ニコーリフレ SAPPORO
カプセルホテル - 北海道 札幌市
カプセルホテル - 北海道 札幌市
7月が近づいた休日、アパートの自室を出た男の頬を撫でたのは冷たい風だった。見上げれば途端に雨粒を落としそうな雲が空を覆っている。
「雪でも降りそうだな」
やがて街並みを覆う白い物体を思い出し、乗り込んだ地下鉄の窓には男の冴えない顔が映る。冴えない日々ではあるが不幸ということはない。男の心の隙間を埋めるべく、狸小路の裏に佇むビルへ足を向けた。
受付を済ませ脱いだ服を指定されたロッカーにしまと、男は整然と畳まれ積み上げられたタオルを1枚手に取り、浴室のカランで頭から順番に身体を洗い始めた。
「今日は下茹でするでもないか」
身体の水気を拭き取ると、薄暗いサウナ室の扉を開いた。直前まで猛者共が熱波を浴びせていた空間は、その余韻の熱い空気に満たされていた。
バスタオルを腰に巻きおもむろに腰掛ける。しばらくすると二の腕に現れた汗の粒は大きさを増し、重力に敗れ肌の上を滑り落ちる。
やがて熱気に耐えかねるとサウナ室を離れ、ぬるいかけ湯で汗を流した。16℃と書かれた水風呂に身を沈め、思わず腹の底から深い呼吸を繰り返す。並べられた椅子に深く腰掛け力を抜くと、得も言われぬ感覚に包まれていく。
様々な思考が頭を巡る。最近始めた趣味のこと。何をするにしても半端だった男が、初めて明確なゴールを定めて取り組めていることに満足していた。評価されなくても、必ずゴールにたどり着きたいと思う。
熱気と冷気の切替を何度か繰り返し、心地よい疲労と空腹を覚え、浴室を離れ休憩を取る。期間限定メニューで腹を満たした男は、しばらくの安静の後に浴室へ足を運ぶ。
「ここに来たら浴びないと勿体ないよな」
再び身体を洗いサウナ室に入る。熱波師によりストーブに流されたアロマ水は熱蒸気となり、焼けた石の上でアロマ水が爆ぜる音が響く室内はシダーウッドの香りと熱気に包まれる。
撹拌された熱蒸気が襲いかかり、一人また一人と退出する者が出始める。熱波師への申し訳無さを覚えながら、たまらず男もその一人に加わりサウナ室の外でレモン水を受け取り、水風呂で高温からの救いを求める。椅子に腰掛けると、奥底から湧き上がる活力が身体を突き破られるような感覚に襲われる。
「今日もキマッたな」
すっかり満足し帰り支度を始めると、洗い場の鏡には憑き物が落ちたような男の顔が映る。
ロッカー室で服を着て会計を済ませる。再び訪ねるであろうビルの外に出ると、男の心境を描いたような雲一つない空からは暑いくらいの日差しが降り注ぎ、爽やかな風が吹き抜けていた。
2024年の夏は、もう目の前に来ていた。
実は最近始めた趣味というのが小説書きでして… まだ何も書いてないですが練習ということで。 ありがとうございます🙏
良い趣味ですね!次も楽しみにしてます(^^)
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