2019.10.16 登録
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『酒は飲め飲め茶釜で沸かせ御神酒あがらぬ神はない』
江戸時代、そんな有名な都々逸があったというが。
俺は神様ではなく生身の、肝臓を持った人間だ。
目が覚めると令和最強の二日酔いが到来していた。
一体どうやって帰ってきたのか記憶がない。
1番お気に入りのセットアップのジャケットも脱がずに、布団の上で仰向けになっていた。おろしたてなのに、クリーニングへ逆戻りだ。
新橋の居酒屋で大好きな『No.6』という日本酒の栓を抜いたところまでは覚えているが…そのあと新宿2丁目のゲイバーに行ったような記憶があるような、ないような。
記憶を掘り起こそうとすると締め付けるような激しい頭痛が。脳内で酒呑童子が暴れ回っているかのようだ。
それに加えて激しい吐き気。
午前中いっぱい俺はトイレの中でのたうち回ることしかできなかった。
昼過ぎからなんとか動けるようになったものの、体内をアセトアルデヒドが跋扈しているのがわかる。
イオンウォーターを飲みつつ時計を見ると15時ちょっと前。太陽の光や、近所のおばはんたちの話し声すら煩わしいが、俺はふらつく足つきでなんとかニュー椿の入り口の階段を上り切った。
この空虚な世界に、サウナという存在があってくれたのはまさに僥倖としか言いようがない。
全身の毛穴から昨夜の酒が抜けていく。
いつもなら塩サウナの椅子には、浅く、のけぞるようなリラックスした姿勢で座るのだが…頭が痛くて持ち上げられない俺は、真っ白に燃え尽きたあしたのジョーみたいなポーズで、緩慢に塩を身体に揉み込むことしかできない。8分×3
高温多湿のサ室と塩のシナジー。
1セット終えるごとに酒精が抜けて体が軽くなる。
数分前までは「もう2度と酒など飲むまい」と思っていたというのに、3セット目を終える頃には「レモンサワーなら飲んでもいいな」くらいには回復。
仕上げに薬湯風呂にじっくり浸かってから上がり、脱衣所で髪を乾かす頃には「矢でも鉄砲でもテキーラでも持ってこいや」という気分になっていた。
これがサウナのいいところでもあるし、恐ろしいところでもある。
『酒を飲む人花なら蕾今日も咲け咲け明日も咲け』
結局俺はいつも通り、ニュー椿入り口すぐそばの「伊勢彦酒店」の店先で、サウナ後のレモンサワーをグイグイ飲んでいた。普通にうまかった。
二日酔いで気がつかなかったが、その日はとても気持ちがいい、春のお日様が差していた。
春ですね。
※尚、医者の大半は二日酔いでサウナに入ることを脱水が起きて危険だと話すので、真似しないでほしい。
大人しくスポーツドリンクでも飲んで寝ているのが多分正しい。
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黙祷はニュー椿の開店待ちをしている時。
故郷の島国が未曾有の大震災に襲われた時、俺は遠い南の島国で、日本の9倍という強烈な日差しの下、呑気にビールを飲んで泥酔し、ビーチで出鱈目な河内音頭を踊っていた。
何という恥さらしだろうか。
大学卒業を目前にした卒業旅行でパラオ共和国に行っていたのだ。
帰ってきた時、日本は大騒ぎだった。
普段は長閑で平和なこの西巣鴨という街も、空気が淀み、どこか殺伐としていた。
それを見た時、ようやく俺はとんでもないことが起きていたのだと思った。
あれから9年経って、この国がどれくらいあの災害から立ち直っているのか、俺には正直わからない。
なぜなら俺はその大きな揺れを感じていないからだ。
帰国後も度々続く小さな余震。
その都度周囲の人々が身体を固くする。今の今まで酒を飲んで談笑していた人たちの顔から笑顔が消える。
それを見るたびに「ああ、俺はもうこの人達と同じ視線でこの世界を見ることはできないのだ」と強く感じた。
だって、俺にとってはちょっと頻繁に起きるけど他愛のない地震、に過ぎないというのが本音だ。
故郷でそんな大変なことが起きていることも知らずに、俺は呑気にビールを飲んで河内音頭を踊っていて、へらへら日焼けして帰ってきて、そして9年経った今もこうしてあの日と変わらない呑気なへらへら顔で、こうやって塩サウナで塩を全身に揉み込んでいる。7分×4
当時はまだそんな言葉はなかったように思うが、サウナーだってきっとたくさん亡くなったに違いない。
俺はもし明日死んでしまうとしてもサウナに入るし、そしてその最期のサウナはここニュー椿の塩サウナがいい。
こんなことを言うのは不謹慎だろうか。
外気浴で風に吹かれながら空を見上げると、流れる雲がゆっくりと千切れたりくっついたりしていた。
何も失わなかった俺なんかがこの件に触れること自体がおごかましいのかもしれない。
それでも俺は、もっとととのいたかったであろう、亡くなったサウナー達の無念を抱えた魂達が、少しでも安らぐことを祈った。
天国にサウナはあるのだろうか。あるといいなぁ。
ニュー椿入り口横に生えている椿の木は、今年もとても綺麗な花を咲かせている。
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「クラミジアかもしれないね」
老医師は無慈悲にそう言った。
診察台の上で下半身丸出しのまま、俺はその言葉を聞いた。
突然始まった排尿時の焼けるような痛みが数日間続いたので、近所の泌尿器科に駆け込んだのだった。
クラミジア…性感染症というやつである。
自覚症状が出ないことが多く、結構保菌者がいるという。
何ということだ。
最後に性病検査を受けたのは3年前。
つまり今から3年遡って、関係を持った人たちの誰かからもらったと思われる。
俺は容疑者をリストアップした。
自分はどちらかといえば淡白でクリーンな人間だと思っていたが…結構いるな。
正式な検査結果が出るのには数日かかるそうだが、もしクロだった場合、この全員に連絡しなくてはならないのかと思うと気が重くなるくらいの数ではあった。
ちなみにサウナやお風呂でクラミジアは移らないそうだ。
しかし俺は結果が出るまでのサウナ自粛を自分に課した。
いくら移らないと分かっていても、これはマナーだろうと思ったからだ。
ああ、俺は汚らわしい性病持ちの男になってしまった…。
サウナに入れない鬱屈も合わさって、俺は数日間死んだように過ごした。
で、結果どうだったかというと、シロであった。
いつの間にか自然治癒で痛みも引き、老医師曰く「まあなんかバイキンが入ったんでしょ」とのこと。
安堵感で軽くなった足取りで、そのまま一路、ホーム、ニュー椿へ。
今日は偶数日なので3階、熱々のロッキーサウナにイン!6分×4
ああ、やっぱりサウナはいいなぁ。
健康な身体で、素っ裸で、サ室と水風呂とととのい椅子を行ったり来たりする。
そんな簡単なことが、こんなにありがたいことだとは。
俺はいつの間にか大事なことを忘れていたのかもしれない。
今日の変わり湯はアサイー風呂。
バイブラ湧き上がる毒々しい紫色の湯船の中で、おっちゃんたちが煮込まれている闇鍋のような情景も、俺にとってはかけがえのない日常だ。
しかし今回の事は、新たな価値観を俺の中に産み落とすきっかけになった。
残念ながら世の中にはサウナで移る病気もあるという(ネット調べだけど)
昨今のサウナブームで(お盛んそうな)若者も増えた。
得体のしれないウィルスや細菌が跋扈する今の時代、我々サウナー達は己の健康管理を求められているのかもしれない。自分のためだけではなく、他のサウナー達のためにも。
水風呂の前に汗を流すのと同じように、定期的な感染症検査もまた、マナーになってくるのではないだろうか。
みんなが気持ちよく、安全にととのうために。
真面目!!!!!!!
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「口座の残高不足につき引き落としができませんでした」
朝っぱらから、ポストの中にはまたこの通知だ。うんざりする。俺が悪いんだが。
督促状をポイっとゴミ箱に放り捨て、ふて寝してしまおうと横になってスマホをいじくっていると、あることを思い出して画面をスワイプ。
画面には水道橋、『スパラクーア』の無料券が表示されている。
とある抽選で当たったものだが、俺がサウナに行く金をケチろうとすると、いつもこうやってサウナの神様が骨を投げてくれている気がする。
ありがたいことだ。
しかしコロナウィルスの影響はここにも出ていた。
激混み施設のイメージだったが、客はまばら。
サウナは4種類。全部1回ずつ入ってみた。
どれも衛生的でよろしい。
1番お気に入りはセルフロウリュができる『フィンランドサウナ コメア』
扉を開けた瞬間、波の音が聞こえてきて「なにこれ超オシャレ〜フィンランドじゃんもう〜フィンランドに海あるのか知らんけど〜」と感動したが、出るときにそれは波の音では無く排気口を風が抜ける音だと気が付いて、一気に東京都文京区に引き戻された。
休憩エリアは相変わらず豪華だが、若者だらけだ。カップルだらけだ。
なぜだ。
なぜあんな大学生くらいのアンチャン達が、3千円近い入館料を払い、500円もする飲み物を飲みながら、余裕で談笑しているのだ。
俺は31歳で、口座はいつも残高不足で、偶然当てたタダ券で運良くここにいるが、飲み物は冷水機の水だ。1円も使わずに帰る気満々である。
もし彼らに3回回ってワンと言えばビールをやる、と言われれば何の躊躇いもなくやっただろう。
左隣ではカップルが(1本のスプーンで)イチゴパフェを食べている。
濃厚接触!!
右隣では父親が幼い息子に「何でも好きなもん食べていいけどパパにも頂戴ね」とか言っている。
濃厚接触!!
凄まじい陽のオーラに当てられて、フラフラとリクライニングチェアへ。
TVのチャンネルを回すと春風亭昇太が俺の好きな古典落語『二番煎じ』をやっていた。
落語はいい。大好きだ。
だいたい貧乏人しか出てこないからだ。
昇太さんの優しい声に包まれながら微睡んでいたら、この日初めて深いととのいを感じた。
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ああ、誰かに褒められたい。
初期の過剰すぎるゆとり教育が生み出した、異様なまでに自意識・自尊心の肥大化したモンスター…それが俺たち昭和末期世代だ。
子供達の個性を大切に!
褒めて伸ばしましょう!
そんな調子のイージーな青春を送ったために、俺たちは完全に大人をナメきったバカな若者として育ち、そして他人からの評価に強く固執するようになった。
褒められてないと死ぬのだ。
そんな刹那的な欲求を満たしたい時、俺は昼間、開店直後のニュー椿にいく。
この日は奇数日なので、男湯は2階。
この時間はいつも常連のおっちゃん達がたむろっていて、俺もどうやら最近はその一員として認知してもらっているようだ。
このおっちゃん達というのが、何かにつけて俺を褒めてくれるのだ。
男前だ、とか、声がいい、とか、髪がたくさんあって羨ましい、とか、行き遅れた娘とお見合いしてくれ、とか。
ああ、気持ちいい。他人からの称賛。
まあ多分適当に言ってるんだろうけど。それでも構わない。
サウナももちろん気持ちいい。
2階の名物はアツアツの塩サウナ。6分×4
頭皮も塩でマッサージ。
おっちゃん達が褒めてくれる黒々とした立派な髪の毛、ケアしていつまでも大切にしよう。
と、水風呂の中で不健全な悦楽の淵にハマり込んでいたのだが。
突如サウナゾーンの出入り口が開く。
颯爽と入ってきたのは八頭身、イケメン、腹筋バキバキ、というミスコン男子大学生みたいな若者。
突然の闖入者に茫然自失の俺は、その圧倒的スペック差に、そそくさと敗走。
最近の若者はなんであんなにスタイルがいいのか。頭に来る。
ショクブンカのオーベーカですかねぇ。
入浴後「ニュー椿行ってきた」とTwitterにアップするためだけに美顔アプリでゴリゴリに修正された自撮りを入り口前で撮影していると、背後に椿の花が映り込んでいた。
加工アプリなんて無くても花は美しいし、さっきのにいちゃんもかっこいい。
俺はどうだろうか。
試しに無加工で写真を撮ってみる。
塩サウナと水風呂、そしてこれまた2階名物の薬湯風呂で、俺のお肌はちゃんとツルツルだ。
なんだ、まあまあ悪くないな、と思った。
でもやっぱりTwitterには加工した方をのせた。
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俺はとても疲れていた。
先の見えない将来への不安や、跋扈するコロナウィルス、長男である俺への「結婚は?孫はまだ?」という両親からのプレッシャー…。
繊細な俺の心を苛む要因は、枚挙にいとまがない。
どのくらい疲れていたか理解していただくには、最近俺が読んだ本のタイトルを見ていただくと早いかもしれない。
『死ぬこと以外かすり傷』『この地獄を生きるのだ』『しらふで生きる』『天使に幸せになる方法を聞いてみました』『マンガでわかる ゆうきゆう式ストレスクリニック』『ドラえもん 0巻』など。
今朝は蜂の大群に襲われる、という悪夢で目を覚ました。
寝汗でぐっしょりのまま、即座にスマホで「夢占い 蜂」と検索したら「ストレスが溜まっている。無理をしてはいけないという暗示」と出た。
やっぱり俺は疲れているんだ。
ああ、今すぐサウナに入りたい。
でも朝の6時。こんな時間にやってる近所のサウナなんて…ある。
巣鴨『サンフラワー』
ここの名物はなんといってもアロマ香るスチームサウナである。
もうもうと惜しみなく立ち込めるスチーム。
濃霧の中、水の流れている音だけが聞こえる。
まるで深淵なる桃源郷。
10分×3
風呂上がり、いつのまにか夜はすっかり明けていて、たっぷりの日の光が燦々と降り注いでいた。
サンフラワー…すなわち向日葵の名にふさわしい朝だ。
俺は心身の疲れも、今朝見た悪夢も、すっかり忘れた。
日光の力は偉大だ。俺も日の光の方を向いて咲いていこう。そう、向日葵のように。
いつもの通り自販機でビールを買おうとして、フト思い出した。
前回ここに来たのは、年明けに痛風の発作を起こし、足首の激痛で数日間のたうちまわった直後の、最初のサウナだったことを。
「尿酸値」の3文字が頭の中で踊り、ボタンを押しかけていた指をそっと離す。
代わりにパックの牛乳を買った。
牛乳を飲むのは10年ぶりくらいだった。
なぜなら好きじゃないからだ。
ではなぜ買ったのかといえば「牛乳を飲むと尿酸の排泄が促されて痛風によい」という内容のネット記事を読んだばかりだったからだ。
せっかく身を清めたので、地蔵通り商店街を抜けて、猿田彦神社を参拝。
ここに祀られているのは猿田彦大神といって、いわゆる「道開き」の神様である。
先の見えないこの時代、どうか俺の行くべき正しい道が開けますように…。
明るい日差しの下、そんな俺の祈りは神に届いたと信じたい。
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サウナと同じくらい、辛い食べ物…とりわけ麻婆豆腐が好きだ。
どれくらい好きかは俺のInstagramを見ていただければわかるんだけれども、投稿の半分は麻婆豆腐である。
ちなみに残り半分の投稿は、美顔アプリでゴリゴリに美白・修正された自撮り写真である。併せてご覧いただきたい。
さて。
そんな俺の性癖を知った先輩サウナーから、美味しい麻婆豆腐が食べられるサウナがあると聞いた。
駒込の「ロスコ」である。
なんとなく玄人向けのイメージがあって行っていなかった施設だ。
だが俺ももうサウナー3年生。
ここでひとつロスコ初挑戦。
なるほど。
他のサウナー達が言うようにクラシックな雰囲気。
古めかしくも、それでいて衛生的。
知名度から考えてもっと混んでいるかと思っていたが、平日昼過ぎという時間が良かったのか貸し切り。
サウナはアツアツで7分が限界だった。3セット。
水風呂で水を吐き出しているライオンの瞳がどこか哀しげで愛おしい。
しっかりととのって、お楽しみの食堂へ。
単品の麻婆豆腐(辛み追加)と、ハイボールを注文。
ひと足先に運ばれてきたハイボールのレモンがとてもフレッシュで、その香りに自律神経が落ち着く。
その後やってきた麻婆豆腐にはラー油と、巨大なミルに入った山椒が。
それを惜しみなくぶっかける。
そしてひと口。ハフハフ。
強烈な痺れが口の中をほとばしる。
ああ、この香りの香水があったら俺、付けるわ。
サウナと山椒のダブルパンチ…いや、ハイボールもあるから、トリプルパンチ。
脳からβエンドルフィンがばんばん分泌されていく。
せっかく世捨て人の陶芸家、みたいな面白い色の館内着を着ていることだし、自撮りしよー、っとスマホの美顔アプリを起動(ULIKEっていうのがいいよ)してみたら気がついた。
顔がいつのまにかサウナ後の如く汗だくだったのだ。
スパイスによる代謝アップ効果に感動しつつも、前髪がおでこに張り付いていたのが気に入らなかったのでそっとスマホを閉じた。
まったく、我がことながら自意識過剰な世代である。
ゆとり教育の弊害だろうか。
そしてもうひとつ気がついた。
今夜は激辛好きの友達と、麻婆豆腐を食べる約束をしていたのだった。
まあいいか。
好物は何度食べても美味しいし、そしてサウナと同様、麻婆豆腐もまた、この世にひとつとして同じものはない。
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ついこの間オギャアとこの世に生を受けたと思ったら、あっという間に31年も経っていた。
まさに光陰矢の如し。
サウナで知り合うおとっつぁん達には「兄ちゃん」とか「坊主」「若いの」「ジャリ」なんて呼ばれてはいるが。
昭和、平成、令和の3時代をちゃんと生きているのだ、俺も。
「卒業しても今まで通り飲もうねー」とか言ってた同級生達はみんな結婚したり、子育てしたり、会社を創ったり、そういうことで忙しいらしく、もう何年も会っていない。
変わっていないのは俺だけだ。
巣鴨、庚申塚にある銭湯「巣鴨湯」のサウナの中で、小さな砂時計を眺めながらそんなことを考えていた。
ここはサウナの中に12分計や時計がなく、代わりに受付で砂時計を貸してくれる(男湯のみっぽい)
ジリジリと足元から熱が上がってくるボナサウナ。96度。
砂時計は3分計だが、ついついひっくり返すのを忘れてしまう。
ので、正確な時間は分からないが、多分6分くらい×3
学生時代から同じ街に住み、週末の夜は相変わらずぷらぷらとクラブやバーを飲み歩き、やばーい終電なくしたっぽーいと騒いだり。
ぺらぺらな生地のファストファッションに身を包み、貯蓄は一切なく、給料前はさくら水産にしか行けない。
手元の砂時計の中に、小さな俺がいるのが見えた。
そいつは少しずつ砂に埋もれながら恨めしげな瞳でじっとこっちを見ている。
やめろ、そんな目で俺を見るな。
俺は大人になんてなりたくない。このままでいい。
隣に座っているおっちゃんも、砂時計を眺めている。
俺と同じく過去を回顧しているクチだろうか。
キミも大人になりたくないのかい?
でも水風呂に向かうおっちゃんの背中にある色褪せた刺青には、俺には到底知り得ない峻烈な雰囲気と、1人の人間の歴史があるように思えた。
彼の置いて行った砂時計は、彼が水風呂に入っている間も流れ続けていた。
一方俺の砂時計はいつの間にか流れ終わっていて、止まっていた。
小さな俺は、完全に砂に埋もれきってしまっていた。
このままで本当にいいのだろうか。
風呂上がり、いつもなら流れるようにアサヒスーパードライを手にするところだが。
ここ巣鴨湯には珍しい日本のクラフトビールが販売されている。
値段が高いし、飲み慣れてない味なのでつい無視していたが、この日は埼玉のコエドビール鞠花(500円)を購入。
ビールの味を変えるだけで、いつものレトロな銭湯の空気の味が、少し違う気がした。
案外、こんなことで人は簡単に変わっていけるのかもしれない。
でもサウナのおかげで俺の肌年齢は20代前半だ。ここはそのままでいい。
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子供の頃から泳ぐのが好きだった。
人一倍他人への警戒心の強い子供だった俺は、人の多いところは嫌いだったけれど、水の中には見えない膜みたいなものがあって、それに守られている気がしたのだ。
水の中では1人になれるし、なによりも自由に動き回れる。
泳ぐのをやめてしまったのはいつの頃からだろう。
アクア東中野の屋外プールで、素っ裸のままぷかぷか浮かんで空を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。
ほのかなカルキの香りがプールの記憶を少しずつ呼び起こす。
年頃になった俺はスイミングスクールの「選手育成コース」といういわゆる選ばれなければ所属できないエリート強化チームに抜擢され、毎日毎日水泳漬けになった。
プールサイドから飛んでくるコーチ達の怒号と、無慈悲な速度で回転する巨大な12分計に追い立てられながら、俺は何も考えずに記録を伸ばすための水泳を数年間続けた。
その結果、俺の泳力はまあまあ見られるものになった。
だが俺はある日突然ぷつんと糸が切れたように泳ぐのをやめた。
人と争ったり競ったりすることが嫌になったからだ。
毎月のように行われる大会や記録会に参加して、大勢の人に見られながら泳ぐのも苦痛だった。
プールの中にいても、俺はもう1人にはなれないのだった。
これ以上こんなことを続けたら俺は、泳ぐ事を嫌いになってしまうだろうと思った。
海パン1枚で他人と戦えるほど強い人間ではない。
センチにそんなことを考えていたらすっかり冷えてしまった。
慌てて入ったサウナの中は満員御礼。
平日だというのに、どうやら人気の施設らしい。10分×3
テレビでは井上和香が胸元を強調しまくる扇情的なスーツを着てOLの役をやっている。そんなOLはいない。
水泳をやっていた時は何故あんなに早く回るのだろうと思って嫌いだった12分計は、サウナの中で、今とてもゆっくり回っている。
大事なものを捨ててまで、俺の求めた世界。
最後にもう一度プールへ。
今度は頭から潜ってみる。
本当は嫌なことばかりではなかった。
いい記録を出してメダルを持ち帰れば、コーチが褒めてくれた。親がご馳走を食べさせてくれた。
全校集会で表彰された。友達もたくさんできた。体育の水泳の授業ではいつもリレーのアンカーで、どのチームも俺を欲しがった。
つい嫌な思い出ばかりを反芻したがるのが俺のわるい癖だ。
もう一度、泳いでみようかなぁ、と思った。
今度は誰かのためではなく、自分のために。
だが、それにはまずこの怠けきった身体からなんとかせねばならない。
昔は逆三角形だったのになぁ。
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日清カレーヌードルを食べようとお湯を注いで、それを持ったまま部屋をウロウロ歩いていたら誤って全て布団の上にぶちまけてしまった。
湧き上がる希死念慮をなんとか抑えることができたのは、夜から友人達とドライブ兼サウナに行く約束があったからだ。
八王子、「竜泉寺の湯」
サウナに行く約束、と書いたが、男5人のうちサウナに入るのは俺だけだ。
ここの売りはでっかい高濃度炭酸泉で、確かにまあそれも捨てがたい。あれには若返り効果があるというし、我々痛風患者の間では「なんか尿酸値が下がるっぽい気がするっぽい〜」ともっぱらの噂だ(医学的根拠はない)
しかし、見なかったことにしてそのまま放置して来た自宅のカレー臭い布団の記憶を振り払うには少々力不足だろう。
ここはいっちょ熱めの黄土サウナへ。8分×2
「黄土」という語感からまたカレーを連想してダウナーな気分になったが、タイミグよくオートロウリュが発動し熱々に。
熱波はいい。つらいことをみんな忘れさせてくれる。
テレビでは「秘密のケンミンショー」がやっていた。サウナで観る番組としては正解だろう。
「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」と歌っていた歌手が恋だけではなく薬もやめていなかったニュースなど、神聖なサウナでは聞きたくない。
塩サウナはぬるめなのでゆっくりと。10分×2
全身に塩を塗ってじんわりとデトックスを促す。
ここの塩はあまり荒くないし、サウナ室の湿度がかなり高めなので肌に馴染みやすく、刷り込む時の摩擦や刺激が少ない。
何より塩は邪念・雑念を吸ってくれる。
あれ、俺なんで落ち込んでたんだっけ?
東京には星がないと思っていたが、八王子くらいまで来るとそうでもないらしい。
露天エリアのリクライニングシートで外気浴を楽しんでいる時、空にはキラキラと満天の星の光が。
隣の大学生風の若者3人組も星を眺めて「でもあの星の光は何万年もかけてここに届いているから、もう星自体はなくなってしまっているかもしれないんだよなぁ」と谷川俊太郎の詩みたいなことを言っていた。
俺は車の運転が好きだが、その情熱に反してとても下手くそなのでどうせ運転させてもらえない。
それがわかっていたので遠慮なく風呂上がりはアサヒのエクストラコールドと、生レモンサワーを頂いてととのい完了。
と、思っていたら。
酒を飲んでいる俺の傍を先程の3人組が通り過ぎていく。
レストランで食事をするようだが、こんな会話をしていたのが耳に入った。
「俺カレー食いたいな〜」
一気に現実に引き戻された。
今夜は家に帰りたくないが、残念ながらここ竜泉寺の湯に宿泊設備はない。
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「火葬場の匂いがした」
そんな前情報をニュー椿仲間のMさんから聞いていたとはいえ。
しかし確かにそれは火葬場の匂いだった。
甘やかな香りで、特段不快感はない。というかむしろ、安らいだ気持ちになった。
ニュー椿3階の名物、ロッキーサウナが故障したのが去年の年末頃。
常連のおっちゃんによると、海外からのお客様が桶に入れた水を思いっきりストーブにかけてセルフロウリュを試みたのが故障の原因だったというが、いつも適当なことばかり言うおっちゃんなので本当かどうかは知らない。
そんなロッキーサウナが先日ついに復活した。しかもパワーアップして。
具体的にどうパワーアップしたのかは知らないが、なんかみんなが「すごい」「やばい」と、語彙力を失って虚脱した様子で言う。
何があったんだ、みんな…。
というわけで俺も早速行ってみた。
どうしてもその日の1番サウナに入りたくて、開店10分前に入り口でスタンバイ。
狙い通りサウナコーナーは貸し切り。
体を清め、ドキドキしながらロッキーサウナの扉を開ける。
熱い。熱すぎやしないか。
メーターは100をゆうに超えている。
6分×4
俺は誰もいない新生ロッキーサウナを見渡した。
これと言って見た目に大きな変化はない。サウナストーンが綺麗になっているくらいか。
オートロウリュの回数が増えたような気がする。
しかしこの熱さはどうしたことだ。
粘膜が焼け焦げそうだ。どこの、とは言わないが。
おそらく機械が新しくなったことによる何かが焼ける香り…Mさんで言うところの「火葬場の匂い」を嗅ぎながら目を閉じていると、死んだ祖母の顔がまぶたの裏に浮かんだ。
それからしばらくして、今度はどういうわけか過去の恋人達の顔が次々に去来した。
その中には俺を恋人にした人も、愛人にした人も混ざっていたが、それらもまたすぐに消えていく。
そうだ、それでいい。お前らなどロウリュの蒸気と共に消えていけ。霧散しろ。
つい酒に酔うとそいつらに連絡したりしてしまう俺の弱さもまた消えていけ。
そうか。
この匂いは、サウナという火葬場で己の過去や弱さを焼いている匂いなのかもしれない。
雑念とか執念とか、そういうものを全部断ち切って焼き払ってくれるような、力強くて激しくも、荘厳な、超自然的な、畏怖を覚えるような、そんな熱さだった。
最後に1セットだけハーブサウナで塩揉みして、仕上げ。
全身に令和最強のあまみが浮かび上がる己の裸は、燃え盛る炎の中の不動明王のようだと思った。
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江古田、というと日芸と武蔵野音大。
荒削りで尖った個性と自意識剥き出しの、若き芸大生達が互いのイマジネーションを刺激し合いながら日々アートについて論じ合い切磋琢磨している芸術の街、というイメージを抱いていたのだが、いざ降り立ってみるとそうでもなかった。
まずタピオカ屋が多いのに驚いた。
そしてその全ての店に、近隣の大学生と思しき若者達が殺到している。
ゲージュツのことは俺にはわからんが、それらはいつでも時代のムーヴメントみたいなものに逆行する、反抗の精神というか、そういうものが原動力なのでは…?
いいのか、芸術家の卵達よ。それでいいのか。タピオカでいいのか。
アーティストならタピオカではなく、なんていうかこう、アブサンとかを飲むべきではないのか。
そんなタピオカと若者の波をかき分けて歩くこと20分。
目的のタピオカ屋…じゃなかった、銭湯がそこにある。「久松湯」
サウナ料金込みで870円とリーズナブル。
サウナ室はあまり広くないが衛生的。
温度は90度弱。サクッと10分×3で仕上げ。
水風呂は16度から17度前後。
少々カルキの匂いがする気がするが、俺は嫌いではない。
子供の頃通っていて楽しかったスイミングスクールを思い出すからだ。
平日の早い時間だが、若いお客さんが結構多い。
江古田の芸大生達だろうか。タピオカは非常に高カロリーだと聞いたが、みんな細くてスタイルがいい。最近の子はみんな尻が小さい。いいなぁ。
それにしても、ととのった後の人間というのは奇妙な行動力や、的外れな知的好奇心を発揮するもので、どういうわけか気がついたら俺は帰り道、タピオカミルクティーを片手に持って歩いていた。
初めて飲んだタピオカミルクティーは、なんとも言えない虚無的かつ退嬰的な味がした。
ミルクティーの中で踊る無数のタピオカは、よく見ると草間弥生のアートっぽく見えないこともなかった。
「残された少ない時間の中で、ご飯を食べる時間も寝る時間も削って、一生懸命絵を書き続けています」
というのは草間弥生先生のお言葉だが、もしかしたら彼ら芸術家の卵達もまた、作品作りのため、まともなご飯を食べる時間を削り、片手で食べる(飲む)ことのできるタピオカを摂取しているのかもしれない。
そして疲れた時にはサウナに入る。
ちょっと内心馬鹿にして悪かったなぁ、と思った。
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ひい、ふう、みい…
年末年始の怒涛の飲み会、上がり続ける税金、それに加えて光熱費や家賃、NHKの受信料、クレジットカードの支払い。
いやほんとは夜遊び代が1番高い。
とにかく、俺の財布の中には3千円しか残っていなかった。
金がないと人の心は荒む。
俺の心も厭世感でいっぱいだった。
そういう時こそサウナで現実逃避したいところだが、サウナというのは決して安い趣味ではない。
もちろんプライスレスな価値があることは知っているが、ここでサウナに使う千円でなにが食えるだろうかと考えると腰が重い。
財布の奥に小銭でも紛れていないかと逆さにしてみると、小銭の代わりに音もなく落ちてきたのは、ニュー椿のサウナ券。
サウナ(1200円)に入るたび1枚もらえ、10枚集めると、手ぶらサウナ(1300円)が一回無料になるというサービス券だ。
もしや、と思った。
床に散らばったサウナ券をかき集めて数えてみる。
ひい、ふう、みい…
ぴったり10枚あった。
時計を見るとニュー椿は開店5分前(拙宅から徒歩3分)
神様のお告げだと思った。
「汝、サウナにて身を清めよ」
いつもはこの時間なら常連のおっちゃん達がいるのに、なぜか貸切なのもますます神聖な力を感じずにいられない。
チンチンに温まった塩サウナを楽しみながら、この場に導いてくださった神様に感謝の念を送った。
いつもよりも長く、回数も多く楽しんだ。
塩サウナ10分×4、ドライサウナ10分×1
途中で入ってきたお兄さんの髪型がイエスキリストっぽかったのと、その後入ってきたお兄さんの刺青が観音様だったのは一体何のお告げだろうか。
脱衣所で鏡を見ると、全身にこれまでにないほど濃いあまみ(赤くまだらになる模様)がでていた。
その姿はインド神話に登場する、火の神アグニに似ているような気がした。
帰り道駅前のスーパー「みらべる」に寄ると恵方巻を売っていたので買って帰ることに。
今年の恵方は西南西。スマホで方角を調べて驚いた。
拙宅より西南西。なんとそこにはニュー椿があったのだ。
誠に暗く、世知辛い時代。
神様達は人間に愛想を尽かしてしまったような気さえするが、少なくともサウナの神様はまだ俺達を優しく蒸し上げてくれている。
そのことに感謝しつつ恵方巻を食べ尽くした。
[ 東京都 ]
日本には古来より、塩や酒、そして冷水で心身を清めるという習慣がある。
どうもこのところ朝起きると身体が重い。
俺には霊感はないし、霊的な経験も皆無だが、なんとなく背中に何か良くないものが憑いているようなイヤ〜な重量感が。
単なる二日酔いかもしれないが、それにしても生霊を飛ばされる心当たりは正直めっちゃある。
家のすぐそばが霊園、という立地なのも関係あるのかもしれない。
ここはいっちょ塩と行水で悪霊退散!
ということでニュー椿2階、熱々の塩サウナへ。10分×4。ドライサウナ無しでオール塩サウナ。
全身に塩を塗り込むと、背中の悪霊達が悲鳴を上げている気がする。
ザマアミロ!くらえっ!黄泉の国へと帰るがいい!えいやっ!
俺が目に見えぬ敵と闘っている間、向かいに座るおっちゃんは、椅子を二脚使って足を伸ばしてくつろいでいる。気持ち良さそうな顔をしている。客は俺たちの他にいないし、べつに構わないだろう。
と、思ったのだが。
おっちゃんは伸ばした足を両側にガバッと開いており、簡単に言えば妊婦が出産するようなポーズを取ってこちらを向いており、肛門が丸見えであった。
正直あんまり、いやかなり見たくない。
でも「見たくない」と思っても非日常が目の前に現れた時ついつい見てしまう、というのは人間の因果な習性で…。いやでも本当に見たくない。
そんな俺の心の葛藤を知ってか知らずか(たぶん知らない)おっちゃんは気持ち良さそうに、恍惚の表情を浮かべている。そりゃ気持ちいいだろうよ、そんだけ開放的なポーズしてりゃ。
気を紛らわすために、俺はどこかで聞いたことがある、スピ的によいとされる、たっぷりの塩をこんもりと脳天に乗せるというのをやってみた。なんとなく邪念が吸われていく感じがしてこれはいいかもしれない…と思ったのも束の間、汗と共に流れてきた塩分が目に入って悶絶。ギャッ!
目が開けられないのでおっちゃんの肛門は見えなくなって良かったが。
風呂上がり。
ニュー椿はアルコールの販売がないので、飲みたい場合は外に出てすぐ右手に見える「伊勢彦酒店」が1番近いアルコール販売ポイントである。
ここでキリンの「本搾り」グレープフルーツ味を買ってその場で飲む。
塩、行水、お神酒…のフルコースでいつの間にか身体は軽くなっていた。悪霊は去ったようだ。
しかし悪霊の代わりにおっちゃんの肛門が脳内をちらつくようになってしまった…どうしよう。
[ 東京都 ]
自分に染み付いた他人の匂いが、重荷に思える時がある。
サウナに入ると五感、とりわけ嗅覚が鋭敏になるという人は多いが、そのせいだろうか。
俺は東京で一人暮らしをしている31歳の健康な独身男性である。当然朝帰りもするし、行きずりの関係を持つこともある。孤独な身体と魂を他人と慰め合うことを恥だとは思わない。
しかし通勤ラッシュを逆行しながら家路に向かっている時、いつまでも自分の身体から他人の匂いがすると、そこにいないはずの相手がまだそばにいるようで正直気疲れする。爽やかな1日を始めるような心持ちにならないのだ。
そんな時、家に帰る途中にあるジムのサウナで汗を流すと自分の身体から他人の匂いが消えてリセットできる。ようやく新しい朝が来る。
スポーツジムというのは、基本的に皆ポジティブな気持ちで通う場所なので、陽のパワーが満ちているからかもしれない。
働いているお兄ちゃんお姉ちゃんたちの可愛い笑顔にも癒される。
1セット目の汗で昨晩の情事を回顧。
2セット目の汗で体内に残った酒を絞り出す。
3セット目の汗で人間はどれほど深く睦み合ったところで所詮は孤独なのだという真理に帰着。
4セット目の汗で新しい自分に生まれ変わる。
こうして108の煩悩も、生きることの哀しみも、全て水風呂に溶かしてしまうのだ。
そうして今日も生きていくのだ。
この東京という街で。独りで。
元気な時はこの後ジムエリアに戻ってランニングなどしてもよい。
ロッカールームでパンツ一枚のままイオンウォーターを飲んでいると、聞いたことのある曲が流れていた。ああ、これは確かGLAYの「とまどい」(の、オルゴールアレンジ版)
サビのこのフレーズだけは覚えてる。
とまどい学んで汗を流して
いつも何かに傷つきながら
サウナにハマる人達は、みんな「いつも何かに傷つきながら」「汗を流して」いるのかもしれない。涙の代わりに、汗を。
帰りにブックオフ大塚店でGLAYのベスト盤とか買って行こうかな、と思った。
サウナとGLAYは相性がいい気がする。
[ 東京都 ]
はやくはやくはやく。
俺は急いでいた。どこへ?水風呂へである。
このところプライベートでストレスフルな生活が続き、サウナだけでは自律神経が維持できなくなった俺は、ヨガの教えに救いを求めることにした。
ホットヨガ、リフレッシュのレッスンに参加。ちなみに肛門をきゅっと引き締める運動をヨガではムーラバンダと言い、これをすると肛門のチャクラが活性化。全身に力がみなぎる。らしい。
時々電車の中でもやっているが、なんとなく背徳的な気分になるのはまだまだ俺の修行が足りないせいだろう。ヨガの深淵…。
レッスン終了後。
熱々に蒸しあがった体を早く冷却したい。はやく、冷めないうちに。
シャワーで全身を洗い、足早に水風呂へ。
サウナの時とは違う、体の芯までが熱い。水風呂に入ってもなかなか熱が引かない。3分ほど冷却したところで一旦整い椅子へ。
山手線の発車ベルが聞こえる外気浴スペースは、旅情を掻き立てる。
火照った体が落ち着いたので、サウナへ。
全身の汗腺が「マジっすか。まだ出すんすか。も〜勘弁してくださいよ〜」とゴネているのが聞こえたが無視。
テレビでは菅原一秀元大臣がなにやら頓珍漢な謝罪会見をしていた。
ガバガバになってしまった毛穴からは、サウナに入った瞬間無尽蔵に汗が流れ出した。汗腺達ももはやヤケクソだ。お祭り騒ぎだ。
あまりにも出るので怖気付いた俺は、5分ほどで撤退。このままではヨガの修行どころか、色々すっ飛ばして即身仏になってしまう。
もう一度水風呂に入って身を清め、本日は終了。
ちょっと怖かったけど、最高の気分だった。
同ビル内にある成城石井でビールを買い、今日はお休みだし、このまま電車でどこかに出かけようかな〜などと思いながら大塚の街を歩いていたら、スーツ姿の若い男におっパブのキャッチをしつこく受けて、せっかくヨガとサウナで整えたチャクラが少し汚れた感じがした。
「俺のどこが平日の昼間から姉ちゃんのオッ○イを愛玩したがっている男に見えるというのだ。無礼な若造め。俺は今ヨガと行水をやってきたのだぞ」と憤慨したが、平日の昼間から片手にビールを持って歩いていた俺が悪かったのかもしれない。
[ 東京都 ]
汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪のふりかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
(中原中也『汚れつちまつた悲しみに』より抜粋)
暖冬と言われるこの冬初めての雪は、SAKURAの露天エリアで外気浴をしている時に降ってきた。
俺は中原中也の詩がとても好きで高校時代から愛読しているが、いつのまにか自分が中也が結核で死んだ時の年齢を超えていることにこの時初めて気が付いたのだった。
俺よりも短い人生の中で、中也はどんな気持ちであの詩を書いたのだろうか。
そんなことを考えていたらふりしきる雪の中で身動きが取れなくなった。
露天風呂の蒸気と、雪と、雲の隙間からうっすらとさす日の光とが反射し合ってまぶしい。
まるで夢の中のようだ、そう思ってぼんやりしていると、ザバァっと湯船から立ち上がった男性がひとり、こちらへ向かって大股に歩いてくる。
パイパンだった。
やっぱり男のパイパンはトレンドなのだ。
俺の股間の陰毛は、粉雪のカケラでキラキラと光っていた。それはあまり美しくない絵面だった。
汚れつちまつた陰毛に
今日も小雪のふりかかる
汚れつちまつた陰毛に
今日も風さへ吹きすぎる
ついそんな罰当たりなことを考えてしまった…。
昨日の池袋かるまるでの件があったばかりでもうパイパンについては考えたくないのだ、俺は。
すっかり冷え切ってしまった俺はサウナ室の1番上へ。タイミングよくオートロウリュ発動。俺の凍りかけた心と陰毛を一気に溶かしてくれる。10分×3
水風呂ではうつ伏せで浮かんでいるおっさんがいて一瞬ギョッとしたが、別に死んでいるわけではなかった。でも積極的に生きたがっているようにも見えなかった。そういう時もあるよな。そういう時こそ中也の詩をよめばよい。
風呂上がりにはイオンウォーターを飲みながら、談話室の座敷に横になり、スマホで中也の詩を検索して読んでみた。
中原中也が生きた時代にサウナはあったのだろうか。無かったような気がする。
もしもサウナがあったなら中也はもっと幸せな詩を書いたかもしれない。破滅的な生き方をして夭折することもなかったかもしれない。
でもそれでは俺のような人間達の心を救う詩は多分書けなかっただろう。
そう思うと複雑な気持ちになった。
中也先生、おしえてください。
僕は陰毛を剃るべきでしょうか。剃らざるべきでしょうか。
…答えは返ってこない。
それとも彼の残した幾多の詩の中にあるのだろうか、その答えが。(たぶん無い)
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池袋という街は、なんというか陰のオーラが蔓延している感が否めない。いつも空が曇っているような気が…
そんな虚無と退廃の街、池袋にさす一条の光の如く誕生した「かるまる」
そろそろ客足も落ち着いただろうと平日の昼過ぎに初体験。
温度や設備などのデータはもうみんなが書いてくれているので割愛するが、とりあえず全方位的に最高だった、と言っておこう。楽園かよ。
それよりも今俺が思うのは「パイパン多かったな…」ということである。
あちこち脱毛済みの俺ではあるが、未だに常時パイパンには踏み切れないでいる。
高温多湿サウナ好きな俺が、立ったまま入る定員4人の小さな蒸サウナの扉を意気揚々と開けると、談笑している先客が2名。
扉が小さくて低い位置にあるので自然と屈むような形で入っていくのだが、それだと先客達の股間がちょうど俺の鼻先に位置するような格好になり、別に俺だってんなもん見たくて見たわけではないが、立ち込める熱い蒸気の向こうには蒸しあがった男のイチモツが。2人ともパイパンだった。
いたたまれない気持ちになった。
この密閉空間で俺は完全に少数派、マイノリティだった。わけもなく恥ずかしくなった、陰毛があることが。
自分がひどく滑稽な存在に思えて、逃げるように外へ。
出るときに段差に躓いて転びかけ、多分2人からは俺の尻が全開になって見えていただろう。でも構わない、Oラインは除毛済みだ。
ケロサウナでセルフロウリュをしている時も、岩サウナで「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」を見ている時も、脳内ではパイパンの4文字が踊る。先の2人以外にもさらにもう2人見かけた。別に見たくて見てるわけじゃないのに頭から離れない。でもパイパンにしている人達はみんなイケメンでスタイルも良かった。陽キャっぽいオーラ漂っていた。
ほんとはあれがいい男の正しい姿なの?トレンドなの?意識高い系なの?陰毛って文字の中に「陰」の字が入ってるし、剃らないと陽キャにはなれないの?
問いかけても上沼恵美子はなにも答えてくれない。
しかし。
ここは埼玉県の植民地、池袋。
ということは彼らは皆埼玉県民である可能性が高い。埼玉の男達の間ではパイパンが流行っているというだけかもしれない。そうだそうに違いない。俺は東京都民、シティーボーイだ。おまけに池袋がある豊島区に住み税金をはらっている。埼玉県民のブームなどに踊らされてどうする。
これからパイパンにしている埼玉県民のことを、「パイタマ県民」と呼ぶことにするぞ、俺は。
こんなこと書いて運営にアカウント凍結とかされたらどうしよう。でも大真面目なんだよ。美の追求、これが俺のサ道。どやっ
[ 東京都 ]
西巣鴨には、1200円で脳内世界旅行ができるサウナがある。ちなみにJR巣鴨駅すぐそばには、各部屋が世界中の観光名所を模しているテーマ系ラブホテル「エアポート」があるが、そこのことではない。
拙宅から約2分。やすらぎの湯ニュー椿。
日替わりで男湯と女湯が入れ替わる。男湯は偶数日3階、奇数日2階となる。3階の方がサウナや水風呂が広く、整いスペースの日当たりがいいので人気だが、現在ロッキーサウナ修理中につき、多湿系のハーブサウナのみ。2階は通常通りドライサウナと塩サウナが楽しめる。この日は奇数日なのでこちら。
俺は俄然多湿サウナ派なのでこちらメインで。10分×3。
最近はサウナ前にスクラブ洗顔をしてから入ることにしている。これをすることで顔からの汗の出がちがう。
座る位置にもよるが、多湿サウナにしては結構限界に挑戦している温度な気がする。椅子に座る前に水をかけないと火傷をするので注意。
テレビはなく、BGM有。なんの局かは知らないが、どことなくワールドワイド感溢れる選曲で、『ジェットストリーム』を連想させる。目を閉じるとスペインの陽気な酔っ払いや、南国の青い海が浮かんでくるような。先に「脳内世界旅行ができる」と書いたが、その理由がこれである。音量も大きすぎずに絶妙。ああ、今度はエッフェル塔が見える…。
ところで俺はサウナ美容男子として、大いに塩サウナ を推している。難しいことはわからんが、浸透圧がうんぬんかんぬんで、とにかく肌にいいのだと聞くし、実感として肌の色がワントーン明るくなる気がする。
しかしこの日の俺はすっかり失念していた。自分が無駄毛の脱毛をした直後だったということを。処置した患部に塩を揉み込んだら焼けるように染みた。具体的には脇の下と股間と臀部とギャランドゥ部に染みた。狭いサウナ室に俺の小さな悲鳴がこだまする。美の追求はいつだって闘いだ。
ドライサウナはまあ一般的な温度。8分×1
こちらにはテレビがあり、だいたいテレビ朝日かTBSで、この時間だと『科捜研の女』再放送が流れていることが多い。事件だわっ。
露天風呂もあるが俺は2階でのサウナ後は、漢方成分がたっぷりの薬湯風呂に入る。サウナで柔軟になった皮膚と精神に中国四千年の歴史が染み込んでいく。おっとまた海外に。
15時の開店直後は風呂もサウナもほぼ常連のみ。お喋り好きなおっちゃんに、「我々は日本という株式会社の社員なのだよ」という分かるような分からんような話を延々とされ、出るタイミングを逸して蒸しあがったりするので気をつけよう。
ちなみに刺青はオッケー。義理と仁義にあつそうなおじさんがたくさんいる。
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智恵子は「東京にはほんとうの空がない」と言ったが(高村光太郎「智恵子抄」参照)今日の東京の空は実に美しかった。雲ひとつない空を眺めていたら無性に外気浴がしたくなったので、チャリをすっ飛ばして新年初、巣鴨のSAKURAへ。
10時の開館時間ぴったりに到着。一番風呂狙いの短い列ができていた。
ざっと全身をシャワーで洗い、スタジアムサウナに一番乗り。10分×3
70度とデフォルトの温度は低めだが、オートロウリュが発動すると一気に温度が上がる。豪快に水が焼け石にぶつかる音は、どこか天ぷらをあげている音に似ていて腹が減る。
テレビはフジテレビ『ノンストップ』で、大久保佳代子が朝っぱらから日本酒を飲んでいるのをみていたら酒欲が高まった。
水風呂は思わず泳ぎたくなる深さと広さである。外から差し込む日の光が水面にぶつかり乱反射する様を見ていると、少年の日、夏休みみんなで忍び込んだ学校のプールを思い出してなぜか目頭が熱くなった。
外気浴ついでに2種類ある露天風呂も堪能。
シルキーバスは「滝壺の3倍のマイナスイオンを発生」させ、琥珀色に輝く桜雲の湯は「一千万年前、人類が誕生するずっと前の地球から汲みあげた」温泉らしい。正直何を言っているのか俺にはわからない。
アメニティはクラシエとポーラで統一。悪くない。ドライヤーは軽量で風量も上々。
ちなみにここの水は全て「ナノ水」とかいうなんかよくわからんがいい水を使っているらしい。そのせいかウォータークーラーの水がまろやか…な、気がする。
レストランもあるが俺は畳張りの談話室が好きだ。ごろ寝できるし、電話ひとつで飲み物も持ってきてくれる。アルコールの種類もかなり多いが、値段は結構強気。瓶ビール(サッポロラガー)は870円だ。俺は生レモンサワー560円を注文。甘くなくて、本格的な味。炭酸がもっと強くてもいいな。
近くに飲食店がほとんどないので、外で飲み食いしたければ巣鴨駅か駒込駅らへんまで行く必要がある。ちなみに駒込駅前の居酒屋「日本海」なら、アサヒスーパードライの大瓶が420円で飲めるという情報をここに置いて終わる。