ドキュメント!サバスをつくった人々
日本初の路線バス型サウナ「サバス」。街中を走るバスの外観はそのままに、本格的な薪サウナを車内に搭載した異色のサウナです。企画の中心人物は、株式会社リバースの松原さん。神姫バス株式会社から出向起業した社員1名の小さな会社です。松原さんの呼びかけでサウナイキタイが企画に加わり、プロジェクトが実現しました。完成までの道のりは、一筋縄では行かないデコボコ道。サウナさながらの熱いドラマに迫ります。
路線バスをサウナに!
こんにちは!SaunaCamp.です。今回はサバス開発ヒストリーを聞くため、姫路にある神姫バスの整備工場までやってきました。サバスはここで作られたんですね。
外観は路線バスそのものですが、後ろ半分がサウナ室になっています。バスとして使われていた空間をごそっとサウナ室に造り替えたというより「路線バスがそのままサウナ室になった」という印象です。もちろんバスとしての機能も健在で、実際に公道を走ることができます。
バスで使われていたアイテムが、サウナのギミックに使われているのが面白いですね。降車ボタンを押すとストーブに水がブシューーッと吹きかけられるロウリュシステムは、実際にやるとめちゃくちゃテンションあがります。他にもサウナ室のドアハンドルに座席の取っ手が使われていたり、いたるところに仕掛けが満載。隠しアイテムを探してるみたいで最高に楽しい!
詳細な紹介はサバス紹介記事や、「マグ万平ののちほどサウナで」レポートをご覧ください。
たった1人の覚悟から実現したプロジェクト
さて今回は「サバス」がどんな経緯で作られることになったのか、開発ヒストリーを紐解きます。お話を伺うのは、株式会社リバースの松原さん、設計担当のOSTRの太田さんと衣川さん、そして企画・デザイン担当のサウナイキタイかぼちゃさんです。
── 松原さんはもともと神姫バスの社員だったんですよね
松原 はい、神姫バスの新しいビジネスを考える部署にいました。4人くらいのチームで、これまでとは違ったバスの活用方法を考えるプロジェクトを動かしていました。バスをサウナにしようというアイデア自体はここで生まれたものですね。海外での事例もあったので、イメージはつきやすかったです。
── 現在は神姫バスを離れて、1人で会社を経営されています
松原 プロジェクトにいたメンバーはみんな他部署で本業があり、専任は私だけだったんです。アイデアはたくさん出るんですが、ビジネスとして成立させるまでのプランニングって、当たり前ですけどそう簡単にはできない。誰もやったことない事業だからうまくいく保証もない。会社の看板もあるから、無茶なことはできない。だけど、何かやらなきゃというプレッシャーはある。だんだん他のメンバーとモチベーションに差が出てきてしまって。
そんな時、当時の上司に「神姫バスで成立させるのは難しい。だけど新しく会社作って、ひとりでやるなら成立する。アイデアは面白いから、きっとうまくいく」ってアドバイスをもらって。その手があったか、じゃあやろう!と独立を決めました。
── さらっとすごい話してますね、ど根性ガールじゃないですか
松原 わたし1人が食べていけるくらいのビジネスモデルだったら、なんとかなるだろうと思いました。神姫バスにいる仲間たちからのサポートも期待できましたので。
── オフィスバス、レストランバス、託児所バスなどいろんなアイデアがあったそうですが、サウナバスが選ばれました
松原 会社を作って最初の事業に「サウナ×バス」を選んだのは、シンプルに一番おもしろそうだったからです。でも、肝心のサウナについてはまるっきり素人だったので、実現するにはパートナーが必要でした。
そこで、気になったサウナ関係のアカウントに、メールやSNSで連絡する作戦をとりました。「関西にある某バス会社の関係者です」って。いま考えたらめちゃくちゃ怪しいですよね(笑)。そんな熱意だけの怪しいメールに「おもしろそうですね」と返事をくれたのが、サウナイキタイさんだったんです。2020年夏ぐらいのことですね。
全てが手探りだった製作現場
── 実際にプロジェクトが動き出したのは、いつごろからですか?
かぼちゃ 具体的に動き出したのは2020年の末ごろからです。最初の課題は、路線バス車両の確保でした。引退したバスを使う計画だったんですが、なかなか手に入らなくて…。観光バスではなく、どうしても路線バスを使いたかったので、ひたすらチャンスを待ちました。2021年の春に手に入ることが決まって、一気にプロジェクトが動き出しました。
松原 路線バスが手に入ってからが大変でした。サウナの専門業者さんに企画を相談したのですが、温浴施設のサウナと同じことがバスで出来るかなんて誰も知らないし、保証もできないという返答ばかり。大手にはほとんど断られてしまい、気づけば自分たちが手探りで進める道しか残っていませんでした。もちろんバス会社だって、バスにサウナを積んだ経験なんてない。車検が通るのかすらわからない、不安だらけのスタートでした。
かぼちゃ 熱源を薪ストーブでいこうと決めたのもこのタイミングです。いろんな課題や懸念はありましたが、路線バスをゲットできたことで、コンセプトはほぼ固まりました。山のようなアイデアをどう落とし込んだらいいか悩ましいという、楽しくもあり、苦しくもある期間でしたね。
── サバスの設計を担当されたのが、OSTRの太田さんと衣川さんですね
太田 難しい内容なので受けるか迷ったんですが、企画を聞いて純粋に「おもしろいな」と思ってしまい、ついオッケーしてしまいました。案の定、大変な仕事でした(笑)
── 設計の目線から見たら、サバスってかなり異例ですよね
太田 バスである上にサウナでもあるので、いわゆる建築とは全く違う方法でアプローチする必要がありました。サウナのクオリティは担保しなければいけない、バスは動く、揺れる、重量の問題もある、メンテナンスも考えなければいけない…。課題はたくさんあるけど、前例がないから何を頼りに設計すればいいのかわからない。自主的な安全基準を作るところからスタートなので、苦労しました。
衣川 いただいた図面に寸法などの細かな情報が載っていない上、引退した古いバスなので、元の図面と実際の寸法が全然違いました。バスは基本的に揺れるので水平・垂直の概念がなく、ボコボコしてたり、謎の点検口がいくつもあったり。結局はあらゆる場所を手作業で実測して、設計して、また現場で調整して、という繰り返しで進めていきました。
太田 設計の目線から面白かったのは、路線バスのもつ「狭い」という特徴がサウナでは価値になるということ。図面を引いていくうちにかなり狭いし天井も低いけど大丈夫かなという疑問が生まれたんです。かぼちゃさんに相談したら「天井なんて低ければ低いほどいいくらい」という回答がきて驚きました。
── 店舗などを設計する仕事とは大きく違いますね
太田 でも、共通する部分もありました。ぼくらは普段、リノベーション物件の設計も多く手がけています。バスにサウナを載せるんじゃなくて、バスの要素を残したサウナを作りたいというコンセプトは、建築におけるリノベーションの考え方に通じるところがあった。
つまり異空間を作るんじゃなくて、周辺のコンテクストに合わせた空間を作るという作業。それなら、今までやってきた手法が応用できるんじゃないかという予感はありました。
衣川 路線バスの座席レイアウトをそのままサウナベンチに転用してるので、高低差が活かされています。座る場所によって熱さを選べるのは、サウナ施設と同じですね。意外なところに相性の良さを感じる面白さがありました。
── 車両整備を担当されていた神姫商工の整備士さんたちも、徐々に面白がって手伝ってくれるようになったと聞きました
衣川 神姫商工の整備士さんが「役にたつかも」ってバスから撤去したパーツがすべて取り置きして下さっていて、廃パーツ置き場を見たときにみんなで大興奮しましたね!宝の山だーーって(笑)そこで一気に完成までの解像度が上がりました。
かぼちゃ バスを知り尽くした整備士さんたちが面白がってくれたおかげで、アイデアの幅が広がりました。みんなでわいわい話してるうちに楽しくなっちゃって。整理券ボックスはアロマ水のタンクにしようとか、つり革ハンドルに温度計を埋め込もうとか。
太田 ある整備士さんが「バスのウォッシャーノズルがオートロウリュ用に使えるよね!」ってアイデアをくれたんですけど、設計や企画では絶対に出ないアイデアなんです。バスを知り尽くした整備士さんじゃないと、なかなか思いつかない。みんなで即興セッションでもするみたいに作り上げていく楽しさが、サバスの現場にはありました。
── 車内の広告や外装デザイン、バス停がととのいスペースになるなど、数えきれないほどの仕掛けもサバスの魅力ですよね
松原 デザインに関しては、かぼちゃさんのクリエイティブが爆発してます。会うたびに「思いついたんで作ってみました」ってデザインアイデアやグッズサンプルを持ってきてくれて。日を追うごとに、サウナイキタイらしさが路線バスにどんどん落としこまれてるなという実感がありました。
サバスの未来、サウナの未来
── インタビューがひと段落したところで、みんなでサウナをいただいております。改めて、サバス完成までにはたくさんの苦労があったんですね
かぼちゃ それだけに、完成してしっかり熱いサウナになった時の感動はひとしおでした。ウォッシャーノズルからのロウリュ、心に沁みましたよ。
松原 ありがたいことにたくさんの反響をいただきました。海外メディアからも取材のオファーがあったり、想像以上です。神姫バスも今では社を挙げて応援してくれているくらいの勢いを感じます(笑)
かぼちゃ サウナイキタイユーザーさんからも「入ってみたい」という声が多く届いています。サウナ施設さんからもたくさんイベントの相談がきてるので、どんどん実施していきたいと思っています。
── 路線バスって、老若男女だれもがいる空間ですよね。そこがサウナのもつ懐の深さに通じる気がします
松原 温度調整したら子どもでも入れます。コアなサウナ愛好家はもちろんですが、ライト層にも体験して欲しいです。シンプルに「面白そう」というきっかけで、サウナとバス、両方の魅力に触れてもらえたら嬉しいですね。
かぼちゃ サウナイキタイはサウナがある場所を教えてくれるサイト。それに対してサバスはサウナが来てくれる、サウナを届けられるという、新しい視点をくれる存在です。サウナがない場所に乗りつければ、そこは「サウナのあるところ」になる。
サバスには水風呂がないから、ある意味ではずっと未完成なんです。いろんな場所でいろんなコンテンツと組み合わせて、掛け算の体験が楽しめるようにしていきたいと考えてます。
── 最高の未来ですね!すいません、汗だくになってきたのでいったん降ります!(降車ボタンを押して湿度をあげて出る)
サバス開発のヒストリーを聞いて、ふと「サウナブームも悪くないな」と思いました。好きだった施設が混むようになったとか、最近はブームに対してネガティブな感情を持ってしまうことも確かにあります。でも「路線バスをリノベーションした走るサウナを作ろう」って、サウナ愛好家からはなかなか出てこない発想ですよね。そして発想されたとしても、実現する可能性は限りなく低い企画だと思います。路線バスなんて買えないですから普通。
サウナブームのおかげで、外の世界からドアをノックされるようになった。バス会社が全面協力して、一緒にサウナを作ろうとプロジェクトが立ち上がった。これってめちゃくちゃ素敵なことだと思います。あえて大げさに言えば、サバスはサウナ愛好家を想像できないような場所に連れて行ってくれる、未来を象徴する存在になるかもしれないなと、勝手に思っています。
サバスに乗ってみたい方は、サバスの公式サイトとツイッター、インスタグラムをぜひチェックしてみてください。近い将来、あなたの街に現れるかもしれません!
サバス公式サイト
サバスTwitter
サバスInstagram
企画・プロデュース:株式会社リバース / サウナイキタイ
設計:OSTR
内装施工:アトリエ ロウエ
バス整備・改修:神姫商工
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記事を書いた人
「キャンパーをサウナに、サウナーをフィールドに」がテーマ。テントサウナが楽しすぎるので勝手に布教しています。みんなアウトドアでサウナしよう!