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庭師として今年独立した身であるが、その労働体系に見かねた友が私を伊勢志摩へ連れ出した。
療養である。
内宮での参拝を終えて、おかげ横丁で地ビールとつまみを買い込む。緋扇貝の出店があり、物珍しさに食べてみるとこれがまた酒に合いそうだ。旨味とえぐみを強くしたホタテのようだ。つまみとして売られていないのが悔やまれるが。他にもバイ貝などの珍味や、貝から採れる真珠が通りを彩っている。
療養先は大江戸温泉物語 伊勢志摩である。
友の勧めにより、全身マッサージを受けることになる。マッサージ師のお姉さんの照れた顔が忘れられない。
さて、大江戸温泉物語のサウナは浴場に入るとすぐ左手にある。新型コロナウィルスが流行る前なら10人は入ろうものだろうか。テレビはなく、恐ろしく乾いたサウナだ。放っておけば汗まで乾くことだろう。この土日では子連れが多く、サウナは人気が少ないので好都合だ。ただそのこともあってか水風呂はない。露天風呂では英虞湾が一望できる。静かなサウナに水面も静謐......まこと療養である。
9時丁度になったとわかるように、遠い山に陽は落ちて、の時報が鳴り響いた。リアス式海岸の複雑な地形がその音色をくぐもらせた。それは螺旋をえがいてうねりながら、夜の帳をすり抜け、はるか英虞湾の向こうに消えた。
酒盛りを終えて4時間後、私はまた大浴場に向かう。朝にサウナとはもはや犯罪ではないだろうか。
ここの露天風呂は日の出が丁度見える方角だ。残念ながら曇っており、二枚貝の裂け目のようにオレンジの空が見えるばかりである。サ活を終えて露天風呂を漂うと、貝の裂け目より朝陽が溢れる。緋色の真珠のようだ。
ウェストミンスターの鐘が螺旋を描き、今日1日の始まりを告げる。
身体を洗い流し、浴場から出るとき、貝は閉じてしまい、真珠を見ることはできなくなっていた。緋扇貝には真珠がつくとは聞いたことがないが、そこには確かにあった。
それは神々のおわす伊勢志摩が私に見せてくれた奇跡であったのだ。
緋扇の真珠や
伊勢志摩の
朝に燃ゆ