半世紀以上!夫婦二人三脚で営んできた奇跡のオアシス大垣サウナを訪ねて

半世紀以上!夫婦二人三脚で営んできた奇跡のオアシス大垣サウナを訪ねて

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俳人・松尾芭蕉が詠んだ「奥の細道」の終着点であり、また、水の都と呼ばれ、全国でも有数の「自噴帯」と呼ばれる地下水の豊富な地域である岐阜県大垣市。大垣サウナは、この街で50年以上地元の人々に親しまれてきました。日本全国を見渡しても、半世紀以上の年月を超えて営業を継続できているサウナ施設は数える程しか現存していません。

サウナ専門施設と言えば、ターミナル駅や、各都道府県にある大きな繁華街からほど近い場所にあることが多いです。そのほとんどがカプセルなどの宿泊設備を擁しているか、複合ビルなどに入居しているという形態です。

大垣サウナは繁華街からは外れた住宅街にあり、人がたくさん行き来する街道沿いでもありません。さらに宿泊設備は持たず、オールナイト営業は土曜日だけ。通説を見事に覆す条件のもと、50年の長きにわたって人々を惹きつけ続けてきた大垣サウナの魅力に迫ります。

住宅地の中に突如出現するオアシス

IMG 9424入り口を入ると、広々とした玄関になっており、レセプションは老舗ホテルに訪れたような開放的な印象を受けます。

IMG 9425下足ロッカーは無く、受付で渡して着替え用のロッカーの鍵を受け取るシステムになっています。

館内に入ってまず目につくのが、ロッカーの上に奇麗に並べられている大タオル。通常、タオルは受付で手提げと一緒に渡されるか、ロッカーの中に入れられているケースが一般的ですが、大垣サウナでは荷物を入れるためにタオルを除けるという動作を省くことができます。これはさりげない心遣い!

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ビシッと整頓されているのも驚きですが、ロッカーの上にタオルを置くことができるということは、清掃が隅々まで行き渡っている証拠でしょう。なお、こちらのタオルですが、浴後身体を拭くためではなく、正式には浴場に移動する際に前を隠すためのものとのことです。清潔感に加えて、サウナ施設において快適に過ごすために大切な要素がまだ他にあります。それは、館内の「換気」です。サウナ室の換気は時折話題になることがありますが、それと同等かそれ以上に大切な要素だと思っています。

さまざまな施設で過ごすと、意外と館内の空気が澱んでいたり、こもってしまっているサウナ施設が多いことに気がつきます。かのナイチンゲールも、「患者が呼吸する空気を、患者の体を冷やすことなく、屋外の空気と同じ清浄さに保つこと」と、建物内の換気の重要性を述べています。大垣サウナに足を踏み入れた瞬間、その快適な空気を感じることができました。

清潔さと相まって、気持ちのよい空間に入浴する前から気持ちが高まります。

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施設の1階は、ロッカースペース、小休止できるイスとテーブル、トイレと洗面スペースのみのシンプルな構造です。フェイスタオルと館内着は浴室入り口の脇に積んであります。背中にプリントされている文字が可愛いので必見!

50年の歴史を感じる引き算の美学

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浴室に入ると真っ先にサウナパンツが目につきます。東西文化の分かれ目は関ヶ原が境だとよく言われていますが、大垣サウナはまさに関ヶ原からほど近い場所に位置しているので、西の文化圏の入り口と言えるかもしれません。ただ、大垣よりも東にある名古屋のサウナ施設や、さらに東の豊橋のサウナピアにもサウナパンツはあるので、だいぶ東西の境目が入り組んでいると思われます。機会があれば調べたいですね、柳田國男もびっくりの「サウナパンツ蝸牛考」マップを。

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浴室は洗い場、立ちシャワー、水風呂、お風呂、そしてサウナ室のみ。シンプルでコンパクトです。浴室はピカピカに保たれており、品があって、とても心地良い空間になっています。タイルの模様がワンポイントでさり気なく洒落っ気をだしています。

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サウナ室内はベージュを基調としたカーペット素材が目に留まります。BGMは無くTVが備え付けてあります。脇に添えられている竹の装飾が何とも愛らしい。座面には、ニュージャパン梅田やスパプラザにあったものと同じマット。

温度はおおむね110℃℃から120℃を推移しており、単純明快に熱い!唯一、この施設で感じる凶暴性と言えるでしょう。こちらのサウナ室の造りは、中山槇喜男先生の理論に全く当てはまっていないけれど、しっかり身体を温めてくれます。サウナ室の構造って、本当一筋縄じゃいかないんだなあ。

IMG 9525文字盤はレトロでかわいいデザインなのに指している温度は凶暴です。

大垣サウナの常連さんは、サウナ室でおしゃべりする方はほとんどいません。皆じっとTVを見つめています。サウナパンツの着用率は3割程度でしょうか。

そんなことを考えているうちに早くも蒸し上がってしまいました。体を芯から温めるのに、ものの10分を要しません。

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浴槽は水風呂もお湯も同じ大きさ!水風呂の方は、大垣が誇る名水をポンプで直接地下から絶えず汲み上げており、常時オーバフローしています。至ってシンプルに、新水を掛け流しています。

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汗を流して身体を水風呂に滑り込ませると、声にならない声が内蔵の奥から自然と出てしまいます。砂漠で遭難した人が、オアシスを発見して飛び込む時の気持ちってきっとこんな気分なのだろうな…。顔の筋肉が弛緩して崩れ落ちてしまうのを必死に理性で繋ぎ止めます。

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大垣サウナの水風呂は年間を通して水温はほぼ安定しており、14℃〜15℃ほど。真夏にも冷気が立ち上ります。そして何より、水風呂浴槽のタイルがピカピカであることが、この水風呂を一層フレッシュに感じさせます。衝動を押さえきれず、気がつくと水風呂の吹き出し口に手を添えて水を飲んでいました。

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ここには、休憩イスも外気浴スペースもありませんが、そんなものは無くとも、サウナと水風呂の魅力を十二分に堪能できることでしょう。おっと、サウナから出てきたら大タオルが補充されているじゃないか...。このさり気ない気遣いにいっそ恐縮する。

IMG 9570幅広で絶妙な大きさのタオルにインパクトのある大垣サウナの印字。一家に1枚欲しい。

階段の先に広がるおじさんたちのサードプレイス

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2階にのぼると、御食事処、リクライニング休憩スペース、マッサージスペースといった構成。分煙はされていませんが、空気がこもっていないので全く気になりません。ゆったりとスペースが確保されているので、のびのびと寛げます。幼い頃、家族で訪れた保養施設のような、どこか懐かしい気分にさせてくれる雰囲気に包まれています

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御食事処の入り口のアーチ。今は亡きスパプラザを彷彿させるやつ。日本にあるレンガ造りのアーチと言えば、大正時代に造られた水路などを瞬時に思い浮かべてしまう建築フェチにとってはたまりません。照明の笠やカウンターのデザインと配色もモダンでいい味がでています。

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食事、何を食べても美味しい...ネタケースを保有しているサウナ施設はほぼ例外無く、何を食べても美味しいです。大垣サウナは、長年勤務されている板長さんがいらっしゃいます。先日は、鮎のお刺身と塩焼きをいただきましたが、驚くことに注文が入ってから鮎を捌くのだそうです。流石水の都、大垣のなせる業...。サウナ施設で鮎のお刺身を提供するところが他にあれば教えて欲しい。

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実は、宴会スペースも。あれ、今赤坂の料亭にいるんだったっけ?いいえ、こちらも大垣サウナの一室です。年末年始の土日は大変盛況だそう。

御食事中の方、ごめんなさい。館内も浴室もピカピカですが、それ以上に奇麗だったので思わず無意識的に写真を撮影してしまいました。トイレまでピッカピカな施設は正直、類を見ません。施設のすみずみから愛が溢れている!

大垣サウナの歴史は夫婦で歩んだ50年だった

初訪問時、自分の心の隙間がピッタリ埋まるほどの感銘を受け、好き過ぎてたまらなくなった想いを直接お伝えするべく、社長の岡田昌子さんにお話をお伺いする機会をいただきました。

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── 開業された当時の様子などをお聞かせいただけますでしょうか?

大垣サウナは1966年の7月に夫(先代社長 故岡田正国さん)が開業しました。その翌年に結婚して、それからは夫婦二人三脚で切り盛りして参りました。当時はまだ岐阜にはサウナ施設はなかったと思います。物珍しいって言うので、九州や京都などずいぶん遠くから視察に来られたりしていました。最初は、木造平屋建てだったんですよ。

創業当時の大垣サウナ創業当時の大垣サウナ

── 先代社長はやっぱりサウナがお好きだったのでしょうか?どんな方だったのか、教えていただけますか。

とにかく、じっとしている人ではなかったですね(笑)仕事場兼自宅だったこともあって、寝ていてもよく夫に起こされてあれこれ試行錯誤したりしていました。現在の建物も、図面を自ら引いて「これをああして、こうして・・・」ってやっていました。サウナももちろん好きでしたよ。開店前に施設内をくまなく点検して、最後に必ず入浴していました。1日3回くらい入浴してたかしらね(笑)

── タオルがロッカーの上にピシッと並べられていてビックリしました。

夫はきれい好きで、整理整頓に余念がなく、従業員への指導もきちっとしていました。今のスタッフも本当に長いこと勤めてくれていて、ベテランばかりというのもあるかしらね(笑)おばちゃん達は良く気がつくのよ!

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── それにしても、なぜこの場所を選ばれたのでしょうか?

夫の生家がすぐ近くだったからだと思いますよ。

── てっきり、地下水が豊富だった、とか、競輪場に近いからなどと想像していました。

競輪場ついでにふらっと来られる方はあまりいらっしゃらないかもしれませんね。お客さんも長いこと来てくれている方が多いんです。本当にありがたいお話で、当初から素敵なお客さまに支えられてきました。

大垣サウナの「今」ができるまで

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── 心なしか、紳士なお客さんが多い印象を受けました。営業時間は最初から今と同じだったのでしょうか。

今はもうお仕事は引退されてらっしゃる方も多いんですけど、皆さん変わらず来て下さっています。もちろん、ずっと毎日がそうだったわけじゃなく、お話できないような大変なこともありましたよ(笑)

最初は、14時から夜中の2時まで営業していました。常連さんの奥様方の声もあり、開店前の早い時間に女性も入れるようにしていた時期もありましたが、新しく建てかえるときに男性専用施設にすることにしたんです。

ずっとオールナイト営業をしていた時期もありましたが、どうしても荒れてしまうことがあったので、オールナイトは土曜日だけにして、だんだんと今の形式になっていきました。

── 帰りたくない気持ち、わかります。バブル時代なんかは相当すごかったのではないでしょうか。

そうですねえ...多いときはロッカーに入りきらない数の方がいらして。皆で使うから入れてくれ!なんて言われたり(笑)リクライニングに座れないどころか、ロッカーの前にも人が大勢寝ているなんてこともありました。1年のうち元旦だけ休んで、364日営業していました。

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── 現在大垣市にあるサウナ専門施設は大垣サウナのみですが、開業当初からずっとそうだったのでしょうか。

多いときは市内に8店サウナ専門施設がありました。うちの常連さんだった方がいつの間にか開業されていた、なんてこともありました。だんだんと減って近くに大きいスーパー銭湯ができたりしたこともあって、他のお店は全て閉店してしまいました。

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── 今まで続けられた秘訣はありますか。

他のお店の中にはサイドビジネスでやられていたところも多かったみたいですが、私たちはこれ一筋でした。今のビルを建てたときも、「全て自分たちの目の届く範囲でやろう」ということを常に夫婦で話していました。駐車場の大きさから逆算して、サウナ室の大きさなんかも全て計算して、極力ロスが無いように、と。そのうちに、新しいところへお客さんが離れていってしまっても、また戻ってきてくださるんです。

── ご自身の目の届く範囲のみでやる、というのは一つの真理じゃないでしょうか。ということはCMや広告なんかも無く?

TVコマーシャルで宣伝したりしたことはありませんね。ずっと口コミで広めていただいておりました。うちは9割以上は常連さんで、親子三代で来てくれるかたもいらっしゃってます。本当にお客さんに支えられて、ここまでやってこられました。

── 最後に、大垣サウナが大事にされていること、そして大垣サウナの今後についてお聞かせ願います。

お客さんに気持ちよく過ごしてもらいたいということをなにより第一にしてきました。そのためのお店の空気作りは、夫婦で力を併せてやってきたかしらね。本当は夫が亡くなった時、閉めてしまおうかとも思ったんです。でも、どうにか7年間やってこられたのも従業員とお客様の支えがあったからだと思っています。最近は「サウナイキタイ」を見てきました!って言ってくださる方が増えて、本当ありがたいことです。こうして新しい若い方たちとの出会えたこともとても励みになってるんですよ。今では、1日でも長く頑張ろうと思っています。

IMG 9424入り口を入ると、広々とした玄関になっており、レセプションは老舗ホテルに訪れたような開放的な印象を受けます。

── 心から、1日も長く続けて欲しいと思っています。今日はありがとうございました!

終わりに


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改めて、大垣サウナの歴史は、先代社長と現社長の夫婦のお人柄と愛情によるものなのだなと確信しました。

ロウリュができるわけではないし、外気浴ができるわけでもない。しかし、シンプルに熱いサウナ、フレッシュでキンキンの水風呂、なによりも社長をはじめとする全スタッフの溢れる愛情が大垣サウナにはあり、それこそが大垣サウナの魅力なのだと思います。ただただ、身を委ねて心と身体を休めればそれで良いでしょう。

スタッフの皆さんが、口々に「ママ、ママ」と呼んでいるのも、長年の信頼関係があってこそ。そして、その信頼が産み出すグッドバイブレーションが、お店の空気を創りだしています。初訪問の余所者も満面の笑顔で迎え入れてくれる懐の大きさと心地良さに包まれたくて、今日も大垣のことを考えている自分がいます。もし、あなたが、自分の現状から距離を置きたい衝動にかられることがあったら、大垣サウナを訪れてみては如何でしょうか。きっと、温かく包み込んでくれることでしょう。

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