ある日わたしは、小さな魔法に導かれるように、とあるドーミーイン岐阜の扉をくぐった。
そこはまるで、静かな冒険のはじまりを告げる箱庭のような、ドーミーらしいコンパクトな作りの世界。
サウナ室に揺れる光は、NHKの放送。静けさのなかに響く人々の暮らしの音。
わたしはそれをBGMに、心のチャンネルを“ととのい”へと合わせた。
外気浴の外側へと降り立つと、そこには外気浴の椅子がひとつだけ。
しかし――その玉座には、長き眠りにつく者がいた…。
わたしはそっと、風と水の間をたゆたうだけの者となった。
けれど、やがて巡る時のなかで椅子は空き、
わたしはついにその椅子へ腰かける――
その瞬間、身体中を駆け巡ったのは、言葉では言い尽くせぬ“ととのい”。
ああ、まるで星々が脳の奥でささやき合うようだった。
ご飯も、アイスも、ヤクルトも、すべてがご褒美のよう。
そして優しい波のようにほぐしてくれるマッサージ椅子。
そばには無限の物語が眠る漫画たち。手に取るたびに世界が広がってゆく。
「ありがとう、ドーミーイン…このやすらぎの楽園を…」
…けれど、ただひとつだけ、ゆめを破るような声があった。
風呂場に響く、大きな声の話し声――。
あの静謐な空間には、言葉ではなく、汗と息と、沈黙こそが似合うのに。
それでも、わたしは想う。
この日々のひとときが、まるで小さな旅の終わりに綴られる、しずかな物語のようだったと。
女
-
98℃
-
15℃