せどらない男爵

2021.02.14

1回目の訪問

ただ、ただ優しかった。
そもそも優しさって何なんだ? ちょっとした気遣い? 大胆なプレゼント?
僕は男だからレディファーストかしら?
いいや違う。きっと善意とか、良心とも呼べるようなもんじゃない。
ずっといられる、そーゆーことを優しさっていうのさ。

サ室に入ってごらんなさい。檜なのかな、とにかくそんな香りがするんだけど、これが不思議でさ。例えば焚き火をするときなんかは比較的最近加工されたであろう薪を使うだろ? 新品のさ。福美湯は板張り造りのサ室なんだけど、例えば僕がよく行く松の湯も板張りなんだが、こっちは真新しさのない香りなんだな。ほどよくこなれた感じ。
匂いは過去を想起させるもの。きっとこれはそいつが福美湯の壁面という仕事における汗の結晶、骨の髄から、また芯から染み出したものに違いない! なんて思いながら、何百年も生きているんだろう、って1900年の亀の島、彼がいたあの風景を思いながら黙々と考えちまうのさ。実際見たこともないにもかかわらずね。

室温もゆるやかなんだ。これがまたいつまでもいられちゃうんだよな。ロウリュがおよそ4分に一度と、比較的短いスパンで焼け石のピンポイントを打っているから、湿度もいい塩梅を保ち続ける。
ここは退室のタイミングが難しい。だって4分待てばロウリュの音を堪能できるもんだから、あと一回、もう一回聞いてからってついつい留まっちゃうんだよ。サウナは苦手って人でも下段ならかなり長居できると思うし。
浴場から王道的カポーン・サウンドが雑多な仕草の摩擦音と共にサ室に響いてきて、片やサ室ではジブリが多用していそーなリラックス効果を期待した曲選の一曲が流れている。何にのめり込むにしろ、まず一つの流れに集中するべきだ。それが己自身に、なんてダサい目的であろうとも。ともすると音楽、ということになる。プログレの方がいいなぁ……そろそろ飽きてくる。あの雑音が気になり始めたその刹那、ロッキーサウナがライトアップ。後光の先には垂れた水から沸き上がる蒸気。全てを掻き消すロウリュの音。しゅぅうう。僕は首を垂れる。そして脱我に満ちた恍惚の顔で、僕の頭は、まるで天に召されるかのように上向きになっていく……。

じっくりときたら、じっくりの水風呂。珍しく羽衣を纏い、長居した。一箇所だけ足元からチョロチョロと水流が吹き出しているんだねここ。どうでもよさそうですっげー重要な役割を果たしている系のちっちゃい流れだけど、羽衣外していくならそのポジションがいいだろう。

銭湯だから人が全くいないってことがなさそうで扉開閉が多いのが弱点だけど、あのロウリュ音は絶対に体験してみた方がいい。サ室の優しさが一気に身に染みるよ

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