湯どころ みのり
温浴施設 - 岐阜県 羽島郡岐南町
温浴施設 - 岐阜県 羽島郡岐南町
〜連続ハードボイルドサウナ小説〜
すっぽんぽん
第1話 「尾行」①
ふぅ、男は深くため息をついた。
「熊さん、雨の日の尾行ってのは勘弁してほしいよ」
探偵 根 刈男(こん がりお)は新宿淀橋署捜査一課 警部 熊野参造の頼みで麻薬常習者の男の尾行をおこなっていたが、今日は生憎の雨。
雨の日の尾行は、男物の傘自体、暗い色が多い為にターゲットの見分けがつきにくくなるのと、こちらも傘を差していては身を隠しづらい為に傘を差しながらの尾行というのはなかなか難しいのである。
やれやれ、クリーニングに出したばかりのスーツがびしょびしょだ。
根はポケットからマルボロを取り出そうとしたが、手を止める。
路上喫煙防止の看板が目に入ったからだ。
「ふぅ、喫煙者にとって肩身が狭い世の中になっちまったな」
どうやらターゲットはスーパー銭湯に行くらしい。
根も少し遅れて入店する。
男はささっと手慣れた様子で服を脱ぎ、タオルを持って浴場に消えていった。
どうやら男は惑星ポポルのカエルの糞の色のタオルを愛用しているらしい。
男はまずは体を洗うようだった。
根も同じように体を洗う。
根はまずは腕、そして胸、足、最後に股間の順に洗った。
最後に股間を洗ったのは股間を洗った泡で他の部位を洗いたくなかったからだ。
根には細かい自分ルールがある。
男ってのは長年染み付いた生き方というのはどうやらなかなか変えられないらしい。
その後、男は変わり湯にしばし浸かり、体を拭くとサウナ室に入っていった。
どうやらサウナ室で麻薬の取り引きをおこなうようだな。
根の頭脳の中のシナプスがバッチリと繋がる。
根も同じようにサウナ室に入る。
男がサウナ室の中段で目を閉じて座っているのを横目に確認しつつ、根は最上段に向かう。
尾行の定石としてターゲットが見える位置に自分がいる必要があるからだ。
暑い、いや熱い。
根には普段サウナに入る習慣がない。
わざわざ暑い思いをすることに理解がどうにも出来なかったからだ。
しかし、仕事とあっては仕方がない。
根は男がサウナ室から出るまでの間、じっと男の背中を見つめながら、サウナ室の熱気に耐え続けた。
いつまで入ってるんだ、根の我慢が限界に達しそうになったとき、ターゲットの男はおもむろに立ち上がり、「あっち、あっち」と言いつつ、サウナ室を出た。
根も後に続く。
「尾行」②に続く
コメントすることができます
すでに会員の方はこちら