古民家の蔵をサウナに改造!日本式“ほぼスモークサウナ”がすごすぎる
2019年2月、岡山県美作市の中右手地域にとんでもないサウナが誕生しました。空き家になった民家の貯蔵蔵が、地域の人々の手によって、なんとサウナに変身!しかも構造はほぼスモークサウナというから驚きです。人口30人の限界集落に生まれた日本唯一の蔵サウナ、その全貌をご紹介します。
空き家の蔵をサウナにするという挑戦
中右手にある蔵サウナの正式名称は「パブリックハウス&サウナ久米屋」。中右手にあるゲストハウス「久米屋」に隣接しており、現在は宿泊者を対象にサウナ体験を提供しています。
「久米屋」は空き家になった民家を活用したゲストハウス。管理を任されているのが、2016年より地域おこし協力隊として従事していた丸山耕佑さん(34)です。丸山さんは一級建築士の資格を持っており、中右手に移住する前は東京の設計事務所に勤務していたとのこと。使い道がなくなっていた貯蔵蔵をみて「サウナにしてみたい」と思いつき、約1年かけて完成させました。地域の方々と協力しつつも、施工は全てDIYというから驚きです。
一歩足を踏み入れると、センスの良い空間!
蔵の扉を開けて一歩中へ踏み込むと、外観からは想像できないようなハイセンスな空間が広がっていました。サウナの入り方を説明したパネルや、久米屋が独自で作ったロウリュ用のフローラルウォーター、自家製シロップなどが並びます。
サウナの楽しみ方を解説したパネルは全て丸山さんのオリジナル。初心者でもサウナが楽しめるようにイラストを描いたそうです。
サウナの出入り口の真横にはシャワーが設置されています。決して広い空間ではありませんが、動線、機能、デザインがバランス良く配されていて、居心地の良さを感じます。丸山さんは主に住宅を手がけていたとのこと。小物や照明の使い方がまさにプロフェッショナル。
日本式“ほぼスモークサウナ”が凄まじい良さ!
興奮を抑えられず、まずはサウナを体験。スモーキーな香りが鼻をなで、仄暗い照明が心を落ち着かせてくれます。薪が熱源のため、ヒリつくような熱さではなく、まろやかな熱という印象。しっかりと熱いのに肌当たりがよく、息苦しさも感じません。土壁が湿度を調整してくれるのも、気持ちよく感じる一因なのかもしれません。
ロウリュすると体感温度は一気に上昇。香りと柔らかな熱にうっとりしながら、身体との対話に集中していると、ここが蔵の中であることすっかり忘れてしまいそうになります。吹き出す汗に目を開けると、およそ日本とは思えないサウナ空間。蔵サウナ、ヤバすぎる。サウナを愛する全ての人に来て欲しい。
蔵サウナ最大の特徴が、この薪ストーブ。冒頭から「ほぼスモークサウナ」と書いている理由がここにあります。レンガ積みの炉は少しだけスキマがあり、火を入れると煙突がついていても煙が漏れ出します。そのため4時間熱した後に、2時間ほど煙抜きをするのです。まさにほぼスモークサウナ!
煙は石を伝って、煙突から排煙されます。そのためサウナストーンは真っ黒。煙の温度は数百度になるため、大量のストーンも強烈な熱を帯びます。煙抜きから数時間は火入れをしなくとも、サウナ状態をキープできるとのこと。
蔵は天井が高いため、シーリングファンをつけてついているのも面白いポイント。通常ロウリュした後は熱がじんわり下に降りてきますが、ファンのおかげでふとしたタイミングにふわっと熱気が来て「おぉこれは体験したことないぞ!」となること必至です。
水風呂は通常蔵の前にプールを出しているそうですが、目の前が小川だったので無理を言って樽を用意していただきました。一寸法師スタイルの水風呂に浸かると目の前は山景色。どこからどこまで非日常を味わえます。ゆくゆくは小川の水位を高くしたいとのことでした。
「この土地にしかない」サウナができるまで
なぜ岡山の限界集落にこの唯一無二と言えるサウナが誕生したのか。企画者の丸山さんにお話を伺いました。
丸山耕佑
建築家。新しい公共の建築を目指して、都会から地域社会が残り自然資源豊富な岡山県美作市の山村へ拠点を移す。入村してまもなく3年。山村生活もようやく板についてきたところ。公共の場としてのサウナに目をつけ、村民と一緒に蔵を改修してサウナ小屋を建設。現在は同市の移住定住の窓口担当。今後は、自作のサウナに人を呼び、サウナに入り村民との熱い交流により移住促進を図る。
── 丸山さんはなぜ中右手に移住されたのですか?
東京の設計事務所で一級建築士として働いていましたが、田舎体験をきっかけにこの土地に惹かれ、移住を決めました。建築はもっと身近な存在であるべきだという考えが根底にありまして。専門家でなく地域の人々とダイレクトにできるのは楽しそうだなと。ここなら素材と向き合った建築ができると思いました。
── 久米屋のサウナは、ほぼスモークサウナのようで感動しました!なぜ蔵をサウナにしようと考えたのですか?
中右手は雪もかなり降る地域なので、サウナから雪にダイブしたら気持ち良さそうだなぁと思ったのがきっかけです。興味がわいてサウナの作り方を調べるうちに『オールドスモークサウナ』という本に出会いまして。本に出てくるスモークサウナと蔵のサイズがほぼ同じだったんですね。これならいけるなと思い、地域おこし協力隊のプロジェクトとして提案したとこと承認され、サウナ建築が始まりました。
── ほとんどDIYで作られたとおっしゃってましたね
近くに木工職人さんがいらっしゃって、その方と私と大家さんの3人で作りました。専門業者は使っていませんので、照明など一部を除きますが、資材はほとんどホームセンターで売っているもので建築しました。
── ホームセンター⁉︎ ちなみに建築費はいくらくらいなのでしょう
資材だけならおそらく100万円もかかっていないですね。ちなみにサウナストーンは地質を調べて近くに適したものがありましたので、それを使っています。身近なものでもサウナは作れるんだなあと思いましたよ
地域の植物からフローラルウォーターを作る
── ロウリュ用のフローラルウォーターも自作されているんですよね
散歩しているときにいい香りのする木があるなぁと思って調べてみたらクロモジという種類で。たくさん自生していたんですね。クロモジについて調べてみたら、中右手のある梶並地区の古い文献に、昔は蒸留して化粧水みたいに使っていたと載っていて。これはロウリュに使えるなと思いました。
── まさに地域資源の活用と文化継承ですね。ロウリュ用のフローラルウォーターをDIYするという発想がなかったので驚きです
クラフトジンを作る感覚に近いですよね。案外簡単にできますよ。クロモジの他にもゆず、ミント、松など、その辺に自生していて香りの良いものをたくさん試しています。いつかヴィヒタも作ってみたくて。白樺は自生していないのですが、柿の葉は良いんじゃないかな、なんて思っていますよ。
── サウナに入るときに出してくれたドリンクが異常に美味しかったです、あれも自作ですか?
近くに美味しいイチゴがあったので、漬け込んでシロップにしてますね。強炭酸水で割ってサウナの中で飲むとめちゃくちゃ美味しいですよね。
サウナづくりで知った地域の「魅力」と「文化」
── 蔵サウナを作ってみて、地域の人々の反応はどうですか?
最初は戸惑いもありましたけど、今はみなさん気持ちいいと言って入ってくれています。サウナやるよーと声をかけると、集まってくる状況が作れてきました。中でおしゃべりできるのも楽しいみたいですね。サウナを建てる狙いの一つに、地域の人々と移住希望者の交流の場というのがありました。火の場所を作ると、人が集まると言われていますからね。
── サウナをはじめ、ストーン、アロマ、ドリンク、何から何まで地域に根ざしている。久米屋のサウナはローカライズのお手本のようで感動しています。
海外からサウナ小屋のキットを買ってきてっていうのは最初から考えていなかったですね。でも最初からこれらすべてを計画していたわけではないんです。サウナを作る過程の中で、地域のことを調べたり、自生している植物に興味が湧いたり、地質を調べてみたり。サウナのおかげで、地域の文化や風土、魅力に気づけたなと思います。
── 久米屋のサウナがきっかけで、日本中に面白いサウナがたくさん出てきそうです
久米屋のサウナがきっかけで、地域に興味を持ってもらえたら嬉しいです。今は宿泊者の方にご利用いただいていますが、近いうちに日帰り利用などもできるようにしていきたいと思います。ぜひ遊びに来てください。
── きっと日本中のサウナーが遊びに来ると思います!本日はありがとうございました!
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記事を書いた人
「キャンパーをサウナに、サウナーをフィールドに」がテーマ。テントサウナが楽しすぎるので勝手に布教しています。みんなアウトドアでサウナしよう!