Bose

2025.06.16

50回目の訪問

扉を引き 中へ入る
靴を脱ぎ 棚にしまう

ひと息おいて
脱衣所に 足を踏み入れる

今 このサウナには 誰もいないことが
すぐに わかった
ロッカーの鍵が すべて付いていた

誰の気配もないことに
すこし さびしさもある

誰もいない静けさは たしかに 心をほどいてくれる
けれど
静かに佇む誰かの存在が
空間に やわらかな重みを添えてくれることもあることを
わたしは知っている

タオルを手にとり
ゆっくりと 浴場の扉を開ける

少し乾きはじめた床に
誰かの足跡が かすかに残っていた
ついさっきまで 誰かがここにいたのだろう

けれど その痕跡は
むしろ この空間の沈黙を
いっそう深くしているようでもあった

足音を立てず
わたしは その静けさのなかを そっと進む

視線の先には あの 木の扉
熱と沈黙の気配だけが かすかに滲んでいる

誰もいないはずの奥の部屋
その扉を 静かに開くと
渇いた熱が すぐさま 身体を包む

しばらく ロウリュをしていなかったからだろう

砂時計を返し
ラドルに水を汲み取り
熱せられた石に ゆっくりと 水をかける

じゅっ──と音を立てて
白い蒸気が 立ちのぼる

やがて その音が 静かに消えていくと
ふたたび この空間は 沈黙を取り戻す

そっと腰をおろすと
何も聞こえないはずなのに
まるで 砂が ひと粒ずつ
静かに 落ちていく音だけが
この空間を 満たしている気がした

そのとき ふと
何か 重たいものが 静かにほどけていった気がした
ただ 呼吸が 身体のすみずみまで すっと届いていくのが わかった

あともなく すべてを溶かし ただ座すのみ

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