月見湯
銭湯 - 北海道 札幌市
銭湯 - 北海道 札幌市
冬は目が覚めてすぐに心の中の学級委員長(女子)が騒ぎ出すことがある。
「先生、おふろニスタ君がまた自律神経壊しましたー」
それを合図に心の中のクラスメイトたちが責め立て始める。
「先生に自分の自律神経を大事にできない奴は他人の自律神経も大切にできないって言われたばかりです」
「昨日は、先生から止めろって言われてたのに、寝る前にスマホをいじってました」
「おふろニスタ君はいつもだらしないです」
「最近、暴飲暴食ばっかりしてます」
「おふろニスタくんが自律神経をまた壊したのは自業自得だと思います」
「きっとまた壊します。もうおふろニスタ君に自律神経を触らせるのはやめたほうがいいと思います」
このクラスは私を責めるときだけ一致団結しやがる。それを「絆」とか言い始めたらぶっ飛ばすからな。
「おふろニスタ、みんなお前を思って言っているんだぞ?だから、言ってくれるだけありがたいんだ。それに言われる原因を作っているのはお前なんだから」
やさしいふりをして、心の中の担任が一番えげつない。お前か。お前がこのクラスを作ったんだな?
今日の朝も、この学級会が行われた。もうやだ。動きたくない。そう思って、昼まで布団の中でうだうだしていた。
そんな体を引きずって月見湯に行った。
月見湯に着いた途端、である。頭の中で音楽が流れ始めた。
≪奇跡のセッション感じな
奇跡のセッション感じな
奇跡のセッション感じな≫
もうわかる。来て正解だ。
――――――
未だかつてないほどの混みようだ。サウナは1人出れば1人入れるようになるくらいのすし詰め状態だ。それでも私はかまわない。
頭の中の音楽は流れ続けている。
≪また時代が
俺を呼んでる
気がするのさベイビー
嘘なんかじゃないぜ≫
≪待ってろ今から本気出す
待ってろ今から本気出す
本、本本本気出す(woh)≫
外気浴で青空を仰ぎながら、踊りだしそうな気持ちをおさえるので必死だった。人がいなければ踊っていた。
――――――
月見湯をあとにする。
帰るとき、来るときよりも心持ちはいつも軽い。口笛を吹きだしそうな私に、心の中の学級委員長(女子・長身・メガネ)が言う。
「不器用だけど、自分にできることをしようとする感じ、あたし嫌いじゃないよ」
い、委員長……
≪ティティティ
ティ―ネイジャーフォーエヴァー≫
帰り道、まだまだ頭の中では音楽が流れていた。
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