鶴の湯
銭湯 - 東京都 調布市
銭湯 - 東京都 調布市
サウナは人間の悲喜こもごもを零してくれる社交場である☆
月に一度必ず原点回帰をしに行きたくなるこちら築七十年近い鶴の湯。
今日がその日だと低温高湿ラドンサウナに身を委ねていると、一番高温になるスチーム発生器の真ん前で老人が武蔵坊弁慶のように堂々と腰に手を当て微動だにしない姿勢で佇んでいた。
肩から膝裏まで赤、青、緑、黄色と様々な色に彩られた肌を惜しげもなく晒してスチーム器の前で仁王立ちするその姿にどこか神々しさも感じられ視界の端にとらえながら静かに息を整えていると、その老人は『あぁっつい!あ〜、あっつい!』と呟きながら、己自身と闘っていた。
サウナに入っている以上、整いを求めるのは自然の摂理だ。
老人は心の声が余すことなく零れ落ちる方のようで、
『あぁっつい!あ〜!あっつい』という言葉がモニターのない狭いサ室に充満し、その言葉尻が消えようとする瞬間ほんのか細い声で
『なんでだ?』
と言う老人の声がサ室に響いた。
『熱い、何故?』との老人の零れ落ちた問いに、
『熱いよ。だってサウナだもの。』
自分の心の中の相田みつをが心の中のみで呟いた。
それからお互いの視線があったことから談笑させて頂くことができ、老人の刺青の歴史などを聞きながらとても有意義な時間を過ごす事が出来た。
一通り整い終え脱衣所で着替えていると声をかけられた。
振り返ると、先程まで談笑していた刺青の老人が笑顔で立っている。
『あんちゃん、これで何か冷たい飲み物でも飲みな。』
そう言って、気前よく自分にジュース代を渡そうとしてきてくれた。
初対面の方にいきなり奢られるのも気が引け何度か丁重に断るが、老人のあどけない笑顔で『いいから』と渡そうとしてくれる姿勢に断るのも失礼と思い、有り難くお気持ちを頂くことにした☆
『またな!』と手を振り、去っていく粋な老人の計らいに礼を言いながら見送り、掌を開けてみると五十円玉が鈍く光っていた。
自分の心の中の相田みつをが心を飛び出して呟いた。
『これでは買えないよ。だって令和だもの。』
昔はこれで買えたのだろうなぁ。
今では紙パックの飲み物でさえ最低百円は有するものだ。
様々な思いが交錯するが五十円以上のお気持ちを頂けた気がして、
これからの人生、沢山のご縁がありますようにと、老人のお気持ちを自分の財布の端っこにそっと大事に忍ばせることにした☆
ありがとう。
龍の刺青の老人☆
足しにはなりませぬがご縁がありますように🌈✨
ステキなお話です♪
銭湯らしい情景、目の前に浮かぶ様です。
昨日初めて行ってきました。確かに身体一面に背負った御仁が居たのであの方かなあ?前を横切るとき手刀切ってたなあ… 素敵な(落ちのある)噺です♪
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