寺島浴場
銭湯 - 東京都 墨田区
銭湯 - 東京都 墨田区
人の循環器をエンジンに例えるなら、水冷単気筒エンジンとなるだろう。動物の中でも人は持久力に強いとされるだけあり、アイドリング時で70回転程度とは如何にも低燃費である。ただこれは一般人であり、発展途上国の経済を支えるような連日連夜過積載で過ごす私のエンジンは別だ。ちょっとしたスポーツや階段でオーバーヒートを引き起こすのである。最近はケミカルにも手を出しているが、荷台にくくりつけた荷物を下ろすほかに根本的解決法が無いのは周知の事実だ。まるで脂身たっぷりのカルビのような人生、美味しそうに焼ける鶏肉を横目に一瞬で焦げて紙ゴミと一緒に纏めて捨てられるのが関の山である。
そんなデb…失礼ぽっちゃり系が健康な方々と同じペースで楽しめるのがサウナである。熱ければ熱いほど両者の出るまでの時間差は少なくなる。道具に頼ればさらに差は縮まり、発揮する時と場所を完全に間違えた根性によって、時に出ていく背中をドヤ顔で見送るといった珍しいことも起こりうる。
と汗をかけば健康に近づいていると勘違いをしている私は寺島浴場へとやってきた。時々行く中村浴場と先月初めて暖簾をくぐった大森湯、そして誰が言ったか墨田区にキラリと光る赤い閃光こと寺島浴場はブルーな看板を目印に住宅街に一歩踏み込んだ静けさの中にあった。
まず脱衣所から良い香りがする。椅子に座ってリラックスしているおじさま方の表情が良い。期待が高まる。
浴室、ぶわっとさらに良い香り。薬草の湯らしきものがあったので多分それかと思う。まずは全身を一度洗いして湯船に浸かる。湯温もしっかり熱い、心拍数が上昇を開始しているのが分かる。
サウナはかなりコンパクト。大森湯も中村浴場も遠赤外線式ストーブなのに対してこちらは対流式だ。なので本来熱は上から降ってくるはずだが、上記の理由により普通に正面から熱い。というより四方八方からストーブの熱が乱反射して襲いかかってくる。昭和歌謡がレクイエムに感じる。玉汗というよりナイアガラだ、街中でこれだけ汗をかいたら職質レベルだがサウナでは許される。サウナ万歳、寺島浴場万歳。そのまま昇天したら本当に事件になるので水風呂へ避難した。
水風呂はキンッと冷えている。故に長居する方はそんなに居ないので水風呂難民は生まれ難いと思われる。新鮮な水の香りはいつ嗅いでも良い。露天からの森林浴の香りに誘われて外に出る。
石の椅子にペタリと座り深くため息をつく。露天には数人、皆静かにこの時間を楽しんでる。ドアが開くたびに喧騒が漏れて湯気と一緒に消えていく。霧散していた思考が徐々に纏まり始めるこの瞬間こそ、外気浴の醍醐味であり、自我と思考の分離を体感出来る数少ない機会だと思った。
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