人吉温泉 鍋屋
ホテル・旅館 - 熊本県 人吉市 宿泊者限定
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文久二年 霜月某日 鍋屋参詣記
このたび、かねてより名高き「鍋屋」なる湯宿へ、ついに足を踏み入れ申した。此処は、江戸の末より続く由緒正しき宿にて、上皇・上皇后両陛下をはじめ、連合艦隊司令長官・山本五十六殿、文人・田山花袋翁など、歴史に名を遺せし偉人たちも立ち寄られたとのこと。
拙者、長らく敷居の高さに恐れをなし、近づくことすら叶わざりしが、今般、意を決し、一刀両断の覚悟にて、いざ宿へ乗り込んだ次第。
蒸し風呂(三度入浴、一回につき十の刻)にて、心身を焙られ候。
その蒸し風呂、六階の高きに設けられ、見下ろせば球磨川の急流・筏口の瀬。さらに向こう岸には繊月城、即ち人吉城が堂々たる姿を見せつけ、眺めて飽きることなし。
室内には木製の柄杓(ひしゃく)と桶が備えられ、これにて自ら湯石へ湯を注ぎ、熱気を立ちのぼらせる趣向。拙者これを「自ら蒸気を呼ぶの術」と呼びたく候。人数わずか六名のこぢんまりとした空間ゆえ、一たび湯気が立てば、忽ち熱気は満ち、まさしく極楽、いや戦場の熱き闘志すら思わせる。
水風呂は、蛇口より絶え間なく注がれ、清らかにして柔らかく、心の澱すら洗い流すような快きもの。
露天の外気浴の場もあり。これ、川向こうより丸見えなるべしと思いしが、ふと見下ろせば、観光の舟三艘、いずれも満艦飾の如く人で埋まり候。拙者ら男三名、手を振れば、舟上の婦女子ら、これに応え、誠に楽しげに手を振り返してくれ候。
あの距離にては、さすがに下半身の細部までは見えぬものと思われ候。
今まで訪れざりしこと、まことに口惜しき限り。拙者、心よりそう思うに至り申した。
――以て記す。
男
夏の候、筏口の瀬は拙者の鮎釣り場と相成るゆえ、次回は殿方の湯を眺め申しておるやも知れませぬな。ふふっ。
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