2020.11.15 登録
[ 東京都 ]
「サ活」という言葉を知った日
もうすぐ年も明けるという日の寒い夜、自分と友人も二人は意味もなく上野駅に降り立った。
正確に言うと次の日の昼過ぎに都内で用事があったので全く意味がない訳では無かったのだが、少なくとも前日夜のもうすぐ日にちが変わるような時刻に家を出る必要は全くない。
所謂若気の至りというもので、特に目的地も定めずに人気の無い夜の街を歩き始めた。
赴くままに上野駅から始まり築地、銀座、東京タワーと進み、途中に目についたお店で飲み食いするのは存外に楽しかったのだが、南青山に着いた辺りで、徹夜で15㎞程歩き続けた自分らの体力は限界が近づいていた。
時計を見ると、もうすぐ世も明ける頃であり、流石にどこか安い寝床を探すことにした。
とは言ってもそこは南青山。すぐ近くにカプホやネカフェのような庶民的なものはなく、検索範囲を広げてやっと見つけたのが「マルシンスパ」だった。
どんな施設か詳しくはわからないが、とにかく浴場と仮眠スペースが安価で利用出来るとの事で、最後の力を振り絞り5㎞程離れたマルシンスパに到着した。
「天空のアジト」とは随分大層だなとも感じながらエレベータを上ると、こじんまりとしたフロントが目に入る。
とにかく疲れていた自分らは更衣室で服を脱ぎ、一目散に浴場に向かった。
浴場に向かうまでの短い間、通路の壁に貼ってあるポスターや張り紙に「サ活」「ロウリュ」「熱波師」「オロポ」「ととのう」などと言った見慣れない言葉が並んでいたが、それに疑問を抱く程の体力は残っていなかった。
浴場に入ってまず思った事が「湯舟が小さい」である。
それとは逆に広くて深い水風呂を見て「どうして水風呂はこんなに立派なんだ」と憤りに近い感情を抱いた。
それも仕方なく、サウナの良さなんて全く知らなかった当時の自分にとって、水風呂なんてものは苦行に他ならず、「水風呂に割くスペースがあったら湯舟を増やせ」とさえ思っていたのだ。
仕方なく狭い湯舟で身体を温め、せっかくなのでサウナも利用することに。
奥行きのある部屋の中央に円柱のサウナストーブがあり、ひし形の窓が並ぶそのサウナ室自体は良い雰囲気だと感じたが、やはり当時の自分にとってサウナは熱いだけであり、少しの間入ってすぐに出た。
その後、ここまで水深のある水風呂というのも初めてだったので、興味本位で入ってみたのだが、これもただ冷たいだけであり、何が良いのか分からなかった。
背もたれが大きく倒れた椅子で外気を浴びるのは気持ち良かったが、結局その後は何度か湯舟で身体を温めただけで、浴場を後にした。
(続きはコメント欄)