和合の湯
温浴施設 - 静岡県 浜松市
温浴施設 - 静岡県 浜松市
夕方になってもなお空気は重たく、湿度を含んだ熱気が肌にまとわりつく。
嫌な暑さだ。エアコンの効いた職場を出た瞬間に感じたその息苦しさに、私は思わず「今日も行こう」と呟いていた。
向かった先は、昨日も訪れた浜松の住宅街に佇む「和合の湯」
一度訪れるとまたすぐ来たくなる、それがこの銭湯の不思議な魔力だ。
玄関を抜け、受付を済ませ、浴場へ向かう。
慣れた動作で服を脱ぎ、汗と埃を洗い流す。泡立ちのよい石鹸とぬるめのシャワーが肌に心地よい。すでにこの時点で、心の一部はほどけ始めている。
まずは炭酸泉へ。微細な泡が肌を撫で、じんわりと身体を温めていく。外の蒸し暑さとは異なる、芯から優しく包まれるような温もり。炭酸泉に身を沈めながら、「日常」と「非日常」の狭間に、自分が浮かんでいる感覚があった。
続いて、目的のサウナ室へと足を運ぶ。扉を開けた瞬間、肌包むような熱気が迎えてくれる。
ストーブから立ちのぼる熱気はストロングで、まさに“気合いの入った”熱さ。壁にはテレビが備えつけられており、夕方の県内ニュースが流れていた。事件や政治、交通情報。普段なら耳に留まらないような話題も、サウナ室という閉じられた空間で、妙に遠く響いてくる。
ベンチに腰掛け、ぼんやりと画面を見つめる。ニュースの内容を理解しようとするでもなく、かといって完全に無視するでもなく。汗がじわじわと流れ、次第に全身が熱で包まれていくと、思考も溶け出していく。何かを考えていたはずなのに、気がつけば頭の中は空白になっていた。まるで、自分自身を脱ぎ捨てていくような感覚。
限界が来たところで、サウナを出て水風呂へ。キンと冷えた水が火照った肌にしみわたり、全身が一瞬で目覚める。冷たさは痛みと紙一重だが、それが心地いい。水の中で数回、深く呼吸をするたび、頭の中の霧が晴れていくようだった。
そして、露天スペースへ。中庭のような空間に設けられた外気浴の椅子に腰を下ろし、湿気を含んだ風を肌に受けながら、ただただ目を閉じる。
夕暮れの空は、まだわずかに明るく、聞こえるのは風と微かな水音だけ。ここでは人の声すら聞こえない。ただ静かに、ゆっくりと、自分が「無」へと還っていくのを感じた。
身体のどこにも力が入っていない。何も考えず、ただ呼吸する。それだけで十分だと思える瞬間が、確かにそこにあった。
「来て良かった」
その言葉が、心の奥底から自然に湧いてくる。たったそれだけのために、またここへ足を運ぶのだ。
昨日も来たというのに、今日も来た。そしてきっと、また近いうちに訪れるのだろう。
和合の湯は、私のなかの「リセットボタン」であり、蒸し暑い日々を生き抜くための、ささやかな癒しの場所なのだ。
以上
男
トントゥ、ありがとうございます。
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