巣鴨湯
銭湯 - 東京都 豊島区
銭湯 - 東京都 豊島区
ついこの間オギャアとこの世に生を受けたと思ったら、あっという間に31年も経っていた。
まさに光陰矢の如し。
サウナで知り合うおとっつぁん達には「兄ちゃん」とか「坊主」「若いの」「ジャリ」なんて呼ばれてはいるが。
昭和、平成、令和の3時代をちゃんと生きているのだ、俺も。
「卒業しても今まで通り飲もうねー」とか言ってた同級生達はみんな結婚したり、子育てしたり、会社を創ったり、そういうことで忙しいらしく、もう何年も会っていない。
変わっていないのは俺だけだ。
巣鴨、庚申塚にある銭湯「巣鴨湯」のサウナの中で、小さな砂時計を眺めながらそんなことを考えていた。
ここはサウナの中に12分計や時計がなく、代わりに受付で砂時計を貸してくれる(男湯のみっぽい)
ジリジリと足元から熱が上がってくるボナサウナ。96度。
砂時計は3分計だが、ついついひっくり返すのを忘れてしまう。
ので、正確な時間は分からないが、多分6分くらい×3
学生時代から同じ街に住み、週末の夜は相変わらずぷらぷらとクラブやバーを飲み歩き、やばーい終電なくしたっぽーいと騒いだり。
ぺらぺらな生地のファストファッションに身を包み、貯蓄は一切なく、給料前はさくら水産にしか行けない。
手元の砂時計の中に、小さな俺がいるのが見えた。
そいつは少しずつ砂に埋もれながら恨めしげな瞳でじっとこっちを見ている。
やめろ、そんな目で俺を見るな。
俺は大人になんてなりたくない。このままでいい。
隣に座っているおっちゃんも、砂時計を眺めている。
俺と同じく過去を回顧しているクチだろうか。
キミも大人になりたくないのかい?
でも水風呂に向かうおっちゃんの背中にある色褪せた刺青には、俺には到底知り得ない峻烈な雰囲気と、1人の人間の歴史があるように思えた。
彼の置いて行った砂時計は、彼が水風呂に入っている間も流れ続けていた。
一方俺の砂時計はいつの間にか流れ終わっていて、止まっていた。
小さな俺は、完全に砂に埋もれきってしまっていた。
このままで本当にいいのだろうか。
風呂上がり、いつもなら流れるようにアサヒスーパードライを手にするところだが。
ここ巣鴨湯には珍しい日本のクラフトビールが販売されている。
値段が高いし、飲み慣れてない味なのでつい無視していたが、この日は埼玉のコエドビール鞠花(500円)を購入。
ビールの味を変えるだけで、いつものレトロな銭湯の空気の味が、少し違う気がした。
案外、こんなことで人は簡単に変わっていけるのかもしれない。
でもサウナのおかげで俺の肌年齢は20代前半だ。ここはそのままでいい。
「光陰矢のごとし」って、全剃りした茎でも勢いを保てる、って意を含んだことわざと取れなくもないよね。自分は「このままでいいんだろうか」と思いながら「いいんじゃん」って反芻しながら生きてきて、かつ、さくら水産の魚肉ソーセージだけで3時間飲めるおっさんに成長したから、遼くんは安心していいと思う。
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