人それぞれの楽しみ方を応援する、数値評価から解放されたポータルサイト「サウナイキタイ」— 書籍『クリエイティブサウナの国ニッポン』より

人それぞれの楽しみ方を応援する、数値評価から解放されたポータルサイト「サウナイキタイ」— 書籍『クリエイティブサウナの国ニッポン』より

サウナイキタイより

サウナイキタイには、サウナ施設を星の数や点数で評価する仕組みがありません。

熱いサウナが好きな人も、やさしい温度が好きな人もいる。どんなサウナを心地よく感じるかは、人それぞれ。誰もが自分の好きなサウナに出会えるように、という思いでサービスをつくってきました。

そんなサウナイキタイの考え方や、誕生の経緯を紹介してくださったのが、2021年に刊行された、こばやしあやなさんの著書『クリエイティブサウナの国ニッポン』(学芸出版社)です。今のサウナイキタイにも通じる内容なので、あらためてみなさんにも読んでいただけたらと思い、著者・出版社のご快諾をいただき、該当の章を転載します。

本書では、フィンランドに暮らすサウナ文化研究家 こばやしあやなさんの視点から、2021年の刊行当時の日本のサウナブームを、施設や歴史、サウナ産業、愛好家など、さまざまな側面から紹介しています。興味を持たれた方は、ぜひ書籍もご覧ください。

※転載本文は2021年の刊行当時の内容です。利用者数・施設数・サービスの機能などは当時のものです。本文中の「序章」やページ番号は本書を指します。

ここからは、こばやしあやなさんによる本書の転載本文です。

人それぞれの楽しみ方を応援する、数値評価から解放されたポータルサイト

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サウナとデジタル社会は、本来あまり相容れない者同士です。そもそも序章では、サウナは「希少なデジタルデトックスの場」だからこそ、現代人にとって貴重なのだと書きました。

サウナ施設への入館後は、基本スマホは触れません。それゆえ、サウナ施設の最新情報は世に出回りにくい……というデメリットも長く解消されませんでした。平成後期においてすら、最新の情報収集のために何千件もの施設に電話確認を行なっていた武勇伝をもつ愛好家がいるほどなのです。

ところがいまや、今日はどこの施設に行こうかと考えるときにはみな、真っ先にスマホで検索を始めます。印象的なサウナ体験をSNSですぐさまシェアすることが日常化している愛好家も少なくないはずです。

大っぴらにコミュニケーションをとりづらいサウナ室の「外」で、全国の愛好家たちと施設情報や体験を共有し、こころ置きなく盛り上がれる場所。そんな、現代の愛好家が長年待ち望んだデジタル・プラットフォームをサウナ業界に差し出してくれたのが、2017年11月にリリースされた日本最大サウナ施設検索サイト、サウナイキタイです。

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サイトの利用は、掲載情報の閲覧だけなら非登録でもOK。無料ユーザー登録を行なうと、訪問施設の口コミを投稿しあう「サ活」に参加でき、自身のサウナ訪問記録や統計を可視化できます。

また、「トントゥ」という独自のポイント贈与制度もあります(トントゥはフィンランド・サウナの守り神の名前)。サ活を書くことで貯めたトントゥは、施設の優待券などが当たる月例抽選会の引換券として利用。

あるいは有益な口コミの執筆者に感謝を込めて贈ることもできます。投稿やトントゥ制度を通じて、全国各地の顔を知らないサウナ愛好家たちと繋がり、ゆるく交われるという点では、サウナイキタイは一大ポータルサイトであると同時に、ソーシャルメディアとしての役割も十分果たしています。

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検索機能においては、地域や施設カテゴリーはもちろんのこと、なんとサウナ室や水風呂の温度帯、サウナストーブのタイプ、水風呂の深さ、各アメニティの有無などからも絞り込みができます。施設情報の新規登録や更新は、すべて登録ユーザーの任意のデータ入力に委ねていて、データ更新に貢献するとさらにトントゥが貯まる仕組みです。

2021年9月末時点で、非登録者を含めた月間利用者数は79万3030人、全国の登録施設数は9500件を超えています。今日いかに多くのサウナ愛好家が、サウナイキタイを日々のサウナライフの拠りどころとし、サウナ浴の時間外にも、デジタルの世界でサウナへの興味や好奇心を満たし続けているかは、もはや誰の目にも明らかでしょう。

開発者2人の取り柄が融合した、スマート&脱力系サイト

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無駄や使いづらさを感じさせない頼もしいシステムが、ゆるくて楽しいビジュアルを纏っている……その絶妙な相乗効果で万人受けしているサウナイキタイ・サイト。実は、2人のサウナ愛好家の出会いによって「偶然に」生まれたものでした。

『サ道』ブーム前夜の2015、6年ごろからサウナに目覚めていたかぼちゃさんとありさん。2人はともに本職がITエンジニアで、それぞれに、ウェブ上でサウナ施設の最新情報が集めにくい現状にヤキモキしていたそうです。そして2人ともが、ならば自分でつくってしまおうと思い立ち、仕事の片手間に「サウナ施設検索サイト」をコツコツと構築していたのでした。この時点では、彼らはまだ互いに面識すらありません。

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彼らが出会ったのは、Twitterを通じて知り合ったサウナ好き数名による、当時珍しかった愛好家オフ会の場でした。東京都台東区にあるサウナつき銭湯ひだまりの泉 萩の湯にて初対面同士でサウナをともにし、入浴後は併設の食堂で和やかに情報交換会。宴もたけなわというときに、パソコンを手にしていたありが、不意に目下作成中の検索サイトを披露したのです。

驚いたかぼちゃが、実は僕も……と名乗りでたとき、一瞬だけ「お前もか!」というライバル心がぶつかり気まずい空気が流れたとか(笑)。ところが、2人はライバルどころかあらゆる面で相性抜群の「未来の相棒」同士だったのです。

進捗を見せあい、互いの思いやコンセプトを探りあってみると、ウェブサイトづくりの専門性において2人の関係はまさに凸と凹。かぼちゃはフロントエンドすなわち人の気を引くビジュアル・デザインに長けた反面、複雑なシステム構築はやや専門外でした。いっぽうのありは、バックエンドと呼ばれるシステム設計には自信があったものの、大衆受けするデザイン作業のほうに苦手意識があったといいます。

事実、初対面の時点でありがほぼ仕上げていたユーザー投稿型の情報収集システムと、かぼちゃが大方完成させていた鮮やかなブルーカラーを基調としたキービジュアルは、すでに今日のサイトの二大原型そのものでした。つまり、それぞれの原型を融合させ、さらにサウナ好きエンジニアのゆかりさんとひぎつねさんをチームに迎えて一気に実用化させたのが、今日のサウナイキタイだったのです。

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2人の間の見事な「凸と凹の関係」は、本業スキル以外においても顕著でした。例えば、何事も理論派のありに対し、かぼちゃは直感的に人のこころを掴むのが得意。サイトに載せる文面を考えるときも、ありの思慮深く硬派な叩き台をかぼちゃが柔らかく練り、ゆるくなりすぎたらまたありが手を加えて……というように、二人三脚で良い塩梅を探ってゆくのです。

サウナイキタイといえば、愛好家にはおなじみの、右肩上がりにふんわり揺らぐロゴも秀逸。当初は、とにかくサウナに行きたい!という欲求をストレートに表す直線的でシャープなデザインに決まりかけていたものの、話し合いの結果、サウナ後のゆるんだ心地を反映させることにしたといいます。

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このロゴを皮切りに、以後サウナイキタイのグッズやキャラクターのデザインには、彼らの考えるサウナ浴の醍醐味である〈心地よい脱力感〉が投影されるようになりました。サウナグッズ市場(125ページ参照)の項目でも触れましたが、今日サウナ業界全体で「ゆるくてコミカルでレトロ」なロゴグッズに高い需要が生まれているのは、独創的なノベルティグッズの制作販売でも人気を誇るサウナイキタイが意図せずとも牽引してきた〈モード〉だといっても、過言ではないでしょう。

数値評価の代わりに、人それぞれの価値基準を尊重する

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2人にとって役割分担の相性も重要でしたが、それ以上に双方が「この人となら手を組める」と確信する決め手となった、ある共通の理念がありました。それは「ユーザーに数値評価を求めないサイトをつくる」ことです。

レストランや書籍・宿泊施設など身近なレビューサイトを思い浮かべてみてください。皆さんは真っ先に、その商品やサービスに「★」がいくつ付いているかに目を向けるのではないでしょうか。サウナイキタイ同様、ユーザーの投稿やデータ入力で成り立つ検索サイトはあらゆるジャンルに存在します。ですがその大半が、学校の通信簿のように、投稿者たちの総合評価の平均値をはっきり可視化することに重きを置いています。

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ところが、出会った当初からかぼちゃもありも、その数値評価システムをサウナ施設の検索サイトには持ち込みたくない、という強い思いを抱えていました。なぜなら、サウナの良し悪しはまさに「人それぞれ」だから。熱々のサウナが好きな人もいれば、マイルドな温度を好ましく思う人もいる。外気浴スペースの雰囲気にこだわる人もいれば、スタッフのホスピタリティで施設の印象を決める人もいます。つまり、他者の価値基準は必ずしも自分にあてはまりません。

だからこそ、サウナ検索サイトでの施設評価は、各々の表現の自由に委ねた口コミレビューだけにとどめておく。その代わり、あらゆる愛好家の趣向に徹底的に対応できる検索機能を実装し、「誰もが自分の楽しみ方にあったサウナ施設を見つけられるサービス」に特化しよう、という意思が合致しました。

同様に、ユーザーに対しても序列や優劣をつけない(ユーザーが人の目を気にする必要がない)ことにもこだわっています。利用頻度や課金に応じた会員ランクもありませんし、各人のフォロワー数などは他者から一切見えません。

「フィンランドのサウナ文化でよく語られる、〈サウナのなかでは誰もが平等〉という理念に、僕たちは強く感化されています。他者の目や評価を気にせず、誰もが自分らしく楽しめる。サウナもサウナイキタイも、そういう多様性が許される場であってほしいと常々思っているんです」

四方よしのプロジェクトにはとことん尽くす

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サイト運営を始めて以来、ユーザーたちの積極性と同じくらい彼らを驚かせているのは、施設側のレスポンスだといいます。近年は、「サ活」に書き込まれるユーザーの率直な施設の感想に前のめりに反応し、施設サービスの改善に繋げようと動く店舗がとても多いのだとか。折に触れて、全国の施設から「リアルなフィードバックやスタッフのやりがいに繋がるコメントがいただけて、本当に感謝しています」との声が届くそうです。

さらに昨今は、広報活動に手が回っていなかった地方の小さなサウナ施設にも、検索にヒットしてふらっと立ち寄るお客さんが着実に増えています。愛好家の行動力で全国にある無名の施設もデータ登録され、情報が共有されるようになった……その恩恵を受けているサウナの数は計り知れません。

ブームのさなかに絶大な影響力をもつようになったサウナイキタイには、日々多くの企業コラボ案件も舞い込みます。彼らとのプロジェクトが実現するかはいまや抽選に当たるほどの確率ですが、ともあれ実現の可否にも、ぶれない判断基準があります。

それは、企業とサウナイキタイに加え、施設とサウナ愛好家(や未来のサウナ客)の四者にとって意義や幸せを生むプロジェクトかどうか、ということ。とりわけ、決して楽ではない運営に携わり、わたしたちを癒してくれている施設へのメリットの還元を重視し、企業と一緒に企画を練るのだといいます。

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例えば「サウナ後の水分補給」というニーズとの合致で始まった大塚製薬株式会社の商品「イオンウォーター」とのコラボでは、「水曜サ活」というフレーズを打ち立て、多忙な平日の中日にあたる水曜日に発汗と水分補給でひと休憩!という新しい価値観を生みました。その結果、業界としても水曜日の利用者が増加したそうで、イオンウォーター販売店舗も増え、まさに誰もがハッピーになれる結果をもたらしたのです。

「いちサウナ愛好家として僕たちが今後も続けたいのは、サウナの間口をさらに縦にも横にも拡げてゆけるような、環境の整備ときっかけづくり。そのためのアイデアはまだ山ほどあるので、楽しみにしていてください!」

――サウナ後のようなゆるくて穏やかな空気感を纏いながら、デジタル・ネットワークのさらなる可能性に熱く思いを馳せるかぼちゃとあり。今後も双方の強みを絶妙に練りあわせながら、日本サウナの多様な楽しみやワクワク感をさらに波及し続けてくれそうです。

書籍のご案内

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『クリエイティブサウナの国ニッポン』
こばやしあやな 著/学芸出版社

目を見張るようなサウナブームに沸く日本。その現象を一歩引いて観察すると、施設も、 過去の歴史も、マーケットも、そして愛好家も、活気とクリエイティビティに溢れている。本場の国フィンランドに暮らすサウナ文化研究家が、日本サウナのオリジナリティを徹底解剖し、すべての読者を熱いブームの舞台裏へと誘う新鮮な一冊

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