ポスト・サウナブームを考える 〜僕がサウナーになった理由〜

サウナイキタイ アドベントカレンダー 7日目の記事です。

はじめに

メリー・クリスマス！と言うにはまだ気が早いですが、こんにちは！
師走に入り、今年もアドベントカレンダーが始まりました。楽しみですね〜。
というわけで、7日目を担当させていただきます「サウナと手裏剣と私」と申します。

実は以前にも、サウナイキタイマガジンで水風呂に関する記事を書かせていただいておりました。
つい先日くらいの感覚だったのですが、気づけばかなりの時間が経っていて驚きます。サウナイキタイ３周年、本当におめでとうございます！

今回は一層とりとめのない文章になるかもですが、「サウナブーム」のあれこれについて自分なりに考えたことを書かせていただきます。
うっかり前回に迫る長文になっていましたが笑、気合を入れて読んでいただかなくても大丈夫です。どうぞ、サウナ後のリクライニングシートのような気持ちで気楽に読んでくだされば。

（ちなみにサブタイトルの「僕がサウナーになった理由」ですが、ゲーム「がんばれゴエモンきらきら道中〜僕がダンサーになった理由〜」を特に理由もなくパロっているだけで、内容にはあまり関係ありません…）。

「ポスト・サウナブーム」…の前に

「ポスト・サウナブームを考える」。これが今回のタイトルです。「ポスト」とは「〜の後」を意味する言葉ですから、サウナブームが終わってしまった後を考えるということになります。

と言うと、「気が早いよ！」という方もおられるかもしれません。

Twitterなどではたびたび「本当に今はサウナブームなのか」という議論が持ち上がります。もちろん有名施設に通う人は増えたと思いますが、そうではない街の銭湯やサウナ施設も潤うほどなのか。潤うどころかコロナ影響で閉店してしまう施設も増えているような状況で、果たして「ブーム」と言えるのか？今がそうなのかも分からないのに、終わった後の話とは！と。

ところで個人的に、サウナイキタイの「Tシャツを買って施設を応援しよう！」という取り組みは、素晴らしいなと思っています。こういう時代になってしまった以上、施設だけにがんばってもらうのではなく、愛好家も協力しあい、施設を支えるために何ができるかを考えていくべきなんじゃないかなと。サウ手裏はサウナマーケットを応援しています！（サウ手裏に応援されてもなって感じでしょうか…）

とはいえ数年前に比べれば、「ブーム」を実感する機会は明らかに増えました。
個人的な体感では、ドラマ版『サ道』放映くらいから、愛好者コミュニティの外でもサウナの話を聞くようになったり、有名施設では「混雑しすぎて大変！」という話が聞こえてきたり、芸能人やアイドルなど有名人がサウナ好きを公言するのを目にするようになったり。

少し前に出版されたサウナのムックが手元にありますが、そこには「サウナが趣味だと大っぴらに言えない風潮を変えたい！」というインタビューが載っています。
「サウナが好きと言いにくい」「サウナ？何それ？と言われる」そんな雰囲気があった頃からすれば、明らかに変わってきてはいるのかなと感じます。ひとつの趣味としてちゃんと認知されはじめたというか。その意味では、やっぱりブームは来ているのかも。

嬉しいことに「最近サウナにハマった！」という人を以前よりもたくさん見かけることができる昨今。個人的に、サウナには「熱の下の平等」があると思っています。サウナ室では、立場に関係なくむき出しフォルムで、誰もが暑い。
サウナ愛好者の界隈も、そんな「熱の下の平等」に則り（？）、経験の多寡や歴の長さなどにこだわる事なく、お互いがお互いをリスペクトできる風通しの良いコミュニティであるといいなとたまに思ったりします。

サウナは何歳からでも始められる趣味なので、興味がある人はぜひ飛び込んでみてほしいですし、既に愛好者である我々も、新しく入ってくる方々に対して熱波のようなアツい歓待ができる界隈だといいなと。
まあ、「そんな事あんたに言われんでも」ということで笑、早速脱線してしまいました。本題に戻りましょう。

今のサウナブームを振り返る

「ポスト・サウナブームを考える」と言うと、「ブームが去ったらどうすれば…」という暗いニュアンスが含まれるようにも見えるかもしれませんが、今回自分が書きたいのはそういう事ではありません。ブームが去ろうが去らなかろうが、サウナ好きはサウナに入るだけじゃないかなと思うので笑

じゃあ何が書きたいのか。ここは焦らず、まずは「今のブームの分析」をさせていただこうかなと。
（だったら記事タイトルは「サウナブームについて考える」で良くないか？と言われるかもしれませんが、「確かにそうですね」と答えるしかありません。正直なところ、サウナに入りながら突然思い浮かんだワードが「ポスト・サウナブームを考える」だったのです。「うわー、なんかこれいい気がするー」と思って応募したのですが、サウナ内で降ってきたアイデアは後からするとガバっていることがわりとある…）

そんなこんなで、「ポスト・サウナブーム」を考える前に、まずは「現・サウナブーム」を自分なりに分析してみたいなと思います。

念のため言っておくと、この話はあくまですごく簡略化した私見に過ぎません。
それこそサウナブームの中で現れてしまったサウナ魔人、「マジでこの人いつもサウナに入っているな」というサウナモンスターことうださんの記事を読ませてもらって、今の状況が出来上がるまでに様々な形で尽力されていた方々がたくさんいるよなあと、改めて思い返しました。
ありがたいことに自分も今のブームが盛り上がっていく過程をあれこれ見れていた方だと思うので、実際の背景はもっと複雑だったことは理解していますが、そのまま書くと果てしなく長くなってしまいそうなので笑、今回は大ざっぱな私見を書かせていただきます。

「現・サウナブーム」の3つの特徴

今のサウナブームの火付け役となったのは、やはり漫画版『サ道』なのかなと思います。
その『サ道』を象徴するのが、「ととのい」というキーワード。
「サウナ、水風呂、休憩を繰り返すと気持ちいい」ことを示す言葉で、言葉じたいの考案者はプロサウナーの濡れ頭巾ちゃんということですが、それを一気に広めたのが『サ道』だったと思います。
『サ道』とは、「サウナはがまんする場所」といったそれまでの古いイメージとは異なる新しいサウナ観を、この「ととのい」という言葉で提示しようとした試みだったと捉えています。

つまり、現在のサウナブームはタナカカツキ氏を発端とする「ととのい」ブームであり、「ととのい」を軸としてサウナが語られる点こそが、過去のサウナブームとは異なる特徴なのではないでしょうか。

これだけだと粒度が荒い話なので、もう少し噛み砕いてみましょう。自分としては、現在のサウナブームには主に三つのポイントがあると考えています。

１．「ととのい」中心の価値観
２．「サウナ」「水風呂」「外気浴」の3要素へのフォーカス
３．サ「道」すなわち「熟練していくもの」という概念

１．「ととのい」中心の価値観

よくよく考えれば、他人の感覚を自分が感じることはできないので、他の誰かがサウナで感じる気持ち良さがどんなものかを知ることはできない。本来はそうなんだけれども、「ととのい」というキャッチコピーが作られることで、「サウナで蒸される」という個人的な経験に、共通の枠組みが設定されたのかなと。

「ととのい」と言うとみんな共通の体験をしているように思えますが、他の人のととのいがどういうものなのかを実は誰も知らない。テレパシーでも使えないかぎり、どんなサウナ愛好家でも、他人のととのいはブラックボックス。それを『サ道』ではビビッドなアートとして表現し、「サウナに入るとこうなるのか」を視覚的に分かるようにした。

そういうふうに、本来他人のサウナ体験を感じることはできないのだけれど、「ととのい」という言葉を使うことで「自分たちは共通の経験をしている！」と確認し合うことから、今のサウナブームははじまったように思います。この共通言語をベースに、「サウナー」と言われる人たちのネットワークが形成されていったのが、今のサウナブームのひとつめのポイントなんではないかなと。

２．「サウナ」「水風呂」「外気浴」の3要素へのフォーカス

「ととのい」は他人と共有できない個人的な体験ですが、現在のブームにおいては「サウナ」「水風呂」「外気浴」という３要素が、「ととのい」を客観的に語り合うための指標としての役割を果たしている気がします。
たとえば「あそこの水風呂は深くて冷えていて15度でキンキン、だからととのう」と言うように。

ここでは15度という温度が客観的な指標として語られていますよね。でも、15度という温度でそれぞれが実際にどう感じているかは話の中で抜け落ちてしまう。なぜなら他人の感覚は分からないからです。
また余計なことを書くならば笑、愛好家の間ではしばしば「サウナは○度は欲しいな」「水風呂は○度以下じゃないと」みたいな話が出てきますが、それは本来お互いが共有できない感覚の話でしかないので、あまり鵜呑みにしすぎず自分にとって気持ちいい温度や湿度をそのままに愛せばいいのかなと思ったり。

このようにサウナ水風呂外気浴をある程度客観的な指標として、それぞれの施設の「ととのい」を語っていくことで、客観的に「ととのい」やすい施設がリストアップされていきます。

光あれば陰があるように、物事は表裏一体です。「ととのい」という共通言語、サウナ水風呂外気浴という指標でみんなが盛り上がれるようになった反面で、サウナ施設がその基準でばかり語られるようになってしまったことは、今のサウナブームの功罪でもあるかもと感じています。

サウナの温度が低い、水風呂がぬるい、外気浴がない、だから「ととのい」にくい、だから「良くない」施設。こういう価値感ってやっぱりありますよね。でもサウナ施設の良さって、「ととのい」だけで語れない部分もあると思います。

僕は山奥のサウナに行くことが好きです。片道4時間かけて行った山奥のサウナに水風呂がなかった時のことを、今でも良く思い出します。でもそれは僕にとって「最悪な」体験では全くなくて、本当にいい思い出だったんですよね。
山奥なのに行き届いた清掃、優しい店員さんの応対、サウナ後の眺め、ぶらり森の中を散歩して、お土産屋さんと楽しく話して、アイスを食べながら数時間に一本しかないバスを待つ夏。今でもその時の光景がぱっと目に浮かびますし、また行きたいなと思っています。

もちろん「ととのい」という言葉は素晴らしい発明だったわけですが、誰かがその施設に行き、滞在し、帰る時間と空間において、どんな情感がその人にもたらされたのか。今のサウナブームの中では、そういう事が語られにくいように思います。

「ととのい」「サウナ水風呂外気浴」だけがサウナの語り方ではない。じゃあもしも「ととのい」という言葉が無くなったとしたら、あなたはどのようにサウナを愛でますか？ということが、今回の書きたい話だったりします笑

さておき、１〜２をまとめると「ととのい」という共通言語ができ、「サウナ水風呂外気浴」へのフォーカスによって語りやすくなった結果、盛り上がってきたのが現在のサウナブームなんでは？という話ですね。

３．サ「道」すなわち「習熟していくもの」という概念

最後の3つめ。
『サ道』には「道」の字が使われています。「道」というのは歩んでいくもの。「茶道」「華道」「書道」などといった言葉に使われる時には、「習熟し極めていくもの」を指したりします。
『サ道』が新しかったのは、サウナに「道」の概念を取り入れたこともあるのかなと思います。

それによって何が起こったかというと、「サウナに習熟しよう！」という価値感が生まれ、習熟したと言われる人が脚光を浴びるようにもなりました。

だいぶざっくりですが、「現・サウナブーム」は以上の三つを軸に展開されてきたのかなと、個人的には考えています。

サウナは「役に立つ」？

現・サウナブームの起こりを個人的に分析してきたわけですが、『サ道』の出版から数年が経過し、最近ではまた違ったサウナの語られ方もされるようになってきたと感じることがあります。「サウナは○○の役に立つ」という言説です。

もちろんそういう側面もあるでしょうし、それで興味を持ってくれる人が増え、業界が潤うのは素晴らしいことです。
一方で、天の邪鬼な自分としては、「役に立つとかじゃないから！」という反発心が無いかと言われれば少しはあります笑

でも、「じゃあ役に立たないものなんだね」と言われると…ある程度は役に立っているように感じます。
どっちやねんという感じですが、「サウナにハマる人生とハマらない人生、どっちがいい？」と言われれば、まあ前者がいいなと。

たとえば、サウナにハマる前は冬が苦手で苦手で仕方がなく、活動力が大幅にダウンしていたのが、少しだけマシになったとか。あるいは、昔は寝られない夜とかに無性に不安になるタイプだったんですけれども、サウナに出会ってからそれもあんまりなくなったかも？とか。
人生が爆発的に好転したかというとそうではないけど、ちょっぴりは良くなった（あくまで自分の経験です）。

それでも「役に立つとかじゃないから！」と斜に構えてしまう理由は何だろうと改めて考えてみると、
ひとつは、自分にとってとても大事だからこそ、誰かにすごく期待をさせたばかりに「そんなでもないじゃん」と失望されるのが嫌だから、なのかも。

もうひとつは、あくまで個人的な見解ですが、サウナは「役に立つ」という価値感と、ある意味対極にあるものだと思うから、なのかも。
（ここからまた話がそれます）

「役立ち物語」の限界

現代においては、「役に立つ」ことの価値がすごく大きくなっているように感じます。
物や商品だけでなく、人間にも「役に立つか立たないか」が重視され、立つ人間は尊重され、立たない人間は切って捨てられていく。そんな風潮は嫌だと思ったところで、それを変える事はできない。
望もうが望まなかろうが、自分を「役に立つかどうか」の枠に当てはめて生きて行かざるを得ないのが、現代人。

中世における宗教のように誰もが拠って立てる信仰が失われた時代、つまり「大きな物語の終わり」がリオタールによって言われてから、もう三十年以上も経ちました。
個人的には、現在幅をきかせている「役に立つ」という価値感も、何が起こるかを見通せない人生を安定させるための、「役に立ちさえすれば大丈夫」という、信仰の一つであると思います。

人間は無意味に放り出されることに耐えられず、無意味に何かをし続けることができず、何かしらの方向性を必要とする。
そういう意味で、いつの時代も人間には何かしらの「物語」が必要であり、その役割を現代では「役に立つ」が担っている側面があるのではないでしょうか。
さらに言えば、「役に立つ」とはそのような意味で「信仰」であり「物語」でありながら、現代においては客観的な数値やデータと手を組むことで、あたかも科学のような「正しさ」をまとっているような気がします。

それでも、この「役立ち物語」には限界がある。
宗教のような「大きな物語」が見せていた、たとえば天国、来世、生まれ変わりといった「人生の答え」を、「役立ち物語」は与えてくれない。人間はなぜ生まれて死ぬのか。死んだらどうなるのか。その問いに対しては、「役に立つ」は役に立たないのではないか。
だから現代人は、「役立ち物語」以外にも何かしらの「物語」を必要としているのだと思います。

制御できない不安定さが露わになる中で、それを覆い隠すかのように「自分たちの物語の正しさ」が争わせるのを見ることも増えたように思います。でもその論争の決着はつかないと思うのは、『桃太郎』と『浦島太郎』の優劣を比べることが難しいように、物語の良し悪しを比べることは難しいように感じられるからです。

「白か黒かいずれかの物語が正しい」というのは本当でしょうか。「どっちの物語が正しいかの争い」に終始してしまって、本当に考えないといけない大事なことを見過ごしてしまってはいないでしょうか。
個人的には、GLAYが結成時に言ったとされる「俺たちは白でも黒でもない、グレイだ」という言葉が大事になってきているように思います。白か黒か、自分はどの物語に属し、どの物語が正しいのかの話に終始するのではなく、自分はどう考えるのかが大事になるのかなと。

僕個人としては、「覇権」になる物語を作りたい！自分が信じる物語が「正しい物語」であれ！というふうに欲望をドライブさせていくのではなくて、全ての物語に共感するまではできなくても、理解はできるようにありたい。
一つの大きな物語に収斂させていこうとするのではなく、人それぞれが持つ小さな物語を尊重していきたい。
僕も自分の信じる物語から外に出ることはできないだろうけれども、その外があるんだということをちゃんと分かっていたい。そう思います。

…いや、何の話やねん。自分でもわからない…。派手に脱線しましたが、話をサウナに戻しましょう。

サウナが教えてくれたこと

じゃあ、現代における「物語の欠如」を、サウナは補ってくれるのか？というと、全然そうは思いません。
だけど、現代において幅を利かせる「役立ち物語」とはまた違った世界の見方を教えてくれるものかもしれない、とは思うのです。

役に立つとか意味があるとか、人生それだけじゃない。何かを成し遂げないと自分には価値がない、なんて事もない。何者かになってもならなくても、別にいい。
そんなことを、サウナは僕に教えてくれたような気がします。

サウナ施設にいくと、昼から何をしているのか不明なおじさんたちが、リクライニングで気持ち良さそうに寝ています。
もちろんおじさん達にもそれぞれ大変なことはあるかもしれませんが、僕にはとても自由な光景に見えたのでした。
あるいは、サウナ室でたまたま出くわした、どう考えてもカタギではない人に「腹筋を1日30回欠かさずやる」という話をされた体験。とても怖かったし、何の役にも立たない会話だったけど、やたら記憶には残るアナザーワールドとして、今も自分の中にあります。

僕自身、一般的に見れば優秀でもなんでもなく、むしろ役に立たない側の人間かもしれない。
でもそんな事に関係なく、サウナに入った後のビールは美味すぎる。ご飯、美味すぎる。別に一日頑張った後じゃなくても美味い。考えないといけない事たくさんあるのに、すごくよく寝れる。
ダメな自分だけど、なぜか幸せを享受できている。別にダメであろうと役に立たなかろうと、人生の豊かさを享受していい。サウナを好きになって、そんな事に気づけたように思います。

ここでようやく、「ポスト・サウナブーム」という本題に入ります。

自分にとっての「ポスト・サウナブーム」とは、「ととのい」という言葉が使われなくなった時。
でも、そうなったとしても、サウナを愛する人間が残っているのならば、新しい語り方が出てくるはず。
だから特に心配すべきことではないし、今考えなくていい。
「ポスト・サウナブームを考える」必要、今はなし。

〜完〜

と終わるのはさすがにアレなので笑、もう少しだけ書かせてもらいます。

サウナは詩？

最近こういう感じのことを考えています。「サウナは詩」。
「雑な事を言うな」と怒られそうなので、少し説明させてください。

個人的に記憶に残っている言葉、というか好きな言葉に、シモーヌ・ヴェイユという哲学者の「労働者に必要なものはパンではなく、詩だ」があります。
正確にこの言葉ではなかったかもしれませんし、正確な意味もわかりませんが、自分の中に残っている言葉なので、自分なりに解釈してみます。

「詩」というものが面白いなと思うのは、それが物語の種であり、物語の外に触れるきっかけであること。
文法的にむちゃくちゃだったり単なる感情をポンと置いたものであっても、はっきり何かが描かれているわけでなくても、自分が持っていなかった新たな物語を喚起してくる。

なぜ自分にとって「サウナは詩」なのか。
それは自分にとってサウナが「物語の外に触れる」きっかけであり、新たな物語を喚起してくれるものだから。
「役に立つ」「意味がある」とはまた違う世界の見方がある。自分以外の人それぞれが大事にしていること、信じていること、辛いことがあり、その人なりに何かをしようと試行錯誤している。
「辛いことがあったぶん、何か特別なものにならないといけない」。そんな考え方もいいけれど、それで自分の人生に制限をかけてしまうのはもったいないような気もする。
それぞれの人がそれぞれの人なりに辛いことがあったりするし、楽しいこともあったりする。
辛いことがあったことは辛いことだけれど、「だから何者かにならないといけない」と自分を駆り立てなくてもいい。駆り立てても、駆り立てなくてもいい。特別な選ばれた人だけが人生の豊かさを享受できるわけではない。

あるいは、自分にとってサウナはセーブポイントなのかも。RPGという「物語」の中で、その物語の外と交流する唯一のポイント。

サウナに入りながら生きてきたここ数年。嬉しいことがあった日も、嫌なことがあった日も、親しい人が死んだ日も、何かを成し遂げるができた日も、特に何もない普段の一日も、サウナに入ってきました。

世界にとって自分の生は、たいした意味がないと思う。自分が死んでも世界に大損害が出るわけじゃない。そういう意味で、自分は世界にそんなに役立っていない。そんな自分でも、自分なりに積み重ねてきたものはある。そう考えれば、生きてきた実感はある。「役に立つ」とは違う、生きている実感が。

別にそれはサウナだけじゃなく、詩でも、芸術でも、漫画でも、料理でも、ゲームでもなんでもそうなのだと思います。
自分の全然知らない価値観で、全然わからないことを信じて、がんばって生きている人が世界のどこかにいる。

コロナはとても不安になるし、その不安を誰かに撒き散らしてやりたいと思わなくもないけれども、それはさておき、大して役には立たない自分の好きなことを、のんびりと続けていく。
そして、その好きなことを通じて他の誰かの好きなこと、信じていること、それぞれの「小さな物語」をリスペクトできるようにチューニングしていく。

そんな事をサウナは教えてくれたから、I Love サウナ。これが「僕がサウナーになった理由」なのでした。

サウナ施設も、ただそこにあるのではなくて、その背後で働いている人がいて、その人たちそれぞれにいろいろな考えがあって。そんな人たちの話を色々聞いていきたいですね。

「ととのいの向こう側」には、どんなサウナの愛で方があるのか。それはまだまだ先の話。とりあえずは、お互いにこれからもサウナをのんびりと楽しんでいきましょう。

……というわけで、乱文怪文電波文をここまで読んでくださりありがとうございました。何か少しでも楽しめるところがあったら幸いです。

それではどうか皆さん、よい十二月を過ごせますように。十二月だけでなく、これからもよい日々を。
コロナなどもあり不安定な世相ですが、争いや不和のない、のんびりした日々が続いていくといいなあ。
だけど自分は世の中を変えられるわけじゃないので、日々サウナでのんびりとしていければなと思います。
いつかどこかのサウナでお会いしましょう。