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サウナ即身仏卍

2020.09.20

4回目の訪問

金閣寺湯

[ 京都府 ]

隙あらばサウナへ行こうとはや一ヶ月。あまりにも忙しい日々に、京都市は北区でととのわぬ鬼神が現出す。
能面の新作とも取れる形相に、受付のお姉さんの顔はひきつっていたことだろう。それを見せぬよう、マスクをすることはもてなしの意味がある。
久々のサウナである。普通のでは最早役者不足なのだ。高温サウナである金閣寺湯。ここしかないのだ。

人ならぬ異形異類は早々に身を清め水風呂へ沈む。しっかりと冷えた、気遣いのみえる水だ。
サウナへ入室すると大相撲の熱気に包まれることになる。鬼神はこういった手合いを好むため、関脇同士のぶつかり合いも充分に楽しめる。
取組が終わると退室する。時計でいちいち見なくても、それでよいのだ。そもそもあやかしに時計は読めない。

露天スペースへ出ると、まだ外は明るい。
そうだ。私はサウナのために仕事を神速で終わらせたのだ。この瞬間のために!
人である記憶を取り戻し、サ活の最後に露天風呂へ入る。わざわざ他所より温泉水を調達している、人の心を感じずにはいられぬものだ──

男の暖簾をくぐり、受付のお姉さんに会釈する。
急に現れた人間なので、記憶にはなかったことだろう。

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2020.08.13

2回目の訪問

盆休みには決まって丹後へ。京都盆地を離れ、この半島はとても快適な庭仕事を約束してくれる。日が落ちる頃にはこのたんたん温泉へ来るのが常である。
サウナへ至る2重扉を通り抜けるとき、これまでの過酷な労働により失っていた最低限の文化人的生活が還ってきたように感じる。盆である。
そしてここの水風呂は地下水というとても嬉しいものである。きっとこの水風呂を造り上げた方は心の清い御仁であることだろう。

水風呂に漂ってしばし瞳を閉じる。京都縦貫自動車道を通り、横目に見た風景が心の情景としてあらわれる。
そういえば小さい頃は、こんな感じで川遊びもしたかな。
もう戻れぬあの頃が伸ばす指を払うように外気浴へ向かう。もう空は綺麗な光を飾っているが、昼間の熱射を避けるためのパラソルがそれを邪魔する。子供のいたずらのようだね、私がいる間だけ閉めてしまおう。
開いた傘を宥めると、その子供は夏の大三角形を指差した。
私は庭園灯が点いて見づらくなるまで、ずっとそれを見ていた。

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2020.07.26

2回目の訪問

蒲生野の湯

[ 滋賀県 ]

雨が降れば仕事が休みでオフロード。私は相棒と共に滋賀へ走る。
日が暮れるまでオフロードで走った頃には身体が芯から冷えるのを感じる。
こんな日は蒲生野の湯。ここがいい。
先日のサ活では外気浴の代わりに、気温と差のない水温であるここの源泉に浸かったものだ。ふふ、今日もそうしようじゃあないか。
92度のサウナは冷えきった身体に心地好く馴染み、広い水風呂のあと、源泉に向かう。
が、そこには先客がおり、なんといびきまでかいている。私は静かな川辺に棲息する魚であるので、ここでは生きることはできない。
2セット目に入ればオフロードの冷えは遥か彼方。今度も源泉に向かうが、円形の風呂には6人が放射状に守りを固め、サ活の要害として立ちはだかる。
3セット目になればきっと入れる確信を抱き向かう、が要害は健在であった。
しかしにわかに車輪の後光の一本が外れたのを見逃さなかった。入浴中にまた一人、また一人と抜けていき、果ては独りで楽しめるかとその時!
先輩が入ってきた。

畜生......ッ!

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2020.07.07

5回目の訪問

大学入学以来の相棒が、どうにも不調を訴える。それに呼応するかのように今日が雨休みであるから、私は明朝から滋賀へ向かう。
彼方より来た自動二輪であり正規輸入店も潰れたため、これまた大学時代より縁のある先輩しか、相棒を治療することは出来なくなってしまった。
どうやらシリンダーヘッドのプラグ周辺が、まとめて駄目になっているようだ。ここまでよく走ったものだ。
部品取り車を用意していたので、罹患部全てを摘出の後移植した。
相棒は死地より生還したのだ。
やってきたのは水口温泉つばきの湯。
施設内の食堂でそばを食べ、いざサウナへ。するとどうだろう、回数を重ねるにつれ10分、8分、6分と入室時間が減ってゆく。私は自身の体調不良を感じとることが苦手である。それはサウナへ誘うように相棒の不調に呼応したのか、それとも相棒が身を以て教えてくれたのか──
7月の月替わり湯は熱海の湯。サ活の締めに入り外気浴をすると、軟らかな風のなかに疲労と不安が消えていくのを感じる。
相棒も、先輩も、サウナも。どこか奇妙な縁だけれど、私にはどうしても必要なのだ。
リクライニングチェアに横たわり、顔に流れる雫は汗ではなかったように思う。

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2020.06.29

4回目の訪問

先週は休みなく働き、今日は半日休という腐った労働形態。私は休日による心の安息を得るため、滋賀の道なき道を駆ける。

仕事MAX──怒りのオフ・ロード──

定額給付金より5万6千円を生け贄に捧げ、ヤフオクという暗黒より出でしカモシカは唸りを上げて林道を疾走る。オフロードバイクではあるが、モタード仕様という腐ったその出で立ちはまさに私の今と重なる。下についたマフラーが凹もうが、オンロードタイヤであろうが、燃料タンクに穴があこうが私の心に吹き荒ぶ風を止めるに能わない。
筋肉が悲鳴をあげ、食塩の生産に着手した頃、やってきたのは水口温泉つばきの湯。
今月は大分は別府温泉の湯を楽しめるらしい。フフ......サ活の〆はここに決まりだ。
相変わらずここのサウナは広く、また火力もあり、サ活ブランクのある私にはなかなか効くパンチを持っている。リクライニングチェアに横たわると、腰から背筋にかけて、オフロード特有の痛みが延びてくる。ことリラクゼーション施設は弱いところをよく見付けるものだ。ととのう予感に自然とサウナへ足が向かう。
3セット目、オートロウリュウ中に入室することになる。病み上がりの私には、ここの熱はこたえる。いつもより早く、サウナから退出する。
別府温泉の湯にありつきながら、ふと思いを巡らせる。
サウナとオフロードは似ている。無理だろうと作法も分からず敬遠することも、一度やればすぐにまた行きたくなってしまうのも。やる選択肢は決して間違いではなく、必ず身体と心を満たすのだ。ともなれば、先ほどのロウリュウのように、オフロードでも進めぬ何かが立ちはだかるときも来るのだろう。そして私は終生そういったものに喧嘩を売り続けるのだ。
まったくもって、上等である。

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2020.06.25

1回目の訪問

蒲生野の湯

[ 滋賀県 ]

新型コロナウィルスの蔓延により長期の自粛を強要された私は病院に担ぎ込まれることになる。
同ウィルスに感染したのではなく、長期のサウナ失調及び記憶喪失のためだ。
運び込まれた病院は蒲生野の湯。先輩にサ道を示された場所である。三段のサウナに広い水風呂、そして二人分のごろ寝スポットとサウナーには豪華な施設。
さあいざ5ヶ月ぶりのサウナへ。

しかしどうしたことだろう、この患者は10分経過しても汗が出ておらず、記憶喪失のせいか水風呂の入浴時間を誤る。身体の芯に寒気があり、外気浴を楽しめない。
サウナ失調の重篤な症状だ。

再び入室する。サウナ失調症を治癒するにはサウナ投与し続けるしかないのだ。10分が経過し、水風呂へ入る。
またしても入り過ぎてしまい、外気浴へ向かうと、そこに蒲生野の湯の源泉が目に映る。源泉はほとんど外気と温度が変わらず、しかし入った瞬間は仄かに温かい。
静かに湧き出す源泉の中で、患者は蘇りつつあった。

3セット目、ついに患者は水風呂の入浴時間を思い出したのだ。まるでピアノマンがピアノを弾き出すかのように。では先ほどのサウナで最上段を選んだ彼はまさにサウナマンなのだろうか。
蒲生野の源泉は、確かに私を導いた。敬意を表し、外気浴の代わりに入浴する。
原初に立ち返り、難病を克服した私はサウナイキタイで筆を握る。ピアノマンは偽者であったが、サウナマンは本物だ。

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2020.03.23

3回目の訪問

金閣寺湯

[ 京都府 ]

激務の日々に一区切り、人生の節目にはサウナが似合いである。行くしかないと心を弾ませ働いていたのが2週間前のことである。
白い陶器のようなものが私の左膝を貫き、6針縫うことになろうとは──。
ドクターストップ明けのサウナは高温である金閣寺湯以外にありえない。もう少し優しいサウナに入ればという甘えた考えは、厳に慎まれるべきである。
秋刀魚傷をこさえ、鬼ともとれる形相の私には、背中に神を背負う男がいようとも関係などない。
金閣寺湯の高温サウナは一段目のヒーター側が一番よく燃え上がる。そして時計のないこの空間こそ、熱を我が遺伝子情報に素早く届けることができる。
鬼の遺伝子は金閣寺湯のサウナで書き換えられ、その姿は弥勒菩薩像のようじゃあないか。やはり金閣寺湯で正解であった。

露天風呂に浸かりながら、私は野球選手の苦難に想いを馳せていた。誰だったかは忘れてしまったが、輝く才能を持ちながらと怪我に次ぐ怪我で最後まで不運の連続だったあの人だ。年末からの激務と怪我によるサウナ出場停止。このままではサウナイキタイから戦力外通告を受けることもあったかもしれない。サウナには万全な体勢こそ礼儀である。今シーズンはまだ始まったばかりだ。サウナイキタイ選手の一人であることを自覚し、臨んで行きたい次第だ。

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2020.02.19

11回目の訪問

水曜サ活

冬の寒波はどこへやら。梢が春の訪れに胸を膨らませる頃、私はととのわぬ祟神大魔縁としてひじりのねへ顕現した。急遽猟犬を飼うために土地を購入し、ツリーハウスを建設しはや2ヶ月半。サウナに行く余裕すらあらず、その身を魔道に堕とすことは容易いものであった。
前回の投稿より今日まで、サウナイキタイで投稿した皆様、御怨み申し上げます。水曜サ活をした皆様、お呪い致します。
人の形をとりながらも中身は祟りで充ちる。オートロウリュを前に満員であった最上段は私が入ると途端に人気はなくなった。もちろん一回のオートロウリュ程度で鎮まるものではない。フィンランド式サウナに魔縁が結ばれ、誰もがここに近付けぬ。再びのオートロウリュでも荒御霊は鎮まることを知らない。祟りによるものか、露天風呂の電球は光を失い、より良い環境に造り変えてしまった。まさに魔窟である!!
祟神は湯に浸かり、岩にもたれ、目を閉じる。
心の臓の働きは、いつだったかの鼓動によく似ている。それは北海道を自動二輪で旅し、その最果てを見たときか──幼き頃、熊本は阿蘇の大観望で、何処までも遠くを見つめていたときか。

祟神とは丁重に祀り上げれば強力な守護神となる。ひじりのねの食堂「花づかし」へ招待し、供物として天ぷらそばを献上する。
祟神のまなざしは、少年のそれであったという。

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2020.01.15

10回目の訪問

水曜サ活

冷え込みも強くなり、天気予報士の怠慢により降る雨の中、私は10mある桜に登って天狗巣除去。心身共に冷えきって、もはやここでは生きられぬと2輪のついたシャトルをひじりのねへ打ち上げる。
この星ではオートロウリュという局地的な熱風が吹くという。凄まじい風だ。水風呂という場所で身体を冷やすが、ここでは私は生きられぬ。2枚の透明な壁を越えるがしかしここも寒い。生存本能からか、少し長続きはしたのだが。
ふとみると、フィンランド式サウナという洞窟が目に入る。
我々の命運を、この洞窟に掛けてみようと思う。
洞窟内には我々の他に生物はいないが、身体がここを求め───
急に我に帰った。今日は大変な1日であったなあと、身体に染み付いていた雨が流れ出ていく様を見て思う。
暖冬なれども厳冬期。私は宇宙服めいたライダージャケットを纏い、ひじりのねを飛び立つ。
思えば......サウナというのはテラフォーミングの一種なのかもしれない。

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2020.01.10

2回目の訪問

金閣寺湯

[ 京都府 ]

年末より今に至るまで、私はとある理由により山道を開拓し、ツリーハウスを建設している。工期は急くものであり、ととのえぬ大御神である私には満月の後光がさしていた。こんな日には勿論金閣寺湯を選ぶより他はない。450円を券売機に放り込み、ああいざサウナ......。
やはり高温のサウナは私のよこしまなる力を解してくれる。深い水風呂より露天へ至る。昔ながらの銭湯のなかで、この露天があることが嬉しい。しかしいつも人気はない。この金閣寺湯では温泉を汲んできて我々に提供しているのに何故だろうか。
2周目に入ると、露天と比べて盛況であるサウナ内。空いてるところは一段目のストーブ付近。
座るとどうだろう。2段目より暑いではないか。金閣寺湯のサウナはテレビ以外の余計な情報は一切ない。そしてここならそのテレビすら見えない。この拙文をここまで読んで下さった皆様、パライソはここにあります。ストーブに炙られる脚であるが、常々頭部と脚部の温度差を気にしていた私にはシンメトリカルに心地が好い。
3周目に入ると、人はおらず2段目も空いている。しかしストーブが近う寄れ、と仰るので私はへへぇ、とへりくだる。
長く水風呂に入った理由は外気浴の後、金閣寺湯の静かな露天風呂を味わうためだ。露天風呂は掛け流しではなく底面より沸き上がるこだわりの方式であるため、少しの音も聞こえない。贅沢を享受するには音もなく進水するのが礼儀である。
沸き上げ方式であるが些か波が強いように感じる。それは波ではなかった。
ととのいが、底から湧いてきていたのだ。

私は幼少の頃より転校を繰り返していたため、故郷というものがない。そういった理由でこのサウナイキタイでもホームサウナを設定する気はない。しかしそれでも、ここが故郷であったなら、悪くはないだろう。

追伸
ツイッターでツイートを始めました。ツイートを見ながらサ活投稿を見ていただければ、より写実的にサ活をお届けできるでしょう。何卒宜しくお願い致します。

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2019.12.27

9回目の訪問

師走に入ってからというもの、なんと今日まで私はととのえずに日々を送っていた。繁忙期であり、夜も用事にまみれてサウナに行くのもままならない。就労世代のサウナ不足は深刻な問題であり、政府は早急に対策を練らねばならないはずだ。また、高齢者世代は病院なんぞにたむろさせるよりサウナへGOである。
この1ヶ月のサウナ不足により、私はととのわぬ鬼神と化した。鬼に物事を考えることは不可能である為、アメニティの充実したひじりのねに攻め込む。
鬼の洗濯岩もかくや、勢い荒波の如く身を清める。タワーサウナに入り、5分経つとオートロウリュが始まる。いつもは1分前に合わせて入るところだが、荒ぶる神は考えることを知らない。熱波のなかで血管やリンパ腺、そして神経が力を放ち、遠方へ飛び立つ。

短い水風呂を経て、ジャズのBGMが一番よく聞こえる特等席へ。12月だというのに、冷気の舞いは変わらず心地よい。ジャズと舞いにバーの空気を感じたため、私は余市10年シングルカスクの香りを思い出す。
フィンランド式サウナに入る。人数は三人。ここは周りの施設に比べ人気はなく、独り占めできる場合もままある贅沢な場所だ。ひとりまたひとりと席を立ち、待ってましたとオートロウリュまで独り占めである。最高のこの環境で、ふと、なぜひとりになりたがるのかという疑問がよぎる。私がひとりになろうとも、このサウナは70度ほどを保ち、オートロウリュもする。12分計も絶えず動くところを見る、まるで生きているかのように。
そう、私はひとりではなかったのだ。私と彼女のふたりになる時を待っていたのだ!
私はフィンランド式サウナに一種のエロスを感じていたことになるのだ!
ひとりが入ってくると同時にオートロウリュの機械音が止まる。
悪いな、房事はもう終わった。
タオルをマントのようにはためかせ、私はサウナを後にする。

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2019.11.30

8回目の訪問

11月も末となり、いよいよ寒波がやってきた。姿は変われど相変わらずサウナへバイクを走らせる。明日は休みであり、特別な1日であるからだ。
私こと山吹は猟師である。第一種銃猟免許を所持し、猟犬とともに獲物を追う。
仕事が終わったその時点で私は自然の中にいる。となれば、サウナに入るのも全く自然である。
回数券は残り三回か......。京都には銭湯が数多くあり、それぞれの特徴を探すのが面白いが、アメニティの関係でひじりのねを選ぶ。
今は狩猟のことしか考えたくはないのだ。
タワーサウナに入る。子供連れの多い中でも今回はマナーが良い。悪くない。
2セット目にはオートロウリュがくる。5分ほどの熱波が来るが、私にとってはすすきの生い茂る中を猟犬に追い付くより楽だ。笑みすら溢れる。

外気浴をしている間もずっと狩猟のことを考えていたが、冬を纏いはじめたキレのある風に落ち着け、と諌められる。
やはりここに来たのは正解だった!
気持ちがはやっては不足の事態が起こり得る。獲物の捕り方は自然が教えてくれるということか!
明日の準備は全てととのった。
ご愛読、ありがとうございました!狩人山吹の猟果にご期待ください!!

追記
ととのった私には自然がついている。

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2019.11.24

7回目の訪問

突然だがサウナ愛好家の皆様はととのう、という言葉の対義語は何と表現するだろう。単純明快にととのわない、だろうか。凝る、という方もいらっしゃるかもしれない。そんなことをヘルメット内で考えつつ通勤路からサウナへ向かう。
勤労に感謝しながら勤労し、今日は日曜日であるはずだが......。沸々とするこの気持ちはどう見たってどす黒いものだ。
「獣になる」
日曜日で人がごった返す中に来てしまったが、昔ながらの銭湯は、バイクを置ける隙間もなかったので致し方あるまい。
案の定サウナも人類が次々と進出している。真横で会話されるというのはなんとも......。外気浴に移るも子供達が大騒ぎである。
たまらずフィンランド式に逃げ込む。人は多いがここは静かだ。ここが最後の砦なのだ。すると前回、静寂を求めて長丁場となった猛者が鎮座していた。「お前もか」と話しかけられた気がする。
ひじりのねの外気浴は畳の寝転びスペースが多く、事欠かない。特に私のお気に入りは入ってすぐ右側、スピーカーに一番近い一人用の寝転びスペースである。
ジャズ風にした夏川りみの「涙そうそう」とともに秋の風が軽やかに踊り始める。ここで私はやっと人心地着けるのだ。
思えばーー今までの私は人類の発展による山林開発で、すみかを追われる野生獣であった。自身に起きた苦い経験で、異なる何かの心が少しだけわかった気がする。

外気浴のなかで、私は人類に戻りつつある。そこで見出だした心を忘れぬ人間に、自分自身をととのえる。

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2019.11.15

6回目の訪問

花の金曜日とは嫌な言葉だ。明日は仕事である。甚だ腹立たしいこの気分はサウナでしか癒せない。サウナとは週一のペースで付き合っているが、そんなことはどうでもいい。会いたいときには既にバイクが駐車場に乗り付けている。

回数券も残り5回ほどか。スーパー銭湯ひじりのねへやってきた。子供達が走りながら浴場へ向かう。まずは身を清めようと椅子に座ると、先ほどの子供達が反対側ではしゃぎはじめる。
本来なら親、若しくは周りの人間が諌めるところだが、私には関係ない。私の神経はサウナに向いており、たとえ冷水を掛けられても些事である。
タワーサウナに入るとしばらくしてオートロウリュが始まる。いいぞ。この頃どうにもストレスが溜まるものだから、これをまるごと熱風の後ろへ置き去りにしたい。

外気浴をしていると、秋の涼やかな舞いが軽やかなBGMとともに始まる。羽衣が肌を掠めるように撫で上げ、彼女の手首に付いたチャフチャスが規則的に響く。心地がよい......。
最後にやはりフィンランド式に入る。するといつもは人気のない室内に3人もいるではないか。中にはポーカーフェイスをタオルで表現する猛者もいる。いいだろう、では最後の一人になって静寂を満喫してやろう!
私は猛者に倣い、タオルを頭に掛け、指を組む。その姿は神に祈る修道女のようである。祈る相手はトントゥであるが。
20分が過ぎる頃、室内には私と猛者の二人だけ。すると若い男が入ってくるが「違うな」と言い残して去ってゆく。このサウナの良さは時が経つのを楽しめる、つまり老いすら楽しめる人間にしかわからない。タオルで隠した猛者の顔にはそう書いてあっただろう。
ついに猛者が席を立ち、静寂を楽しむことができたのは12分時計が3周した頃だった。長居し過ぎてしまった。
外気浴に移ると、彼女は休憩中だと言わんばかりにカウンターでグラスを傾けていた。
いつもより心臓の鼓動がはやいのは、きっと彼女の澄んだ瞳にときめいたからだ。

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2019.11.12

1回目の訪問

金閣寺湯

[ 京都府 ]

満月は危険である。すべての生物にとって月の満ち欠けは切り離せぬ自然現象であるからだ。例を挙げるならば運転にも現れる。ととのわぬ心身では普段よりあらぬことが起きやすいといえる。
もっと挙げるならば狼男の話である。満月により現れる怪物は、幽玄の道をゆく先人達の警告なのかもしれない。
理由はどうであれ、バイクに跨がる身としては死活問題に他ならない。
ではどうしたらよいか。

通勤路にあるこの金閣寺湯。まさに金閣寺の向かいにある銭湯である。実はずっと気になってはいたが、間の悪いことにバイクを置けるスペースを確保できず、今に至る。満月に照らされてか、スペースがあるように見えた。今である!
質素な受け付けを通ると、昔ながらの脱衣場の風景が広がる。良い。なんと露天風呂もある。良い!私の筆にまさに今、狼が宿っていることが画面の前の皆様にわかるだろうか?
サウナは露天風呂の手前、水風呂と対面する小さな扉の先にある。
入場すると、全身の毛が逆立つのを感じる。これはなんという暑さか!そしてこのテレビ以外は文字すらない無駄のなさとは!そこに入場する恰幅の良い男性!一礼のあとにストーブに向かってアウフグース!!
その場を去る男性の背中に大神を感じながら、水風呂に向かう。深い水風呂のなかに入る頃には、狼の私はどこにも居なかった。

露天スペースはエバーバンブー(プラスチック製の建仁寺垣)と石組、和風の屋根に天然の湯という出で立ち。横たわる石は贅沢なととのい椅子である。そして何よりこの露天風呂は静かだ。素晴らしい。

3セットを終え、ふと脱衣場にある自販機に目を向けると、なんとイオンウォーターが並んでいた。私は水曜サ活をしてみたいと思いつつも行く先々で見付けられずにいた。ここにあるとはーー!

金閣寺湯の脱衣場で、去ったはずの狼が蘇る。

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2019.11.06

5回目の訪問

水曜サ活

いつもより帰りが遅くなったのは仕事の
ためではなくととのうためだ。ラッシュアワーを過ぎ、閑散とした国道171号線をバイクとともに疾走る。はやるきもちは私達よりはやく目的地へ着いていたことだろう。
ひじりのねの回数券は折り返しのコーナーを曲がる。まずはタワーサウナで眠ったままの身体を叩き起こすと、次にはオートロウリュの試練が待つ。迷わず最上段に登ると、腕、そして指先までにあるはずのない羽根の束がわななくのを感じる。嵐を前にして悦ぶそれは恐れ知らずの者にしか得ることのできぬ贅沢である。
外気浴をしていると、ひやこいそよ風がジャズの音楽にあわせて踊っているのを肌で感じる。いたずらっ気のあるステップだがとても心地よい。だが私は誘いも程々に立ち上がり、最終セットはフィンランド式を選択する。あんたも好きねと、 彼女のあきれたような声が聞こえた気がした。
その後の外気浴は、さっきより......少し冷たい態度だった気がする。

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2019.10.28

4回目の訪問

いよいよ夏服ではバイクにすら乗れない季節がやってきた。金木犀の花々をチラ見しながら私はサウナを目指してひた走る。
ひじりのねにはサ活を始めてから足繁く通っている。通勤路の途中にあることもあり、実に都合のよいスーパー銭湯である。回数券があり、月末には11回綴りで6000円になることもある。実に都合がよい。

まずはタワーサウナに入る。気温は90度ほど。途端にオートロウリュが始まる。まるで阿吽の呼吸である。強力な熱はがっつりとしたととのいを味わわせてくれるが、その後のセットではサウナに入れる時間が短くなったり、デメリットもある。不整脈のある私には少々辛いのだ。
そこで2セット目に低温のフィンランド式サウナを選択するのだ。
気温は75度と15度の違い。この15度でここまで優しくなれるのか。もちろん人はおらず、静寂な15分をじっくり楽しむ。
フィンランド式では水風呂に入ると寒すぎるので、冷水シャワーを浴びたあとに外気浴をする。


通常のサウナとフィンランド式サウナではととのいの種類が違うことに気付く。
通常を葛湯とたとえるなら、フィンランド式はすまし汁だ。その流れには引っ掛かりがなく、何処までも下ってゆく。葛湯ほど分かりやすくはない。しかしそれはととのいであり、フィンランドのサーモン達が旅の末に大地に贈る豊かな水であるだろうか。
今回の3セットは間にフィンランド式を挟むものであった。秋の風に誘われて訪れたのは大正解と言う他ないものだ。
今夜は焼き鮭とすまし汁にしよう。

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2019.10.15

3回目の訪問

通勤路を駆け下る私の身体はいつもより一枚多く服を羽織っていた。仕事中も予想外の寒さに襲われ、相手側のファールとなった。マイボールでスクラムを組むか、キックの権利を得るか、サウナか。

もはや言うまでもなかろう。

やってきたのはひじりのね。芯から冷えた身体には、タワーサウナがふさわしい。身を清めると、まもなく熱波がやってくる。
最高のタイミングだ。時間がぴったりというのは心地が良く、大学の卒業論文発表のときにも、今と同じ思いだった。
オートロウリュが終わる頃、私の身体は感覚を取り戻していた。寒さで崩れようが一度のサウナでこれだ。ふふ、素晴らしい。
外気浴中に、2セット目はフィンランド式サウナにしようと決める。もう一度芯まで冷やし、低温でととのいを狙う。
狙い通りに熱がゆっくりと身体をまわる。心地が良い......。すると5分をこえたあたりで、こちらでもオートロウリュが始まる。2回もロウリュを楽しめ、更にこの場には私だけ。ととのわないのは無理である!
3セット目はタワーサウナを選択し、外気浴後に露天風呂。身体が待ってましたと歓声をあげる。寒くなった分だけ熱をもつ者達が際立つ。
良い季節だ。

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2019.10.10

1回目の訪問

極楽湯 茨木店

[ 大阪府 ]

今日の仕事は道路に面したお宅の手入れ。毛虫も多ければ排気ガスで腕やおそらく顔も煤だらけである。段々と皮膚の中に浸入しているのではないかという感覚が私を襲うが、私は対処法を知っている。

大阪まで単車を転がすと、見えてきたのは極楽湯。いい名前じゃあないか。茨木の街中にあるこのスーパー銭湯は立体駐車場があり、狭い立地でも隙がない。
サウナは内湯と露天風呂の間にあり、給水機が近くにあり嬉しい。だがサウナマットは露天スペースにあるので注意が必要だ。
身を清め、サウナへ。
ヒーターが2基あり、テレビがある5段のサウナだ。気温計が一段ずつあり、下は60度、上は80度とマイルドな温度設定。この温度は私を焦らせることなく、実によい。この大阪という都会の中にはこういった時間の流れの遅い場所が必要なのだ。郷に入っては郷に従うのが礼儀である。
3セット目に入ると、オートロウリュに当たった。説明文によると、強力な送風を送るとのことであるが、私の音をあげさせらせるか楽しみである。
オートロウリュが始まると、灯りが消える粋な計らい。ヒーターがライトアップされると和風なバックグラウンドミュージックが流れ始める。そして強力な風が説明文の警告通りに駆けめぐる!2回目のロウリュとなると、今度はサウナ発祥国フィンランドにあやかってかケルティッシュな曲へと変わる。滾るこの気持ちはフィギュアスケート選手のそれと似かよるだろうか!

露天スペースには3、4人は寝転べる場所があり、椅子は4脚。大規模な寝転び湯もあり事欠かない。
ふと見ると、露天スペースにスチームサウナがある。サウナが低い温度だったので、身体は余裕があると云う。
スチームサウナに入ると、なんというか公衆感溢れる見た目である。まるで市が指定したかのような......だが温度も私好みで、気温計も時計もテレビもないこの世から隔絶された空間は、大阪にしか出来ないものであるかもしれない。
存分にととのった後、40.6度の露天風呂へ浸かる。露天風呂の石張りを見る。そういえば、今週の三連休に京都でミネラルショーが開催されることを想わせるような石である。露天スペースの柱には竹が巻いてあり、またその無骨な屋根は木組みで隠れている。ふだん目にも留めないことはスチームサウナに入って初めてわかったことだった。わかる人にはわかる、そんな素敵なひとときだった。

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2019.10.06

2回目の訪問

そろそろ乗車時の服装を考えねばとヘルメットの中でひとりごちながらやってきたのは玉光湯ひじりのね。以前より素晴らしいポテンシャルを備えながら民度が低いことが課題のスーパー銭湯である。
2週間、若しくはそれ以上の連勤が決まってしまった私は我慢ならず日曜日に来たのである。賃金を払わなければ労働者から不満が出るように、身体にはサウナを払わなければボイコットされかねないので致し方ないのだ。
大型のバイクが列を成して並んでいるところを見ると、おそらくツーリング後にひとっサウナだろうか。いい身分だ、と毒づき入店する。
子連れでごった返す店内。早くも失敗したかと思いつつ下駄箱の鍵をフロントに預ける。するとロッカーの鍵と交換される。ナンバーは001。偶然だろうが何か嬉しくなる。
身を清め、タワーサウナに入場。80~85度を行ったり来たりして安定していない。しかし人数多くとも話し声はなく、気にはならない。4分を過ぎた頃にオートロウリュの案内が始まり、太鼓の軽快なバックグラウンドミュージックが流れ始める。その5分後にオートロウリュが始まった。良い調子だ。しかしBGMの拍子を取って「熱波行きますよー」と喋らせるのは余計だ。熱波士がいるならともかく、自動音声なら必要はあるまい。
オートロウリュにつきあい12分の1セット目となった。2セット目は釣り合いを取るため8分とする。3セット目はここの醍醐味であるフィンランド式、君に決めた。
サウナ内は誰もおらず、タワーサウナや露天風呂の賑わいとはうってかわる。それがまた静寂を引き立たせる。やはりここは素晴らしい。ここに住みたい。
10分を回ると、大男がひとり入ってきた。すると1分しないうちにその子供がサウナの扉をノックしてくる。大男は「おまたせ~」とサウナを出ていってしまう。やはり子連れであると、リラックスもしづらいのだろうか......それは未来の私の姿でもあるのかもしれない。

3セットを終え、露天風呂に入る。そこにいる子供達はテレビに夢中であり、お陰で静かに楽しめる。露天風呂には2基の寝転び湯があり、露天風呂のスペースとは少し離れている。ここがいい。
仕事の疲れが湯に溶ける時分に女児が寝転び湯のスペースに入りたがる。片方は子連れが入っており、私は迷わず席を譲る。遅れてきた父親に敬意を払い、私は風呂場を後にする。

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