稲荷湯
銭湯 - 東京都 八王子市
銭湯 - 東京都 八王子市
腕が鬼のように痛い。鬼って。鬼になったことなどないのにわたしたちは、ついうっかりと鬼っぽくなる。
痛みの理由はここ八王子駅から数駅先、相模原の「JNファミリー閉店なんでもバザー」で感涙きわまり、藤の脱衣カゴ(100円)山盛りに、家族のサウナマットや館内着を買ったからだ。
自慢じゃないけどクルマはない。これから混み合うだろう電車のなかで、「カゴに山盛りのサウナマット」を抱えた女が必死のパッチで東京を目指す、そんな未来が決まっていた。
ならばこの瞬間をどうしよう。
サウナに行くしかないじゃないか。
わたしは「腕の痛みと汗を流す」というミッションを定めた。お邪魔するのは評判ばつぐんの地元系銭湯、稲荷湯さん。ちなみにゆっポくんの東京銭湯スタンプラリーももらうことが可能だ。
八王子駅から徒歩7.8分。住宅街の入口にある、なごみ系おしゃれな外観が嬉しい。
時刻は15時。お客さんの出入りも多い。
財布を開きつつフロントのおじさまにビシッと「サウナつきで」と話しかけると息を呑まれた。
うろたえたわたしは「あの、女の」と、特にいらなさそうな情報もお伝えする。
するとおじさま、「後ろに券売機があるんですよ」と指をさしてくださった。
着いて早々やらかした。
あらためて券売機でサウナ付き券600円を購入し、ロッカーキーとサウナ目印のスパイラルゴムをいただく。
番号は偶然、33。
愛する広島東洋カープ・菊池涼介選手の背番号に心が躍る。
笑顔でJN脱衣カゴを抱えなおしたところ、「フロントでお預かりしますよ」と優しい声。甘えさせてもらう。
今日は奇数日。女湯は2階のロッキー&露天、予習した通りの嬉しい日。
モダンな暖簾をくぐると、脱衣所も清潔。おばあちゃまたちでちょっと混み。浴室にはカランも5割埋まった活気がある。シャワーはノブ式なので、両手を使えてありがたい。
サ室はオートロウリュ付きロッキー。数分ごとに輝きながらスプラッシュ。気持ちのいい湿度がある。ベンチはテレビを挟んだ対面型の2段式で、マット交換もこまめであった。
このフロアの素晴らしいところは水風呂の奥に、露天風呂と長い背もたれベンチがあることだ。心ゆくまで外気に触れる。
大丈夫、汗はもうやんだみたい。ハーブ袋入りのオレンジピールの薬湯をあみ、わたしは再度、脱衣カゴをかかえて中央特快に乗りこんでいく。
訪ねたおりの痛みや鬼は、八王子のきよらな風にそよいで消えた。さっぱりとした。ここにいない誰かに向かって、ありがとうを伝えたかった。
男
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