ミュージックロウリュが関西初上陸!COCOFURO おおみね湯(大阪府大阪市)サウナ誕蒸#6
サウナ大好きクリエイティブディレクターの相沢あいさんによるインタビュー連載。サウナを作った方の想いやこだわりなどを深掘りしていきます。
サウナ施設を立ち上げた方へのインタビュー連載「サウナ誕蒸」。今回はOsaka Metro「平野駅」から徒歩約12分に位置するデザイナーズ銭湯COCOFUROおおみね湯。
60年の歴史を持つ大峰温泉の想いを受け継ぐ形で2024年にリニューアルオープンした、銭湯再生事業シリーズCOCOFUROの関西初進出店舗です。
これまで関東で温浴施設を手掛けてきた会社が、なぜ大阪への出店を決意したのか?さらに代名詞ともいえるミュージックロウリュはどのようにして生まれたのか?楽久屋代表取締役の内田茂樹さんにお話を伺いました。
内田 茂樹
株式会社楽久屋 代表取締役1992年より建設会社にて温浴施設の現場管理を手掛け、その後温浴専門の設計コンサル会社にて多数の温浴施設の企画・開業・運営に携わる。2005年に株式会社楽久屋を設立し、温浴施設の開発や再生事業を拡大し、2019年に銭湯再生COCOFURO事業をスタート、現在は大型の温浴から銭湯まで11軒の温浴施設を運営している。
大阪の老舗銭湯を引き継ぎ、現代的にリニューアル
── どういったご縁で大峰温泉を引き継がれたのですか?
実はSNSで一般のお客様から「大阪の大峰温泉が閉店しますが、COCOFUROさんどうですか?」と情報をいただいたのが始まりなんです。うちの営業担当が大峰温泉に伺い、柔軟に理解してくださるオーナーさんだったのもありトントン拍子に話がまとまりました。
大峰温泉は普通の住宅地の路地に面する普通の銭湯で、COCOFUROシリーズのたかの湯のような駅近でもなく、かが浴場のように大通りに面しているわけでもないので、一見不利な立地だと思われるかもしれません。
しかしデータを見てみると、10万人あたりの銭湯の割合が東京は0.43軒しかないのに対し、大阪は0.84軒。東京の倍くらいあるんです。つまり大阪は銭湯文化が根付いている土地だということ。
競合が多いとも言えますが、実際に色々な施設を見て回ったところ「デザイナーズ銭湯」という切り口で差別化ができそうだし、小学生の子どもだけで銭湯に行くような外風呂参加率の高さもあり、安心して出店できる土地だと判断しました。
さらに平野駅に向う途中には隠れた名店が多く、“しもじ”のマグロ丼定食、“旭苑”のハラミ、“こあじ”の彩小鉢定食など、お客様にはサ飯も楽しんでいただけるはずです。
── どういったところをリニューアルされましたか。
大峰温泉の長い歴史へのメッセージも込めて看板跡などは残しつつ、時代のニーズに合わせて受付から浴室までレイアウトを刷新しています。
サウナの改築では高さに悩まされました。3段の座面を設置するためには、天井勾配の下端に高さを合わせなくてはならないので、レベルを浴室の床より下げたり、天井の高さをギリギリまで低く抑えたり、熱風のファンを天井裏に設置したりと、様々な工夫をしています。
嬉しい誤算だったのは、これまでの店舗よりロウリュの熱気を強く感じることができるようになったこと。熱風ファンを天井裏に設置したことで、天井に溜まった熱気を直接吸い込んで送り出せるので、より熱い熱気を楽しめるようになったと思います。
ただの銭湯ではない、COCOFUROらしい創意工夫
── おおみね湯のサウナの特長はどんなところでしょうか。
まずはセッティングです。室温80度で湿度を上げて激アツな環境を作っているのですが、熱いだけじゃなく、“これまでにない蒸され感”を楽しめると思います。秘密は軟水ロウリュと天井の木。
大阪は何もしなくても軟水なのですが、軟水機を導入して「超軟水」を目指し、水風呂だけでなくロウリュにもこの「超軟水」を使っているので、湿度の肌あたりが柔らかく感じられます。また東京では許可されにくいのですが、天井仕上げを木材にできたので、熱を柔らかく感じられるはずです。
ふたつめは音。男性側は600Wのスピーカーをサウナ用に加工して4台設置していますし、アンプも非常に高価なものを選定しました。近隣は住宅ですので壁に防音加工を施し、大音量で良質な音を楽しみながらロウリュや熱風装置をお楽しみいただけます。
── 女性用サウナにのみ、斜め後ろに角度のついた背もたれ席があるのはなぜですか。
サウナ室で男性は普通に座る方が多いのですが、女性は体育座りのように脚を上げて座る方が多いと聞いたので、垂直よりも斜めのほうが快適かと作ってみました。リラックスできると好評です。
男性サウナにも導入を検討したのですが、お客様をできるだけ待たせないよう、席数を優先したレイアウトにしています。
── おすすめしたいサウナの入り方はありますか。
おおみね湯には「塩のあつ湯」という浴槽があります。江戸時代には海水に浸かることを「潮湯治」と呼び、医療目的で海に入っていたといわれています。
おおみね湯では、濃度1%の塩水を43℃の高温で楽しむことができるのですが、私の体感では普通の浴槽で“下茹で”するよりもサウナでの発汗量が多くなると感じています。入浴後には肌がスベスベになる感じもしますので、サウナーの皆さんに試していただきたいですね。
── 浴室にはとても素敵なタイル画がありますが、どういったコンセプトで作られたのですか?
お風呂屋さんって植物が育ちにくい環境なんです。でも一般的な銭湯にはない“緑を感じられる空間”にしたかったので、「ボタニカル」をテーマに、ガラスモザイクタイルで壁画を作りました。
カラフルな鳥や動きのある猿なども描かれたお子さんと一緒に銭湯を楽しめるデザインを提案してくださったのは、施工をお願いした秀建のデザイナーさんです。
ミュージックロウリュ誕生秘話
── おおみね湯の特長のひとつでもある、音楽が流れ熱風が吹きすさぶ「ミュージックロウリュ」はどのようにして生まれたのですか。
私はスーパー銭湯のような温浴施設のサウナは、すべてのお客様にとっての「普通」でなくてはならないと思っていました。90度前後で適度な湿度、誰が入っても普通に過ごせてちゃんと汗をかけるスタンダードなセッティングですね。
しかしコロナ禍により休業や時短営業など非常に厳しい状況に追い込まれ、「こうなったらサウナを自分の好きなセッティングにしてしまおう!」と、2021年2月に開業した南柏天然温泉すみれに、野天風呂湯の郷に導入していたオートロウリュ装置初号機を改良した新型爆風装置を導入。
さらに「音楽に没頭しながら明るく楽しい気持ちでサウナに入れたら、コロナ禍の閉塞感も何もかも忘れて過ごせるのではないか?」と考え、岩盤浴エリアに日本で初めて「ミュージックロウリュ」を作ったんです。
もともとミュージックロウリュは、「効果音を出してみては?」と設計事務所の方にご提案いただいたのがスタート。サウナ・音響・照明の各会社との打ち合わせを重ねるうちに「効果音より音楽が最高にハマる環境では?」と考え始め、一から打合せをやり直して「ミュージックロウリュ」を設計しました。
音楽を利用するためには著作権料を支払う都合上、JASRACマークのついたCD音源を使用しなくてはいけません。秋葉原の色々なお店で「時間になったら連動してCDが自動再生されるシステムを作りたい」と聞いてまわりながらトライアンドエラーで作ったので、音源システム開発だけで100万以上掛かりました。
他業務で忙しくしていた弊社スタッフたちは「社長なんかやってるわ」くらいだったので、「ミュージックロウリュ」という新しい楽しみ方は自分が生み出したという思い入れがあるんですよ。なので想像以上の反響があって大変嬉しく思いました。
おおみね湯にも関西では初となる「ミュージックロウリュ」を導入しましたので、未体験の方は是非一度足を運んでいただきたいです。
── ミュージックロウリュの日替わりセットリストが絶妙なセレクトなのですが、どなたが考えているのですか。
各店舗に1人はいる音楽好きなスタッフが考えています。誰でも知っているような曲を中心に、若い方から中高年まで色々な世代が楽しめるよう、偏りなく選曲するよう伝えていて、時折お客様からのリクエストに応えたり、アーティスト縛りの日を設けたりもしていますよ。詳しくは各店舗のセットリストカレンダーでご確認ください。
地元の人たちに受け入れてもらえるか…不安をよそに
── オープン当初、お客様方の反応はいかがでしたか。
古き良き銭湯からヘンテコな銭湯サウナにリニューアルしたわけですから、「うるさい」「熱すぎる」といった感想を予測していたのですが、笑顔で熱さの感想を伝えてくださったり、近隣住民の方から「平野にないお洒落感」といった言葉もいただけました。
とある無表情なお客様に「東京はいっつもこんな熱いん?」と聞かれ『あー、怒られるのかなー』と思いながら「そうなんです、熱かったですか?」と尋ねたら「いや、最高だよ」とまさかの褒め言葉が返ってきた時のことは忘れられないですね。
大阪ならではだと思ったのが、ミュージックロウリュが終わった後に拍手する方が多いこと。柔軟性の高い大阪サウナーの皆さんが純粋にめちゃくちゃ楽しんでくださっていて、心から嬉しく思っています。
「再開を待っていたが、造りは若者向けだな。年寄りには合わん」と言いつつ、ほぼ毎日ご来店されるお客様もいらっしゃったりと、感謝の気持ちでいっぱいです。
── 初出店となる地を任せる店長の人選で重視したものは何でしたか。
経験は大前提にありつつ、一番はパッションですね。成功するか否かの鍵を握る人材なので、「絶対にやり切る」という強い想いを持ち併せていないといけません。そういう人間を店長として向かわせたので、良い人選ができたと思っています。
現代の日本人が抱える様々な問題を、銭湯やサウナを通じて軽減していきたい
── 楽久屋の銭湯再生事業店舗は「COCOFURO」を冠していますが、名前にはどんな想いが込められていますか。また屋号を引き継ぎつつもひらがな表記にしているのはなぜですか。
英語で「CO」から始まる言葉には、“Community”や“Communication”など、「共有する・一緒に」といった意味があります。「一緒に共有するスペース」という意味でCOという言葉を、そして「ここに風呂屋があるよ」という単純なメッセージを合わせて「COCOFURO」です。
銭湯は先代・先先代のご主人が情熱を持って湯を沸かし続け、そこに集まる人たちを笑顔にしてきた、とても素敵な場所。そんな先人への感謝と敬意を大切にしつつ、次の世代となる若い方にも立ち寄っていただきたいので、漢字よりも柔らかい印象になるひらがな表記に改め、屋号を引き継がせていただいております。
── 銭湯を引き継ぐという事業に、どういった想いをお持ちですか。
銭湯やそこにあるサウナはとても身近でリフレッシュできる施設です。このリフレッシュは身体だけではなく、心もリフレッシュすることができ、衛生面や健康面だけでなくメンタル面にも大きなメリットがあると考えています。
一方で、銭湯が廃業に向かう背景には、店主の高齢化や後継者の不在があり、この悩みは10年後にはもっと大きな問題になると予測できます。大袈裟かもしれませんが、銭湯があることで何かを乗り越えることができたり、悲しい気持ちを切り替えることができた人はたくさんいるはずです。
現代の日本人が抱える様々な問題を銭湯やサウナを通じて軽減することができれば、それが私たちの価値であり意義であると考えています。銭湯業界を支えてきた先人たちに敬意を表しながら、これからも良い銭湯やサウナを作っていきたいです。
COCOFUROおおみね湯はこれからも地域住民に愛され、大阪サウナーの皆さんにも愛される施設であり続けることができればと思っています。細くても良いので長く愛されることができれば、私たちも大峰温泉を支えてきた皆さんにとっても、とても喜ばしいことですから。
ミュージックロウリュ、体感したい! 施設を継ぐことへの愛が感じられますね! サウナは結局、最高って事ですね☺️