上越泉
銭湯 - 東京都 中野区
銭湯 - 東京都 中野区
「こんばんは」と挨拶を交わすと、受付のおかあさんが
「今日寒いわよねぇ」と言った
「本当に寒いですね」と返す私に、
「今日が寒くないなんて言ったら、ちょっとおかしいわよねぇ(クスクス)」
とおかあさん
……
突拍子のないことを言い、突然、笑い出すおかあさんに少し驚いた
私の入る直前に誰かと話していて、その相手が「今日は寒くなんかない」とでも言ったのだろうか
その話が私との会話に紛れ込んでしまったのだろうか
おかあさんの思い出し笑いを共有したようで可笑しくなった
こちらも少し笑いながら千円札を差し出し、お釣りを受け取るタイミングで受付の電話が鳴った
おかあさんの口調が変わる
「えっ、そうなの!?…うん、わかった……急ぐわ、わかった、わかった」
側から聞いていると「わかったわかった」ばかりで何一つわからない会話が終わるとすぐに、おかあさんは私を差し置いて、男湯へ進んでいった
遅れて入った私の目の前で、おかあさんは棚にあったバスタオルを手に取り一言
「湯上がりで気持ち良くなって、忘れていっちゃうなんて、困ったものだわ」
思わず笑ってしまった
目の前で生で繰り広げられる超ローカルな出来事
━━わざわざ電話してくるお客さん、それに応えて急いで確保するおかあさん、割とどうでもいい結末
その全てが可笑しくて愛しくてどうしようもない
風呂に入る前から温まった
そんなドタバタに加え、音の大きいテレビで賑やかな脱衣所から浴室へ一歩入ると、打って変わって静か
ほとんど水の流れる音しか聞こえない様は壁に描かれた竹林のようだ
内湯で少し温まってから露天風呂へ
おかあさんが言うように今日は寒かったが、寒ければ寒いほど露天風呂の良さが引き立つ
昇り立つ湯気━━敢えて湯けむりと言おうか━━も濃くなり雰囲気がいい
その空気にあてられ、ずーっと浸かっていた
サウナだとどうしても時計を気にしがちだが、今日は時間を気にすることなく、心ゆくまで堪能した
おかげで少しのぼせた
湯から上がると受付のおかあさんはテレビに没頭していた
おかあさんの顔を見て、冒頭のやりとりが頭をよぎり、今度は一人で思い出し笑いした
「おやすみなさい」と、おかあさんの挨拶を耳にし、退店
思い出しただけでも笑える
いい夢が見れそうだ
※サウナ休止中につき厳密にはサ活ではなくサ察
コメントすることができます
すでに会員の方はこちら