水風呂にまつわるエトセトラ
はじめまして。サウナと手裏剣と私、と申します。
サウナーとしては、まだまだ未熟な僕ですが、今回、ここで文章を書かせていただけることとなり、嬉しさと緊張を同時に感じます。
サウナには謎が多い。特に何か知的好奇心をかきたてられるものが多かったりします。
僕も実はそういう謎に虜になってしまった人間。
今回は、そんな僕がサウナで直面した謎について書かせてもらいます。
それは「いい水風呂は、なんでいい水風呂なのか」というミステリー。
水風呂ラプソディー
ある秋口の日、自分にとって抜群だ、という水風呂に出会いました。
これまでに、名水だ、といわれる施設の水風呂をいくつか回ってきましたが、「まぁ、こんな感じか」という風に思っていたふしがあります。
自分の体調的なコンディションがその日にかぎって全然良くなかったり、サウナ室で自分の汗をサウナストーンにこっそりかけているおじさん、またの名を汗ロウリュおじさんと出くわしたりで、あまり水風呂自体を楽しめなかったことが原因かもしれません。
そんな僕にも、すごくいいと感じられる水風呂との出会いがやってきました。
いい水風呂には、まず温度感覚の違いがありました。
温度計は15℃くらいのはずなのに、いつもの感覚とは違って体に冷たさがやってこない。
いつまでも入っていられそう。
そして、水のなかで、ふわーっと浮いていると、毛布に包まれているような柔らかさが。
毛布というと、なんだか暑そうでいまいちだけど。
もうひとつが、浴後感覚の違い。
水風呂からあがったときに、普通の水風呂に入ったときには感じないような、浴後の爽快感を感じました。これは、有名なサウナーの方の受け売りですが、実際にそうだと感じたのでした。(自分は心の中で勝手に追加効果と呼んでます。いろいろバリエーションがありそう。)
単純にいうと、いい水ってやっぱあるわ、という話。
もちろん、そのときの自分のコンディションがとても良かったようにも思います。
ですが、僕ははじめて味わう水風呂の感覚に夢中になっていました。
2セット目には、「やばいなー!いい水風呂は掛け水でわかるわーわははー。」と一分間くらい、水風呂の横でひたすら掛け水してました。
でも、その後の外気浴でちょっと冷静になって、「いや、自分それまじで言ってたのか?」とふと我に返りました。
そのときに、「いい水風呂ってなんだろう」と思ったんです。
いい水風呂は、なんでいい水風呂なのか。
それで、どういう所にあるんだろう、そんな疑問が湧いて、そう思ってから、ついつい暇なときに、水について調べるようになっていました。
さて、今日はそんな水の話あれこれ、水風呂にまつわるエトセトラを書いていきたいと思います。
いい水風呂ってどんな水風呂?
「いい水風呂」ってどんな水風呂なのか。
少し、自分の記憶をたどってみることにしました。
自分の実感としては、いい水風呂は「飲める」と評されることが多いように思います。
実際にしきじや神戸クアハウスなどの有名水風呂は、ミネラルウォーターとしても飲めたりします。
ひとまず「いい水風呂、飲んでもおいしい」説を立ててみることにしました。
いい水風呂は飲んでもおいしい。じゃあ、おいしい水ってどんなだろう。
専門家の方が「おいしい水」について述べた文章をみつけたので、ちょっと手元の資料から引用してみたいと思います。
「おいしい水とはどんな水質組成かというと、その道の研究者でも一概には答えられないというのが本音であろう。 暑くて喉が渇いた状況下で“おいしかった水”も、 その場の状況が異なれば “まずい水” になってしまい, 水を飲む人の個人差や飲む時の周辺環境により、かなりの差が生じてくる。」
(日本地下水学会 『名水を科学する』(1994), 技報堂, p.9)
意外に思いましたが「おいしい水」が何かをスパっと答えることは、専門家でも難しいらしいです。水を飲む人の個人差や飲むときの周辺環境でかなりの差が生じるとか。
これを読んで、ひょっとすると水風呂も同じなのかな、と思いました。
「この水風呂の水質がいい」というものは、行き慣れたサウナ施設、自分の好きな街への愛着や、その日の体調であったり、気分とかで、大きく変わってしまうものなのかな、と。
なので、客観的にNo.1である水風呂を決めるのは不可能なのかなぁ、と。
個々人の数だけ、個々人のフェイバリット水風呂があるのかもしれません。
地元とか、好きな街とかの。
でも逆に、客観的に決め切れないことを、うまく利用するといいのかもしれない。
たとえば僕は山の近くの水風呂だと、なんだか無性にいい水風呂に思えるんですが、そういう「なんとなく大事」に思えるようなプラシーボを、サウナ施設にうまく結びつけると、楽しさも増すのかなぁ、なんて思います。
山の近辺の水風呂、ほんま最高。だって山やからな。
ずっと昔から、みんな山はなんか神聖な感じするわー、って言ってるし。
勝手にそう思ってます。
まず、そんなことを考えたのでした。
もちろん、名水風呂とされてるものが全部プラシーボだ、というつもりはないです。
そういう要素がどうしても入ってきちゃう、人間だもの、という感じ。
逆に「まずい水」は、はっきりとしているようです。
日本地下水学会 『見えない巨大水脈—地下水の科学』(2009) 講談社、という本に書いてあったことを抜粋してみます。
①残留塩素量が多い
カルキ臭がきつくなる。
個人的には、無理に塩素を入れないよりも、塩素の入った安全な水風呂に入りたいので、「水風呂に塩素入れるな!塩素入れてる水風呂ガッカリだ!」みたいな話にはなってほしくはないですが、水の質は下がる様子。②臭気度が高い
鉄臭さ、錆臭さがでてくる。
水の匂いを嗅覚で評価する場合の指標らしいですが、なかなかパンチのある名前。③過マンガン酸カリウム消費量
水に含まれる有機物の量。
一般に言われる「水が腐る」という現象は、水に含まれた有機物が劣化することからくるらしいです。
噂では、水風呂の注入口に竹炭を置いて濾過している施設もあるとか。
それは、おそらくこの三つの成分を減らすことを目的としてるのかな、と思いました。
話によれば、竹炭 in 水風呂は、扱いが難しいうえに、役所と相談して兼ね合いの後、はじめてできるそうです。
業務用の浄水器をつけたら、水風呂の体感はどうなるんかなとも妄想します。
蛇足ですが、最近、軟水器で水をすべて純度の高い軟水に変換している施設に行く機会があって、その水風呂のクオリティに驚いたことがありました。
天然の名水風呂には、あと1、2歩及ばないという感じはしたのですが、逆に、そこまで行ける人間の技術、おそろしい……、と思いました。
でも、しきじや神戸クアハウスなどの水を見てみると、わりと硬度が高めなので、軟水=いい水風呂では、ないのかな、と。
そうなると、塩素や不純物が濾過されていることからくる体感だったのか。
いや、むしろやはり軟水パワーなのか。どちらなのか気になる……。
香川県には不純物を完全に除去した、純水の水風呂もあるとか。
一体どんな体感なんだろう。まあ、こういうのは単なる素人考えなのかも。
まだまだ水風呂、奥が深そうです。
ちょっと脱線しましたが、「おいしい水」の話に戻ります。
昭和60年に旧厚生省で組織された「おいしい水研究会」(なんだか大学のサークルみたい)が、「水道水のおいしい32の都市」なんてものを定めたそうです。
これが自分としてはなかなか面白いデータだったので、リストアップしてみます。
念のためにいうと、水道水がおいしい街にある=その街の水風呂は全部いい水風呂、ではないです。
(このデータも、日本地下水学会 『見えない巨大水脈—地下水の科学』(2009), 講談社から引用。)
北海道:帯広市、苫小牧市
青森県:青森市、弘前市
栃木県:宇都宮市、小山市
群馬県:前橋市
埼玉県:熊谷市
富山県:富山市、高岡市
石川県:金沢市
福井県:福井市
山梨県:甲府市
長野県:松本市
岐阜県:岐阜市、大垣市
静岡県:静岡市、沼津市、富士宮市
愛知県:名古屋市、豊橋市
三重県:津市、松坂市
鳥取県:鳥取市、米子市
岡山県:岡山市
広島県:広島市
山口県:山口市
高知県:高知市
熊本県:熊本市
宮崎県:津城市
ざっと町村の名前をリストアップしてみました。
僕がこのリストが面白いな、と思う理由は、サウナーのなかで「水がいい」と話題となった施設が、わりと入っているところです。
たとえば、しきじ(静岡市)、スパアルプス(富山市)、サウナガント(岐阜市)、大垣サウナ(大垣市)なんて施設は、よく名前があがりますよね。
ほかにも、たまに名前の出るコアな施設として、サウナピア(豊橋市)、ラピスパ(米子市)なんかもあったり。米子市には、飲めるレベルの水風呂(白鳳の里)もあるそうで、それも気になります。
また、あまり水風呂の話は出て来ない気がしますが、有名な施設として、名古屋のウェルビー三店や、熊本の湯らっくすも入ってきますね。
ちなみに、日本で抜群に「水道水がおいしい」のは数値的には熊本市だとか。
熊本県は全体的にも水がいいらしくて、まだ見ぬ名水風呂が眠っているんじゃないか、と勝手に思っています。
サウナイキタイマガジンの記事に湯らっくすレポがあがってましたが、熊本市の水道は100%地下天然水なんですね。
そりゃ、うまいはずだわ……。
ひょっとすると、水道水のおいしい街には、いい水風呂が眠っているのかも。
なので、いまだ発見されていない名水風呂もあるのかもしれません。
さて、さきほどの「おいしい水研究会」が調査の後に出した結論はこれ。
「おいしい水は、安全な水である」。
つまり「おいしい水」は成分的に安定していて、不純物も少なく、安全。
なので「飲める水=いい水風呂」とは、ある程度は言えるのかな、と思います。
おいしい水は、いい水風呂。
(しかし、ちょうどこれを書いているときに、飲用不可だけど素晴らしい水風呂と出くわしてしまって、やっぱり一概には言えないな、と気づいちゃったんですが、それは今回気づかなかったことにします。)
そうこうすると、次に「名水ってそもそもなんだろう」ということが気になってきました。そういう訳で、次は「名水」と言われるものを見ていきたいと思います。
「名水百選」はいい水風呂?
「名水百選」というものがあります。
これは、環境庁(現 環境省)が昭和60年に、地方自治体から推薦のあった名水から選定されたものです。
選定の際に推薦があった名水は700以上だとか。日本の水資源の豊かさを感じますね。
さて、選定にあたって審査された項目には、水質が比較的良好であることに加えて、地域の住民による環境保全活動があること、規模や文化的な背景の有無などが挙げられています。
これに続いて、平成20年には「平成の名水百選」が選定されました。
これも選定基準としては、同じような感じらしいです。
ちなみに、名水百選と平成名水百選には重複はありません。
それで、これを水風呂探しに応用できないかな、と思ったのです。
昭和の「名水百選」のほうは、すべての県から最低一つは選ばれているので、手近な名水を探しやすい、というメリットがあると思います。
ただ、調べていくうちに、そう簡単にはいかないことがわかってきました。
その理由は、「名水百選」のなかに、実はあまり水質の良くない水が含まれてしまっていることです。どうやら全体の20%が、飲用不可な水質だとか。
選定当時は、社会的なブームになったようで、各地の名水に多くの人が列を作って並んだらしいのですが、飲用不可な名水を飲んで体調を崩す人もでて、問題にもなったようです。
なぜ「名水百選」なのに、飲用不可な水が名水として選定されているのか。
これは選定に景観や保全活動の有無が大きく関わっているためだと言われています。
つまり、純粋な水質勝負の選定ではない。
また、選定から長い年月が経っているので、当時は名水だったけれど、今は枯渇したり、汚染されたり、菌が繁殖してしまった場所がいくつかあるようです。
もちろん、まさに名水と言える「おいしい水」も「名水百選」には入っているので、ある程度の尺度にはなるかもと思いつつ、そのまま、水風呂探しには使えず。もう少し絞られた情報が欲しいところ。
そう思いもう少し調べてみると、文星芸術大学教授 島野安雄という人が「日本の名水100選」を全部回って、名水百選を上回る「名水十傑」という新たなランク付けを提示したらしいです。
いやはや。全部回ったとは、すごいパッション。見習いたいものです。
この十傑は、全てが飲める水で、水質もよく、一定以上の水量があるところ、という条件のもとに選ばれたそうです。ようするに、全部「おいしい水」ということ。
「いい水風呂=おいしい水」仮説が成り立つとしたら、この名水十傑の近辺には名水風呂が眠っている……?
では、名水十傑もざっとリストアップしていきたいと思います。
名水十傑の近くの水風呂=絶対いい水風呂、ではないですよ。
(データは、日本地下水学会『地下水水質の基礎』(2000), 理工図書出版から引用。)
県名 | 名水名 | 市町村 |
---|---|---|
北海道 | 羊蹄山のふきだし湧水 | 京極町 |
岩手 | 龍泉洞地底湖の水 | 岩泉町 |
金沢清水 | 八幡平市 | |
栃木 | 尚仁沢湧水 | 塩谷町 |
群馬 | 箱島湧水 | 東吾妻町 |
富山 | 黒部川扇状地湧水群 | 黒部市・入善町・朝日町 |
瓜裂の清水 | 砺波市 | |
岡山 | 塩釜の冷泉 | 真庭市 |
熊本 | 池山水源 | 阿蘇郡産山村 |
大分 | 竹田湧水群 | 竹田市 |
さきほどの「おいしい水道水32選」とは違って「名水十傑」は、人里離れた地に多く位置するといえると思います。
名水十傑の近くで、気になる施設の名前をいくつか挙げていくと……、
「羊蹄山のふきだし湧水(北海道 京極町)」を直に使った水風呂があるようです。
この名水は水質もいいんですが、特筆すべきは温度。
「名水百選」の水温温度の平均が15.1℃であるのに対して、6.8℃。
地下水は季節による温度変化が少ないそうなので、天然のシングル(=10℃以下の水風呂)が、一年中掛け流し状態な穴場スポットと言えるかと思います。
……と思ったのですが、夏は14℃ほどだそう。恐らくですが、冬は6℃代が想定されます。
そして、「金沢清水(岩手 八幡平市)」付近のサウナ施設も、サウナイキタイに情報があがっていました。実際には、どうだったかぜひお話を聞いてみたいと思いました。
関東地方の「尚仁沢湧水(栃木 塩谷町)」、「箱島湧水(群馬 東吾妻町)」の近くには、残念ながらサウナ施設は発見できませんでした。
そして、富山県。
「名水百選」でも、熊本県とともに最多の4箇所が選ばれているし、北部には北アルプス、南には飛驒山脈に蓄えられた地下水を味わうことのできることのできる富山。僕もたびたび行くことがあるのですが、実体験込みでまさに名水の地と言うことが出来ると思います。
あと山が多いのがいいんだよなー(プラシーボ)。
そのなかで、「名水十傑」に選ばれているのは二箇所。
まず、黒部市、入善町、朝日町に広がる「黒部川扇状地湧水群」。
富山サウナーの方に、聞いてみたところ、ここらへんでは「らくち~の」がサウナ105℃、水風呂15℃で、なかなかいいとか。今後もいろいろ見ていくとのことで、調査に期待ですね。
(北信越には「~」と伸ばし棒がにょろにょろな施設が結構多いんですけど、なんなんでしょうね、この傾向。個人的には好きですけどね。)
また二つめの「瓜裂の清水」(という伝説に由来するとか)の近くには、「スパガーデン和園」という施設があります。
これは僕が感動した水風呂でした。コンディションにも左右されると思いますが、お近くに行く機会あれば。
岡山の真庭市にある「塩釜の冷泉」、大分の竹田市にある「竹田湧水群」にもいくつか施設があるようですが、僕のみてる範囲では情報を発見できなかったので、「もしや……?」という期待が高まります。
熊本県は阿蘇の産山村にも、町営の温浴場が一つ。いまのところレポが全くない謎の施設です。
ここ以外では、白神山地の水風呂も良さそうだし、天草市にはpH10を越える源泉かけ流し水風呂があるそうな。
熊本市の銭湯にも冷泉を使用してる水風呂があるとかで、さらに湯らっくすもある。
熊本行きたいなあ。なんて、ついつい行ったこともないのにだらだら熊本の話を。
行くのは、いつになるやら。
さて、謎に包まれている「名水十傑」。
そのなかに、いまだ発掘されていない名水風呂があるのかもしれません。
有名なサウナ好きがすでにたくさん全国のサウナを回っているなかで、今後すごい水風呂は出てこないのかなと、一時期思っていましたが、日本の湧水の数の多さを知ると、認知されていない名水水風呂がまだまだあるんじゃないかなーと思うようになりました。
そして、その発見のきっかけは、サウナイキタイに登録されたあなたの情報かもしれないですね。
だいたい、こんなところを調べました。
水質ってなんだ?
たびたびサウナーの水質話のなかで話題に出る溶存酸素量は、水のなかに含まれた酸素量のことで、環境汚染の度合いを示す指標として使われるもののようです。
酸素が含まれている量が低ければ低いほど汚染されている、ということらしいですが、溶存酸素量は、日本名水百選の分析結果一覧表には残念ながら載っていませんでした。
汚染の度合いは自然界には発生しにくい硝酸イオンの数(NO3)でわかるらしく、先にあげた島野さんの論文でも、いくつかの名水が挙げられてたので、それもリストアップします。
とはいえ、データが2000年のものなので、大きく変わってる可能性があることを念頭においといてくださいね。(データは、上に挙げた『地下水水質の基礎』(2000)より。)
県名 | 湧水名 | 市町村 |
---|---|---|
北海道 | ナイベツ川湧水 | 千歳市 |
福島県 | 龍ヶ沢湧水 | 磐梯町 |
百貫湧水 | 北塩原村 | |
富山県 | 穴の谷霊水 | 上市町 |
石川県 | 御手洗池 | 七尾市 |
島根県 | 天川の水 | 海士町 |
檀鏡の瀧湧水 | 隠岐の島町 | |
岡山 | 塩釜の冷泉 | 真庭市 |
香川県 | 湯船の水 | 小豆島町 |
愛媛県 | 観音水 | 宇和町 |
高知県 | 安徳水 | 越知町 |
熊本県 | 菊池水源 | 菊池市 |
鹿児島県 | 宮之浦河 | 屋久島 |
このように、島野さんの論文では13個の硝酸が低い名水があげられていました。
冗長になるので、今回は付近のサウナ施設を書き出しませんが、サウナイキタイの便利な機能は「町名」でサウナ施設が検索できること。硝酸値の少ない名水の地のサウナを発見することも容易なわけです。
なので、島野さんの論文や、日本地下水学会 『新・名水を科学する』(2009), 技法堂(この本には全都道府県は載ってないですが、2009年とデータが比較的新しく、平成の名水百選やそこから漏れた湧水もたくさん扱われてます)の巻末の一覧表や、平成の名水百選の一覧表が載ってる、薮崎志保、島野安雄 『平水名水百選の水質特性』(2009)、『地下水学会誌』, 第51巻 第2号, pp. 127-139(pdf)なんて論文で、硝酸の低い湧水を抜き出してみたり、もしくはカルシウムやマグネシウムの高い湧水であったりとか、導電率の低めの湧水であったりをチェックして、その湧水の近くにある水風呂を「サウナイキタイ」で検索できる、ということ。
ここにリストアップした名水の近くにサウナがあるかを調べていて気づいたのですが、屋久島にもサウナ施設があるんですね。
ほかにも結構、島にはサウナがある。
僕、ネイチャー派なので、それだけで少しテンションがあがってしまう。
(サウナーはシティ派とネイチャー派の二種類に大別できると勝手に思っている)
上記で参照させていただいた島野安雄教授の名水百選のデータが論文としてネットで公開されていましたのでご紹介します。
『地下水水質化学の基礎 10.名水の水質』
『平成の名水百選の水質特性』
水質の見方は、日本地下水学会 『地下水の科学』(2009), 講談社 にも載っていますし、(この本、いろんな情報がわかりやすく書かれているのでとても参考になりました)日本地下水学会 『名水を科学する』(1994), 技法堂 の序論で水質表の読み方がひととおり解説されていて、素人にもとてもわかりやすかったです。
これは、名水百選の水質データを扱った本で、ややデータは古くなっている感はあるんですが、名水の文化的な背景も書かれてるので、読んでいて楽しいです。続編二冊あり。
なんて風に、最近水について調べるのにはまってるよ、という話でした。
たんに、それだけの話で恐縮なのですが……。
それで、こういうことを調べるようになって、いい水風呂が発見できるようになったのかというと、実際全然そうではないです。
むしろ、狙って行かなかったところに、感動する水風呂があったり、だいたいここら辺は水が良いから行ってみようと思うと、水風呂としては、そんなに良くなかったり。
水風呂の水質にヤマをはる。ある意味ギャンブル。
サウナをめぐる楽しさには、こういう楽しさもあるのかな、と思います。
もちろん、全然調べずに気の向いたままに施設をまわる楽しさも。
水風呂の気持ちよさを感じるのに、きっとデータなんか必要ないですしね。
ざばーん、ふいーっ、でオッケーなように思います。
でも、ちょびっと下調べすると、狙い通りにいい水風呂に出会えたときも、思わぬ水風呂に出会えたときも、うれしさを感じることができます。
名サウナ・名水グルメみたいな書き方になってしまいましたが、僕自身はサウナ施設めぐりの楽しさは普通の施設や、あまり良くない施設をめぐることにもあると思っています。
自分がサウナに対して何を求めているかがはっきりするのは、良い施設に行ったときよりも、良くない施設に行ったときなのかなぁ、と。
そして、名施設よりも思い出に残りやすいのかな、と。隙のない優等生よりちょっとダメなとこがある人のほうが愛嬌がある、みたいな感じなのかもしれません。
いろんな施設をめぐって、自分だけの思い出を作る。
これもサウナめぐりの醍醐味なのかなあ、と。
サウナ・水風呂・外気浴が全部ダメでも、そこにしかないフレーバーを持つ唯一無二の施設って結構あると思うんです。
おわりに
これまで水風呂のあれこれを書いてきました。
薄い情報だったかもしれませんが、今後みなさんの何かの役に立つことを願います。
たぶん僕が気づいていない謎がまだまだ水風呂にはたくさんあって、たとえば、硬度・pHなんかと体感の関係性とかも気になりますし、ほかにも水圧であったりとか、水風呂を考えるための色々な切り口があると思います。
今回は書けなかったのですが、冷鉱泉(簡単に言うと冷たい温泉)を源泉に持つ水風呂が、日本には山ほどある様子。
やっぱり溶存成分が普通の水よりも多くなると思うので、それが浴後の感覚にどう影響するのかなぁ、とかも個人的に気になっているところです。
調べていてあらためて感じたのが、日本は水資源が豊富だなー、ということ。
そして、その水が昔から文学や芸術なんかの文化と密接に関わって、それを育んできたんだなー、と思いました。
まあ、それは世界中で多分そうなんですけどね。
水は生存そのものに関わっている訳ですし、文化的な重要性がない地域なんてないのかも。
最後にちょっと文化的なあれこれを。
日本は水が豊富なワケ
まず大陸プレートがちょうど衝突する地帯にあることから、「天然のダム」と呼ばれる火山がとても多いこと。
また貯水作用を持つ森林が豊富であること。
びっくりしたんですけど今では天然林より人工林のほうが1.5倍多くて、植林をちゃんとしてなかったら、大変なことになってたみたいです。
そして、中緯度モンスーン地帯に属しているので、低気圧、梅雨、夏の台風、秋雨、降雪と年間を通して降水があり、特に顕著な乾期が存在しないこと。
(宇野木早苗 『森川海の水系』(2015), 恒星社厚生閣)
これらが日本の豊富な水を形作っていると言えると思います。
そして、ここから出てくる特徴が、川の流れがとにかく激しいこと。
宇野木さんの本では、明治に日本に招かれたオランダ人河川技師が富山の川を見て「これは川ではない、滝だ」と言ったエピソードが紹介されていました。
なので、水の入れ替わりがよく、フレッシュな水が手に入りやすい反面、治水・利水がとても難しい、という特徴があったようです。
そんな地理要因の影響は、鴨長明の『方丈記』にも見出だせるかもしれません。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」なんて有名な言葉。
それは後に来る「知らず、生まれ死ぬる人、いづかたより来たりて、いづかたへか去る」という、文学の普遍的なテーマのひとつと組み合わせられています。
つまり、人間の寄る辺なさが変わり続ける水のイメージと結びつけられていて、ここには、激しく流れる河川の情景が重ねられているのかも。
それと異なった水への思いが別の作品に。
最古の漫画とも称される鳥獣戯画の冒頭の一枚目がまさに水遊びから始まります。
ここには、水の持つ楽しさが現れているように思います。
マンガの源流なんて言われる、国宝の1ページ目がこれ。
これを見て、つい「ひょっとして、ととの……」と思ってしまうのはサウナーの性なのか。
ほかにも水は、別のイメージと結びつきます。
三途の川なんかに見られるような、異界の入り口としての水。
山水画で扱われるような水と山、動と静の対称。
河童や竜の絵といった水にまつわる空想世界の住人。
昔の人にとって竜は現実の世界に住むリアルな存在でした。
ほかには「弘法も筆の誤り」の弘法大師空海にまつわる、ある日、家の近くに空海が来て、杖で地面を付いたら湧水がでた、という伝説。
なんと、この伝説を持つ湧水が日本に1100箇所以上あるとか。
これを考えるうえで、大橋欣治『水と土の文化論』(2015), 東京農大出版会 がとても参考になりました。
水にまつわるエトセトラ。
それは過去の話でもなくて、水が汚れを清めるという発想自体は、現代でも見受けられますし、現代では名水の地がパワースポットと呼ばれるようになっていたり。漫画やゲームなどをみると、河童や竜なんて存在は水にまつわるキャラクターとして現役だということに気づかされます。
ひょっとすると、しきじの水なんかも、そういう水にまつわるエピソードのなかの、現代的なかたちのひとつなのかも。
wikipediaによると、「メディア」って、もともとの言葉の意味は「中間にあるもの、間に取り入って媒介するもの」だそうです。
水って、ある意味で時間を越えた普遍的なメディアなのかなぁ、とたまに考えるのでした。
喜怒哀楽を投影させる場所。
そしてそのことで、想いであったり、感じ方であったりを変化させる空間。
そういうものとして水は文化に関わってきたのかなあ、と思います。
そして、そんな水の性質を直に味わうことができるものが水風呂なのかもしれません。
ちょっと適当に書いている節もありますが……。
体を熱したあとで、水で冷やす。
事柄としては単純ですけども、水風呂に入る前と入った後では、自分の捉え方が変わっていることがあります。良くも悪くも「まー、どうでもいいか」となりがちなんですけども。
これまでにサウナにハマって、だいたい毎日、水風呂に入ってきました。
たぶん自分は、生活のなかに一定のリズムで句読点を打つために、サウナに入って、水風呂に入っているのかもしれないなー、と思います。
感覚としては、一日の終わりに湯船につかるのと同じ。
そんななかで、色々な日がありました。
サウナが気持ちよくてウキウキになって、脳内で韻をなぜか踏み続けようとする日、本当にいやになっちゃった日とか、大事な友達を亡くした日とか。
汗ロウリュおじさんにイライラした日とか。
疲れきったあと、サウナと水風呂を往復しながら、一日を思い返してみたり、恐らくもう一生会うことのない、昔仲が良かった人のことを「今どうしているかなー」、なんて考えてみたりとか。
僕はそういうのが好きなんですね。
僕にとってのサウナの一番の魅力は、社会とか、家庭とかでの自分の役割をいったん全部脇に置いて、ぼーっとテレビを見たり、考えごとをしたりしながら、自分のためだけの時間を過ごせるところかなーと思っていて。
それが状況にすっぽりはまりこんでしまっている人にとって、自分を俯瞰的に見つめ直す時間になったり、インプット過多の人には、バランスを整えてくれたり。
直接的には何も解決してくれる訳ではないけども、結果的に役に立つものなのかな、と個人的には思っています。
だから、何が言いたいのかっていうと、多くの人にサウナを楽しんでほしい。
そんでもって、水風呂を楽しんでほしい。そんな感じ。
自分らしく生きるのを手助けしてくれるツールとしてのサウナ。
現代人、ふだん時間なさすぎて、常に情報に追われてて、ぼーっとする時間が足りてないので、強制的にぼーっとする時間を与えてくれるサウナはいいよー、ってくらいの意味ですが。
趣味としては、とても楽しいですよ。
ようするにここまで全部が、水風呂っていいぞ、という一言で終わる話。
それを飲み屋で隣の席に座った知らないおじさんの「いつ終わるんだ……この話」というレベルで延々と書き連ねてきましたが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。
そんなこんなで、読んでくれたあなたと、今後のサウナ界とサウナイキタイの、実り多い未来を願いつつ、僕の水風呂にまつわるエトセトラを、締めさせていただきたいと思います。
どうか良きサウナライフを!