カプセルランド湯島
カプセルホテル - 東京都 文京区
カプセルホテル - 東京都 文京区
平日 夜
人出 無
「好きなんやなあ、と祖母は笑った」
誰にも会いたくない。でもサウナに入りたい。
なぜだか、どうしても今日だけは。
そんなぜいたくを叶えるため、仕事終わりの僕は湯島で途中下車した。
途中、ふだんは飲まない梅酒を買った。ワンカップサイズの瓶の中で梅が揺れていた。
券売機でチケット購入、靴を脱ぐ前にチケットと靴の鍵を交換する。不思議な動線に思えるが、それもここだけでの景色だ。
誰にも出会わない。カプセルゾーンはしっかりと利用されているようだけど。
暗がりのサウナ。水シャワー。脱衣所での休憩。
寝転んでもいい。誰もいないんだから!
梅酒を買ってきていたのを思い出した。
3階の親戚の家にあるようなソファと机のある喫煙所で梅酒を飲むと、まるで実家みたいだ。
子どものころ、祖母が毎年梅酒を漬けていた。
祖父がおいしそうに飲んでいた。
僕はシワシワになる手前の梅をお酒の中から選抜して、よく盗み食いした。かじると、「カリッ」と鳴く音が好きだった。
当然ながら祖父によく注意された。当然だ。子どもだったし、なにより梅酒の味が変わってしまうから。
真夏の入道雲とセミの声を振り切って家に帰ってきた昼下がり。
祖父母は2階の部屋で涼んでいる。
そっと階段の下から梅酒の瓶を取り出し、梅をつまんで、噛んだ。「カリッ」と音がした。
階段の中腹に腰掛けながら「好きなんやなあ」と祖母は笑った。
僕は湯島で梅酒を飲み終えた。瓶の中の梅をかじる。
あの音は聞こえなかった。
歩いた距離 4km
サウナレビューよりも奥のサさんの祖父母との思い出に自分の昔を懐かしむきっかけになりました😌 素晴らしいエピソードですね☺️
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