熱波が苦手な人にこそ受けてほしい熱波|熱波をお届け!#6
熱波師のじゃがさんによる、熱波をもっと楽しむ方法を提案していく連載です。
みなさんこんにちは。熱波師のじゃがです。もう熱波しましたよね?
これまで「業務熱波」「アウフグース」「ショーアウフグース」という、色々な熱波を掘り下げてきました。今回はサウナは好きだけど熱波は苦手という方にこそ読んでほしい、そして受けてほしい、「リチュアル」という熱波のお話です。
リラックスという非日常
まずはじめに、「リチュアル」は他とは一線を画した熱波であるということをお伝えしなければなりません。
多くの熱波はサウナ室から出た後にバキバキにととのってもらえるよう、お客さんを限界寸前まで追い込むような傾向があります。タオルテクニックでサウナ室内を盛り上げる、という方向もあるでしょうか。
リチュアルが向かうのは、そういったエキサイトに満ちた世界とは真逆の静かなもの。熱波師は刺激を伝えるのではなく、内省するきっかけを与える案内人といった立ち位置で、我慢せずに最後まで心穏やかに居られる空間をつくっていきます。
高温のサウナ室ではなく岩盤浴のような中低温のサウナ室でじんわり気持ちよく汗をかくホットヨガなどのプログラムがありますが、リチュアルはそういった「リラックス系」の熱波です。
五感にアプローチする
リチュアルと一般的な熱波では、どんなところが違うのでしょうか。例えば、熱波の途中でドアを開けることは温度が下がってしまうため基本的に避けますが、リチュアルではよくやります。体感温度が高くなりすぎないようサウナ室の温度を下げるだけでなく、ドアの外から新鮮な空気をサウナ室に取り込む意味合いがあります。
時間もいわゆる熱波やアウフグースの演目が10分程度であるのに対して、リチュアルの演目は20分程度やることが多いです。ヨーロッパのとあるサウナ施設で満月の日に行われる「フルムーンリチュアル」は休憩を複数回挟みつつも2〜3時間行うとか。
使う道具も状況に応じて多種多様です。風を送るためにタオルだけでなく「ファン」と呼ばれる布製の大きな扇も使います。送風面積が広く骨組みがあるので、タオルよりも大きな空気を動かし、ゆっくり柔らかな風を届けられるのです。
香りもアロマオイルだけでなく、お茶のような植物を煮出した抽出液(インフュージョン)をロウリュして自然本来の香りを蒸気によって届けたり、香炉を使って草木や樹脂のお香(インセンス)の薫香を届けたりします。また、心を穏やかにする音色の楽器を使ったりと、様々な手段で五感にアプローチしていきます。
世界観に没入する
興味深いことに世界には多くのサウナ文化があり、それぞれに宗教観・文化があります。例えばサウナの本場であるフィンランドはサウナは教会のように神聖な場所という考えがあり、ロウリュには精霊が宿ると信じられています。自然豊かなバルト三国のほうでは生活の中で自然信仰があり、植物をふんだんに使い自然と調和する神秘的なサウナプログラムがあるとか。
リチュアルは、ショーのようなストーリーを観るというより、何かしらの世界観が根底にあり、その世界観に没入していくような感覚です。
では、サウナ室では一体どんなことが繰り広げられているのか?イメージを掴んでいただくための具体例として、私がサウナ施設で行うリチュアル演目の内容を簡単にお話ししたいと思います。
リチュアル演目「お遍路」
「お遍路」とは今でも四国に残る、空海(弘法大使)が四国に建立した八十八箇所のお寺を巡る修行です。「発心」「修行」「菩提」「涅槃」といった、空海が悟りに至るまでの生涯の過程を四国の各県に道場としてなぞらえています。
そして、お遍路には「同行二人」という言葉があります。修行をするお遍路さんは常に空海と共にあるという意味です。私が過去の四国のお遍路を巡った経験から作ったこのリチュアルのプログラムは、私と巡る「同業二人」のお遍路の修行。私はお遍路の先達者として、サウナ室のお客さんと共に悟りの境地を目指します。
徳島(発心の道場)
発心というのは、修行をやるぞ!と思い立つことです。修行を始めるにあたり、自らの身体や頭の中を清めなくてはいけません。はじめにお香の煙やティンシャという法具のような楽器を使って、サウナ室の空間や自身を浄化していきます。
修行の準備ができた後は、参拝のお作法を習います。神社と異なりお寺は「合掌」です。サウナストーブをお寺の本尊に見立てロウリュをしてまずはご挨拶。そして立ち上った蒸気を両手を挙げて感じていただき、ロウリュが全身に降り注いだタイミングで合掌。その後、キューゲルをお供えしてお客さんにタオルで風を送り、お参りを終えます。
高知(修行の道場)
高知は「修行の道場」とされているだけあって、険しい道のりが続きます。皆さんは山で遭難しかけた経験はありますか?私は山の頂上のお寺を目指している時に遭難しかけました。
都会育ちの私は食料や水をろくに持たず入山し迷ってしまいます。人間って本当に空腹になると動けなくなるだけでなく眠くなってしまうんですね。少しずつ寝て体力を回復して、道と言っていいか怪しい道を歩いて…を繰り返すも次第に辺りは暗くなってしまい、雨も降ってきて…。
そんな生々しい思い出話をしながらロウリュし、枝葉の束(ウィスク)を使って蒸気をゆっくり撹拌、その後バケツ満杯の氷水に浸したウィスクをお客さんの頭上で振って冷たい雨を降らせます。純度の高い自然を感じていただき、私が体験した自然の壮大さを共に感じてもらいます。
愛媛(菩提の道場)
四国には「お接待」という文化があります。空海とともに修行をするお遍路さんに親切にすることによって、お遍路さんのご利益が自分にも返ってくるというなんとも幸せな風習です。
ドアを開けて外の新鮮な空気をサウナ室に取り込んだ後、大型の扇を使って新鮮な空気を一人一人に送り、その後お茶の抽出液をロウリュして香りを送る「お接待」を行います。
菩提というのは、悟りの境地に至る段階のこと。お接待によって修行で疲れた身体を一旦休め、悟りに至る準備をします。
香川(涅槃の道場)
涅槃というのは煩悩を捨て去り悟りの境地に至った状態のこと。修行も大詰めとなり悟りに向けて瞑想をします。
瞑想のやり方を簡単に説明した後、ロウリュとともにサウナ室に置いた複数のシンギングボウルを鳴らします。シンギングボウルの倍音、サウナ室から降り注ぐ蒸気の熱、香り、といった五感に意識を傾けた後、自分の心臓の鼓動や呼吸といった身体の活動に意識を向け、最後はその意識を手放します。
シンギングボウルの倍音が鳴り止んだ時、この修行は幕を閉じます。
以上が私の「お遍路」です。長い時間をかけて芯まで蒸し上げられた身体はサウナ室から出て外の新鮮な空気に触れた時、そして水分を摂った時、水風呂に入った後に体験する「ととのい」とは違った境地に至れることでしょう。
熱くない熱波があってもいいじゃない
リチュアルという概念が日本で語られるようになったのはごく最近のことです。サウナは「熱い!冷たい!ととのった!」という楽しみ方がメジャーであり、熱波も同様にアツアツにするものが喜ばれます。リラックスして汗をかくタイプの熱波はありましたが、お客さんの需要は比較的少なく、メインストリームに対して傍流感がありました。
しかしながら、サウナブームが到来しサウナ施設とサウナーの人口が増えるとともに、サウナの楽しみ方も多様化しています。「熱くない熱波があってもいいじゃない」。そんな新しい時代が現在進行形で日本に訪れているのを感じています。
熱波はまさに盛り上がっている道半ば。数年後に記事を見返した時に、もっと熱波の概念が増えているといいなと願っています。
じゃがさんのリチュアルお遍路で四国を感じられるお話が興味深くてとても素敵です✨ 自分も機会あればいつか受けさせてください🙏
恥ずかしながら、リチュアルって言葉を初めて聞きました! そしてジャガさんのお遍路のお話し、とても興味深かったです! 私もいつか受けてみたい✨
めちゃくちゃ気持ちよさそう🤤いつか受けてみたいです〜🙏🏻✨✨✨