栗かの子

2021.03.05

1回目の訪問

水風呂のなかで膝を抱え、顎の先まできっちり埋まる。ライオンの口からだばだばと猛烈な勢いで放出される、まろやかな地下水に裸を呑まれながらこう思った。

「サウナには陰陽がある」と。
「そしてロスコの陰を誇りに思う」と。

浴室内にあえてむき出しのまま張り巡らされたパイプやダクトは、経年の味をまとって無骨な構造美を見せる。

タイルの壁床はほの暗さを保ったまま、常に新鮮な冷水を波打たせる。

窓の外のちろちろとした日差しが水面をなでるように落ちていて、当たり前のようにやる気なくもきらめいている。

ドライサウナは乳白色の、毛足ふわりとしたマットを敷き詰めていて、まるで猫バスのお腹の中のような居心地をくれる。

サウナ室全体をしじゅう揺るがす、ごぉん、ぼぉん、という機械音は、心を沈静化させる「1/fのゆらぎ」に満ちている。

ロスコは陽キャを目指さない。
陰キャの美学をつらぬいている。

影があるから光は輝き、日常があるからハレは愉快で、水風呂があるからサウナはいつも、美しい。

そんなことを考えていたら、鼻から漏れる息がミントを含んだようにキレキレになっていた。まちがいなく今のわたしは内臓がクールだ。

耳元でもうぼっこぼこにバイブラが責め立てる。
どうやら膝を抱えたまま、ずいぶん長いこと水風呂に浸かっていたらしい。

よっこい庄一と自分にむけて声をかけ、だばだばと豪快に溢れまくる18℃の汲み上げ水から身体をおこした。目の前にポツンと置かれたととのい椅子にお尻を押し込む。

ざあっと網目のあまみが広がる。ここのサウナはガキンと熱い。血流のほどける落差感を、存分たのしめる楽園なのが間違いない。

ふは、とからっぽの浴室の中に声が漏れてしまった。
誰もいない部屋で声を漏らすだなんて、わたしも陰キャだ。

もうぞんぶんに身体は冷えた。
さあ、あつあつの猫バスのお腹に戻らなくてはね。

立ち上がったつま先のムーブにぱしゃりと爆ぜた冷水が、光をまとって渦巻ながら、つやめく溝にひゅるりと消えた、ような気がした。

栗かの子さんのカプセル&サウナ ロスコのサ活写真

  • サウナ温度 45℃,98℃
  • 水風呂温度 18℃
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