2022.10.16 登録
[ 東京都 ]
3月4日の東京は16度に達しており、薄霞から漏れる太陽は、徐々に春に近づいた色で街を照らしている。春の陽気が包む街、清澄白河。一つ路地を曲がると、辰巳湯があった。
番台を過ぎ、コの字型になったロッカーに荷物を預ける。ロッカーの上には数百冊の漫画。横目に見えるテレビは、女子ゴルファーが打つ球の放物線が、後付の青でなぞっていく。
浴場に入れば、橋と岩に腰掛ける女性のモザイク壁画が出迎えてくれた。壁画の上の窓からは陽光が白のタイルを照らし、反射したクリーム色は、どこか牧歌的な雰囲気にさせる。
サウナ室は4段になっていて、一段二人程度のこじんまりとしたスペース。自然と身を縮めて座り、テレビも何もないサウナ室で目を閉じる。鼻孔に届くのは、かすかなガスの匂いにと、シトラスのようなヴィヒタの香り。無音。集中していく精神。ジリジリと焼かれていく皮膚には、ポツポツと汗が染み出していった。
サウナ室を出ると、玉のような汗が皮膚に浮かんでいた。熱さを証明している。水風呂は露天の方にあった。横幅の狭い扉を開けると、一転して薄暗い部屋が広がっていた。真正面の水風呂は、光量の少なさで、20度近くを示しているが、冷え冷えとした心持ちにさせる。足を伸ばして天井を見やると、黒い屋根が底抜けに寒々しさを感じさせて、体感温度は13度ほど。衣がまとって行く、そんな感覚だった。
小上がりのような休憩スペースに行くまでの間、空が開け上を見やる。背の高い年季の入ったマンションの外壁が、藪の間から光を伴って景色を映した。休憩スペースは、漆喰をヘラで丸めたような丸の跡が残る壁と、一面の漫画が取り囲んでいる。10席弱の椅子に腰掛け上を見やる。夥しい数のぬいぐるみの目線が、僕を見つめている。扇風機からカラカラという音と共に風が送られてくる。冷えていく体、体から抜け出ていく熱量、塗りつぶされた黒の瞳。
3セットをこなし、徐々に人が増えていく辰巳湯は、少しずつ地元の銭湯の雰囲気にあふれていった。浴場を出て、オロナミンCを一瓶。染み渡るが、渇きは癒えない。いま求めているものはビールだ。10分ほど歩き、居酒屋のだるまにたどり着き、一杯と肴に舌鼓を打つ。下町の風情は、途中の商店街で存分に味わえた。イワシを一枚、あん肝を一口。景色が少しだけ味わいを深くしてくれた。
歩いた距離 2km
[ 千葉県 ]
八幡の藪知らずといえば耳にしたことのある人も多かろう。コンクリートに囲まれた街にぽつんと竹藪が広がっている、異質で神秘的な空間だ。上を見やると、藪の合間から木漏れ日が降り注いでいる。
そんな藪知らずの街にあるレインボー。このサウナは、明かりのサウナだ。受付すぐの脱衣所では、サウナを済ませた人達がそれぞれの楽しみ方で、休憩椅子で目をつぶり熱気を冷ましていた。
浴室に入ると奥まで見通せるまっすぐのレイアウトが広がっている。まずは水通し。ブルーの照明が天井から落ちてきて、水風呂の底まで照らしている。肌で感じる水温はそこまで低くないが、ライトの色が少し冷気を加えているようだ。
まずは低温サウナへ。サウナの扉を開くと、暗闇と静寂が部屋を占めていた。サウナの中に照明はなにひとつなく、唯一の光源はテレビに映る焚き火の映像と、扉についた小さなガラス窓から漏れる光だけだ。運が良かったのか、サウナには僕一人だった。サウナストーンに時折水滴が落ちて、「ジュッ」という音が響いた。脈拍と水が弾ける音のみを感じ、目をつぶる。微かに感じるヴィヒタの香りを焚きしめて、時間は過ぎていった。
10分が経ちサウナの扉を開ける。浴室は白の光にあふれている。かけ湯で汗を流して水風呂に肩までつかる。柔らかい水が体を包み、体の中の熱は徐々に冷えていく。天井を見やると、女神像の隣に青の照明が僕を照らしている。滝から流れる水の音が響く。徐々に、徐々に魂が抜けていく。
慎重に浴槽から足を出して水風呂から出た。整い椅子は、低温サウナの前に10個程度並んでいる。腰掛けて息を一つはいた。身体はそこまで冷えていなかったのか、足の先から頭に登るような熱を感じ、また一つ息を吐いた。整いの時間は近い。
低温サウナには、毎時毎にロウリュがある。2セット目とのロウリュのタイミングがちょうど重なりサウナに入ると、1セット目とは異なり多くの先客がいた。端に腰掛けるとすぐに、急にサウナストーンがライトアップされ、ひっくり返したような量の水がサウナストーンにかけられた。瞬間、室温は急激に上がる。これは低温などではない。頭部に身悶えするような熱が届く。ロウリュは計3度。耐えきれなくなった2段目の先客たちは駆け足で出ていき、部屋にはポツンと一人になった。1分程度で僕も出た後、誰もいなくなったサウナに思いを馳せる。次は誰が来てくれるのだろうと考えているだろうか。
サウナを終えて外に出ると、すっかり日は暮れていた。そこかしこの電灯に明かりが灯り、時代は代わっても火は街を照らしている。本八幡の街は7時を越えてなお活気を増しているようだ。レインボーの明かりを背に、一歩ずつ駅へ向かう。足取りは少しだけ軽かった。
[ 東京都 ]
大井町に降り立つのは、いつだか行った大井競馬場で乗り換えたときくらいだろうか。この街の思い出は、だいたい青く晴れた空とセットだ。
おふろの王様 大井町店。恵比寿でのライブの前に訪れたのは13時頃。吹き抜けのようなエスカレータを3つ上がると、その温泉が出迎えてくれる。
上の階でタオルセットを受け取り浴場に入ると、昼時の腹ごしらえを済ませた方々が温泉から顔を出している。まずは水通し。入って左手の5人位が入れそうな水風呂に足をつけると、刺すような冷たさが頭の奥に響いた。うん、なかなかにヒエヒエ。
水風呂隣のドライサウナには2人くらいが並んでいた。少し狭いサウナ室?と不安がよぎったが、扉を引くとぱっと視界が開けた。水風呂とは対象的な、鉄板に手を触れたときのような、ジュウという熱が顔に当たる。二段目に腰を掛けたが、熱量はさほど変わらない。視線の先に映る温度計は80度を指ししめしている。熱を感じる。血液が沸騰したように脈が早まっていく。
1月の東京の、突き刺すような湿り気のない温度は今日も変わらない。水風呂をやり過ごし、今日はそのまま外気浴へ。都内には珍しく、空が見える外気浴スペースのベンチに腰掛けた。壁に頭を横たえて上を見上げると、空の青色が広がっている。晴れた日曜日の午後、体から上がる白の蒸気とともに脈拍は徐々に落ち着きを取り戻していく。
2セット目。外気浴スペースに時折特大のモヤを吐き出すスチームサウナへと。ドライサウナとは対象的に、扉を開けると一気に視界がモヤに包まれた。モヤには清涼感のある柑橘系の香りがほのかに感じる。まとわりつくような暑さにも少しずつ慣れていき、視界は徐々に溶けていき、体の境界線が、少しずつ部屋全体線まで広がっていった。
10分程度経っただろうか。サウナを出て水風呂まで向かった。汗を流してソロソロと水風呂に浸かる。スチームが体に膜を作ってくれたのだろうか、冷たすぎた水は少し角が取れたように僕を包んでくれた。
水風呂を出て、屋内スペースのベンチに腰掛けて目をつぶる。外気浴で感じた突き刺すような気温はここにはない。足元を流れるお湯と、背中に感じる大理石のようなツルツルとした壁。感覚は少しずつ不明瞭になり、一方で整いは着実に迫り寄せてくる。意識を失ったのか整ったのか自分でもわからないが、体中から力が抜けていった。
3セット目をこなし銭湯を出ると、行きは上りのエスカレーターは当然ながら帰りは下りだ。
吹き抜けのエスカレーターには、頬を撫でるような僅かな風が抜けていく。湯気が出てるような感覚は、風と共に薄れて消えていく。ダウンの前は、少しの間だけ開けておこう。
[ 静岡県 ]
年2回の清水出張には、楽しみが一つある。
静岡駅南口から3.7km、徒歩45分。5度の外気温でも少し汗ばむ速度で歩き、たどり着きたる聖地しきじ。
自動ドアの中に入れば、平日でも9割方埋まったロッカーキーと、暖簾の奥から漏れてくる湿度と焚きしめるような薬草の香り。しきじにきたという実感が湧いた。
フェイスタオルを取り浴場のドアを開けると、一瞬視界が半分になる。湯気が溢れていた。しかも、入り口よりも濃度の濃い薫りとともに。
まずはかけ湯をして水通しからだ。いつもはものの5秒位しかできない水通しも、しきじの水は柔らかく温かい。早歩きで火照った身体が包まれていくようだ。
1セット目はフィンランドサウナから始めよう。ガラス扉を開ければ少し湿り気を残した熱気が出迎えた。先住者たちは一様に、熱に耐えながらぼうと20インチ程度のテレビを眺めていた。入れば見る見るうちに、玉のような汗と両椀にあまみが浮かんだ。水風呂に入る準備は整った。
10分でまたガラス扉を開けて水風呂に入った。包み込まれるような柔らかな水が迎え、深く声が漏れた。ほてったからだからジュウという音が鳴り、目をつむった。
滝に頭を打たれるのも醍醐味かもしれない。まだ熱を残した脳が、滝のしぶきで冷やされていく。
水風呂から出て、整い椅子に座り目をつむる。
立ち上る湯気の湿度、半開きの窓から流れる冷気、2つの要素で中和されていく皮膚の外側を感じる。
滝の音は大きく耳に響いた。結露した天井の雫が、身体にぽつぽつと落ちてくる。
目を開ければ、湯気が壁面のライトを散らし、蠟燭のような色合いが目に映る。
全てがこの「湯気」で構成されているんだなと感じた。しきじは、湯気だ。
2セット目は薫りの元凶の場所、薬草サウナ。フェイスタオルを2枚持ち、頭と鼻に縛り付けて入った。足元は蒸気で痛いほどに熱く、1段目でようやくだった。定期的に発するスチームに身もだえしながら、壁に掛けられた布袋が目に入った。僕のすぐ右側にあった。恐る恐る鼻を出して匂いをかぐと、表現できないような香りが染み出した。そば殻の薫り?中国茶の匂い?答えは見つからない。ただ、この匂いはここでしか味わえない。
10分経過して逃げるように扉を開けた。水風呂に入るまでに、一つ鼻から大きく空気を吸い込むと、薬草の匂いはまだ残っていた。燻された体はまだ熱を持っている。水風呂に使ってからも、整い椅子でもそうだ。ずっとこの匂いは身体に染みついていた。
薬草サウナ、フィンランドサウナをもう1度ずつこなして、しきじを後にした。薬草の香りは、外に出てもまだ残っている。バスに乗っても、晩酌の店に入っても、定宿に戻ってきても、まだ。
歩いた距離 3.7km
[ 東京都 ]
錦糸町駅からゆるゆると、スカイツリーに向かって歩いて10分。
ズラッと並んだ自転車の奥の暖簾をくぐれば、こじんまりとした休憩スペースと番台がお出迎え。今日は奇数日、遠赤外線サウナと塩スチームサウナに入れる男の子の日。
まずはこじんまりとした遠赤外線サウナから。七輪でジリジリとあぶられるような熱さで10分一セット。テレビから流れる「はっけよい」の掛け声を聞きながら暫し、、、。
サウナを出れば、これまた可愛らしい大きさの水風呂に浸かる。少し足を伸ばして風呂から外に出してラッコちゃんスタイル。嘆息が漏れる、少し暖かい水、頭から出る蒸気。
銭湯内には休憩スペースがなく、露天風呂2階の外気浴スペースへ。木の階段を登るたび、1月の冷気に冷やされた床が、足の温度を奪っていく。正解だった、ラッコちゃんスタイルで足を冷やさなくて。
休憩スペースに置かれたインフィニティチェアに寝転ぶと、目に入るのは少し傾き出した陽と雲と紺色の空。そして並んで写るスカイツリーと銭湯の煙突。ああ、この景色だ。
2セット目は露天風呂の脇にある塩スチームサウナ。窓からは中の様子が見えないほどの湯気で、ステンレスの扉に手をかけ中に入ると、口と鼻に押し寄せる熱を持った水分。
普段は頭に巻くフェイスタオルも、今日ばかりは鼻と口に巻き、蒸され蒸されて10分。スチームのシューという音が定期的に流れるが、それ以外は全くの静寂で、自然と気持ちは自分の内に内にと向かっていく。
スチームサウナから出ると、今度は露天風呂内の水風呂に入った。中の銭湯よりも少し低い温度?それでも外気よりは高いと感じながら、ここでもラッコちゃんスタイルをキープ。なんだかカピバラの入浴みたいな顔に自然となっていく。目をつむり口が少し開いたような、他人に見せるのもはばかられる顔にさせるなんて、罪な水風呂だ。
1月のこの時期の気温は、外気浴には流石に辛い。館内に戻り、カランの前のケロヨン椅子に腰かけて整いタイム二本目。子供の声が耳に入り、整うときの頭によぎる光景は、子供の頃に行った四日市の戦闘の風景だった。
3セット目は遠赤外線サウナをもう一度。無事10分で焼き魚になったあと、館内の水風呂を楽しんだ。さて、どこで整うか。館内を見渡してみると、ジェットバスの隣の一番奥のカランの奥に、小上がりのようなスペースがあった。腰掛けてみる。露天風呂の入り口から一番遠いだけあって、少し温度が高い。求めていた温度にたどり着いた安心感からか、今日一番の整いを得られた。あの、ムズムズと体の中から湧き上がる幸福感に、ふっと眠気が寄せてきた。
そんなこんなで3セットを楽しんで、銭湯を失礼し、パチリと一枚。
日程や人数、部屋数を指定して、空室のあるサウナを検索できます。