ryonoji

2020.06.13

1回目の訪問

混迷を極める時世にたしかに仕事はガタガタになったがかねてよりシンプルな生活をしたいと思っていた私には自粛生活はむしろ安らぎの発見であった。
自粛中は妻とよく歩き、そしてよく喋った。
普段なら行かないようなところまで足を伸ばしとにかく歩く。歩ける。距離は問題ではない。時間も。では今まで何が阻害していた?心的な障壁だ。疲れているためできない、やらない、という習慣がブタ小屋のクサビのように深く心性に打ち込まれていた。
歩けるならどこまでも歩きたい。その先に何かあるのではないか。
そういう気持ちになっていた。何か犠牲にして大きなものを掴むよりも消し込まれていた脳のブランクを埋め、人生の解像度をあげたい気持ちだった。
コロナが落ち着いてきて、少しずつ遠出するようにもなり、妻とこの横浜に来てみた。
横浜では迷わなかった試しがなく、単純な町田出身の私は魔窟のこの街にどうもいつまでも慣れることができず、いつからかJRと地下鉄をむすぶ直線を疲れて通過するだけがこの横浜ということになった。
この日はいつもと同じ道を別の気持ちで辿っていた。妻と店で服を見たりした。水族館に行った疲れもあったが、ほど軽い心地よい疲れだった。
ふと街角で青いものが見えた。
何だろう。私は少し追いかけたいそぶりをした。妻が「どうしたの?」怪訝そうにしている。
「いや。なんでもない。」そごうのほうに歩いて行った。
いななきが聞こえた。雑踏は元どおりの人波を取り戻しており、マスクをして笑った目の人たちがざわめいており賑わいがある。
その人混みをかき分けていななきの聞こえた方を追った。
水色のたてがみの、青い馬だった。
今度は見えた。しかし一瞬だった。それが、街を悠々と曲がって消えた。私は追った。
角を走って曲がるともう青い馬はいなかった。しかしこう書いてあった。
「スカイビル14階 スカイスパ」
答えは決まっていた。馬の姿はもうなかったが、14階を目指した。
馬力である。スカイスパは馬力が凄い。サウナは確実に温度以上の力がありアウフグースは身の危険を感じる程。水風呂は、実に冷たく足が凍るよう。
この馬力は偽物には出せない。
サウナには大きな窓があり横浜の夜景が見下ろせる珍しいあしらい。
夜景を見ながら、ここ数ヶ月のことを考えていた。
街角を歩き巡った先に何があるのか。
全く何も無い場合もある。この人生が、消えゆく馬を追い歩き続けることとすれば、消えると分かっても、私はやはり追うしかない。
しかし全てが、手からすり抜けるものばかりではない。見つかるものもある。
今日だってそうじゃないか。
確信と共に、また15度の冷水に浸かった。

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