哀傷を誘うサウナ
『あなたにとってサウナとは?』
ドラマ「サ道」で度々耳にしたこの質問。原田泰造氏演じるナカタアツロウが、サウナの経営者や熱波師に聞いていたのは、まだ記憶に新しい。私ならなんて答えるだろう。そんなことを考えながら、サウナの入浴時間が増えてきた今日この頃。
ふと、一つの銭湯が思い浮かんだ。幼い頃、家族でよく通っていた地元の銭湯だ。どうにも名前が出てこない。記憶を頼りに検索をかける。便利な世の中で、名前も場所もすぐに出てきた。
去年閉店したという情報も。
あの頃は銭湯に行くのが楽しみだった。
家の湯船より何倍も広いお風呂。
洗い場奥の薄暗い岩風呂。
外灯に照らされた橙色の雪。
「カラン」「ケロリン」という言葉の響き。
握りしめた100円玉。
溶けはじめた青と白のアイス。
その景色は確かに私の中に残っていて、今の私をかたどっている。
そんな思い出にひとつだけ、がらんどうの空間があった。
ーーサウナだ。
浴場の一番奥には階段が続いていて、大人達がのしのしと登っていく。きっとその先にはサウナと水風呂があったのだろう。「滑ると危ないから」と幼い私はその先へ行くことが許されなかった。そして、大人達に続いて階段をのぼる父の背中を見送った。
あのサウナ室はどれほど広く、熱かっただろう。
水風呂はどれほど深く、冷たかっただろう。
サウナと出会ってからのこの半年は、サウナを求め、色んな場所へ旅をした。そこで見て、聞いて、肌で感じたあのたくさんの景色は、私を新しい世界へと運んでくれた。サウナを経験するほど、がらんどうの空間は熱を帯び、色鮮やかになっていく。
しかし、都会の賑やかな銭湯に通っても、古き良き銭湯に足を運んでも、あの階段の先にあるサウナにはもうたどり着くことはできない。
いつか、この行き場のない感情にも趣を感じられる、そんな大人に私はなれるだろうか。
密集した高層ビル。
道路を行き交う大量の車。
星の見えない夜空。
せわしなく歩く人々の足音。
黒い革財布とクレジットカード。
注がれる黄金色のビール。
この都会の景色もまた、私をかたどっていく。
仕事を終えて、今日もサウナへ向かう。日頃の疲れも、あの階段の先への憧れや未練も、この時だけはロウリュの熱に溶かされていく。訪れるととのいに身を任せ、そしてまた、都会の喧騒へと消えていく。
ーーあなたにとってサウナとは?
もしあの質問を受けたなら、私はきっとこう答えるだろう。
『大人への階段です』と。
サウダーヂ....
めちゃめちゃ心に沁みました!!😭
文書もお写真もとっても素敵です。 今でもあったら良いのに。いや、ないからこの良い文書が出来たんですかね。 お疲れ様でしたー
にしさん‼️素敵な記事をありがとう♫
とてもいい話しですねー。小学生のころ父親に連れてってもらったお風呂屋さんを思い出しました!
ステキです!
アドベントカレンダーとは何ぞやと思い、昨年分は今更ですが全て拝読させたいただき、その中でも目に留まり、心にじぃーんと沁みました!お気に入りにも登録させていただきますね。