドリンクとアイスも売っているがガリガリ君が無い!入れたらいいと思うよwwww

男
-
85℃
-
16℃
松屋で創業ビーフカレーを食らい美春湯へ。
本日の薬湯は米ぬか湯。色といい泡の立ち方といい米のとぎ汁そのもの(褒めてる)で、ごはんの甘い香りが鼻腔をくすぐった。薬湯・オブ・ザ・イヤーは間違いない。ベスト薬湯ニスト、グラミー賞薬湯部門、上方新人薬湯大賞も総ナメだ。糠ニシンや糠ホッケを大いに妬んだ。
米ぬか湯を後にしてサウナへ。
「米ぬかに漬かった後は暗室で水分を飛ばすだなんて、まるで何かの珍味作りだな!」と間抜けなことを考えながら閉眼。
…熱い。いつもより確実に熱い。
もしかしてアレか?俺は本当に珍味になっちゃうのか?注文の多い料理店的なことか?糠オヤジなんて誰も食わないぞ?今ならほんのりカレー味だよ?
気持ちよすぎてバカな空想が暴走した。熱いのは単に人の出入りがなかったためだ。コンパクトなサウナ室はドアの開閉がないとすぐ熱々になる。
少々汗をかきすぎた。帰ってハイボールを飲もう。アテはもちろん糠ホッケで。