アクア東中野
銭湯 - 東京都 中野区
銭湯 - 東京都 中野区
子供の頃から泳ぐのが好きだった。
人一倍他人への警戒心の強い子供だった俺は、人の多いところは嫌いだったけれど、水の中には見えない膜みたいなものがあって、それに守られている気がしたのだ。
水の中では1人になれるし、なによりも自由に動き回れる。
泳ぐのをやめてしまったのはいつの頃からだろう。
アクア東中野の屋外プールで、素っ裸のままぷかぷか浮かんで空を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。
ほのかなカルキの香りがプールの記憶を少しずつ呼び起こす。
年頃になった俺はスイミングスクールの「選手育成コース」といういわゆる選ばれなければ所属できないエリート強化チームに抜擢され、毎日毎日水泳漬けになった。
プールサイドから飛んでくるコーチ達の怒号と、無慈悲な速度で回転する巨大な12分計に追い立てられながら、俺は何も考えずに記録を伸ばすための水泳を数年間続けた。
その結果、俺の泳力はまあまあ見られるものになった。
だが俺はある日突然ぷつんと糸が切れたように泳ぐのをやめた。
人と争ったり競ったりすることが嫌になったからだ。
毎月のように行われる大会や記録会に参加して、大勢の人に見られながら泳ぐのも苦痛だった。
プールの中にいても、俺はもう1人にはなれないのだった。
これ以上こんなことを続けたら俺は、泳ぐ事を嫌いになってしまうだろうと思った。
海パン1枚で他人と戦えるほど強い人間ではない。
センチにそんなことを考えていたらすっかり冷えてしまった。
慌てて入ったサウナの中は満員御礼。
平日だというのに、どうやら人気の施設らしい。10分×3
テレビでは井上和香が胸元を強調しまくる扇情的なスーツを着てOLの役をやっている。そんなOLはいない。
水泳をやっていた時は何故あんなに早く回るのだろうと思って嫌いだった12分計は、サウナの中で、今とてもゆっくり回っている。
大事なものを捨ててまで、俺の求めた世界。
最後にもう一度プールへ。
今度は頭から潜ってみる。
本当は嫌なことばかりではなかった。
いい記録を出してメダルを持ち帰れば、コーチが褒めてくれた。親がご馳走を食べさせてくれた。
全校集会で表彰された。友達もたくさんできた。体育の水泳の授業ではいつもリレーのアンカーで、どのチームも俺を欲しがった。
つい嫌な思い出ばかりを反芻したがるのが俺のわるい癖だ。
もう一度、泳いでみようかなぁ、と思った。
今度は誰かのためではなく、自分のために。
だが、それにはまずこの怠けきった身体からなんとかせねばならない。
昔は逆三角形だったのになぁ。
いつもながら素晴らしい✨🤤
たまげたなあ。俺も強化選手だったんだよ、遼くん。どんなことがあっても、たいてい泳いでいるときは無心だよね。今でもサウナに行けない日はジムのプールで1キロ泳ぐことにしてるんで、常に手荷物の中には海パンが潜んでる。さすがにフルチンはマズいからね。
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