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Bose

2025.07.12

1回目の訪問

お風呂に浸かると、
水面のむこうに 琵琶湖がひろがっていた

サウナ室の小さな窓からも
水風呂の縁に立ったときも
そこには変わらず 湖があった

琵琶湖に沈みゆく夕陽を眺めていると
ふと思い出した映画があった
『On Golden Pond』
静かな湖のほとりの話だった

老いた父と その娘
長いあいだ 言葉を交わしてこなかったふたりが
少しずつ 時間を巻き戻すようにして
なにかを取り戻そうとしていた

彼女は言った
「I want to be your friend」
そんな台詞があったように思う

字幕では「あなたと友だちになりたい」と訳されていた
それは 親子が口にするには 少しだけ不器用で
でもどこまでも誠実な言葉だった

あのとき 湖はとても静かだった
カヌーが 水を切って進んでいく音だけが
まるで時を刻むように響いていた

映画の内容は ほとんど忘れてしまったけれど
その場面だけは なぜか 心のどこかに残っている
まるで 古い記憶のなかに そっとしまわれていた風景のように

そして今
わたしは 琵琶湖を正面に見ながら
静かな風を受けている
空と水面は ちょうどあの映画のような色をしている

不意に 記憶の引き出しが 音もなく開く

もしかしたら わたしも ずっと
言えなかった言葉を 心のなかで転がしていたのかもしれない
父と うまく向き合えなかったまま
時だけが過ぎてしまった

でも きっとそれでいいのだと思う
記憶というのは なにかを解決するためのものじゃない
ただ 静かに沈んでいって
やがて風景のなかに 溶けていく

そして そのあとに残るものは
たぶん――
ほんのすこし 優しくなった空気だけだ

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48

Bose

2025.07.11

1回目の訪問

サウナの梅湯

[ 京都府 ]

次に向かうのは 梅湯
『サ道』でナカちゃんさんが訪れた あの場所へ

梅湯の扉を開けると
空気が ほんの少し やわらかくなった
そのぬくもりに どこか 懐かしさを感じた
ここが初めての場所であることが 少しだけ不思議に思えた

スケッチと見比べながら
京都のサウナ施設を巡ったナカちゃんさんは
サウナ室で蒸されながら お父さんのことを 静かに思い返していた

身体を清めてから 静かにサウナへ
ほどよい湿度と温度が 深く沁みてくる
無理をせず 少しずつ 熱を受けとめていく

この熱もまた 父が かつて感じたものに
どこか 似ているのだろうか
そんなことを ふと考える

京都の水は やさしいと聞いていた
実際に入ってみると 確かにそうだと思った
冷たさのなかに やわらかな輪郭があり
そのすべてが 静けさへと 導いてくれるようだった

湯船のふちのようなところに腰かけると
今日という日が すこしずつ 終わりに近づいていくかのように
からだの力が抜けていく

父も こんなふうに 湯上がりを過ごしていたのだろうか
昔は
「家にお風呂があるのに なぜ銭湯へ?」と思っていた
今は その理由が 少し わかる気がする
わたしの父が亡くなって もうすぐ一周忌を迎える
実家の近くにあった 父がよく通っていた銭湯は もうない

建物は 何年も前に すっかり姿を消してしまった
記憶のなかでは 湯気がまだ かすかにゆらいでいるのに
現実の風景からは きれいさっぱり 消えてしまっている

それでも 湯気の奥にたたずむ 父の背中を
ぼんやりと思い浮かべることはできる
話すことも 触れることもできないけれど
その背中だけは なぜか ちゃんとそこにいる

そして わたしは今 その記憶とは まったく別の場所で
まったく別の熱に 身をゆだねている
でも それでいいのだと思う
記憶は 風景とともに失われるものじゃなくて
こうして べつの熱に 静かに 溶けていくものなのだから

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80

Bose

2025.07.11

1回目の訪問

五香湯

[ 京都府 ]

『サ道2021』第6話で
「父が学生時代から よく通っていた銭湯が京都にある」
そう聞いたナカちゃんさんは
その場所を 実際に巡る旅をした

わたしはこの回が 大好きだ

今日は 京都の五香湯と梅湯に行く
サ道のナカちゃんさんが巡ったルートを
わたしも たどってみたくなった

まずは 五香湯へ

のれんをくぐると ふわりと漂う あたたかな気配
老舗の銭湯には ただよう熱の 歴史がある気がした

タイルの柄 桶の色
どこか懐かしいけれど ここで過ごした記憶はない
なのに 「帰ってきた」ような気がした

ゆっくりと身体を洗い 湯気の向こうに 湯船を見つける
肩までつかって ひと息つくと
旅の疲れが 音もなく 沈んでいく

サウナは 静かに熱く
ロウリュウはないけれど
石の奥から まっすぐな熱が 時間をかけて届いてくる

熱の粒子が すこしずつ わたしを包んで
遠くの思考が ほどけていく

水風呂の肌ざわりは きっぱりとしていて
けれどどこか やさしかった

滝のように注がれる水に 肩を差し出してみる
勢いよく打たれるたびに 熱の名残が抜けていくようで

京都の水には 京都の冷たさがある
ととのい椅子に腰かけて 風を待つ

耳をすませば 地元の人の話し声
ゆるやかな京都弁が 遠くからかすかに聴こえる

それもまた このまちの熱のかたちなのだと思う

風を受けながら 目を閉じる
ここがどこであっても
いま わたしは たしかにここにいる

旅の熱 まちの静けさ わたしの呼吸
すべてが すこしずつ 重なっていく

銭湯の灯りが 外の暮らしと やわらかくつながっていた

雨が降った後の涼しい風が
熱を抜けた身体を やさしくなでていく
改めて このまま もう一湯 めぐってみようと思った

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80

Bose

2025.07.09

60回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

今日も暑いですね
なんて言葉が、すでにあいさつみたいになっていて
午後の空気は 熱を含んで 静かにたゆたっていた

仕事をそそくさと終えて
今日も行こうかな、と思った

特別な理由があるわけじゃない
ただ 昨日も その前の日も
サウナに行けた日は なんとなく うまく眠れていた気がしたから

それだけのことだけれど
いまの私にとっては きっと大事なことなのだと思う

ひと汗かいて
すこしずつ 心のなかに 積もっていたものが
熱とともに やわらいで
汗に変わっていく

熱を抜けて
水のなかへと 身を沈める

一瞬だけ 息をとめ
感覚を 澄ませていく

水の冷たさが
さっきまでの熱を すべて抱えて
やさしく 洗い流していく

何も考えない
けれど 感覚のどこかで
すべてが あるべき場所に戻っていく気がした

そしてまた
椅子に座り 風を待つ

期待して 眠りへつなぎ ただ座すのみ

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81

Bose

2025.07.08

59回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

今日は定時で上がり
すぐに サウナに行くつもりだった
ひと汗かいて ととのえたあとに
家で ゆっくり夕飯をすませながら
途中まで観ていた映画の続きを、ゆっくり観るつもりだった

私の仕事は完璧に済ませていたはずだった
でも 夕方から 思いのほか 多くの相談ごとが 舞いこんできた

これは自分でコントロールできる類いのものではない 仕方がないものだ

そのあいだで わたしの気持ちは 静かに揺れていた
サウナに行くか
あるいは 家に帰って 映画の続きを観るか
それとも 少し遅くなっても どちらも叶えるか

映画はきっと 待っていてくれる
いつでも再生できるし 同じ場所からはじめられる

でも 今日のサウナは
今日しか 行けない気がした

けれど 日々のわずかな疲れや 感情の澱みは
その日そのときだけのものだから

わたしは 夜の道を歩きながら そのほうへと向かった

入口の明かりが 思いのほか やさしく見えた

サウナの扉を開けたとき
思っていたよりも 熱はやわらかくて
今日という一日が まだ わたしを受け入れてくれているような気がした

じっと座っていると
身体よりも先に 心がほどけていく
言葉にならなかった疲れも 誰にも言えなかった迷いも
ただ 汗に変わって 静かに流れ出していく

水風呂の冷たさは 今日のわたしにとって
必要な“無音”だった
息をととのえて ♾️に身をあずけると
夜風が かすかに 額を撫でていった

それで よかった
それだけで よかった

ゆるむ夜 風とともに ただ座すのみ

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81

Bose

2025.07.07

1回目の訪問

事前に『サ道』を予習してから来た
ナカちゃんさんの巡ったルートを そのままたどってみたくて
でもまずは 館内をゆっくりと歩いて確認する

ナカちゃんさんと同じ ととのいスペースは 空いていなかった
だから あのルートは ほんのすこし ずれた

でも それでも よかった
むしろ その“ずれ”が
わたしにとっての はじめてのととのいを
連れてきてくれそうな気がする

ここでは いろんな音が聴こえる
誰かの笑い声 タオルのはためく音
水が跳ねる音
みんな 楽しそうだった

今日 わたしも
友だちと来る予定だった

そんな人たちを見ていると
すこしだけ うらやましくも感じる

でも ひとりも けっして悪くはない

今日は 家にご飯を用意していなかった
だから このあと どこかで食べて帰ろうと思う
そんなふうに ぽっかり空いた夜の予定も
今日という日の
ゆるやかな終わり方にふさわしい気がする

いつかまた 友といっしょに ただ座すのみ

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88

Bose

2025.07.06

58回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

今日は 外気浴の♾️に腰を下ろしても
いつものような風は吹いてこなかった
深く息を吸っても 空気はぴたりと静かで
肌に触れる気配さえ どこにもなかった

目の前には 風の通り道がある
そのはずなのに 風の気配はまるで感じられない
植え込みの葉が わずかに揺れているのが見える
けれど それは 風が通った証ではなく
ただ 空気のたわみに反応しただけのように思えた

その揺らぎは あくまで揺らぎであって 風ではない

風は どこか別の場所を選んだのかもしれない
あるいは 今日は 来るつもりがないのかもしれない

風にも 風なりの事情があるのだろう

だから私は ただ待っている
吹くかもしれないし 吹かないかもしれない
でも それでも かまわない
わたしは わたしのままで ここにいて
風が来たとき その気配を そっと迎えられればいい

風の事情 ただ待ち続け ただ座すのみ

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82

Bose

2025.07.05

57回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

サウナに向かっている途中で 部下から連絡が入った

休日に届く連絡に いい知らせは含まれない
経験上 そういうものだ

幸いにも 今すぐ職場に駆けつけて 何かを処理しなければならない
そういう類いの事案ではなかった
けれど 胸の奥に わずかな波紋のようなものが広がっていくのを感じた

サウナに入ると いつもより 心拍数の上がりが早かった
身体が先に その変化を 察知しているのだろう
たぶん 私は どこかで動揺していたのだと思う

連絡をくれた彼も きっと不安だったのだ
大したことはない と ほんの一瞬でも思ってしまった自分を
私は 内心で 少し恥じた

不安というのは 湖の底に沈んだ小さな石のようなものだ
手を伸ばすことはできないけれど その重さは感じる

でもそれは 誰かと共有することで 少し和らぐ

いまの私にはそれ位しかできることはないのかもしれない

ただ 聞くこと
ただ そこにいること

熱と蒸気のなかで
私は すこし長めに 静かに 汗を流した

 

手は届かず それでも共に ただ座すのみ

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85

Bose

2025.07.04

56回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

「今日、めちゃ暑いね、サウナみたいだね」
今日 一緒に昼を食べに外出した同僚が そんなふうに言って 顔をしかめた

こう言われるときの「サウナ」は
たいてい 不快のメタファーとして使われている
むしろ できることなら避けたい場所の象徴のように

きっと彼は サウナに行ったことがないのだろう
あの熱の意味も そのあとに訪れる静けさも きっと知らないのだ

わたしは ひと呼吸おいてから「うん、そうだね」
と やさしく応じた

この時期の外の熱は いつだって 一方的で 行き場を失っている
まるで 感情の整理がつかないまま 空気にあふれているような
気づかないふりをしても 肌にまとわりついてくる
それは わたしが望んだ熱ではない

サウナの熱は 自分で選ぶ熱だ
わたしはその扉を 自分の手で開ける
誰にも言われずに 誰のせいにもせずに
ただ その熱のなかに ゆっくりと沈んでいく

そして そこには 秩序がある
熱された石 静かに降る水 ゆっくりと立ちのぼる蒸気
そのすべてが 呼吸の奥に眠る静けさを そっと呼び覚ましてくれる

水風呂の冷たさに身を沈め
椅子に腰をおろし 空を見上げる
そのときだけ 世界と 音もなく うすく共鳴する
その共鳴のなかで わたしは わたしに戻る

君にもね いつかわかるさ ただ座すのみ

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83

Bose

2025.07.03

55回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

ずっと サウナに行けなかった
忙しくなかったといえば ウソになる
でも 正確に言えば 行こうと思えば行けた日も たしかにあった

時間が合わなかったり 予定がずれたり
ほんのわずかなほころびが
静かになるための糸口を どこかで絡ませてしまっていたのかもしれない

あるいは ちいさな歯車が 一つだけ噛み合わずに
空転しつづけているような 
そんな違和感を ずっと抱えていた

気がつけば もう10日が過ぎていた

そして やっと
ほんとうにやっと その場所にたどりついた

入口の引き戸に手をかけたとき
掌が ほんのすこし 震えていた
ロッカーの鍵の感触すら どこか懐かしく感じられた

サウナ室の扉を開けた瞬間
いつもの熱が 全身を包み込む
忘れていたものが ひとつずつ 静かに戻ってくるようだった

ラドルに水を汲み そっと石にかける
じゅっ という音とともに 蒸気が立ちのぼる
その蒸気は いろんなものを ひっそりと溶かし込んでいく
言葉にならなかった気持ち
呑みこんだままのため息
全部 音もなく 熱のなかに すっと消えていった

必要としていたのに 気づかなくなっていただけだった
からだも 心も きっとずっと これを待っていたんだ

外では いろんなことが起きていて
時計の針は 容赦なく進んでいるけれど
この場所だけは あるいは 時間の外側にあるみたいだった

何も起きない
何も生まれない
ただ 熱と静けさのなかに 身を置く

それだけで たしかに
なにかが ゆっくりと 戻ってくる気がした

熱のなか 息をゆるめて ただ座すのみ

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86

Bose

2025.06.22

54回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

仕事帰りに
そのまま滑り込むようにして入るサウナには
どこかルーティンのような安心感がある
時間は限られているけれど そのぶん無駄がない
蒸気の中で息をととのえるようにして
今日という一日の輪郭を 少しずつ撫で直す
感情のかたまりが ゆっくりとほどけていくのがわかる
それはささやかで けれど確かな贅沢だった

でも休日のサウナは ずいぶん様子が違う
ここでの時間は もう 何かを区切るためのものではなくなっている
焦る理由も 切り上げる予定もない
ただ 熱に身を委ねて 冷たさに沈み
そしてまた 椅子に座って風を感じる
ただそれだけのことが なぜかとても自由だった

平日のサウナが 整えるものだとしたら
休日のそれは ただただ ほどけていくものかもしれない
何かを生み出そうとしない
誰のためでもない 完全に自分だけのもの

ふと気がつくと
何かを考えるという行為さえ
少しだけ 遠くに置き去りになっている
その感じが 休日の午後に ときどき 訪れる
その静けさがあるから また平日を生きていける気がする

何もしない
そのためにただ
ただ座すのみ

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Bose

2025.06.21

53回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

チェックイン

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Bose

2025.06.20

51回目の訪問

巣鴨湯

[ 東京都 ]

久しぶりのホーム 巣鴨湯さん
畳のやわらかさが 足の裏に すっとなじんでくる
サウナ室の木の匂いと ほどよい熱
水風呂の 芯まで冷たい水

ととのい椅子に腰を下ろすと
静けさのなかから 銭湯らしい音が ふと立ち上がる
シャワーの水音 桶のぶつかる音
それらが 遠くで呼吸しているように聞こえる

音に包まれているのに
わたしの中のノイズは すうっと 小さくなっていく

たしかに銭湯の音はする
けれど それは騒がしさじゃない
日常が 静かにほどけていくような
どこか懐かしくて 心にやわらかく馴染む音

——そうか
ホームって たぶん
ただ戻ってこれる場所じゃない

もう がんばらなくていいと
静かに思わせてくれる場所のことなんだ

ふと戻る 理由はいらず ただ座すのみ

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92

Bose

2025.06.18

52回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

夕方の陽射しは 昨日よりもさらに鋭く
アスファルトは ほとんど怒っているかのように
熱を じわじわと返してくる

まちの空気は ねばりつくような重さで
ふり払う術もなく ただ わたしの身体に絡みついてくる

それでも わたしは 歩き出していた
影の少ない歩道を なるべく日陰を選びながら
それでも 汗はすぐに 背中をつたう

昨日、ほどけたはずのものが
また ゆっくりと 結び直されているような
そんな感覚が どこかに たしかにあって
それが きちんとほどけるうちに
もう一度 熱のなかに身をゆだねたいと思った

そして今日もまた
ひとつの扉を開けて
熱と静けさのなかに 身を置く

からみつく
熱とほどけて
ただ座すのみ

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85

Bose

2025.06.17

51回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

昼間の熱気が まだ街に残っている
アスファルトは じんわりと 熱を返してくる
30度を超えた今日の空気は
どこか落ち着かず 行き場を失い 苛立ちを孕んだ熱のようだった

気持ちの置き場を見失ったまま
街じゅうに ゆっくりと 散らかっているかのように

そんな熱に 身を委ねるのは 少ししんどい
だからわたしは 整えられた熱を求めて
今日もまた サウナへと向かう

そこには 誰かの手で ちょうどよく整えられた
秩序ある熱がある
荒れた感情のように ぶつかってこない
ただ 静かに包み込むような熱

それが 今のわたしには ちょうどいい

荒ぶ熱 逃れて滲む ただ座すのみ

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69

Bose

2025.06.16

50回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

扉を引き 中へ入る
靴を脱ぎ 棚にしまう

ひと息おいて
脱衣所に 足を踏み入れる

今 このサウナには 誰もいないことが
すぐに わかった
ロッカーの鍵が すべて付いていた

誰の気配もないことに
すこし さびしさもある

誰もいない静けさは たしかに 心をほどいてくれる
けれど
静かに佇む誰かの存在が
空間に やわらかな重みを添えてくれることもあることを
わたしは知っている

タオルを手にとり
ゆっくりと 浴場の扉を開ける

少し乾きはじめた床に
誰かの足跡が かすかに残っていた
ついさっきまで 誰かがここにいたのだろう

けれど その痕跡は
むしろ この空間の沈黙を
いっそう深くしているようでもあった

足音を立てず
わたしは その静けさのなかを そっと進む

視線の先には あの 木の扉
熱と沈黙の気配だけが かすかに滲んでいる

誰もいないはずの奥の部屋
その扉を 静かに開くと
渇いた熱が すぐさま 身体を包む

しばらく ロウリュをしていなかったからだろう

砂時計を返し
ラドルに水を汲み取り
熱せられた石に ゆっくりと 水をかける

じゅっ──と音を立てて
白い蒸気が 立ちのぼる

やがて その音が 静かに消えていくと
ふたたび この空間は 沈黙を取り戻す

そっと腰をおろすと
何も聞こえないはずなのに
まるで 砂が ひと粒ずつ
静かに 落ちていく音だけが
この空間を 満たしている気がした

そのとき ふと
何か 重たいものが 静かにほどけていった気がした
ただ 呼吸が 身体のすみずみまで すっと届いていくのが わかった

あともなく すべてを溶かし ただ座すのみ

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69

Bose

2025.06.15

49回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

外気浴のインフィニティチェアに
そっと身を沿わせる
まだ少し熱を帯びた身体に やわらかな空気がふれてくる
そのあたたかさと冷たさのあいだに しずかな余韻が ひろがっていく

空気は ひとところにとどまり
しずけさのなか 時だけが ゆるやかに 流れていく

そのとき ふと
鼻先をかすめたのは 焼きたてのパンの香りだった

音もなく 輪郭を持たぬまま
その香りは わたしをそっと 包みこんでいく

言葉にはならない
けれど たしかに何かが ゆるんでいく
無意識の奥に張りつめていたものが
静かに 音もなく ほどけていくようだった

気づけば 胸の奥が やわらかく ほどけていた

ゆるやかに 余白を抱いて ただ座すのみ

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75

Bose

2025.06.14

48回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

やわらかな水にふれることで こころはそっと しずけさへ還っていく

水風呂のなかへ そっと身をゆだねると
──あ、今日は少し やわらかい

肌にふれる水は どこかおだやかで
やさしく身を 撫でていくように
どこか ぬくもりに似た安心感をまとっていた

やさしさの はごろも纏て ただ座すのみ

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70

Bose

2025.06.12

47回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

二重とびらの向こう側には
今日も 薄暗く 静かな空間が広がっているのだろう
その想像だけで 心がすこしととのい始める
期待に胸をふくらませながら ふたつ目の扉をそっと開ける

──熱いな

おそらく ロウリュウの直後だったのだろう
熱は どこか鋭さを帯びていた
だが その鋭さが不思議と嫌ではない

音のない空間に ただ腰を下ろす
その静けさのなかに 鼓動の高まりだけが 耳を打つ
そして からだがその熱に寄り添うように
ゆっくりと適応していくのがわかる

その高まりが やがてととのいへの扉を開いてくれることをどこかで そっと期待しながら
熱のなかに 身をゆっくり沈めていく
理由などなく ただ気持ちがよかった

しずけさと ひとつになって ただ座すのみ

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77

Bose

2025.06.10

46回目の訪問

トキオズサウナ

[ 東京都 ]

ロウリュウの蒸気が、ジュッと音を立てる。
水風呂では、あふれた水がサーっと静かに流れていく。
外気浴のひととき、屋根を叩く雨の音がポツリ、ポツリとやさしく響く。

熱、冷、水、風、そして音。
そのすべてが溶けあうように、
身体も、心も、自然にととのっていく。
ただ、耳を澄ませていた。

いくつもの 音がとけあい ただ座すのみ

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