外交ツール・商談ツールとしてのサウナ

サウナイキタイ アドベントカレンダー 8日目の記事です。

「サウナ外交」という言葉を僕が知ったのは2015年夏のお台場でした。

フィンランド発祥のスタートアップイベント「SLUSH」が日本で初めて開催されました。日本においても「起業家」という職業を選択する人たちが徐々に増えつつある時期。スタートアップのイベントと言えば、大きな会議室や展示場で1社あたり1畳程度のブースが与えられ、その中で来場者に自社の商品をプレゼンするというものがほとんどといった中、SLUSHはまさに「音楽フェス」の様相を呈し、DJブースあり、お酒あり、レイザービームありといったド派手な演出が印象深く残っています。

当時、学生だった僕は「記者」としてSLUSHを取材していました。会場の中に、ぽつりとあった「ミーティング サウナ」という看板が目に入ります。テントサウナの中に簡易のミーティングスペースが設置されており、ストーブはないものの、その頃から「サウナー」であった僕は、興味津々にこの展示?を広報担当に尋ねました。

※当時取材した記事「起業家をロックスターのように」(日本テレビ/SENSORS)

「フィンランドは”サウナ外交”がお家芸です。外交上の重要事項をサウナの中で話し合って決めることがあるんですよ。サウナの中ではみんなが平等。まさに起業家が投資家に自分のアイデアをプレゼンするのに最適な場所の1つです。」

その時は衝撃的な話でした。僕にとってサウナは「1人」で入って心静かな状態で温冷交互浴を繰り返しながら自分と向き合うための場所でした。とにかく、デジタルも人間関係もシャットアウトしたかった。今思えば視野が狭かったとしたか思えませんが、誰かと一緒にサウナに入るなんていうことは考えもしなかったのです。

フィンランドの国際平和維持活動で、外国の地にキャンプを設営する際、まずはサウナをつくるといいます。たとえ、それがエジプトやタンザニアのような暑い地域であっても。兵士のストレス軽減に役立つだけでなく、現地の客人とも交流する場ともなるようです。フィンランド人は他者との交流でそれほどまでにサウナを大事にする。

引用:フィンランド外務省事務次官ペルティ・トルスティラ氏による「フィンランド式 サウナ外交」についての講演(日本サウナスパ協会HP)

それから約3年を経た現在。サウナは、メディアやコンテンツ制作を生業とする僕のビジネスにとって「ホームグランド」になりました。

昨今では一段と多くの方にサウナの価値が認知されているように思えますが、まだまだ知らない人の方が大半で、大事な商談の前の「アイスブレイク」としては最適な話題になるのです。

サウナの主役は水風呂、皇帝と呼ばれる熱波師がいる、王と呼ばれるコンサルタントがいる、濡れ頭巾ちゃん、ととのった、瞑想効果、などなど。サウナーにとっては常套句でも、クライアントの興味を引くには十分な言葉の力。

最後に一言加える「この後、サウナ行きませんか?」

重要なのは、Googleカレンダーを開いて、その日のうちの予定を抑えること。その日が無理でも2、3日のうちに必ず約束を入れること。「ご飯と風呂が含めてたった90分ですよ!」と口説くのが有効。サウナ外交を成功させるコツは「90分」。

いざ、客人とサウナに行く。右も左もわからない客人に施設を案内し、かけ湯・かけ水の作法を教える。この時点である種の「主導権」をすでに握れている状態。そして、サウナに入る。初めは当たり障りの無い話をする。もちろん、他のお客さんもいるので、声のボリュームや内容に注意しつつ。テレビがあれば、その音に紛れさせることもテクニック。最上段で十分に身体を熱した後、水風呂へいざなう。普段、会議室では”覇気”のようなものを纏っている客人が、あられもないただのオッサンに変身する。というか素に戻るのだろう。その姿を見て、僕は親指を立てる。

感想を述べつつ、心の距離を縮め、リラックスした状態になる3セット目が勝負。情報の取り扱いに十二分に留意して言葉を選びながら、こちらの要望をサラッと言う。会議室では言ったら気まずいことこの上ないものでもサラッと言う。言ってみる。

少し間をおいて、肩書きに捉われない客人の「本音」が飛び出してくる。途中質問したくても、黙って、全ての言葉を一度受け入れる。

これが「サウナ外交」の真髄なのだと思う。具体的な着地点を探るのではなく、お互いの本音を出し合うこと。受発注の関係、肩書きを飛び越えて、何が本当のゴールなのか、本質はなんなのかを再確認する場。

大好きなサウナセンターでハイリキを飲み交わす

もちろん、こんな風に運ぶことは実はそんなにないです。でも、僕は大事なビジネスパートナーとサウナに行くときは、肩書きや関係性に捕らわれない「本音」を出し尽くすことを大事にしている。

本場のサウナ外交では、合意形成まで行うとか。起業家と投資家のMTGでは、サウナの中で投資条件が決まることもあるとか。ジョークの要素も入りつつ「相手が熱さに我慢できなくなって、サウナを出たくなってからが勝負」なのだそうです。

自分自身と向き合うためだけの場であったサウナが、他人とも真剣に向き合うための場になっていました。